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■娘たちの収縮(2)

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3月23日(金).
 
夕方、冬子は自宅マンションで楽譜の整理作業をしていたのだが、政子がお腹が空いたというので、一緒に外に出た。最初政子が好きなお寿司屋さんがあるという日本橋に行ったのだが、あいにく臨時休業していた。それで銀座にでも行こうかと言って移動する。そしてどこに入ろうかなどと言いながら歩いていたら、バッタリと★★レコードの氷川さんに遭遇する。
 
「氷川さん、可愛い服着てる!」
「今日卒業式だったんですよ」
「それはおめでとうございます!」
「今、親と兄と一緒に軽い食事をした後、別れてきたんですが、何か食べ足りないなあと思っていた所で」
 
「だったら、一緒に食事しませんか?ケイがおごってくれますよ」
と政子が言う。
 
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「え?でも・・・」
「先日から色々お世話になっているし。夏くらいに出したい新しいアルバムの構想でも話しませんか?」
と冬子は言った。
 
「だったらご一緒しようかな」
 
それで入ったのが、しゃぶしゃぶのお店である。
 
「あ、このお店なら私、御食事券持ってますよ。町添からもらったんですよ」
「おお、それは素敵だ」
 
サービス券(ちゃんと3枚ある)は特選神戸牛のコースのものであるが、冬子は言った。
「すみません。私が追加料金払いますから食べ放題コースに切り替えて下さい」
「はい?」
 
それで7000円の特選神戸牛コースを12000円の特選神戸牛食べ放題(女性)コースに切り替えた。
 
お店に入ったのはもう夜の10時を過ぎていた。銀座は場所によっては不夜城になるのだが、この付近はわりと常識的な客が多い界隈である。このお店は一応12時までである。
 
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個室が空いているか訊いたら空いているということだったので案内してもらう。
 
それで最初は先日の《エンジェル・リリー》の主題歌の騒動のことから始めて、3人は2日前に発売した『Month before Rose+Lily, A Young Maiden』のこと、来月発売予定の『Rose+Lily after 1 year, 私の可愛い人』のことなども話す。
 
氷川は、一応ここ2ヶ月ほどローズ+リリーの担当をして(ローズクォーツとスリファーズも担当しているが、先日のローズクォーツのツアーには同行していない。須藤がツアー費用を少しでも切り詰めたかったのと、レコード会社からあれこれ言われたくなかったことから、★★レコード担当者の随行を断ったのである)、冬子・政子と結構打ち解けているものの、まだふたりの気質などまでは把握していなかった。
 
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それで最初氷川は“そのこと”に気付かなかった。
 
ちょっと会話が途切れた時、彼女は冬子の隣にしゃぶしゃぶのお肉の皿が5枚積み上げられているのを見た。
 
「ケイさん、結構食べるんですね。これなら食べ放題でも元が取れるかな」
と氷川は言った。
 
「いや、これはマリが食べた皿です」
「へ?」
 
それで見ていると、マリはおしゃべりしながらお肉をお皿から取ると、さっとしゃぶしゃぶの鍋に通し、ごまダレに付けて食べる。その一連の動作が美しいし、リズミカルでテンポが速い。マリはずっとしゃべっているのに、そのお肉を食べる動作で会話が中断しないのが凄い。
 
「この牛肉凄く美味しいです。こんなの食べられて幸せ〜」
などと政子は言っている。
 
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皿の数はしばらく見ている内に10枚に達する。
 

冬子はトイレに立った時、お店の支配人から声を掛けられた。
 
「大変失礼ですが、お客様たちは普段はどのくらいお召しあがりになりますでしょうか?」
「あ、すみません。食べ過ぎですかね。何でしたら男性6人分くらい払いましょうか?」
「でもお客様たちは女性でいらっしゃいますよね?」
「取り敢えず戸籍上は3人とも女性かな」
「でしたら、料金はちゃんと女性の食べ放題お一人様12,000円で提供致しますが、閉店時間が近いので、こちらのお肉の準備があるので」
と支配人は申し訳なさそうに言う。
 
「なるほどですね!」
と言ってから、冬子は言った。
 
「以前別のしゃぶしゃぶ屋さんに行った時、男性の友人も一緒ではありましたけど、30皿行きましたよ」
「30!」
と言ったっきり、支配人は絶句した。
 
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「分かりました。しっかりご用意致しますので、安心してお召し上がり下さい」
「はい、ありがとう」
 
それで冬子は席に戻ったが、背後で「取り敢えず2kg解凍して」などという声が聞こえた。
 

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マリの前の皿が20枚に達した時、氷川は“今日の本題”を切り出した。
 
「そうだ。突然思い出しましたけど、今度★★レコード創立20周年で1年間に7回全国でシークレット・ライブをやるんですよ。沖縄でやるシークレット・ライブで、マリちゃんとケイちゃん、歌ってくれないかなあ」
 
「へー、沖縄か」
 
「宿泊はラグナガーデン全日空ホテル。外の景色が見えるシャワールーム付きのスイートルーム。ホテルにはプールやフィットネスもありますし、たぶん御飯も美味しいですよ」
 
その「御飯も美味しい」という所で政子がピクっと反応した。
 
「でも沖縄なら、例の難病と闘っている麻美さんを招待してライブを見せられるといいね。あの子、だいぶ回復してきているみたいだし」
と冬子が言う。
 
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「そういう子を招待するのは全然問題無いですよ」
と氷川。実際にはそのあたりの話は既にまとまっており、麻美さんのお母さんにも、まだ決まってないので本人には言わないで欲しいと言った上で、もし決まったら見に来ることについて、医師の許可も取ってもらっている。実はローズ+リリーの復活ライブの場所として沖縄を選定したのは、麻美を招待するという話でマリが頑張るかも知れないというのを期待したのもあった。つまり今回はダシに使わせてもらった。
 
すると政子は頷くようにして言った。
「麻美さん少し元気になってるって言ってたね。いいよ。歌うよ」
 

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マリが2008年11月以来、3年半ぶりのライブに同意した瞬間であった。
 
氷川は用意周到に町添・加藤および冬子と一緒に計画を練っていた説得が成功してホッとしたが、次の政子の言葉に絶句した。
 
「じゃ氷川さん、私歌いますから、この後、今度は焼肉に行きましょう。私、お腹空いちゃった」
 
氷川は一瞬マリの言葉が理解できないまま、マリとケイの間に積み上げられている25枚ほどの皿を見つめていた。
 
ちなみに、氷川はその後、(冬子も氷川もとてもこれ以上お腹が入らないので)焼肉屋さんに付き合ってくれる人(★★レコードの北川とスターキッズの宝珠七星)を電話で呼び出したが、そんなことをしている内に、マリは30皿完食して満足そうであった。
 
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冬子たち3人はこの日のお店の最後の客になった。支配人自ら見送ってくれたが、ケイはその手に素早くポチ袋を握らせて「チップです」と小声で言った。そのせいか支配人は笑顔でマリに「どうかまたいらして下さい」と言い、マリも「ありがとう。ここ美味しかったからまた来るね。ラジオ放送とかでも宣伝しておくね」と言っていた。実際、マリがその後、ラジオ番組の中でここが凄く美味しかったと話したら、お客さんが増えたらしかった。
 

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龍虎は昨日から支香と一緒に病院に来て入院し検査を受けていた。毎年恒例の健診である。正直な所、当時は自分でも全く分かっていなかったが、今になって思えば、自分はあの時、手術中に死んでいてもおかしくなかったんだよな、などとも考える。
 
今生きていて、田代のお父さん・お母さんと一緒に快適に暮らすことができているのも、物凄い幸運だ。
 
龍虎は採尿・採血をされた上で、昨日も様々な検査を受けたが、今日はMRIの検査を受け、その後で23番の診察室に行って下さいと言われたので、そちらに行く。この時、支香はお昼食べてくると言って席を外していた。むろん龍虎は検査なので昨日の夕方から何も食べておらず、お腹が空いている。検査が終わって退院したらカレーとか食べたいななどと考えていた。
 
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「ナガノリュウコさん」
と呼ばれたと思ったので診察室に入る。
 
「先にお注射しますね」
と言われるので腕を出すと看護婦さんに注射をされる。健診でそもそも色々な注射をあちこちでされているので、龍虎もいちいち何の注射だろうというのは詮索しない。
 
注射が終わった後、看護婦さんからそこのベッドに寝てと言われるので寝る。やがてお医者さんのような人が入ってくる。
 
「じゃ診察するね。そのまま寝てて」
というので寝ている。
 
すると医師は龍虎のズボンとパンティーを下げてしまう。わっ。女の子パンティ穿いてるの見られちゃったよ(*1)。でも、これ何の診察だっけ??といぶかる。医師はちんちんを触ってる!? ちょっと待って。なぜこんなことされるの〜〜!?
 
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(*1)病院に来るのにそんなものを穿いてくること自体に問題があるということを龍虎は認識していない。
 
「ふーん。触っても何も反応しないね」
「そうですね。小さいから、実際問題として立っておしっこできないんです」
「おしっこはここの先から出るの?」
「出ます」
「じゃ本当に男の子のおちんちんみたいになっているね」
「はあ」
 
男の子のおちんちんみたいって、これ多分男の子のおちんちんだと思うんですけど!?そうじゃなかったら、これ何なのさ?
 
「了解。では明日の午後、手術しますので、今日は病室に戻っていて下さい」
 
「手術!?何の手術ですか?」
 
龍虎は今回の入院で手術もあるという話は全く聞いていなかった。
 
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「え?君、おちんちんみたいに見えるものを取って、ちゃんと普通の女の子の形にするんだよね?」
 
「そんな話聞いてません。誰か他の患者さんと間違ってませんか?」
「え?君、ナガノユウコさんじゃないの?」
「違います。私はナガノリュウコです」
 
「ごめーん。間違った。君、もしかして男の子?」
「男の子ですー!」
 
ボクのお股女の子に見える??
 
「でも男の子が婦人科で何の診察だっけ?女性ホルモンの補充もしてるんだよね?」
「ここ婦人科なんですか?23番に行ってと言われたのですが」
と言って、カルテを見せる。
 
「これは印刷がかすれているけど、28番だよ。28番の消化器科に行って」
「ありがとうございます!」
 
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と言って、龍虎はパンティーとズボンをあげてベッドから降りると23番診察室を出たが『おちんちんを取って、ちゃんと女の子の形にする』って何なの〜?そういう治療を受ける小学生がいるのか?と考えたら・・・・
 
なぜかドキドキしてきた。
 
更には「女性ホルモンの補充」という言葉もすごーく気になった。もしかしてさっき打たれた注射って、その“女性ホルモン”という奴だったりして!?もしかして女の子になっちゃう薬?? ボク女の子になっちゃったら、どうしよう?
 

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2012年3月24日(土).
 
千里は、やれやれと思いながら、静岡県の富士スピードウェイにやってきた。インプレッサから普段積んでいる様々な荷物(主として車中泊装備と音楽制作関係)を降ろして身軽になり、東名を御殿場ICまで行く。そこから20分ほど走って富士スピードウェイに到達した。
 
今日はここでA級ライセンスを取ってくれという指示なのである。しかしまあB級ライセンスを取らされた時、もしかしてA級も?という気はしていた。
 
さてA級ライセンスを取るための条件は、既にB級ライセンスを持っている場合は次のようになっている。
 
・ラリー、ジムカーナ、ダートトライアル、サーキットトライアル等に1回以上出場し、完走すること。
・A級ライセンス講習会を受講し、試験を受けて合格すること。
・公認サーキットで25分以上のスポーツ走行の経験があること。
 
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実際のA級ライセンス講習会では、サーキットトライアル、“25分以上のスポーツ走行”、講習会・筆記試験を1日でやってしまうのである(泊まりがけで、1日目にトライアルをして2日目に試験と実技走行というコースもある)。なお、筆記試験は本を見ながら解答できるので、落ちる人は稀れである。
 

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この日の受講者は12名であった。女性は千里1人である。
 
午前中は講義をひたすら聴く。本当は先にサーキットトライアルをやってからでないとこの講習を受けられないはずなのだが、そのあたりはどうも主催者によって色々あるようである。千里が参加した講習会ではトライアルと実技走行をまとめてやっちゃおうということだった。
 
ところで他の参加者が男性で、ひとりだけ女性だと、話しかけてくる男もいる。名刺も3枚もらった! しかし千里が左手薬指にプラチナ(に見える)指輪をしているのを見ると、「残念」という感じで、短時間で退散してくれた。
 
なるほど〜。結婚指輪って《虫除け》効果が大きいんだな、とあらためて納得した。
 
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お昼を食べてから、午後は実技になる。まずは着換える。
 

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娘たちの収縮(2)

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