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千里は冬子が疲れが溜まっているだろうに、自分で車を運転してきたのは軽率だと注意した。
「レコード会社か事務所に言って、運転手を付けてもらうべきだよ」
「でも今回は個人的な用事だったし」
「個人的な用事であっても、冬子に万一のことがあったら、ローズ+リリーだけでは済まない。他の名義で楽曲を提供している歌手たちも困るし、レコード会社の損害は数十億だよ。事務所とかに介入されたくなければ個人的にドライバーを雇ってもいいと思うし」
「ありがとう。そういうこと言ってくれる人は少ないから肝に銘じるよ」
と冬子は答えていた。
「でもまあ、そんなこと言った手前、今日は仙台まで私が運転するよ。だから冬子は後部座席で寝ていくといいよ」
「千里も疲れてない?」
「冬子よりは、よほどマシ」
それで毛布も渡して、それを掛けて寝ているように言い、千里は仙台の放送局まで冬子を送っていった。
「しかしスケジュール聞いたけど、無茶苦茶ハードなキャンペーンだね」
と運転しながら千里は言った。
「キャンペーンは町添さんと話した時は、仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の5箇所の予定だったはずが、須藤社長から渡された計画表ではなぜか全国200箇所になってた」
「200!?」
「あまりにもハードすぎるから△△社の津田社長に頼んで介入してもらって何とか40ヶ所に減らしてもらった」
「40でもハードすぎるよ。まだ4月の手術の跡はけっこう傷むでしょ?」
「うん。わりと痛い」
「6月の避難所回りもかなりきつかったみたいだし」
「実は何度か出血して、自分でアルコール消毒とかしてた」
「冬子、もっと自分を大事にしないとダメだよ」
「そうだけどね・・・」
「辛いかもと思ったら、誰か偉い先生に相談するといいよ。冬子、コネは多いみたいだし」
「偉い先生か・・・・」
その後は、青葉の最近の“楽しい女子中学生生活”のことを話題にした。
「女の子たちとお風呂行っちゃったのか!」
「あの子、わりとおっぱいあるから、タックさえしていれば女湯に居てもほとんど違和感が無い」
「まあ、そういうほぼ貸切に近い状態なら、女湯に入っちゃってもいいかもね」
「だけどケイちゃんも男湯には入ったことが無いという噂が」
と千里が突っ込むと
「それどこで聞いたの〜?あまり突っ込まないで」
などと冬子は言っている。
その話はスリファーズのデビューイベントの時に冬子が自分で話したのだが、千里はそれをスリファーズの春奈自身から聞いていた。
http://femine.net/j.pl/memories2/64/sma/_hr004
青葉の生活のことを色々ネタにして話している内に、冬子は眠ってしまったようである。千里は《びゃくちゃん》に、冬子の造膣術の傷跡のメンテをしてあげてと言った。
ところが《びゃくちゃん》は
『これ、ほとんど治ってるよ』
と言う。
『うそ!?昨夜は随分辛そうだったのに』
『もしかしたら誰か親切な人が治してあげたのかもね。なんか凄そうな人がいたし』
『ひょっとして瞬嶽さん?』
『あの人、既に人間やめてる感じ』
『あぁ・・・』
『なんかついでに小さな子宮と卵巣まで形成されてるけど』
『はぁ!?何それ?』
『小さくて妊娠は不可能だと思うけど、これ生理起きるかもね』
『親切だね〜』
『でもこれならホルモン剤飲まなくても女性ホルモンは常に供給されるよ』
『ああ、それは助かるだろうな』
放送局に着く15分くらい前に車をいったん停め、冬子を起こしてメイクをするといいよと言った。
「15分前に起こしてくれるのがやはり女同士の良さだなあ」
「ああ。男の人はメイクに時間が掛かることを思いつかないだろうね」
「でもホントありがとう。ぐっすり眠れたよ」
「無理しないようにね」
「うん。助かった」
冬子を放送局で降ろした後は、運転を《きーちゃん》に代わり、自分は仙台駅で降ろしてもらった。《きーちゃん》が車を返却している間に新花巻までの切符を買って新幹線に乗り込む。《きーちゃん》も発車間際に戻ってきて千里に吸収された。千里は花巻までぐっすりと眠っていった。
9:15に新花巻に到着する。千里は新幹線を降りると駅近くのトヨレンで予約しておいたエスティマを借りる(以下エスティマC)。そして花巻空港で新千歳から来た越智舞花、伊丹から飛んできた竹田宗聖と渡辺佐知子を拾い、新花巻駅に移動して東京から移動してきた海道天津子と、同じく東京から来た政子を拾う。そして11時頃花巻を出て大船渡に向かった。
千里たちから少し遅れて、10時すぎに文月(彪志の母)がエスティマAで一ノ関駅に入り、新幹線で来た和実・淳・あきら・小夜子と落ち合って、取り敢えずカフェで一休みする。これは妊娠中の小夜子の体力にも考慮したものである。1時間後の新幹線で中村晃湖・村元桜花・山川春玄が到着するので、この7人を乗せて大船渡に向かった。これが11:30頃である。
更に宗司(彪志の父)がもう一台のエスティマBで文月に1時間半遅れて一ノ関に到着。この駅に集結していた礼子の友人たち5人を乗せて大船渡に向かった。これが12:30頃である。
3台の送迎車は、C 12:30, A 13:00, B 14:00 と到着し、Bの車が到着した所で、本葬儀を開始した。
昨日同様、瞬嶽が導師、法嶺と§§寺の住職が脇導師を務めて僧3人により葬儀は進められた。
この日参列した人は200人以上であった。会葬御礼を最終的に180枚出しているが、数人でまとめて香典を渡した人もあった。多人数でまとめて香典を出した人や、香典は無いものの参列だけしてくれた人には記念にボールペンを渡したが、これが120本出ているので、ひょっとしたら300人近く来ていたのかも知れない。
身内(9) 川上青葉、高園桃香・朋子、村山千里、鈴江彪志・文月・宗司、佐竹慶子・真穂
霊能者(10) 藤原直美・民雄、山園菊枝、長谷川瞬嶽、竹田宗聖、中村晃湖、村元桜花、山川春玄、渡辺佐知子、海藤天津子
クロスロード(5) 中田政子、工藤和実・月山淳、濱田あきら・小夜子
岩手の友人(6) 咲良母娘、早紀母娘、椿妃母娘。
高岡の友人(3) 美由紀、日香理、小坂先生
その他(1) 越智舞花
広宣の知人(3) 白石など3人
礼子の友人(5) 5人
僧(2) 川上法嶺+§§寺住職
ここまで44人
青葉の元同級生、コーラス部の友人 60人ほど(柚女・歌里を含む)
未雨の同級生 30人ほど(鵜浦を含む)
祖母の知り合いの老人たち(大量)
未雨の同級生だった子たちはちょうど夏休みに突入した所でもあり、誘い合って大量に来てくれたのだが、葬儀が始まる少し前、瞬嶽はその中に1人の女生徒の顔を見つけ視線で合図をした。向こうも微笑んで葬儀場の横手のあまり目立たない場所に来た。
「ようこそ、はるばる長崎から」
と瞬嶽は言った。
「多分、こうちゃんが降りてくるんじゃないかと思ったから、来てみた。しばらく会ってなかったし」
「そうだなあ。前会ったのは20年くらい前だっけ?」
「ボクも昔のことだからよく覚えてないよ。まだ生まれ変わる前だったし」
と女子高生は言う。
「名前は、さっちゃんでいいの?それともちーちゃん?」
「さっちゃんでいいよ。ちーちゃんの時は早死にしちゃったから、あの名前は当面使わない」
「でも前回会った時はさっちゃんも80歳くらいだったから、そういう若い姿を見ると、年甲斐もなくときめいてしまう」
「セックスしたければ、またさせてあげるよ」
「さすがにもう男は卒業している。後は輪廻の彼方に逝くだけだよ」
「こうちゃんも、転生すればいいのに。その身体既にかなり死にかけてるじゃん」
「やはりそうか?」
「転生くらいできるでしょ?」
「やったことないから自信が無い。さっちゃんは何回転生してるの?」
「もう忘れた〜」
「さっちゃんの年齢もよく分からない。だいたい人間やめてるでしょ?」
「それはお互い様だね。取り敢えず、こうちゃんが持っている術だけでも、どこかにコピーしておきなよ。そしたら、こうちゃんがどこかで生まれ変わって成人した後、そこからデータを取り出せるよ。それ再度ゼロから身につけるには80年くらい掛かるもん」
「霊媒か・・・」
「こうちゃんも女の子になって、自分の卵子に直接自分をコピーして冷凍保存しておけば、そんなの使わなくてもいつでも能力と記憶を持ったまま転生できるのに」
と虚空は言った。
「僕は女になるつもりはないよ。それにさすがにこの年齢では女になっても卵子が作れない。でも、なぁちゃん(羽衣)は男になったり女になったりして楽しんでいるみたいだな」
と瞬嶽は言う。
「むしろ自分が男なのか女なのか分からなくなっていたりして」
「ありそうだ」
「でもチラッとみたけど、凄い才能の子がいるじゃん」
「実は僕も目を付けたんだよ」
「ふふふ。こうちゃんがどこかで生まれ変わっても、才能を発揮し始めるまで20年くらいかかるよね?その間、ボクがあの子で少し遊んでもいい?」
「壊さない程度にな」
「むしろ壊れないようにメンテしてあげようかな。あのタイプの子は壊れやすい。まあ強烈な守護は付いているみたいだけど」
「お手柔らかに」
14時頃始まった葬儀は、瞬嶽がサービスでたくさんお経を唱えてくれたし、焼香する人の列が凄まじかったので、けっこうな時間が掛かった。千里や和実などは疲れて途中で控室で休んでいた。
葬儀が終わった後は、未雨の同級生、青葉の同級生やコーラス部員たち、祖母の知り合いたち、合計150人くらいが退場する。
この時、小さなトラブルが起きていたのに気付いたのはここに居たメンツの中では2人だけであった。
葬儀が終わった所で瞬嶽を含めた僧3人がいったん退場する。その時、瞬嶽の心臓目掛けて“ナイフのようなもの”が飛んできたのである。瞬嶽はヒョイと左手を振ると、その飛んできたものを倍のサイズ!に変換して跳ね返した。
退場しようとしていた老人たちの群の中で、ひとりの老婆が突如うずくまる。
「どうしました?」
と近くに居た老人が声を掛けるが
「大丈夫、大丈夫」
と言って、老婆に変装した羽衣は立ち上がった。出血している所は手で押さえているので、とりあえず老人ホームまで戻る間は持ち堪えるかな?と羽衣は思った。
「全くあいつは手加減を知らない」
と羽衣は呟いた。
『しかし心臓に穴があいてるぞ。早く治療しないとやばいな』
と羽衣は内心思っていた。
退場しつつあった女子中高生の一群の中にいた虚空は、おかしくて笑ってしまいそうなのをグッと我慢していた。ここは青葉の元同級生と元コーラス部員、更に未雨の元同級生まで混じっているので、知らない顔があっても不審に思われなくて済むのである。
しかしこの時、日本の三大トップ霊能者がひとつの部屋の中に居たことは、瞬嶽と虚空以外誰も知らない(羽衣は虚空に気付いていない)。