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■娘たちの震災後(2)

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3月13日(日)。
 
昨夜は疲れていてみんなお風呂にも入らずに寝てしまったので、この日は朝からお風呂に入った。千里たちが泊まったのはF社から歩いて5分の所にある会社の女子寮である。小さな寮の空き部屋に泊めてもらったので2人1部屋である。朝御飯を食べた後。誘い合ってお風呂に行く。お風呂も定員5名という感じの小さなお風呂だ。
 
「この中に男の子が混じっていたとしても、今日は特別に容認してあげるね」
「そうだね。ここでは男の子は絶対的に戦力になるもん。ちんちんくらいついていても平気平気」
「女湯に特別ご招待だね」
 
などと言い合って服を脱ぐが
 
「残念。男の子は居なかったようだ」
「全員女であることを確認」
などという話になる。
 
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それで浴室に入る。身体を洗ってから浴槽に浸かるが
 
「念のために本当に女なのか、触って確認」
などと言って、おっぱいの触りっこになるが、こういうのに慣れてない子が悲鳴をあげていた(充分セクハラである)。
 

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昨日サポートチームが運んで来た食材を使ってF社のスタッフの手によってカレーと牛丼が作られているので、それをキッチンカーに積んで、この日は宮城県の北部を中心に回った。
 
また仙台市に戻ってF社女子寮に泊まる。
 
14日は東京に帰るのに8-10時間見た方が良さそうだということでお昼で切り上げようかと言っていたのだが、組織的なボランティアについては東北自動車道や仙台道路・三陸道などの特別通行許可を出すという話が入って来た。
 
それで東北道が使えるなら少し遅くまでしてもいいかということで15時までやろうということになった。
 
ところがその後、第二陣でボランティアに来る子たちの中で欠員が生じたという話が飛び込んでくる。家族などに反対されて参加を見送った人たちがいるというのである。それで第一陣で来ている人たちの中で消耗が少なく、続けて第二陣に加わってもいいという人は現地に残ることになった。
 
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それで女子では千里と亜衣華が残留することになり、結果的に15時以降も残留組と現地協力スタッフの手でキッチンカーを昨日同様深夜まで動かすことになった。結局14日も作業が終了したのは22時すぎである。
 
「いや、これはホントに体力を削られるねー」
と一緒に残った亜衣華とお風呂の中で千里は語り合った。亜衣華は大学生で、今はやっていないものの、高校時代にソフトボールをしていたということで体力があるのである。
 
「へー、千里ちゃんはバスケやってるのか」
「まあ趣味程度だけどね」
「やはり普通の子には結構辛いよね」
「**ちゃんなんて、最初は元気だったけど、もう今日のお昼くらいには相当参っているような顔をしていた」
 
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「体力もだけど精神も削られるよ。死体はこの3日間で30体以上見た気がする」
「中には酷い状態のもあったね」
「私たちが行っている時に避難所で亡くなった人もあったし」
 

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15日はボランティアの第二陣が来るが、お昼からになるので午前中はまた千里・亜衣華と現地の協力者2名で救援車の特権で通してもらえる東北道を北上して築館(つきだて)ICを降りる。午前中は栗原市内の避難所を巡り、お昼過ぎにマイクロバスでやってきた第二陣を迎える。その後、桃香たち第二陣の3名を入れて、登米市を通過して沿岸の南三陸町の避難所を回った。
 
「これはなかなかハードだな」
と桃香も言っていた。
 
「これは感情の動きを止めてないと、耐えられない」
と今日来た歌恋が言っている。
 
その日は22時過ぎ、気仙沼市内の協力会社G社まで行き、ここでも女子寮に入る。
 
「千里、女子寮に泊まるんだ?」
「昨日までは岩手県内のF社の社員寮に泊まったよ。また男子は男子寮や家族寮に、女子は女子寮に」
「ふーん」
 
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ここの女子寮は50部屋ほどもあるかなり大きな建物であった。広い食堂があり、そこで遅い夕食を食べる。部屋数にも余裕があるようで1人1部屋割り当ててもらった。いったん部屋に入ったあと、お風呂に行く。
 
「桃香〜、お風呂行こう」
と千里は桃香を誘った。
 
お風呂場の前まで一緒におしゃべりしながら来たのだが、千里がお風呂のドアを開けて入って行くと、桃香は何か探しているよう。
 
「どうしたの?」
「いや、女湯はどこかなと思って」
「女湯も何もここは女子寮だから、男女に分かれている訳が無い」
「千里、女湯に入るの〜?」
「こないだ、桃香、私のヌード見て、私は女湯に入れると言ってたじゃん」
「うむむむ」
 
桃香は千里がさっさと服を脱いで浴室に入っていくので、何だか悩んでいたようである。
 
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浴室も昨日までの所より広い。15-16人入りそうである。しかし入って行った時は誰もいなかった。ふたりとも身体を洗ってから浴槽に入る。
 
「今、他に誰もいないみたいだけど、誰か来たらどうする?」
「そりゃここは共同浴場だから、みんな来るよ」
 
「千里、ほんとに平気なの?」
「何が?」
と千里は涼しい顔をしている。
 
「まあいいや、私は悩んで損したようだ」
と桃香は言っている。
 
桃香もまさか千里が男湯に入ったことなんて、数えるくらいしかないとは夢にも思っていない。
 
やがて亜衣華と歌恋もやってきたが、おっぱいの触りっこが始まってしまい、千里が平気で他の子の胸に触っているので、桃香は頭が痛くなってきた。
 
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そして3月16日(水)。
 
千里は起きた時、男の子の身体になっていたのでトイレに行った時仰天した。
 
『これなんで男になってるの〜?』
と《いんちゃん》に訊くが
『私にも分からない。ただこの春は頻繁に男になったり女になったりするという話だったんだよ』
と彼女も答える。
 
男の身体なんて憂鬱だなあと千里は思った。
 
昨日が南三陸町だったので、この日は午前中にその北の陸前高田市、そして午後からは更にその北にある大船渡市を回った。南三陸町や気仙沼もそうだったが、この陸前高田や大船渡も悲惨であった。
 
「この付近は復旧するのに1年近く掛かるかも」
「海岸沿いは完全に壊滅している」
などと口々に言った。
 
ずっと市内の避難所を回り、夕方くらいにこの日最後の避難所に行く。海岸に近い場所なので、ほとんどの家屋が破壊されており、ひたすら瓦礫の山が続いていた。避難所の体育館が無事(完全に無事とは言えない)だったのが奇跡のようである。重機などもまだ入っていない。今は主要道路や電気などライフラインの復旧作業を最優先でしているはずだ。
 
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彼女と会ったのは、ひととおり食事が行き渡り、千里が避難所内で食器を回収していた時であった。
 

「済みません」
 
と言ってその子は千里に声を掛けてきた。千里はその子を見た瞬間、
 
この子何者!?
 
と思った。その子は詰め襟の学生服を着ていたが、髪は女の子のように長く肩についていた。何よりもその子の声は、声変わりした男の子の声ではなく、ふつうの女の子の声に聞こえる声だった。
 
千里は最初てっきり男装女子と思ったのだが、あそこを透視してみると、男の子のものが付いている。凄く小さいけど。うっそー!?この子、男の子なの?と千里は信じがたいものを見た気がした。
 
しかしそのことより千里が興味を持ったのが、彼女(彼?)が物凄いオーラを持っていることと、多数の眷属を連れていたことである。
 
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間違い無く霊能者だ。しかもかなり凄腕の。
 
むろんオーラも眷属も、普通の人の目に見えるものではないし、実は千里にも見えないのだが、千里はこの手のものを「感じ取る」ことができる。波動を丁寧に数えてみると、全部で8個あった。つまり眷属の数は8人(匹)ということになる。
 
波動の“色合い”から、どうもかつて人間であった眷属が多いようで、その中でも目立っているのが弁慶みたいな格好をした背の高い男である。また、大正ロマンのようなハイカラな服装をして腰には剣のようなものを下げている女性がいる。この2人がメインの眷属かなと千里は思った。
 
どうもこの子は“戦闘型”の霊能者のようである。千里の苦手な悪霊調伏のようなものができそうだ。少し天津子に似ているかもと思った。
 
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そしてそれらの眷属とは明確に分離できる位置に江戸時代頃かなという感じの様式の巫女の衣裳をつけた女性がいるのを感じ取る。この人がこの子の守護霊かな。
 
目が合った瞬間、千里は瞬時にここまで読んだのである。
 

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「お代わり?いくらでも頼んでね。お代わり制限は無いから」
と千里は笑顔で言った。
 
「ごはんはもう大丈夫です。美味しく頂きました。ここ2日ほど、おにぎりしか配給無かったから、お肉食べられてすごく嬉しかった」
 
と彼女(彼?)は無表情な顔、抑揚の無いひと昔前の自動音声のような声で言う。
 
「よかったね」
と千里は笑顔で語りかける。
 
「それで、ちょっとお姉さんに折り入ってお願いがあるんですけど」
「なにかしら?」
 
ここでは話しにくいということだったので、今やっている食器の片付けが終わったら聞こうかということにした。すると彼女(彼?)は片付けを手伝ってくれた。
 
キッチンカーの裏手で話を聞く。車のエンジン音があるので会話が漏れにくい。
 
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「で、何かな?」
と千里は尋ねた。
 
「あの、凄く唐突なんですけど、女物の服を少し分けてもらえないでしょうか。新品でなくてもいいので。私、この格好で学校に居た時に被災してしまって。あとで家まで行ってみたけど流されていて服が調達できなかったんです」
と彼女(彼?)は言う。
 
「あなた、女の子?」
「自分では女の子のつもりなんですけど、その・・・お姉さんと同族です」
 
さっすが。私を男の娘と読んだのは大したもんだねと千里は思った。やはり結構な能力のある霊能者のようである。千里は今日は男の身体になっている。タックはしているので外観的には女ではあるものの、男性的器官は存在している。そのことで発生している微妙な“波動”の乱れを読み取ったのだろう。
 
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「事情は分かった。それなら何とかしてあげたいけど・あ、名前は?私は村山千里」
「川上青葉といいます。来月から中2になる予定でした」
「青葉ちゃん、ご家族は?」
 
「両親と姉がいたのですが、地震から5日たったのに連絡が取れないのでたぶんみんな死んだと思います。避難所名簿とか死亡者名簿とか見ても見つからないし、電話会社の安否確認システムでもヒットしないのですけど」
 
千里はゾッとした。こんな話をこの能面のような顔で、抑揚の無い声で言うのは、感情が壊れているか、あるいは元々感情の無い子なのではと考える。
 
千里は青葉をハグした。
 
そして千里が青葉をハグした瞬間、青葉の波動が乱れるのを感じる。彼女は実際「あっ」という声を出した。
 
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「青葉ちゃん、たいへんだったね。泣いてもいいんだよ」
と千里は言った。
 
すると青葉はそっと千里をハグしかえす。そして彼女の目に涙が浮かんだ。
 
そして千里が青葉をハグした瞬間、青葉が小学校の低学年の頃に掛けたまま自分で解き方が分からなくなってしまっていた、感情のロックが外れてしまったのであった。
 

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千里は亜衣華に話して、自分の知り合いの女子中学生と遭遇し、彼女が家族を亡くしたと言っているので取り敢えず保護して今日の宿舎に連れて行きたいと言った。
 
「キッチンカーに同乗させていく?」
「違法は分かっているんだけど」
「うん。じゃ見つからないように」
 
千里は避難所の管理人さんにも、知り合いの子なので保護したいと言い、連絡先として自分の名前と携帯番号を届けた。
 
「ご親戚ですか?」
「ええ。遠縁なんですけど。又従姉妹くらいになるんですよ」
「なるほど」
 
と避難所の人とは会話したが、これは出まかせで言ったのではない。青葉の持つ固有波動の中に千里は自分の固有波動と似た成分が混じっていることに気付いていた。これは親族か、姉妹弟子にありがちなことなのである。
 
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(実際には千里と青葉は“又従姉妹違い”であることがずっと後に判明する)
 
なお、この避難所の記録を数日後、天津子が見て千里に連絡してくることになる。
 

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