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■娘たちの震災後(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-01-28
 
千里はスリファーズの春奈に連絡した。
 
「春奈ちゃん、とうとう去勢することにしたんだって?」
 
「はい。手術してくれる所が見つかったんですよ。本当は16歳以上らしいんですけど、私がずっと女性ホルモン飲んでいて、睾丸が既に死んでいるので、このままにしておくと癌化したりする危険もあるということで摘出してもらえることになったんです」
 
「なるほどー。ちゃんと正統な医療行為になるわけだ」
「そうなんですよ」
「あ、それでさ、震災とかもあって遅くなってしまったけど、12月に言っていた、気の巡りの性別変更、7月19日ならできるけど。睾丸を取った後なら、特にやりやすい」
 
「ほんとですか?お願いします」
「7月19日の予定は?」
「念のため、手術の後1週間はお休み頂いたんですよ」
「よかったね」
「ですから、自宅に居ますので」
「了解〜」
 
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A代表の合宿は継続中ではあるものの、6月25日(土)から今度はU21の合宿も始まるので、U21(Under 21)のメンバーが24日の夕方から東京北区のナショナル・トレーニング・センターに集まってきた。
 
U21チームの常で合宿に入る前日の夕食後にミーティングが行われる。それで千里・玲央美・王子の3人は24日の20時で、A代表合宿から外れ、そちらのミーティングに出席した。
 
U21のメンツはこのようになっている。
 
入野朋美(PG 愛知J学大)、鶴田早苗(PG 山形D銀行)、村山千里(SG Rocutes)、佐藤玲央美(SF JoyfulGold)、前田彰恵(SF 茨城TS大)、渡辺純子(SF 札幌C大)、湧見絵津子(SF 札幌F大)、鞠原江美子(PF 大阪M体育大)、大野百合絵(PF 神奈川J大)、高梁王子(PF 岡山E女子高)、中丸華香(C 愛知J学大)、熊野サクラ(C JoyfulGold)
 
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補欠:海島斉江(PG シアトルF大)、竹宮星乃(SF 神奈川J大)、橋田桂華(PF 茨城TS大)
 
PG:Point Guard
SG:Shooting Guard
SF:Small Foward
PF:Power Foward
C:Center
 
U21はこれまで12名だけで活動していたのだが、選手が病気などになった時のために今回初めて補欠の3名も召集された。
 
但し海島はアメリカのシアトルF大学に留学しており、アメリカ在住なので、今日は来ていない。サンフランシスコで合流の予定である。
 
星乃と桂華は本人たちはお互いに複雑な気持ちを持っていた。U18の時は星乃が直前骨折したので、桂華は自分は星乃の代わりに代表になったと思っていた(実際には桂華は最初から確定だったと高田コーチは言っていた)。昨年U20の時は桂華が直前に盲腸になり星乃が代わって代表になった。しかし今回は2人仲良く補欠として同行することになった。
 
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今回のメンバーの中でA代表と兼任しているのが、千里・玲央美・華香・王子、またU19と兼任しているのが、王子・純子・絵津子である。
 
例によってドーピング検査にひっかかる薬の再確認をし(念のため所持している薬を全部チェックされた)、パスポートを持っているかも確認してパスポートはいったん回収した。今回は誰も忘れている人はいなかった。
 
忘れ物の常習犯の王子も今回は大丈夫であった。19日にインターハイ予選で優勝した後、夜の飛行機で東京に向かう時、高田コーチから連絡を受けていたお母さんが、しっかり荷物をチェックしてくれていた。もうひとり前科のあるサクラはチームメイトの越路永子(旭川N高校出身)がチェックしてくれたらしい。
 
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ジョイフルゴールドには運動能力は高くても生活能力が微妙な子がひじょうに多いので、越路永子や門脇美花などがチェック係になっているようである。割とよく気がつく越路永子は、他の選手たちから
 
「永子ちゃん、私のお嫁さんになってくれない?」
などと、しょっちゅう求愛(?)されているらしい。
 
「私、できたら男の人のお嫁さんになりたいです」
「それなら、私が性転換してもいいよ」
 

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6月23-26日(木〜日)、旭川市の旭川大雪アリーナをメイン会場にして、今年のインターハイ予選が行われた。
 
札幌P高校、旭川N高校、帯広C学園、札幌D学園の4校がブロック決勝に勝って決勝リーグに進出する。そして札幌P高校が優勝。旭川N高校は札幌D高校との第3延長までもつれる死闘を制して、準優勝。
 
P高校とN高校の2校がインターハイに出場することになった。
 
これで2007年から2011年まで5年連続でこの2校が北海道代表である。
 
今年の札幌P高校は久保田希望(くぼた・のぞみ)や宮川小巻を擁している。この2人は昨年U17に召集され世界選手権5位の快挙をあげるのに貢献している。今年のP高校は圧倒的な強さであった。
 
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旭川N高校は主将の原口紫、副主将の松崎由実、2年生の徳宮カスミといった面々を中心とするチームである。原口紫(揚羽の妹)は昨年U17で久保田希望たちと一緒に世界5位を経験した。松崎由実は今年U19に召集されており、来月、絵津子や純子たちと一緒にチリに行ってくることになる。
 
松崎由実は昨年のインターハイまではまだまだだったのだが、ウィンターカップでリバウンド女王を取り、N高校の銅メダル獲得に大いに貢献して、完全に開眼した。この急成長で多数の有力センターをおさえて日本代表入りを果たした。
 
なおN高校の原口紫、P高校の久保田希望は今年はU19の補欠として召集されていて、松崎たちとともにやはりチリに行く。彼女らは7月3日から国内合宿を経て6日にはブラジルに渡り、南米の環境での事前合宿に入る。
 
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千里たちU21代表は、6月25-27日にNTCでみっちりと練習を行なった。この時期、男子Univ代表も合宿をしていたのだが、城島さん率いる「ひたすら走る練習」の女子A代表の練習、全く休む暇も無く次から次へと基礎練習と連携練習をしている女子U21代表の練習を見て、男子Univ代表のメンバーたちが
 
「こんな激しい練習をして壊れないのか?」
と心配していた。
 
3つのチームが同時期に合宿しているので、女子のA代表、U21代表、男子Univ代表で練習試合もした。
 
すると女子U21代表が女子A代表、男子Univ代表に勝ってしまった!
 
玲央美や王子の破壊力でまだ若くて経験の浅い男子Univ代表は吹き飛ばされてしまったし、千里が鬼気迫るプレイで、エレンにも亜津子にも全く仕事をさせなかった。交代で出場した星乃なども、居並ぶ体格の良い男子たちを巧みに抜いて、独走ゴールを決めたりもした。星乃のようなソフトタイプの選手というのは男子の日本代表レベルにはあまり居ないだろうから、不慣れな相手にうまくやられてしまった感じだ。星乃が背が低いのでやりにくい面もあったろう。
 
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A代表監督の城島さんが
「U21とA代表を丸ごと入れ替えようか?」
などと言い、
 
男子Univ代表の監督も
「これは全員性転換してチーム交代だな」
などと言っていた。
 
「性転換しても年齢が21歳越えてるんですが」
「じゃ女子Univ代表と交代」
 
「しかしマジで高梁君は男子チームに欲しい」
と男子Univのアシスタントコーチが言う。
 
「私、性転換して男になってもいいですけど。ちんちん欲しいし」
と王子が言うと
 
「いや、それは困る」
と高田コーチが言っていた。
 

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千里たちU21女子日本代表のメンバーは渡航予定日の6月28日にも朝8時から10時まで2時間練習をした後、あがって各自の部屋でシャワーを浴び、荷物をまとめて成田に向かった。
 
(バスケ協会の女性が忘れ物が無いか各自の部屋をチェックしてくれ、王子の着換えとおやつが半々入ったバッグを見つけて持って来てくれた!)
 
出国手続きをした後で、昼食を取る。メンバーは下記の連絡でサンフランシスコに移動する予定である。
 
NRT 6/28(Tue) 15:25-9:40 LAX (JL7016/AA170 777 10h15m) 到着時刻はJST 6/29 1:40
LAX 6/28(Tue) 12:05-13:30 SFO (JL7556/AA2005 737-800 1h25m) JST 6/29 5:30
 
(NRT:成田空港 LAX:ロサンゼルス空港 SFO:サンフランシスコ空港)
 
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ここで成田→ロスは日付変更線を越えるので、28日15時に出発したのに同日朝9時に到着するのである。この到着時刻は日本時間では29日の午前1:40である。そしてサンフランシスコ到着の時刻は日本時間の朝5:30になる。
 
U21チームはすぐに練習用に確保してもらっている体育館に行き、ウォーミングアップの上で、16時頃から練習を始めた。これが日本時間では6/29 朝8時頃である。
 
千里はこの移動時間(日本時間で6/28昼〜6/29朝)を利用して“集まり”に出るつもりでいた。
 

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先日、大船渡の避難所で5つのボランティアグループが偶然遭遇したのだが、そこに多数のMTF/MTX(CD?)の人がいた。それでこんなに多数が遭遇したのはレアだから、後日どこかで集まりませんか?という話をしていたのである。
 
6月29日(水)に横浜で「震災遺児を励ます会」という催しが開かれることになり、津波で両親・祖父母・姉を一気に失った青葉は招待されたので、28日の午後を早退してこちらに出てきた。
 
火曜日はあきらが勤めている美容室がお休みである。ケイもその日はオフだということだったので、28日の夕方、あの時遭遇したメンバーが若干の付き添いと一緒に川口市内のビストロに集まったのである。
 
(ずっと後から分かったことだが、ケイはまだ手術明けなのに6月中の避難所回りがあまりのハードスケジュールで体力的に辛すぎたので、当時ローズクォーツをもう辞める決意をしていたようである。28日も実は津田さんに頼んで予定をキャンセルしてもらい休んでいた。実質サボタージュだったようだ)
 
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この日、出席したメンバーは下記である。
 
青葉、千里、桃香、あきら、小夜子、和実、淳、胡桃、ケイ(冬子)、マリ(政子)。
 
(小夜子はあきらの妻で妊娠中、胡桃は和実の姉)
 

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千里は朝の練習が終わり、シャワーで汗を流すと、《すーちゃん》を分離して代理を頼む。先日ヨーロッパまでの移動を代わってもらったのと同様、今回もアメリカまでの移動を代わってもらうのである。
 
合宿所前に集合した時、千里の代わりに《すーちゃん》が来ているので、玲央美がニヤニヤして「あんたも大変ね〜」と言うと、《すーちゃん》は照れていた。
 
千里本人は予め千葉に行ってもらっていた《きーちゃん》と交代で千葉に飛び、桃香を誘って成田ではなく羽田に行き、富山空港から飛んできた青葉を迎えた。
 
富山空港14:50-15:55羽田空港
 
それで一緒にモノレールと京浜東北線で川口市まで移動した。
 
なお、千里は予め東北の方を向いて「安寿さん、お願いしまーす」などと言っておいたのだが、青葉に会う直前、16:00に男の子の身体に切り替わった。
 
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(千里の身体の男女切り替え:正確には時間の入れ替え:は、安寿さんという東北在住の霊能者が計画して切り替えのプログラムコードを書き、実際の切替えは“八乙女”の誰かがしてくれることになっている)
 
普通、女の子の身体と男の子の身体が切り替わるのは午前4時なのだが、今日は朝の練習は女子の身体でしなければならず、夕方青葉に会う時は男の子の身体にしておかなければならないので、微妙な切り替えが必要だったのである。
 
千里はさっさと性転換してしまいたいよと思った。
 

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娘たちの震災後(13)

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