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■娘たちよ胴上げを目指せ(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-05-07
 
9時にバスで、練習場として割り当ててもらっている中学校の体育館に行き、この日は体調を調整するような軽めの練習をする。
 
しかし日本出発前夜に唐突にロースターに入れられた星乃は
「連携プレイ、もう少し練習させて下さい」
と言って、様々なケースでのスクリーンの入り方の練習をたくさんしていた。
 
彼女はまだ新しい背番号のユニフォームが届いていないので、今日の段階ではまだ17番のままである。試合が始まる26日までには届けるとは言われていたが、届かないと彼女を出場させられない!
 
お昼はバスで移動してチェンナイ市内にある中華料理店に行った。この日案内して下さったのは、現地の日本人会の人たちである。
 
今回の大会ではこの日本人会の人たちも、地元のバスケ協会も本当に色々してくれて快適な環境で戦うことができた。
 
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「チェンナイでは昨年はフル代表のアジア選手権が行われたのですが、その時は急に台湾からインドに開催地が変更になったので、全てあたふたとしてしまってかなりの不手際で日本人選手だけじゃなくて、どこの国の選手にも呆れられたんですよ。それで名誉挽回にとアンダー20の開催地に立候補して、また任せて頂いたから、みんな今度こそは、しっかりやるぞと市の幹部さんたちからして、燃えているんですよ」
 
と今日の“日本人会チーム”の代表林田さんは言っていた。
 
「そんなことあったんですか?」
と純子が玲央美に訊く。
 
「うん。フル代表のアジア選手権は本来は昨年6月21-28日に台湾で行われる予定だったのが、台湾ができないと言い出して、チェンナイが代替開催地になって、9月17-24日に実施されたんだよ。日本ではWリーグの開始直前で結構パニックになった。その時は、練習用に割り当てられていたはずの体育館で別の大会が行われていて練習できないとか、体育館のバスケットゴールのネットが破れていたり、ボールが泥まみれで真っ黒だったりとか、そもそも空調が無くて、サウナのような中で練習したり、食事もまともに無かったりとか大変だったみたい」
 
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と玲央美が言う。
 
「あれは本当にごめんねー」
とパリさんが言っている。
 
「でも予定変更って、物凄く頻繁に起きているんですかね?もしかして」
と純子。
 
「まあ日本以外ではそのくらい普通」
と玲央美は言った。
 

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「そういえば今回体育館をお借りしている中学校は、女子校ですか?女生徒しか見なかった気がしたのですが。それとも女子選手の練習は男子は見てはいけないと言われているとか?」
と早苗が質問する。
 
「あの学校はツーシフト校なんです」
「シフト?」
「午前中は女子校、午後は男子校になります」
 
「へー!」
 
「インドには共学校が多いですし、女子校もけっこうあります。男子校も女子校よりは少ないですけど、わりとあります。でもインドの小学校や中学校の多くは授業時間が2時間ほどなので、同じ建物を午前中は女子だけ入れて午後は男子だけ入れてという学校もあって、ツーシフトと言うんですよ」
 
「面白いことやりますね」
 
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「働いている子供も多いので、午前中だけ授業やって午後は働きに行くなどという学校もあります。そちらはジェネラルシフトと言います」
 
「大変だなあ」
 
「ということはこの食事が終わって戻ると、今度は男子生徒ばかりか」
 
「そうですね」
 
「入れ替わっていることを知らなかったら、午前中女の子の格好をしていた生徒が午後は男の子の格好をしているのかと・・・」
と星乃。
 
「それも楽しそうだね」
と留実子。
 
「楽しいのか!?」
 

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実際食事が終わって戻ってみると、確かに男子生徒の姿しか見なかった。
 
彼らは千里たちの練習に興味津々のようで、のぞき見している子たちが多数いた。
 
その日の夕食は、ホテルの近くのインド料理店に行ったが、タンドリーチキン、シークカバブ(日本ではシシカバブと呼ばれる)、などの肉料理、南インド風・北インド風のカレーに、ナン・チャパティ・ごはんなどの組合せなどを楽しむことができ、みんなたくさん「インドの味」を満喫していた。
 
この夕食を取っている間に、チェコで行われている世界選手権で日本がアルゼンチンに勝って1勝目を挙げたという報せが高居チーム代表からもたらされ、歓声があがっていた。
 
「1点差で負けているシーンから、高梁君が相手選手2人に挟まれながら片手だけでシュートして、これがブザービーターになって劇的な逆転勝利」
 
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「おぉ!さすがプリン」
「やりますね」
 
「高梁君は昨日の試合でかなりファウル取られたんで、相手の挑発に乗らないよう、自分を抑えながらプレイしたと、富永さんからメッセージが入っていたよ」
 
「そのあたりを1日で修正するなんて、プリンもずいぶん大人になりましたね」
「うん。昨日は何であれをファウルにするんや!?そもそも触って無いのに!とか言って、かなり怒っていたらしいけど、随分中丸君にたしなめられたみたいだよ」
 
「触って無いのにって、やはりフロッピングされてるな」
「プリンみたいな選手見たら、絶対仕掛けて来るよ」
 
「でも、そういう所で華香の存在意義は大きかったかも」
「ひとりだけ年齢が離れているから、割と年の近い華香がいるのは、彼女にとって凄く助かったかも知れませんね」
 
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「うん。怪我の功名だけどね」
と高居さんは言っていた。
 
「ちなみに昨日は最初コートに出てきた時、その人本当に女ですか?って向こうの選手から言われたらしい」
「お約束、お約束」
 

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その日の夕方からは、今大会で対戦することになる各国の有力選手について事前分析の結果を片平コーチが解説した。その中の大半がU18の時にも対戦した選手なので、みんな頷いていることが多かった。
 
「ところで、先日出たU18でも思ったんですけど、中国人の名前の性別が分かりにくいですね」
と純子が言い出す。
 
「うん。中国人の名前は分からない。バレーボールの選手で劉亜男(リュウ・ヤーナン)って選手がいるけど、女性だからね」
と高田コーチが言う。
 
「“男”なんて文字が入っていたら、まず男性と思っちゃいますよね」
 
「バレーだと郎平(ラン・ピン)さんも日本人は誤解しやすいですね。この人の場合、郎が苗字で平で名前」
 
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「女性?」
「間違い無く女性」
 
「逆に男子バスケット選手で陳江華(チェン・ジャンファ)とかは日本的な感覚だと女性の名前に見えるけど、間違い無く男性」
 
「その人、北京五輪に出てましたよね?」
「そうそう」
「ああ。思い出した。私もあれ?と思った」
 
「やはり中国人の名前、難しー」
 

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9月25日はかなり本格的な練習を行った。午前中基礎的な練習を行い、午後1番に紅白戦をして、その後は連携練習をした後で、シュート練習、1on1練習、などをやって16時頃に終了した。
 
この日の夕食の席でやっと、星乃の背番号9のユニフォームが日本バスケ協会のスタッフの手により届けられた。
 
「間に合って良かった!」
「届かなかったらベンチに入れず指くわえて見てないといけなかった」
 
「いや、その時は手描きで対応してたよ」
と高田コーチが笑いながら言う。ユニフォームが何かのトラブルで破れたり紛失した場合に供えて、背番号も名前も入ってない予備のユニフォームを多数持って来ているらしい。
 
「でも人が持ってくるんですね!」
「当然。郵送なんかしてたら間に合わない」
「TVアニメなんかも最近海外制作が多いけど、人が絵コンテを持っていって、完成したビデオを人が持ってくる。厳しいスケジュールで動いているからね」
 
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9月26日の朝が明ける。
 
玲央美がまたネットを見ている。
 
「ああ、また日本は負けた」
「あらら」
「チェコに66-60で負け」
「そしたらどうなるの?」
「1勝2敗の3位で一応2次リーグへは行ける」
「だとするとプリンのブザービーターが凄く大きいね」
「うん。あれがなければ予選リーグで敗退になっていた」
 
朝食の席でも世界選手権の話題が出ていたが、どうもみんなのこの後の予測は暗い方向に行っているようであった。
 
「まあフル代表が不振になっている間に、U20は景気よく行こうよ」
と星乃が言うと
 
「そうだね。向こうは向こう、こちらはこちらだね」
という意見も出て、少し空気は改善された・
 

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この日は12時から開会式が行われた。
 
メイン会場となる、ジャワハルラール・ネルー・スタジアム第1体育館に各国の選手が集まる。
 
地元チェンナイの女子高生10人が、各国の名前が書かれたプラカードを持ち、その後に監督と選手12名が続く。
 
女子高生たちは、薄紫色の長い丈のコットンブラウスに赤い膝丈のプリーツスカートを穿いている。足の露出が結構大きい。見た目は日本の女子高校生の夏服に近い制服である。
 
下がスカートになっているので、恐らく私立高校の制服であろう。ミッションスクールの場合はこれに棒タイが入るし、公立高校では、下はズボンのことが多く、ストールが加わる所が多いと、U18の時にインド選手団の子たちが言っていたなというのを千里は思い出していた。
 
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(後でパリさんから聞いた話では、この子たちは地元の高校の女子バスケット部のメンバーであったらしい)
 

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入場は前回の順位順なので、中国、日本、台湾、韓国、インド、シンガポール、タイ、ウズベキスタン、スリランカ、インドネシアと入場する。大会長の挨拶、来賓の挨拶などが続き、選手宣誓が行われる。
 
各チームのキャプテンが前に集まり輪を作る。その中で開催地インドのキャプテンが英語で選手宣誓をおこなった。
 
その後は選手は適当に!各国入り乱れながら退場する。千里たちは中国の馬さんや王さんと「Let's go easy(お手柔らかに)」などと笑顔で言葉を交わした。
 
その後、バレエっぽい衣装を身につけた地元の女子高生たちによる群舞のパフォーマンスが行われて開会式は終了した。
 
今日の試合日程はこのようになっている。
 
(L1) 13インド−中国 18シンガポール−韓国 20台湾−日本
(L2) 17ウズベキスタン−スリランカ 19インドネシア−タイ
 
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基本的にはL1の試合が第1体育館で、L2の試合が第2体育館で行われる。試合の時刻は基本的にはL1は16,18,20時から、L2は17,19時からなのだが今日は開会式が行われた関係で初戦のインド−中国が13時に繰り上げられた。
 
地元インドと、アジア最強の中国ということで、最も観客の入る試合である。勝敗は見えているものの観客も熱が入る所だ。インドの監督さんは「中国の半分の点数を取ることが目標です」などと言っていた!要するに勝てるとは思っていない。
 
日本は20時から台湾戦なので、それまで休むことにする。
 

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ホテルに戻って仮眠する。16時に起きる。玲央美もやはり寝ていたようである。一緒にホテルのレストランに食事に行く。食べている内に、メンバーが結構集まってくる。
 
「でもここ、かなりいいホテルだよね」
という声が出る。
「やはり去年のA代表アジア選手権で大失敗したから、今回は張り切っているんじゃないかね〜」
「トイレに紙があるから助かるね」
 
「そうそう。初日は練習場の体育館のトイレに紙が無いから焦った」
「どうしたの?」
「秘密」
「ポケットティッシュ持ち歩かないとダメだって、ちゃんと支給されたのに」
「それをホテルの部屋に忘れていったんだよ。トモに分けてもらった」
 
「でも元々インドではトイレでは左手で洗う、食事は右手でする、と使い分けているんだよね」
「うん。それで衛生を保っているんだから、結構賢い文化だと思うよ」
 
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「でもトイレの男女表示が面白い」
「ここのホテルも会場の体育館もだけど、男性と女性の絵が描いてある所が多いみたいね」
「識字率が低いから、文字では分からないからね」
 
「でも最近は国民全員に学校教育を受けさせようという運動が行われていて予算も出ているから、若い人の識字率はかなり上がっているのよ」
とパリさん。
 
「それはいいことだ」
 
「ただインドは多民族国家で、英語が事実上の共通語だからね。それで英語で Man/Woman とか He/She とか書かれている所もあるよ」
 
「私たちにはその方が助かる」
 
「でもチェンナイで使われている文字はデリーで見た文字と違う気がする」
という声が出るが
 
「そうそう。デリーはヒンディー語圏だけど、ここチェンナイはタミル語圏。言語系統も全く違うし、使用している文字も違う。お互いに全く通じない。日本語とフランス語くらい離れている」
とパリさん。
 
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「そんなに違うのか!」
「タミル語は実はヒンディー語より日本語や韓国語に近い」
「うっそー!?」
 
「だから共通語として英語が必要なんだよ」
「なるほど」
 
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