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3月13日、千里B(ブレンダ)は千葉に行って千葉大学の入学手続きをした。ブレンダは翌日千葉県内の自動車学校に入った。
旭川では千里Υ(ゆり)が天子に
「私千葉の大学に入ったから今までみたいに毎日は来られないけど北海道に戻った時は毎回来るから」
と言って天子のアパートを出た。何かあったらすぐ連絡をくれるように瑞江に言った。
でもその日の夕方ロビンがやってきて、おたべさんを「おみやげ〜」と言って天子に渡す。
「京都に行ってきたの?」
「私京都の大学に進学したから」
「あ、そうなんだ」
千里のこの手の矛盾発言には天子も慣れたものである。ロビンはその日いっぱい天子と一緒に過ごした。京都の方は夜梨子に頼んでいる。そして翌朝瑞江に
「何かあったら遠慮無く呼んでね」
と言った。
「分かりました」
「ところで瑞江さんいつまで自称女子大生を続けるの?」
「あと4−5年続けてもいいかなあ」
「私たちのほうが先に大学卒業しちゃうよ」
「女子大生を最初名乗ったのは千里さんが中学生の時でしたねー」
「あの時の設定で行くともう26歳くらいのはずですよ」
「私10年に1歳しか年を取らないから」
ロビンは「深川の家にはサハリンを置いてるから。買い物とかで頼んでもいいから」と言って彼女の携帯番号を渡しておいた。恐らくいちばん頼りになるだろう。また内容によっては留萌から玲羅を呼ぶように言った。多分津気子より役に立つ。
千里Υ(ウプシロン:ゆり)は深川司令室に入り、ここでサハリンを助手に、天子・玲羅・ロゼを常時モニターすることにした。
しかしまあr(スモールアール)にB'(ビーダッシュ)にΥ(ウプシロン)にと北海道には千里のコピーが3人残ることになる。
ミッキーが東京に行ってサハリンがあまり深川から離れられなくなり、結果的に留萌が手薄になるので、サハリンの友人のタスリンという子に留萌司令室に常駐してもらうことにし、ロゼ家のドライバーを務めてもらうことにした。何かあった場合は玲羅はタスリンの車で旭川に駆け付ける。もっとも緊急の場合はロゼが転送すると思う。
3月中旬、千里はプリンスの社長・田上から連絡を受けた。
「村山さんにお願いがあるんですが」
「なんでしょう?」
「実はですね。京都府内に10軒ほどの店舗のあるエレガントというスーパーがあるんですが」
「はい」
「プリンスと業務提携して、プリンス仕様のレジも入れてるんですよ」
「ええ」
「私が個人でエレガントの株を40%持っているんですよ」
なるほど。1/3を越える株を押さえてグループ企業にしたわけだ。
「この株、時価2000万円ほどを村山さん、私から買って頂けないかと思って」
株の所有者が田上から自分に変わってもエレガントとしては同じ事である。プリンス・プリンセスグループに1/3以上を押さえられている状態は変わらない。しかし企業買収が好きな田上にしては所有株を手放すというのは珍しい。
「田上さん、個人的に何か資金が必要なのね」
「見透かされてますね。さすがですね。実はうちの副社長が死にましてね」
「え?佐田さん亡くなったの?」
「ええ」
それは香典を出さねばならない。しかしそれがエレガント株とどう絡むんだ?
「それで遺族から相続税が払えないから所有しているプリンス株1000株を買ってくれないかと言われてまして。でも私も今すぐに現金化できる資産が他になくて」
それで分かった。この副社長が持っていた株が例えば私の手に入るような事態は避けたい。そのためには田上が自分で買うしかない。ところがその資金が無いのでエレガント株は私に譲ろうというわけか。こちらとしてはあまり旨味の無い話だがその程度の便宜を図るのもいいだろう。
「いいよ。買い取るよ」
それで千里はエレガントの40%の株主になった。そしてこの株を売った資金で田上は佐田の遺族からプリンス株11%を買い取り、千里の所有株式数を抜いて31%の筆頭株主に返り咲いた。
「え?プリンス株をたくさん買ったの?」
と千里は青池に訊いた。
「副社長の佐田さんが亡くなったでしょ?あの人はもう20年以上、田上さんのお父さんの代から副社長をしてますけど元々はメインバンクが送り込んで来た人だったんですよ。それが亡くなったのでメインバンクとの関係が悪化して銀行は資金を引き上げるのではという憶測が出てましてね。最近銀行は田上さんのM&A戦略にあまり賛成してなかったんですよ。拡大しすぎで仕入れに余裕が無くなったのが去年のウナギ事件にもつながったんじゃないかと」
「ああ」
しかしプリンスはプリンセスとの提携で食品仕入れに関しては余力が出ている。
もっとも銀行が他社買収に消極的なのでエレガント買収の資金は田上が自分で都合を付けたのだろう。しかしそれで副社長の所有株の買い取り余力が無くなった。プリンスは昨年兵庫県のハーバーも買収している。
「その株、株価が回復してもそのまま持っててよ」
と千里は青池に言った。
「いいですよ」
それで千里は今回の青池による株購入でプリンス株の所有比率が35%になり、田上を抜き返して再度筆頭株主になった。しかも特別決議を単独で否決できる1/3以上である。
なお銀行は佐田さんの後継含みで佐賀さんという人をプリンスに送り込んできたので一般株主の不安は解消され株価は回復した、(愛媛から大分への移動??)
しかし田上と後で話したところによると佐田さんは銀行から出向してきたのではなく銀行内の派閥争いに敗れて退職し、仕事を探していたところを田上の父がスカウトしたものらしい。それで個人で株も買っていた。しかし銀行ではその後、佐田さんたちの派閥から頭取がでたので父の時代は銀行との蜜月時代があったらしい。
「でも今の頭取はまた別の派閥なんですよ」
「大きな会社は大変だね」
「全くです。私なんかにゃ務まりません」
武矢の弟・弾児の長男、顕士郎君(玲羅のひとつ下)が4月から札幌の私立高校に入ることになり、札幌市内のアパートに引っ越した。
母の光江もこれに付いてきて、顕士郎君はお母さんと一緒に札幌のアパートで暮らす。するとこれに弟の斗季彦君(4月から小6)も付いてきて札幌の小学校に通うことになった。つまり弾児のみが室蘭に置いてけぼりで結果的に単身赴任となる。
光江は札幌に来たので毎週末、旭川の天子のアパートを訪れることにした。
瑞江は光江が来るとなるとさすがにもう女子大生は名乗れないので・・・・・瑞江の妹!の小梢という女子大生ということにした!
「へー。お姉さんとよく似てるね」
「よく言われます」
玲羅が腹をかかえて笑っていた!
3月20日、休日高速1000円の制度が一部の路線で始まる。
3月28日 - 広島市民球場の後継となるMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島竣工に伴う記念式典挙行。
3月20日(金・祝)、ラッキープロッサムの久しぶりの全国ツアーが始まる。12-1月はアルバム制作中だったので昨年8月以来のツアーになった。千里はお呼びがかかったので、ロビン・グレース・ジェーンで分担して参加してきた。
「千里ちゃん大学受験だったっけ?」
「もう終わりました」
「どこ行くの?」
「京都教育大学です」
「知らない大学だ」
「昔の師範学校か何か?」
「京都府師範学校ですね。明治9年創立らしいです」
「へー。伝統校だ」
「じゃ学校の先生になるの?」
「なれたらですね。コネとか無いとなかなか就職口無いみたいだし」
「ああ。学校の先生とか定年で辞める人の補充だけだろうしね」
「何の先生になるの?」
「英語です」
「俺苦手〜」
「子供の頃、近所にアメリカ人の子供が住んでたからその子との会話で英語覚えたんですよねー。だから私の英語は文法が無茶苦茶だとよく注意されます」
「逆に日本の英語教育って文法的に正しくても通じない英語教えてると批判されるよね」
「フランス人の子、ペルー人の子もいたから、フランス語やスペイン語も行けますよ」
「生で覚えた言葉は使えそうだね」
「ペルー式のスペイン語だから、スペインに行ったら多分ペルー人と思われます」
「ペルーは日系人多いしね」
それでリハーサルをする。。千里は白狐で第1フルートを担当した。千里が若いので初めての人はやや不安な顔をしていたが実際の音色を聴くと頷いていた。
「村山さんのフルート凄くよく音が通りますね」
「うん。PA(*24)無しでも行けるんじゃないかという感じだ」
などと言われていたのだが、幣原さんがハッとしたように言った。
「ちょっとそのフルート見せて」
というので彼女に手渡す。
「これ銀じゃなくてプラチナじゃん」
「えー!?」
「道理で音が通る訳だ」
「でもよくプラチナのフルートで音が出るね」
「この子、金のフルートも持ってるんだよ。それでツアーに参加したこともある」
「これは銀のフルートと見せて実は・・・というジョークですね」
「ジョークのために1000万掛けるのは凄い根性だ」
「それ1000万するの?」
「そのくらいする筈」
「1300万でしたよ」
「すげー」
「とても買えない」
「金のフルートも持ってるのに」
「あちらは1200万です」
「おそろしい」
「持ち歩くのにガードマンが必要だったりして」
「大丈夫ですよ。私剣道四段ですから」
「ああ。絶対喧嘩できない相手だ」
(*24) PA=public address. ポピュラー音楽のライブで使用されるスピーカーシステムのこと。また各楽器や歌い手から拾った音をミクシングしてスピーカーに流す操作をする技術者もPA という。PAが座る席はライブ会場で最も音響の良い場所にある。中央よりやや前である。
ツアーの際、PAと照明は、各地のイベンターが用意するケース(70年代頃まではこれが多かった)と、アーティスト側が専属のPA,照明を連れて全国回るケース(近年はこれが増えた)がある。近年はPAや照明は演出の一部と考える制作者が増えた。
「でも剣道なら竹刀とか必要なのでは」
「大丈夫です。これがあります」
と言って千里は右手首に着けている銀色のブレスレットを外すと左手で一振りする。するとそれは1mほどの警棒に変化した。
「おお、すげー」
「ウルトラブレスレット(*25)だ」
「そんなには変形しませんけどね。アメリカではボールペンとかキーホルダーでいざという時は警棒になるものが売られてますよ。これもサクラメントのスーパーで買いました」
「拳銃より実用的かもね」
「普通人間に向かって銃は撃てないもんなぁ」
(*25) “帰ってきたウルトラマン”がウルトラセブンからもらった強力な武器。普段はブレスレットの形をしているが、色々な武器に変形する。
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女子高校生・3年の冬(14)