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■娘たちの震災後(4)

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そういう訳で、千里は4月6日までは普通にローキューツの練習に出つつ、それ以外の時間は葛西のマンションで作曲活動をしていたし、4月7日は、本来は自分は大村に行っていることになっているので、千葉には姿を見せず、1日中葛西のマンションに籠もっていた。
 
4月8日。この日も葛西にずっといようと思っていたのだが、午前中に桃香から電話が掛かってくる。
 
「千里、午後から花見やるから、来て」
「私忙しいのに〜」
「ああ、なんかバイトが入っているんだっけ?」
「うん。楽譜の清書を頼まれている。明日の朝までに仕上げないといけないものがある」
 
「明日の朝までなら、2〜3時間くらい、いいじゃん」
「え〜〜!?」
「紙屋君が東北方面のボランティアに行って来たんだよ」
「へー!」
「ひたすら瓦礫の片付けとかやってたって」
「あの子、あんまり筋力無さそうなのに」
 
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「まあそれで向こうの福島県産の牛肉を10kg買ってきた」
「福島県産?」
「みんな放射能を怖がって買ってくれないというので、向こうは困っているみたい。ちゃんとガイガーカウンターでチェックして問題無いことを確認して買ってきたって」
 
「わあ、それはみんなで食べなければ」
「うん、だから食事するだけと思ってちょっと抜け出しておいでよ」
 
「じゃ夕方まで」
 

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それで千里はその日、大学の友人たちの花見に出かけて行ったのである。
 
紙屋君はバイクで被災地を走り回り、主として福島県内で瓦礫の片付けをしていたらしい。除染作業も少しやったと言っていた。
 
「あれ1人の人があまり長時間はできないんでしょ?」
「そそ。時間制限がある。だから結果的に多人数が必要」
「大変だね」
 
しかし彼が買ってきたお肉は美味しかった。他にも東京都内で売っていた宮城県産の野菜を買ってきた子もいて、そういうのを焼いて食べながら、やはりこの日は復興論議や、エネルギー論議になった。
 
自転車を漕いで発電する、人力発電所という案も出た。500人で漕ぐと、原発一基分程度の電力を生み出せるという計算結果が出る。むろん連続して漕ぐのは無理だから、3000人くらいで交代して漕げばよいのではとか、ダイエットしたい人を集めようとか、スポーツ選手のトレーニングとか、更には交通刑務所の作業としてやったらどうかという意見まで出る。
 
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しかしやはり新しいエネルギーの本命は太陽光発電・太陽熱発電だろうという意見が多かった。
 
日本中の建物の屋根(特に工場や学校の屋根が大きい)、休耕田・空き地などに全て太陽光パネルを敷き詰めると、実は日本国内の電力をほとんどまかなうことができるという凄い試算結果があることも、ひとりの子が見つけた。
 
かなり有意義な意見も出たので、ひとりの子がこの日の議論の結果をまとめてホームページに公開すると言っていた。
 

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花見が終わった後は、いったん桃香のアパートに戻ることにし、一緒にそちらに行った。すると、アパートの玄関前に青葉が座り込んでいるのを見てびっくりする。
 
「お帰りなさい」
と青葉は言った。
 
「青葉ちゃん・・・・」
と桃香が驚いて言う。
 
「ごめん。戻って来ちゃった」
と青葉は照れるような笑顔で言った。先日は完璧に能面のような表情だったのに、僅かながら感情が顔に出るようになったようだ。
 
取り敢えず上に上げて甘いミルクティーを出して話を聞いたが、青葉は結局、佐賀の祖父から「男の子になる」よう強制され、髪を強引に切られそうになって逃げ出してきたらしい。
 
「こちらには新幹線で来たの?」
「お金無いからヒッチハイク」
「九州から?凄い」
 
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「どうする?」
と言って、桃香と千里は顔を見合わせる。
 
「取り敢えず保護するしかないと思う」
と千里は言った。すると青葉が嬉しそうな顔をする。
 
桃香が仕方ないなあという顔をして、佐賀の祖父の所に電話を入れた。
 
本人がどうしても帰りたくないと言っているので、しばらくこちらで預からせてもらえないかと桃香が言うと、青葉の祖父は、素行不良で手に負えなくて困っていたので、預かってくれるなら頼むと桃香に言った。
 
それで結局桃香と千里で青葉を保護することにした。
 
「あ〜あ、とりあえず私は君の保護責任者になったよ」
と桃香は渋い顔で言うが
「私も青葉の保護責任者」
と千里はむしろ嬉しそうな顔で言った。
 
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「すみません。ご迷惑おかけします。生活費とかしばらく貸してください。父の死亡が認定されたら、父の銀行口座からお金が引き出せてお返しできると思うので」
と青葉が言う。
 
「ねえ、桃香、そのあたりって色々手続きが必要なんじゃない?」
「うん。これ弁護士さんに頼んだほうがいいね。中学生が行ったって銀行は大人を連れてきなさいとしか言わないよ」
 

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それで青葉の取り敢えず財産に関する案件で、千里は弁護士に依頼することにした。両親や祖父母などが、行方不明という状況であれば、法的な処理は結構難しい。また、この後、色々な処理を進めるにしても、誰かが青葉の後見人になった方がいいと弁護士は言った。
 
それで桃香か千里のどちらかが青葉の未成年後見人になる方向で手続きのための書類などを準備しはじめたのだが、ちょうどそこに4月13日、偶然にも朋子が高岡から千葉に出てきて、その話を聞くと、自分が青葉の後見人になりたいと言った。
 
未成年後見人というのは、いわば親代わりだが、青葉は現在13歳10ヶ月である。20歳になるまでの6年余の間に、千里や桃香が結婚しようとした場合、子供がいるのは障害になる、と朋子は主張した。
 
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「私が結婚する事態はありえないのだが」
と桃香は言うし
「私が結婚するとしても、相手はそんなの気にする人ではないから大丈夫です」
と千里は言った。
 
しかし朋子が自分が親代わりで、あんたたちは姉代わりというのでもいいんじゃない?だから、青葉の生活費は3人で分担しようよと言うと、青葉自身も
 
「桃香さんや千里さんをお母さんと思うのは、年齢的にきついけど、お姉さんならいいな」
と言ったので、結局朋子が未成年後見人を引き受けることにした。
 
この件を再度桃香は佐賀の祖父に照会したのだが、そちらで後見人になってくれるなら幸い、などと向こうは言ったので、念のため弁護士さんが佐賀まで行き、承諾書を取ってきてくれて、それで朋子は正式に青葉の未成年後見人に就任することになる。
 
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そちらの法的な手続きを進める一方で、桃香たちは青葉の就学についても作業を進めた。
 
朋子が後見人になるので、朋子の家がある高岡で就学することになるが、問題は青葉の“性別”であった。千里は青葉は“女子生徒”として就学させようと言い、作戦を提案した。
 
まずは美容室に行かせて、可愛い髪型にする。そしてとっても可愛い服を着せてそれで朋子に地元の中学へ連れて行ってもらった。
 
朋子は中学の校長に説明する。
 
今回の震災で両親・姉・祖父母を一気に失い、身寄りがないこと。それを縁あって保護することになったこと。実は遠縁の親戚でもあること。現在未成年後見人になるべく申請中であること。それで現在は保護者不在なので正式な住所移転などもできない状態ではあるが、高岡で自分の許で暮らさせるので、こちらの中学に就学させて欲しいこと。
 
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そこまでは震災に伴う特例ということで問題無いと校長先生は言ってくれた。
 
また青葉の表情が乏しく、話し方も抑揚のない機械のような話し方であることについても、父親にずっと暴力を受けていて、感情を閉じてしまっていること、これは今後自分が一緒に暮らしていく中で、少しずつ改善していけるようにしたいことを言った。
 
その点についても学校側は、そういう生徒への対応はできるだけ頑張りたいと言ってくれた。
 
その上で、朋子はいよいよ青葉の性別問題を出す。
 
「こんな可愛い子なのに無表情だから損してるんですよね」
「ええ。笑顔になったら本当に美少女という感じですね」
 
「ね、先生この子美少女でしょ」
「ええ」
「まさか、この子が男の子だなんて思いませんよね?」
「え?」
「実は、この件がいちばんやっかいなお願いなのですが」
「まさか」
「この子、性同一性障害なんです」
「君、男の子なの?」
 
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美少女の青葉が実は戸籍上男の子だというのは、向こうの想定外だったようで、校長先生もパニックになる。朋子は、この子は戸籍上は男の子であっても、下着姿になっても女の子にしか見えないと説明し、実際に男性の教員が席を外した中で養護教諭など、女性の教員に下着姿を曝した。
 
「女の子にしか見えない・・・」
「手術とかしている訳ではないの?」
「手術はしていません。隠しているだけです。おっぱいは女性ホルモンの作用でここまで膨らませてきました」
 
青葉は現在ホルモン的に実質去勢状態にあることを説明し、声変わりなども起きる可能性が無いと言った。
 
前の学校での扱いも訊かれたので、青葉は、前の学校では授業だけは男子制服で受けて、昼休みや放課後、部活などは女子制服で出ていたことを言う。また、体育の着換えなどは着換え用の個室を指定されて、そこで着換えていたと説明した。
 
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学校側は職員会議をして青葉の性別の取り扱いについては決めたいと言ったので、その日はそれで帰って来たが、学校からの連絡はその日の内にあり、青葉を女子生徒として受け入れるということ、それですぐに女子制服を作って欲しいが、受け入れは、学校側での様々な準備のため1週間後からにして欲しいということであった。
 
これで青葉は、本当に女子中学生として、中学校に通うことができるようになった。
 

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千里と桃香は、青葉の就学問題に対処するため、一時高岡に行っていたのだが、就学が1週間後になったので、その間、青葉・朋子とともにいったん千葉に戻り、ディズニーランドに連れて行ったり、朋子が映画とか落語の寄席などに連れていき、彼女の感情の動きを刺激した。
 
それでこの一週間だけで、完全な能面のような表情から、わずかながら笑顔が出るようになり、随分雰囲気が変わった。普通のぶっきらぼうな人程度には表情や言葉の抑揚が変化した。
 
そしてここ半月ほど、桃香・千里と一緒に行動していた青葉は、最初ふたりの関係を友人と思っていたが、もしかして恋人だったんですか?と尋ねた。
 
それについて桃香と朋子は肯定するが、千里は否定する。しかし青葉は千里が恥ずかしがって否定していると思ったようである。そして、千里が現在精子の採取をしていて、精液を4回採取して凍結したら、去勢するつもりだという計画を聞くと「その採精の前日に男性機能を強化してあげますよ」と言った。
 
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青葉は4月25日(月)に地元・伏木の中学校に初登校していったのだが、千里と桃香は彼女の初登校を見届けてから千葉に戻ることにしており、その途中長野に寄って、採精をする予定だった。それで青葉はその前日に千里の睾丸を超活性化してくれた。
 
それで4月26日の採精では、前2回に採精したものに比べて物凄く濃い精液が得られた。水浦医師も驚き、このように濃い精液が取れるのなら、前2回のは破棄して、今日のを含めて新たに4回取りましょうということになった。
 
もっともこの青葉の作用で物凄く活性化されたのは、むろん千里の父・武矢の睾丸である。武矢が元気すぎるので、津気子は渋い顔をしていた。この後、採精の度に武矢は異様に活性化するようになる。
 
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そして千里自身は、この睾丸活性化によって、漏れてくる男性ホルモンの影響で、またまた生理痛のような頭痛に悩まされるのであった。
 
「ここで男性ホルモンが大量に体内に入ったから、高校3年の時、千里は声変わりをしてしまったんだよ」
と《いんちゃん》が教えてくれた。
 
「あれは青葉のせいだったのか!」
「まあ実際には、千里の声変わりは必ず起きることになっていたんだと思う。千里があまりにも早く去勢してしまったから、その辻褄合わせの手駒として青葉が使われているんだよね、たぶん」
 
「ああ。青葉もそういう手駒に使われやすいタイプみたい」
と千里は嘆くように言った。
 
 
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娘たちの震災後(4)

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