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「しかしだよ」
と星乃が言った。
「2008年はインターハイとウィンターカップで札幌P高校が優勝、国体は旭川選抜が優勝でしょ。2009年はP高校が三冠獲得。今年はまたP高校がインターハイ優勝で国体は旭川選抜の優勝。ということはだよ」
「うん。ウィンターカップで、札幌P高校か旭川N高校が優勝すれば、北海道は“9冠”達成なんだよね」
と彰恵がその後を引き取って言う。
ここではウィンターカップの北海道代表はたぶん旭川N高校になるだろうとみんな思っている(札幌P高校は自動出場)。
「男子では秋田のR工業が1996-1998年にやり遂げているけど、女子ではどこの学校も9冠は達成していないんだよね」
「惜しいのは何度かあったんだけどね」
「1948-1950年に浦和第一女子高校がインターハイと国体を制してタイトル独占したんだけど、当時はまだウィンターカップが無かった。但しここは1950年にはオールジャパン(皇后杯)も制している」
「高校生がオールジャパンを制するって凄い」
「いや、当時はバスケやってるのは高校生までで、企業チームが無かったから。浦和一女の後、1951-53年には長野県の上田染谷丘高校が皇后杯三連覇をしている。でもここはインターハイでは1951年に準優勝しただけで1952-53は上位に進出できなかった」
「うむむ」
「1988-1990年には愛知J学園が国体とウィンターカップを制しているのだけど、インターハイでは1989-90は優勝したけど1988年は準優勝に終わっている」
「1992年から1996年までのJ学園も微妙に惜しかった」
この時期はこのようになっている(△は準優勝)。
__ 総 国 選
1992 ○ ○ ○
1993 △ ○ ○
1994 ○ ○ ○
1995 ○ ○ △
1996 ○ ○ ○
ここで1993年のインターハイ(総体)、1995年のウィンターカップ(選抜)の決勝でJ学園に勝って三冠を阻止したのは、いづれも福岡C学園である。
「でも学校が入れ替わっていても、北海道9冠となったら、やはり凄いよ」
と早苗が言った。
「まあうちがそれを阻止してくれると思うけどね」
と朋美(愛知J学園出身)が言った。
「いや、うちが阻止する」
「いや、うちだな」
という声があがるが、最後はまあ後輩たちに頑張ってもらおうということでまとめた。
30日。千里たちがお昼御飯の後、会場入りしたところで世界選手権の結果が入る。今日は9-12位決定戦でギリシャに辛勝して9-10位決定戦に進出することになったらしい。今回は最後、広川さんが決勝点を入れたということであった。
「おお、やったね!」
「これで取り敢えずアテネ五輪の成績より下にはならないことが確定した訳だ」
アテネ五輪では日本はいい所がないまま10位に終わっている。もっとも五輪は12ヶ国中の10位だったが、今大会は16ヶ国中の9位または10位だから、こちらの方が価値は高い。
さて、チェンナイの方は、昨日までの結果はこのようになっている。
26(日) 13インド36×−○70中国 18SG22×−○80韓国 20台湾60×−○94日本
27(月) 16SG20×−○90日本 18インド30×−○88韓国 20台湾60×−○78中国
28(火) 16韓国62×−○82日本 18台湾76○−×32インド 20SG20×−○86中国
29(水) 16台湾90○−×28SG 18インド44×−○84日本 20韓国70×−○80中国
チーム 勝 負勝点| 得 失 率
1.日本 4 0 8 | 350 186 1.8817
2.中国 4 0 8 | 314 186 1.6882
3.韓国 2 2 6 | 300 214 1.4019
4.台湾 2 2 6 | 286 232 1.2328
5.IN 0 4 4 | 142 318 0.4465
6.SG 0 4 4 | 90 346 0.2601
台湾も決勝トーナメントが確定して、日本と中国の1-2位、韓国と台湾の3-4位、インドとシンガポールの5-6位が決まった。今日の予選リーグ最終戦は、結局予選リーグ上の順位決定戦という感じである。
30(木) 16SG−インド 20台湾−韓国 20日本−中国
これまで試合の時間は16,18.20時からだったのだが、今日だけは日本−中国戦、韓国−台湾戦が、20時から、第1体育館・第2体育館で並行で行われることになっている。そして双方の体育館を行き来する行為は禁止であり、試合が始まって以降は各体育館ではチームスタッフや協会関係者であっても入場できないように管理する(実際チームスタッフが一番危ない)。また妨害電波を流して携帯電話が使えないようにする。
試合はテレビ中継されるので、テレビを見ている人だけが双方の試合進行を知ることができるが、外部から体育館内の選手やスタッフに連絡する手段は存在しない。
そのようにせずに、どちらかの試合を先にやってしまうと、後の試合のチームは、わざと負けて準決勝の対戦相手を選ぶことができる可能性もある。
準決勝は1位対4位、2位対3位で行われる。
台湾−韓国戦を先にやってもし台湾が勝った場合、3位台湾・4位韓国となるが、日本も中国もどちらかというと台湾と試合をしたいのでわざと負けると有利になる。
日本−中国戦を先にやってもし日本が勝った場合、1位日本・2位中国となるが、台湾も韓国も中国よりは日本とやりたい。すると負けて4位になった方が有利だ。
実際問題として、予選リーグ成績の3位以下の順位は実力から見て、韓国・台湾・インド・シンガポールになる可能性が高く、1位と2位の順序だけの問題だったので、最終戦で意図的な敗退を防ぐため、両方の試合を同時にするように最初から設定していたのである。
日本は例によって今日の試合では渡辺純子と竹宮星乃は使わないことにした。韓国戦では「負けそうにならない限り」使わないことにしていたのだが、今日は「たとえ負けても使わない」ことにした。中国は間違い無く隠し球をしている。中国はここまで11番の呉(ウー)さん、12番の朱(チュ)さん、13番の胡(フー)さんの3人を使っていない。
たぶん今日の試合でも使わないだろう。実は呉(ウー)さんについてはこちらもかなり情報を収集し、出てきた場合の対処も考えたのだが、残りのふたりの情報は収集を試みても、見つけきれなかったのである。中国の国内リーグで活躍した経歴も見当たらず、なぜこういう選手が代表になったのかも分からないというのが、調査してくれた人の報告だった。
「改名したので検索に引っかからないという可能性はあります」
とその人は言っていた。
「外国から帰化した選手とか」
「それはあり得るかもね」
「性転換した選手とか」
「うーん。。。バスケガールって背が高いから、そのあたりは分からないよなあ」
やがて試合が始まる。
朋美/千里/玲央美/江美子/サクラ、というベストオーダーで始める。向こうも馬/林/勝/王/劉という、恐らくベストオーダーだろうというメンツで始めた。
勝(シェン)さんはU18の時は中国が隠し球として使った選手である。この選手は破壊力は充分なのだが、スタミナに問題があったのと、マッチングした時に離れて守るとこちらの守りを突破できない弱点があり、それを試合中に見つけたので何とかなったのである。
恐らくスタミナは2年間の間に付けてきているだろうと日本チームは判断していた。この日は玲央美が主として勝さんにマッチアップしたのだが、玲央美はわざと「普通に」守った。彼女と近接してガードした場合、前回はほとんど突破されていたのだが、今回玲央美は彼女を全部停めた。
勝さんが「うっそー!?」という顔をしていた。このあたりはやはり2年間の玲央美の成長である。
「勝さんは実は千里の劣化版なんだよ」
と後で玲央美は言っていた。
「ん?」
「千里もどちらから来るかというのが事前の兆候では全く読めない。動き出してから停めないといけない。更に千里の場合はシュートもある。勝さんはミドルシュートにはあまり警戒しなくていいから、その分、少し楽」
と玲央美。
「そうそう。千里の場合はシュートがあるから、勝さん対策で前回うちがやったように離れて守るという方法が採れないんだよね」
と江美子も言っている。
「ああ、その意見に賛成」
と彰恵も言っていた。
試合はシーソーゲームで進む。
ただこちらも全力は出していないのだが、向こうも明らかに八分くらいの力で戦っている感じであった。中心選手の王(ワン)や劉(リュウ)の出る時間が少なく、陳(チェン)や龍(ロン)、黄(ファン)などのプレイ時間が長い。
黄はU18,U19にも出ていたが、学年が下のせいか14番の背番号を付けている。絶対的なセンター劉さんがいるから控えに回っているが、結構凄い選手である。
龍は今回初顔で15番の背番号を付けているが、高校を卒業した後、大学に入ってから頭角を現してきた選手のようである。この人についても情報収集をして動画サイトにアップされている映像も見たが、確かに才能を感じさせる人であった。ただこれまでの韓国・台湾との試合でのプレイを実際見た感じでは、マッチング技術やシュート精度はまだまだかなという感じ。彼女は今回のような国際大会の経験を経た来年くらいが恐いかも知れない。
試合自体は点を取ったり取られたりで、日本応援団、中国応援団からはリードが変わる度に大きな声援があがっていた。
リバウンドはサクラも留実子もよく拾った。身長では大きな差があるにも関わらず、サクラは勘で良い場所を取っているし、留実子は少々場所が悪くても強引に奪い取る。一度向こうは留実子にフロッピングを仕掛けたが、審判がよく見ていて向こうのテクニカル・ファウルを取った。
この日の試合は、2つの試合がほぼ同時に終わるようにするため、各ピリオドの開始時刻が揃うように運営側で調整しながら進めた(携帯電話が使えないので、伝令の人が双方を走って往復していた)ので、インターバルやハーフタイムの時間がやや不規則になった。
「向こうはどうなってますかね?」
と純子が訊く。
「さあ。それは神のみぞ知るだな」
と篠原監督。
「千里さんは分からないんですか?」
と純子。
「ごめん。試合中はその手の回路は全部閉じてるから」
と千里。
「その気になれば分かるんだ!?」
と星乃。
「千里は試合中は人間の力を越える能力は一切封印しているんだよ」
と玲央美は言った。
「うーん。。。。超能力バトル?」
「相手がそういう能力を使ってきたら、相手の能力まで封印してしまう」
「なんか、それ凄すぎるんですけど」
「でも基本的には韓国が勝つものと思った方がいいと思うよ。だからこの試合何とかして勝とう。そうすれば準決勝は台湾になる。幸い中国はこの試合は本気じゃないから」
と片平コーチは言った。
試合は第4ピリオド冒頭。日本側の猛攻で一時は10点差を付けたものの、その後、中国側の反撃で2点差まで迫られる。そのままの状態で終了間際までもつれるものの、残り1分で千里のスリーが決まって5点差となり、これで勝負あったかと思われた。
ところがその後、中国側の王さんがまず2点返した後、林さんが早苗の死角から忍び寄って美しいまでのスティールを決め、自らスリーを決めて同点にする。残り時間18秒から日本はできるだけギリギリまで時間を使って攻撃する作戦で行くが、玲央美の中に飛び込んでのシュートがチャージングを取られて残り3秒で中国ボールになってしまう。この攻撃チャンスで劉さんがシュートを決め、72-70で中国が勝った。
試合終了後、王さんや劉さんが何だか不満そうな顔をしていたが「全てを見せていない」のはお互い様である。
こちらは予定通り純子と星乃を最後まで使わなかったし、中国も呉さん、朱さん、胡さんの3人を最後まで使わなかった。
これで予選リーグは1位中国、2位日本となったので、恐らく準決勝の相手は韓国になるだろうと思った。
「中国としては、準決勝で日本と韓国をぶつけたかったのかも」
という意見が控室に戻ってから出た。
「中国は2年前に負けているから今回は絶対優勝したい。そのために色々と作戦も立てた。でも決勝でやり合うのは日本より韓国になった方が助かる。それで準決勝で日本と韓国をぶつけたら、もしかしたら韓国が日本を倒してくれるかも知れない」
「なるほどー。それで最後意外に頑張ったのか」
「確かに韓国って、日本戦では異様に張り切るからなあ」
「まあ、それは日本も韓国戦では異様に燃えるけどね」
千里たちは最後の最後で見せた中国の意外な「やる気」に関してそんな感想を言い合っていた。
「でもとにかく明後日の準決勝、韓国を吹っ飛ばすぞ!」
などと気勢もあがっていた。
ところがである。
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娘たちよ胴上げを目指せ(7)