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■娘たちの継承(15)

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川上法嶺が導師、息子の法満が脇導師を務めて葬儀の読経が行われる。そして参列した青葉たち5人と平田さんの左官仲間3人で焼香した。葬儀が終わった後は、左官仲間の人たちは帰るのでお弁当とお茶を渡す。その後、初七日の法要も行し、それから精進落としをした。
 
「これも4回目か・・・」
と法嶺が言った。
 
「これで最後ですけどね」
と慶子。
 
「平田さんのお墓を作りたいんですが、££寺で引き受けてもらえます?」
と青葉は住職に訊く。
 
「ああ、問題無いよ。場所は何とかなるはず」
「でしたら、そのお墓ができるまで遺骨はお寺で預かってもらえませんか?」
「うん、それもOK。墓が出来てから、青葉ちゃんがこちらに来た時に納骨をしよう」
「お願いします」
 
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「平田さんの遺品とかは無かったの?」
と桃香が訊く。
 
「車の中にあったデュポンのライターは棺の中に入れて一緒に送りました」
と青葉。
「ペリカンの万年筆があったね」
と朋子が言う。
「あれ、メンテした上で私、使わせてもらおうかなと思ってる」
「それはいいかもね」
 
「メンテと言ったら、あの龍笛もメンテしないといけないんでしょ?」
と朋子。
 
「龍笛?」
と桃香が訊く。
 
「うん、それなんだよ。津波で失われたと思っていた、ひいばあちゃんの形見の龍笛が車の中から見つかったんだよ」
「それは凄い」
 
「でも半年海の中にあったからか、ちょっと吹いてみたけど、そのままでは全然まともに鳴らないみたい」
 
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「青葉。メンテできる所に心当たりある?」
と千里が訊く。
 
「うん。それ誰か詳しそうな人に尋ねなきゃと思ってた」
「私、心当たりあるよ。私に預けてもらえない?」
「じゃお願いしようかな」
と言って、青葉はバッグの中からジップロックに入れた龍笛を取り出した。
 
「この状態で乾燥させたらやばいかなと思って海水を入れて海中にあったのと似た状態のままにしている」
 
「それは賢明だと思う。じゃ、預かるね」
 
それで千里はその龍笛を自分のバッグに入れた。
 

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28日は精進落としが昼食代わりになったので、その後、遺骨をお寺に預かってもらった上で解散する。
 
青葉は大船渡近辺で霊的な相談事にいくつか応じた上で、夕方の便で帰るということであった。
 
「青葉、彪志君とこに寄る?」
「ううん。彼は昨日・今日と模試だから」
「じゃ私たちがお土産だけでも置いていこうか?。長崎に行ってたからカステラを買っておいたんだよ」
と言って、千里は黄色い包装紙に包まれた箱をインプレッサの荷室から出してみせた。
 
「あら、これ福砂屋じゃん」
と朋子。
「そこが1番美味しいよね」
と桃香。
 
「うん。観光バスは異人堂に連れていくことが多くて、そこも悪くはないんだけど、地元の人は、だいたい福砂屋派、文明堂派、松翁軒派に別れるらしい。でも福岡出身の友人(橋田桂華)は福砂屋がいちばん好きだと言ってたから、それを買ってきた」
 
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と千里は言う。
 
それで千里たちは青葉を置いて、3人だけでインプレッサに乗り込み、一ノ関方面に走った。大船渡を出たのが13:50頃であった。
 
3人は彪志の家に寄り、彪志は不在だったが、彪志の母・文月に挨拶し、お土産を置いていった。その後、朋子を一ノ関駅に置き、桃香と“千里”は東北道に乗って千葉に帰還した。
 
朋子はこの連絡で帰った。
 
一ノ関17:53-19:58大宮18:38-19:29越後湯沢19:39-22:01高岡
 
青葉は最終連絡で帰った。
 
大船渡19:00(慶子の車)20:30一ノ関20:58-21:41仙台/仙台駅東口21:50-6:50高岡駅前
 

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桃香と“千里”はのんびりと休憩しながらインプレッサで東北道を南下し、翌朝までに千葉に戻った。むろん運転は全て千里がして、桃香には絶対に運転席に座らせない。もっともこのインプはMT車なので、桃香はそもそもMT車の運転は自信が無いと言っていた。
 
そして休憩中の千里を桃香が襲おうとすると、しっかり撃退される。
 
「またおちんちん切り落とされた!」
「悪いことするおちんちんは切り落とす」
 
「これ高いのに〜。最近千里はほんとに容赦が無い」
と言って平手打ちをくらった頬を抑えている。
 
「これ跡が2〜3日残るかも」
 
「レイプ魔はしっかりお仕置きしなくては」
と“千里”は言っている。
 
「でも今日はお股の蹴り上げではなかったのね」
「何となくね」
 
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「そういえば、千里が去勢する前夜にセックスしたじゃん」
「うん」
「あの後、私生理が来てないんだけど、どう思う?」
「うっそー!? 桃香妊娠してたらどうするのよ?」
 
「うーん。。。妊娠という事態は考えてもいなかったからそうなった時に考える」
 

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それで8月29日、桃香は千里に付き添ってもらって、産婦人科に行ってみた。
 
尿や血液を採って、色々検査される。更に処女ではないことを確認の上、膣内に機械を入れて、子宮内の様子を超音波で検査した。
 
「流産してますね」
と医者は言った。
 
「マジですか!?」
「妊娠した可能性は意識しておられました?」
「はい、実は7月19日にボーイフレンドと付けずにやっちゃったんです」
 
「これは多分月末か今月初めくらいに流産したんだと思います。重い生理のようなものがありませんでした?」
「いいえ。実はそのセックスした後、ずっと生理が来てなかったので、まさかと思って病院に来てみたのですが」
 
「生理が無かったのなら、そのまま吸収されちゃったのかも知れないですね」
と医者は言った。
 
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「だったら受精卵が何かで死んでしまって、そのまま子宮膜に吸収されてしまったんでしょうか?」
と千里が訊く。
 
「恐らくそのような状況だと思います。子宮内には何もありませんが、ごく最近着床した跡はあるんですよ」
と言って、医者は撮影した写真を見せたが、正直よく分からなかった。
 
「この子、RH(-)B型なんですが、抗体ができていたりすることはないでしょうか?」
と千里が尋ねた。
 
「7月19日の前にはいつ生理がありましたか?」
「7月5日頃です」
「それは普通の量でした?」
「はい、普通の量でした」
 
「だったら、妊娠成立後半月ですから、まだ心臓とか血管とかも形成されていないと思います。血管系が形成されるのはだいたい着床して3週目くらい、つまり妊娠5週目くらいなんですよ。念のため抗体検査をしましょうか?」
 
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「はい、お願いします」
 
それで検査してもらったものの、抗体はできていないようだということであった。ただ次の妊娠の時はこまめに抗体検査をした方がいいと言われた。また生理は流産後、2ヶ月程度以内には再開することが多いが、もし10月になっても生理が来なかったら、一度来院してくださいと言われた。
 

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8月28日大村。
 
この日は14時からの試合だったので、午前中の練習はウォーミングアップ程度の軽いものとなった。
 
試合前に千里が《すーちゃん》と入れ替わって控室に入っていくと
 
「来ないかと思った」
と玲央美が腕を組んで言っている。
 
「試合にはさすがに出る」
と千里は言った。
 
「でもあの子も結構うまいね。あれでもし女子中生ならP高校にスカウトしたいくらいのレベル」
「へー!そんなにうまいのか。だったら、また代理してもらおう」
 

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この日の台湾戦では、監督は1,3ピリオドを若手主体、2,4ピリオドをベテラン主体で運用した。結果は56-83の圧勝である。これで日本は3位となり、来年のオリンピック最終予選に行くことになった。
 
日本の最後のゴールを決めたのは咲子であるが、咲子は感慨深げにその決めたボールを眺めていた。
 
「咲子ちゃん、引退しようとは思ってないよね?」
とエレンが声を掛ける。
 
咲子がハッとしたようにエレンを見た。
 
「私より若い子が先に引退しちゃダメだよ。一緒にロンドンに行こうよ」
「はい、最終予選頑張ります」
「うん」
 

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決勝戦の中国−韓国戦では、韓国が物凄く頑張り、第3ピリオドまで終わったところでは45-47と韓国がリードしていた。しかし第4ピリオド、中国はここまで使っていなかった黒と白のコンビを投入。それで逆転して最終的には65-62で優勝。ロンドン五輪の切符をつかんだ。
 
「やはりビデオは偽装してたね」
「うん。投稿サイトにあがっていたビデオより2人ともかなり進化している」
「スピードが上がっているし、フェイントもかなりうまくなってる」
「キム・ヘソンが全然停めきれない」
 
「ちょっとあの2人とやりたかったなあ」
と広川さんが言っていた。
 

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決勝戦の後、表彰式が行われる。
 
日本は3位で銅メダルをもらい、来年6月の世界最終予選への招待状をもらった。
 
個人表彰では、得点女王・リバウンド女王は中国の潘が取り、アシスト女王も中国の于が取った。スリーポイント女王は亜津子である。優勝した中国以外から唯一の表彰となった。
 
ベスト5は、中国の黎、亜津子、中国の宇、韓国のキム・ヘソン、中国の潘と発表された。
 

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日本と台湾の3位決定戦でのスリーが亜津子・千里ともに5本で合計44対41となり、スリーポイント勝負は亜津子の勝ちであった。
 
亜津子が試合終了後、スコアを見てから
「勝ったぁ」
と騒いでいるので、エレンが
「何事かと思ったら、スリーポイント合戦か」
と言う。
 
「エレンさんは今回出場時間が少なかったですもんね」
「さすがにあんたたちのペースには付いていけないよ」
とエレンは言っていた。そんなことを言いながら、この大会で28本放り込んでおり、スリーポイント成功数の1〜3位を日本が独占した。
 
亜津子と千里は得点数でも4位・5位にランクされている(2位は韓国のイーで3位は日本の王子)。
 

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しかし亜津子は表彰式も終わり宿舎に戻った後から
「やはり負けてる〜」
と言っていた。
 
「今度は何よ?」
とエレンが言う。
 
「スリーポイント成功率でも、試合あたりのスリーポイント成功数でも、出場時間あたりのスリーポイント成功数でも千里に負けてたんです」
「あぁ」
 
スリーポイント成功数(3P)は亜津子が44本、千里が41本ではあるが、亜津子は7試合、千里は6試合に出ているので、1試合あたりの成功数(Per Game)では亜津子が6.285, 千里は6.833で、千里が上回っている。
 
スリーポイントの成功率(3P%)も亜津子の試投数が58本であるのに対して千里は52本で亜津子は0.758、千里は0.788となり、千里が上である。
 
「私、出場時間あたり成功数(Per 40 minutes)ではエレンさんにも負けてた」
と言うので、武藤さんが亜津子の計算式が書き込まれた紙を覗き込む。
 
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「凄い僅差じゃん」
「僅差だけど、1位千里、2位エレンさん、3位私で、私は3位だったんですよ〜。全然勝った気がしない」
 
「いや、あくまでスリーの成功数の多い方が勝ち」
と千里もエレンも言った。
 

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8月29日、千里は《すーちゃん》と入れ替わって、千葉に行き、桃香と一緒に産婦人科に行った。その後、今度は《いんちゃん》と入れ替わって出羽に行く。
 
「この龍笛のオーバーホールとかできますかね?」
と美鳳に相談した。
 
「佳穂に見せてみよう」
と美鳳が言うと、千里と美鳳は湯殿山に来ていた。
 
「これをオーバーホールするの?」
と佳穂は言う。
 
「無理ですか?」
「半年海中にあったんでしょ?」
 
「そうなんですよ。でも青葉のひいおばあさんの形見で、しかも今回の震災で亡くなったお母さんが家から持ち出してくれたものらしいんです。持ち出してなかったら海の彼方に流されていっていました」
 
佳穂はしばらく腕を組んで考えていた。
 
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「1年ちょうだい。いや1年半掛かるかも」
と佳穂は言った。
 
「分かりました。お願いします」
 
「千里、震災で金華山が凄い被害に遭っているのよ。あんた、お金はあるよね?修復のために1000万円くらい寄付してくれない?」
「いいですよ。黄金山神社に振り込めばいいですか?」
「現金で私の所に持って来て。そしたら私のエイリアスに持っていかせる。税務申告に必要な領収書はちゃんと出す」
 
「ではそれで」
 
千里は青葉に連絡し、専門家に見せたが、特殊な方法で乾燥させる必要があり、1年か1年半くらい掛かると言われたことを伝えた。
 
「分かった。それでお願い。それ費用もかなり掛かるよね?」
「費用はどうだろう。とにかく時間が掛かるということらしい。でも費用のことは気にしないで。こちらで処理しておくから」
「そう?じゃ高額になったら言ってね」
「もちろん」
 
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この半年間海中にあった龍笛は佳穂の手でまずは2ヶ月掛けて塩分を抜き、更に組織が痛まないように気をつけながら3ヶ月掛けて水分を蒸発させ、更に半年間囲炉裏の天井に置いて乾燥させた上で、更に時間を掛けて細かい調整をしたらしいが、すると約1年半の後、とても花梨製とは思えない素敵な音が出るようになった。
 

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娘たちの継承(15)

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