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■女子高校生・3年の冬(9)

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A大神はロビン、グレース、ヴィクトリア、ジェーンを招集した。
 
(司令室は夜梨子が姫路を、ロゼが深川を見ている)
 
A大神はおっしゃった。
「君たちに新しい千里を紹介しよう」
 
「何か転校生でも紹介するようなノリだ」
 
「他の千里と排他制御が働かないアテンダントとしてヴィクトリアの需要が増えてVの負荷が増えてるからな」
 
ロビンは思った。先日の東北での封印作業にはコリンでは無くヴィクトリアに手伝ってもらう手もあった。しかしヴィクトリアの負荷が最近増えすぎていて申し訳なかったこと、万一ヴィクトリアが死んだらあまりにも影響が大きすぎることから、コリンに「私と一緒に死んで」と頼んだのである。千里の身体を抱えて走れる子で、万一の時は一緒に死んでと言えるのはコリンしかいなかった。
 
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「まそれでこの子はヴィクトリアのコピーのようなものだ。Vと同様、他の千里との間に排他制御が働かない。誰も消さないし、誰からも消されない」
とA大神はおっしゃった。
 
「へー」
「色合いはヴァイオレットに似ていて少し波長が違うということでインディゴだな」
 
インディゴは虹の七色では、ブルーとヴァイオレットの間である。日本語では藍色と訳されることが多い。もっとも英語では虹は6色とされ、red, orange, yellow, green, blue, violet になっている。
 

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「名前はiの付く名前でアイリーン(Irene)ということで」
「フランス語ならイレーヌですね」
と本人は言っている。既に藍色の腕時計ベルトをしている。Bs(ブルーム)の濃青のベルトと似ているが濃青とは青と黒の中間で明度が落ちる。それに対して藍は青と菫色の中間で純色のひとつである。
 

 
大神はおっしゃる。
「山崎司令室は赤と黄色2番をチェックする関西司令室と、青と黄色1番をチェックする関東司令室京阪分室を兼ねることになる。赤のほうの管理はジェーンにやってもらい、青のほうの管理をアイリーンに頼みたい」
 
元々青の管理のためにヴィクトリアが山崎に来ることになるのではという話はあった。それをヴィクトリアのコピー?であるアイリーンがするということのようだ。
 
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結果的には関東をグレースとヴィクトリアで、関西をその2人のコピー?であるジェーンとアイリーンで見るということになる。取り敢えずまた千里がひとり増えた!
 

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千里(ロビン)は清川に「九重や万奈たちにも秘密で」と言って頼み(代金はレミーマルタンのブランデー)、京都北邸に小さな造作をした。
 
裏側に半間軒を延ばし、1階と2階に半間×2間の小さな部屋(2畳)を1個ずつ作った。ここに入るには壁に偽装した隠し引き戸を通る必要があるが生体認証が掛かっており千里だけがここを通過できる。もっとも千里はそもそもテレポートで直接この部屋に入れる。1階と2階の間は梯子(はしご)で移動する仕様である。半間幅なので階段を付ける余裕が無いのである。
 
ここを京都北邸・裏部屋と称する。
 

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山崎司令室だが、アイリーンが来るのは3月末くらいになりそうということだったので、ここには取り敢えず、y(スモールワイ)と星子に居てもらうことにした。また雑用係として篠山グループのキツネの女の子で小栗という子に入ってもらった。
 
アイリーンはしばらくは深川司令室に置き、グレースやヴィクトリアがしていることを見て、司令室の仕事を覚えてもらうということらしい。

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姫路の家のトイレで、公世が主として使っているトイレにロリエのナプキンが置かれていることに千里は気付いた。千里はソフィ、清香はエリスを使っている。
 
「ロリエ、もしかしてきみちゃんの?」
と千里は公世に尋ねた。
「うん」
 
「生理再開したんだ?」
「オーロラに訊いてみたけど、もう限界だったと言われた。これまでホルモンの作用を停めていたんだけど、もうダムがついに堰き止めておける限度を超えてあふれてしまったようなものだって。取り敢えず1枚はオーロラに借りたけど、ちーちゃん・さやちゃんのと重ならないブランドのを何か買ってきてと彼女に頼んで買ってきてもらった」
「自分で買いに行けばいいのに」
「だって恥ずかしいじゃん」
「女子中学生みたいな」
 
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公世はここ1年くらいかなり女らしさが増していた。胸もかなり大きくなっている。女性ホルモンがかなり強くなっている気はしていた。生理の再開は当然だ。
 

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清香はシルビアに尋ねた。
「9mm Parabellum Bullet(きゅうミリ・パラベラム・バレット)ってバンドあるじゃん。あれどういう意味だっけ?」
「これだよ〜」
と言ってシルビアは清香に弾丸を1個トスする。
「わっ」
 
(用意が良いのは全ての千里の特性)
 
「まあ銃に装填しない限りは危険は無いから」
「まあそうだろうね」
「これアメリカでは50個入りが1200円くらいで売られてる」
「お菓子みたいな感覚だ」
「アメリカじゃ大袋入りの弾丸がワゴンで売られてるから」
「凄い国だ」
「これもピッツバーグのウォルマートでワゴンの商品を買ってきた。30個入り7ドルだった」
「へー」
「ルパン三世の愛用拳銃として名高いワルサーP38とかがこの弾丸を使う」
「ほほお」
「パラベラムというのはラテン語の諺“Si Vis Pacem, Para Bellum”平和を望むならば戦いに備えよ、というのから採られた名前だね」
「ああ、いわれがあるんだ。でもなんでバンドの名前にしたんだろう」
「それはよく分からないみたいね。バンド名の由来はメンバーにも分からないというものが多い」
「ああ。わりと適当だよな」
「ローリングストーンズなんて、バンド名を電話で訊かれた時にたまたま近くに落ちてた他の歌手(マディ・ウォーターズである)のレコードのタイトルを答えただけ」
「やはり適当なんだな」
「いきものがかりとか、かなりまともな部類」
 
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(メンバーが小学生のとき“生き物係”だったから)
 

「そういえばRolling stone gathers no moss ってイギリスとアメリカでは全然意味が違うとか言ってたね」
「うん。イギリスでは悪い意味で、ころころ職業を変える人は何も身につかないということ。でもアメリカではいい意味で、環境を度々変える人は悪習が付かないということ。あるいはいつもピカピカだということ。だからイギリスではころころ仕事を変えるなという意味だけど、アメリカではどんどん転職したほうがいいということ」
「なるほどー」
「日本でも板前さんとかは色々な店を経験しろというし、看護婦とかも様々な病院を回ることで経験が豊かになるというね」
「やはり変わったほうがいいのかな」
「考え方次第という気がするね。あと仕事の種類にもよる。この道30年の美容師さんは使えるけどひとつの会社のひとつの部門で30年仕事してた人は他のことが何もできない」
 
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と言いながらシルビアは日本の男性には多いよなと思った。武矢なども中学を出たあと、漁船の機関部の仕事だけをしてきたから、それ以外のことが何もできず、今苦労している。清香の父もずっと漁船の仕事一筋だったが、よく蔵元の仕事に転じられたものである。凄まじい努力が必要だったろう。(清香の父の場合、船長として船員を統率していたし、また対外交渉の経験もかなりあったのが効いている。武矢は管理の仕事も営業の仕事もほとんど経験していない)
 
「技術職と勤め人で違いが出そうだね」
「勤め人でも銀行とかは3年程度で必ず異動される。不正防止のために」
「ああ。年数にも限度があるよね(*18)」
「技術職でもこの道50年の医者は微妙」
「かかりたくないな」
「この道50年の芸者さんも微妙」
「博物館送りで」
 
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(*18) この物語時点からは未来だが2010年から始まった「着付け技能士」の試験ではベテランの美容師が大量に落とされた。長年やっていて着付けの仕方が自己流になっていたため。
 

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3月2日(月)、全国の多くの高校で卒業式がおこなわれた。高校の卒業式はたいてい3月1日だが、今年は日曜なので月曜日の3月2日になった。
 
(前平日の2月27日ではなく後平日の3月2日にするのは3月まで学校がありましたよという言い訳のため)
 
旭川では東の千里が旭川N高校を卒業した。千里はU18アジア選手権で優勝したことで特別表彰を受け記念の楯をもらった。
 

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姫路では西の千里たちがH大姫路高校を卒業した。
 
吹奏楽部が『ボギー大佐』(*19)を演奏する中、卒業生が入場して着席する。
 
(*19) 現代ではゴルフで規定打数より1打多いのをボギーというが、昔はボギーが規定打数であった。この曲はその時代に作られた曲であり、当時は多くのプレイヤーがなかなか勝てない相手として仮想の“ボギー大佐”と戦っていた。だからこの曲には悪い意味は全く無い。「なかなか勝てない強い相手」という意味である。この曲は世界中で式典の入場曲としてよく使用されている。
 

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