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■娘たちの震災後(8)

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10時すぎに大船渡の££寺に到着する。ここに取り敢えず遺体を運び込んでいるのである。
 
「遺体はかなり酷い状態なんだよ。見ない方がいい」
と住職の川上法嶺(65)は言った。
 
「いえ。見ます」
と言って青葉はふたりの遺体を確認する。千里も一緒に見たが、普通の女の子なら失神するだろうなと思う程度の状態であった。青葉が涙を流しているので手を握ってあげるとしっかり握り返してきた。
 
佐竹家(山間に借りている仮住まい)に行き、遺体の確認をしてくれた慶子に御礼を言った。盛岡の大学に行っている真穂も戻ってきてくれていた。
 
「へー、そちらが青葉さんの新しい保護者なのね」
と慶子。
 
「正確には私の友人の高園桃香というのの、お母さんが青葉ちゃんの後見人になってくれることになって、今認可待ちなんですよ。ですから桃香と私は青葉ちゃんの姉代わりということで」
 
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「なるほどー」
「でもそちらも青葉ちゃんのことで色々として頂いているようで」
 
「私は一応拝み屋ということで活動しているのですが、私は大したことないもので、実質青葉さん頼りなんですよ」
と慶子は言う。
 
「ハニーポット、蜂蜜の壺という技術があって、私が青葉さんの端末になって、私が祈祷しているように見えて実際は青葉さんの能力で、クライアントの体調が悪いのを治したり、簡単な除霊とかまではできるんですよ」
と慶子は説明を続ける。
 
「慶子さんも真穂ちゃんも霊感があるので、拝み屋さんができるんですよね」
と青葉は言う。
 
「いや、私は拝み屋を継ぐつもりはない」
と真穂は言っている。
 
千里は2人を見て、確かに慶子はふつうの霊感人間程度だが、真穂は修行すると霊能者になれる程度の霊的な素質を持っているぞと思った。慶子のおじいさんが出羽の修験者でかなりの法力を持っていたと聞いたので、その隔世遺伝かなと思う。しかし出羽か・・・、と千里は腕を組んで考えた。
 
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真穂にしても、青葉にしても、少し出羽っぽい色合いがあるのである。
 

真穂が言う。
「青葉ちゃんの霊的な能力は物凄いけど、千里さんもわりと霊感があるっぽい」
 
「え?そう?私は霊感があるなんて言われたことないけど。幽霊とかも見たことないし」
と千里は驚いたように言う。
 
「いや、ちー姉は霊感があると思う。占い師くらいならできるよ」
「そう?占いなんて、あんまり興味無いけどなあ」
「タロットとかすれば、割と当たると思う」
「へー。タロットってなんかトランプに似たカードだっけ?」
「そうそう。トランプは13枚ずつ4つのスートがあるんだけど、タロットは14枚ずつ4つのスートで、その他に大アルカナという22枚のカードがあるんだよ」
 
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と言って、青葉は自分のバッグの中からタロットを実際に出してみせた。
 
「なんかきれいな絵柄だね」
「これはアクエリアン・タロットと言って、いわゆるライダー系のタロットなのよね」
「ライダー?」
 
「20世紀初頭に、アーサー・エドワード・ウェイトという魔術師が企画して、パメラ・コールマン・スミスというチャネリング能力の高い女性画家が絵を描いた名作タロットがライダー社という出版社から刊行されたのよね。これをライダー・ウェイトとか、単にライダー版というのだけど、それ以降、このライダー版に準拠したタロットがたくさん制作されたんだよ。これはその中の名作の一つ」
 
「裏模様もきれい。青海波というか」
「これをシャッフルしていると海の中にいるような気分になるのよね」
と言って、実際青葉はシャッフルしてみせた。
 
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「ほんとだ。これは凄い。まるで水の中に吸い込まれそうな感じ」
と千里は“うっかり”言ってしまったのだが
 
「それを感じられるというのは、ちー姉はやはり霊感があると思う」
と青葉に言われて、しまった!と思った。
 
青葉の前では霊感なんて無い振りしてようと思ってたのに!
 

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4人で一緒に市内の飲食店で昼食を取ったが、千里は夜通し運転してきたので、よかったら少し仮眠させてもらえないかと言い、佐竹家で仮眠させてもらった。その間、青葉は溜まっている霊的な相談事に応じるため、慶子とふたりで大船渡周辺を回っていたようである(真穂は自宅でゲームをしていたようである)。
 
千里が“仮眠”したのが、13:30-17:30の間で、これはギリシャでは7:30-11:30であり、この日の代表チームの朝の練習は8:30-10:30の間におこなわれたので実は千里はこの練習に参加した。千里がギリシャに行っている間に佐竹家の客間で寝ていたのは《すーちゃん》である。
 
代表チームの方は10:30で練習が終わった後、着換えてからお昼までの間は昨日のギリシャ代表との試合をビデオで振り返り、色々注意が行われたのだが、これには《すーちゃん》が出たので、玲央美がニヤニヤしていた。
 
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千里は10:30で練習が終わりシャワーを浴びて着換えた後は日本に戻ってきて本当に30分ちょっと仮眠させてもらった。青葉が18時頃に慶子と一緒に戻ってきた。
 
全員、喪服に着替える。
 
「青葉はちゃんと女物の喪服だね」
「ちー姉もちゃんと女物の喪服だね」
 
青葉は喪主、千里はその姉なのでふたりとも和服の女性用喪服を着た。慶子・真穂は洋服の喪服である。一緒に££寺に行く。
 
18:30から仮通夜をおこなった。焼香するのも4人だけなので仮通夜は30分ほどで終わり、4人はいったん佐竹家に戻って、仕出しで取っていた精進料理を一緒に食べる。それで千里は
 
「ごめん。まだ眠いから少し寝てるね」
 
と言って19:30頃、客間に行って寝てしまった。実際には即ギリシャに居る《すーちゃん》と位置交換してもらう。日本の19:30はギリシャの13:30で、イスラエルとの練習試合が始まる少し前である。もう体育館に来ている。ウォーミングアップの途中だったようで、玲央美が千里の頭をコツンと小突いた。
 
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千里はそれで14時からのイスラエルの試合に出たが、これが15時半頃に終了する。しかし篠原チームの場合は練習試合が終わった後も当然練習である。
 
16時半から21時頃まで、みっちりと練習が行われた。その後、千里は
 
「なんか2日分稼働した気がする」
などと玲央美に言って、シャワーだけ浴びて寝てしまった。玲央美は呆れるような顔をしていた。
 

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夜中の1時に起こしてもらい、着換えてから日本に居る《すーちゃん》と位置交換してもらう。日本はもう朝7時である。4人で一緒に朝御飯を食べてから、また喪服を着て££寺に行った。
 
10時から仮葬儀をおこなった。
 
御住職が読経をし、青葉、千里、真穂、慶子の順に焼香した。その後、お寺の車で2往復して火葬場に棺を運び、11時半頃、火を入れた。
 
火葬場で青葉が一瞬ふらっとしたのを千里がハグしてあげると、青葉は涙が止まらないようであった。千里はずっと青葉を抱きしめていた。
 

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焼いている間に、御住職と参列した4人で会食をする。
 
「御住職も川上だけど、もしかして親戚?」
と千里が訊くと
 
「今焼いている雷造じいさんと私が又従兄弟なんですよ」
と御住職が言った。
 
「そういう親戚があったのか」
 
「私の亡くなった父と3人が又従兄弟同士だったんです」
と佐竹慶子。
 
「なるほど。一族だったのね」
「もうひとり、川上法雲というのが、一関で住職やってるんですよ。この4人が又従兄弟同士になりましてね」
「へー」
 
「元々は雷蔵じいさんの父親がうちの寺の跡取りだったんですが、坊主やめてしまいまして。それで一関に行っていた、私の父がこちらに戻ってきて後を継いだんです。だから一関の寺の住職をしている法雲と私が従兄弟なんですよ」
 
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「だったら、青葉が元々はこちらのお寺の血筋だったんだ?」
と千里は言う。
「この子、凄い法力あるんですよね」
と法嶺。
 
「へー!そうなんですか」
と千里は言う。
 
「だから、この子はぜひ頭を丸めさせて坊主にしたいと思っていたんですが、女の子として生きていきたいから、坊主頭は勘弁してと言って」
 
「だったら頭を丸めて尼さんになるといいね」
と千里。
 
「あ!それもいいですね」
と法嶺。
 
「ちょっと待ってぇ!」
 
と言う青葉は焦ったような表情をしていた。へー。こんな表情も出るようになったのかと、千里は楽しい気分でそれを眺めていた。
 

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会食が終わった後、火葬室に戻り、青葉と千里の2人で一緒に骨を拾って2つの骨壺に収めた。
 
その後、千里はバイトがあるのでと言って、14時半頃、インプに乗って単独大船渡を離れる。青葉が帰る時は佐竹慶子に気仙沼駅まで送ってもらい、JRと夜行バスで高岡に戻るということだった。大船渡線は4月18日の時点で気仙沼と一ノ関の間が復旧している。
 
千里は大船渡を出るとすぐに《こうちゃん》と位置交換でギリシャに戻った。日本の6月4日14時半はギリシャの同日朝8時半である。
 
ギリシャでは朝御飯までは《すーちゃん》が千里の代わりを務めていた。《こうちゃん》は位置交換の直前までホテルの部屋で休んでいたので、千里が戻ってきたところで《すーちゃん》は練習用の服に着替えてくると言って部屋に戻り、千里と交代した。
 
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「ふむ。今日もサボる訳では無いようだね」
と練習場に出てきた千里を見て玲央美は言った。
 
なお、日本に戻された《こうちゃん》はその後、途中でたくさん遊びながら3日掛けて!千葉に戻った。
 

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その日、緋那とデートしていた研二は、自分たちの結婚問題について切り出した。
 
「良かったら、緋那、僕たちの結婚式の日程を決めてさ、結納とかも取り交わさない?」
「そうだなあ。。。もう少し待ってもらってもいい?」
と緋那は答える。
 
「いつまで?」
「うーん。。。だったら今年中には決断する」
「分かった」
 
それでふたりはいつものようにドライブした後食事をしてホテルに行き、普通の男女がするようなことをする。
 
「これって私が女役でいいんだっけ?研二、女役になりたい?」
「僕は男だから男役がいいな」
「本当に研二って女の子になりたい訳じゃないんだっけ?」
「僕は女装はするけど、自分では男のつもりだよ」
「そのあたりが微妙によく分からない」
「ともかくも僕は緋那が好き。それは絶対に動かない事実」
 
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「研二、私の両親に会いに来る時、女装で来たりしないよね?」
「さすがにそんなことはしない。ちゃんとスーツを着るよ」
「スーツってスカートスーツ?」
「まさか。男物のちゃんとズボンのスーツだよ」
「ほんとかなあ」
 

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緋那としては少し不安は感じるものの、研二が自分を愛してくれていることだけは確かに感じるので、やはり結婚しちゃってもいいかなあ、と思っていた。
 
ただ、結婚に踏み切るのに、何かあと1つくらい要素が欲しい。
 
そんな気もしていたのである。
 
その日は結局朝までホテルで過ごし、朝食を一緒に取った後、車で送ってもらう。
 
ギャラン・フォルティスの助手席に乗り、研二とおしゃべりをしながら、何気なく外の景色を見ていた時、足の位置を少し変えたら、足の先が何かに当たった。
 
何だろう?と思って拾ってみる。
 
《***コスメティック》という名前が書かれているので、緋那はてっきり化粧品か何かのパンフレットかと思い、ページを開いてみた。
 
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1分後、緋那は無言になってしまった。
 

緋那が突然沈黙したので、研二は
 
「どうしたの?」
と訊いた。
 
「降ろして」
「え?」
「いいから今すぐ降ろして」
「なんで?」
「もうここに居たくないの。おろして」
 
「ちょっと待ってよ。どうしたの?」
と研二は言ったのだが、緋那はドアのロックを外してしまう。
 
「危ない!」
と言って、研二が急ブレーキで車を停める。
 
後ろの車が物凄いクラクションを鳴らし、ギリギリで衝突回避して追い抜いて行った。
 
そして緋那は手に持っていたパンフレットを研二に投げつけ、更にバッグの中から指輪ケースを出すとそれも研二に投げつけ、そのまま車を降りて走って行った。
 
「一体何なんだぁ!」
と叫んで研二は、緋那から投げつけられたパンフレットを手に取った。
 
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