広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■娘たちよ胴上げを目指せ(14)

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中国はロングスローインから速攻しようとして、陳さんが思いっきり振りかぶったものの、そのロングスローインを、玲央美が“ブロック”してしまった。
 
転々と転がるボールに千里と王さんが同時に飛びつく。
 
両者譲らない。
 
笛が吹かれる。
ヘルドボールである。
 
みんながオルタネイティング・ポゼッション・アローを見る。
 
日本を指している。
 
王さんは天を仰いだ。
 

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相手ゴール近くのサイドラインから千里がスローインする。受け取った玲央美の前で劉さんが必死に近接ガードするが、玲央美はバウンドパスでハイポストに居る千里に戻す。残りは2秒を切っている。千里はボールを受け取ると、軽やかなステップで王さんをかわし、美しくスリーを放った。
 
ボールが空中にある間に試合終了のブザーが鳴る。
 
千里のボールはゴールに吸い込まれる。
 
90-95.
 
試合終了!
 

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千里は玲央美と、星乃が純子と抱き合った。サクラは無表情で立っていたが、星乃が純子に続いてサクラと抱き合うと、サクラも笑顔が出た。
 
両者整列する。
 
「95 to 90, Japan」
と審判が告げた。
 
両軍ともいったんベンチに戻り、ベンチに座っていた選手も一緒に相手ベンチに挨拶に行った。
 
そして胴上げが始まる。
 
篠原監督が5回も宙に舞う。その後、片平コーチが3回、高田コーチも3回、以下、キャプテンの朋美、副キャプテンの彰恵、更に玲央美、千里と3回ずつ胴上げされ、最後は純子まで胴上げされた。
 
純子は「10点取ってこい」と言われて残り3分に出てきたのだが、本当に10点取ってしまった。この試合合計で36点の大活躍である。試合前に武さんが韓国戦であげた30点を上回る32点取ると宣言していたが、それ以上に取ってしまった。純子は充分王子の穴を埋める活躍をした。
 
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「千里、あれ最後は無理にシュートしなくてもボールをキープしておいても良かったのでは」
 
「うん。でも取れる時には点を取らないと、何があるか分からないし」
と千里が言うと、玲央美が苦笑していた。
 
千里は2年前のウィンターカップ決勝でボールを旭川N高校がキープしていれば勝てるという場面で、玲央美から「撃ちなよ」と言われた。実際あそこで千里が撃っていれば旭川N高校はウィンターカップを獲得していたであろう。しかし、千里は安全を見て撃たず、そのあとP高校のファウルからフリースローになって結局P高校ボールになる。そこでP高校は同点に追いつき延長戦になったのである。
 

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「でも最後はステラが一矢報いたね」
と玲央美が明るく言う。
 
「ハーフタイムショー見てたからね。2人羽織作戦。中国人選手が大きいから簡単に後ろに隠れられる」
と星乃。
 
「人間の頭の大きさって24-5cmくらいだから、ちょうど身長差に納まっちゃうんだよね〜。だから後ろに立つと頭の先が相手の肩より下にある」
 
「次は4人後ろに隠れて五人羽織作戦で」
などと純子が言っている。
 
「それはさすがにバレる」
 
「ユニフォームの色の問題もあったと思う。中国の白いユニフォームの後ろに日本の黒いユニフォームだと、目立ちにくい」
と彰恵が指摘する。
 
「つまり中国がホームで、日本がビジター扱いだったから、うまく行ったのか」
「偶然が味方したね」
 
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「偶然が味方したというと最後のヘルドボールもだけどね」
「あれで中国ボールだったら、中国はまだチャンスがあったからね」
 

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少し置いて表彰式・閉会式が行われる。
 
水分などを補給しただけで、そのままロビーにスタンバイする。
 
アリーナでは伝統的な衣装を着けた少女たちによる小気味のいい舞踊が披露されている。パリさんによると、チェンナイの伝統舞踊でバラタナティアム(Bharatanatyam)というのだそうである。インド四大伝統舞踊のひとつだそうである。けっこう力強い、ある意味男性的な踊りだが、昔は神殿の奥で密かに女性によって踊られていたもので、公開される性質のものではなかったらしい。
 
彼女たちのパフォーマンスが終わると、選手の再入場となる。
 
Japan, China, Korea, Chinese Taipei という4つのプラカードを持った4人の女子高生が先導して、各国の選手12名、ヘッドコーチ、アシスタントコーチ、マネージャーなどが並んで入場する。
 
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閉会式に協力してくれているのは、開会式の時のとは別の高校の女子高生たち(パリさんによるとやはりバスケット部員らしい)でサルワール・カミーズ(日本でいう所のパンジャビ・ドレス)を着ていた。南インドではサルワール・カミーズが制服になっている学校も結構ある。
 
中央に日本と中国、その左右に韓国と台湾という配置(つまり4位−1位−2位−3位)なので、結果的に中国と台湾、日本と韓国が並ぶ。中国選手団と台湾選手団は何だか親しそうに声を掛け合っていた。政治的な諸問題はあっても、スポーツは人と人の心を通わせてくれる。
 
フロアでは日本と韓国の間でも、韓国のハと日本の純子、韓国のユンと日本の玲央美が英語で少し言葉を交わしていた。
 
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さて表彰式では、最初に個人成績が発表された。
 
「Scoring Leader Sato Japan, Three point Leader Murayama Japan, Rebound Leader Liu China, Assist Leader Hong Korea」
 
千里と玲央美が握手してから前に出て行く。中国の劉さんとも握手する。釣られて韓国のホン(洪)さんもこちらの3人と握手してくれた。
 
賞状と記念品のペンダントをもらった。ケース(大会スポンサーTataのブランド Titan のロゴが入っている)に収納されているので材質は分からないが、結構重い。もしかしたらチェーンが18金か?ペンダントは多数の小粒ダイヤでちりばめられたスター・ルビーである。スター・ルビーはインドの名産品だ。"Three Point Leader 2010 FIBA Asia Under-20 Championship for Women"という刻印がされた小さな銀色のプレートも付いている。そちらはステンレスか?
 
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他にも様々な部門の成績が発表された。そちらは発表されるだけである(後で賞状を事務局から渡すと言われた)。純子が試合当たりの得点数で玲央美に続く僅差の2位、千里が3位で、この部門は1−3位を優勝した日本が独占した。玲央美はアシストでも2位に入っていた。なお千里はスリーポイント総成功数、総確率、試合あたり成功数、全ての成績でトップであった。
 
劉さんと玲央美が中国語で何か話している。
 
「これ多分2万ルピー(4万円)くらいの品物ではなかろうかと、私と彼女の推測」
と玲央美は小声で千里に教えてくれた。
 

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千里たちがいったん自分のチームに戻る。
 
ベスト5が発表される。
 
「Ma China, Murayama Japan, Sato Japan, Watanabe Japan, Liu China」
 
これは優勝した日本から3名、準優勝の中国から2名選ばれたが、渡辺純子は名前を呼ばれて「嘘!?」と叫んでいた。
 
千里は成績賞の賞状と賞品を江美子に、玲央美は星乃に預けて、純子と一緒に3人で出て行く。中国の2人と笑顔で握手を交わす。
 
また賞状と記念品をもらうが、こちらの賞品は同じくTitanのロゴの箱の中に収納されている腕時計である。銀色のボディに白い文字盤。その文字盤に"Best5 2010 FIBA Asia U20 Women"という文字が記されている。
 
5人が並んだままの状態で更に
「Most Valuable Player Sato Japan」
と呼ばれるので、玲央美はベスト5の賞状と賞品を千里に預けて前に出る。賞状と賞品をもらう。
 
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こちらもやはりTitanの腕時計だが、金色のボディに黒い文字盤。ベスト5のと単なる色違いのようにも見えるが、金色が物凄く「本物」っぽい。あるいは24金が使用されているのかも知れない。こちらの文字盤には
"MVP 2010 FIBA Asia U20 Women"という文字が記されている。
 
「時計が増えていく〜」
などと玲央美が言っているが、純子は
「記念の時計はいくらあってもいいです」
と言っていた。彼女はU18 AsiaのBEST5でトレーサーの腕時計をもらったらしい。
 

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千里たちがまた自分のチームに戻る。
 
いよいよチーム成績の表彰になる。
 
最初に3位の台湾が呼ばれて選手12人で出て行き、賞状と楯をもらった上で、プレゼンターのミス南インドから、ひとりずつ銅メダルを掛けてもらった。台湾チームが下がった後で、2位の中国が呼ばれて出て行き、やはり賞状と楯をもらった上で、ミス南インドから銀メダルを掛けてもらう。
 
そして最後に日本が呼ばれる。12人で出て行く。成績賞とベスト5の賞状・記念品は、高田コーチと片平コーチが預かってくれた。
 
賞状を主将の朋美がもらい、優勝カップは朋美の指名で玲央美がもらう。カップには2002年と2006年優勝の中国の名前のリボンが付いている。優勝記念のジャンパーは全員にあるのだが、代表して副主将の彰恵が着せてもらった。そしてウィニングボールは朋美の指名で千里が受け取った。
 
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最後に全員、ミス南インドから金メダルを掛けてもらう。千里は金メダルのずっしりとした重さを首に感じ、歓喜の涙が出てきた。
 
そして君が代の演奏とともに、日の丸が掲揚される。演奏はマドラス大学の吹奏楽部の人たちである。千里は君が代を歌いながら、また涙を浮かべていた。
 

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その後は入り乱れて退場する。千里は成績賞などは片平コーチに預けたまま、ウィニングボールだけ持って退場したが、中国の王さん、林さん、呉さん、韓国のキムさん、台湾の雷さんなどと握手を交わした。中国の呉さんは少し照れていた。王さんとは前回もかなり闘(や)りあったので、お互いに賞品を近くのチームメイトに預けて握手して、再戦を約束した。
 

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その日ホテルに戻ると、チェンナイの日本総領事さんが祝福に来てくれた。もう夜中にはなるものの、レストランでささやかな祝賀会を開いた。その後、千里と玲央美の部屋に最初は純子と江美子、更に彰恵と百合絵、がやってきて最終的には雪子と王子も入れた14人、帰ろうとしていた所を星乃につかまったらしいパリさんまで集まり、楽しくおしゃべりした。食料が無いという話になり、高田コーチに連絡して一緒に買い出しに出たので、結局高田・片平の両コーチも入って、夜中の1時頃まで賑やかに歓談は続いた。
 
「メダルのプレゼンターがミス南インドだったでしょ?」
とパリさんがコカコーラを飲みながら言う。彼女はコーラで少し酔っている雰囲気もあった。
 
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「ええ」
「最初は2位と3位は準ミス南インドがプレゼンターを務める案もあったらしいんですけどね」
「もしかしてミス南インドの横に一緒に立っててミス南インドにメダルを手渡していた人ですか?」
「そうそう。彼女。でも彼女は元男性なので、苦情が出るかもと気を回してミス南インドが全部のプレゼンターになったらしいですよ」
 
「え〜。そんなの気にしないのに」
「日本はきっと気にしないでしょうね。でも中国だと古い道徳が生きているから何か文句言われると面倒というので回避したらしい」
 
「でも元男性には見えなかったね」
「うん。ふつうに女性に見えた」
「というか、私は彼女の方が美人という気もした」
「まあ美の基準って難しいから」
 
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翌日の午前中は朝御飯を食べてからホテルをチェックアウトし、最初市内のデパートに行き、2時間ほどお土産物を選んだ。この段階で迷子が出るととても困るので集団行動である。特に危なそうな王子は彰恵・百合絵と一緒に行動するように、留実子はサクラと一緒に、意外に危なそうな渚紗も星乃と一緒に行動するように言われていた。途中から千里と江美子も彰恵や王子たちと一緒になった。
 
「プリン、自分でチョコと紅茶買えるようになって、よかったね」
と言ったら
「あ、チェコでチョコ買うの忘れた!」
などと言っていた。
 
結局真鍮製のガネーシャ像と、タタ製の紅茶を買っていた。タタは車も作っているし、今回の大会で賞品にもらったような宝飾品や時計も作っているし、紅茶やドリンク類も多数作っている、総合企業である。
 
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千里も結局タタの紅茶、パリさんお勧めのスリ・クリシュナ・スイーツのお菓子詰め合わせなどを買った。
 

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