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教頭先生が卒業式の開会を宣言し、音楽の先生のピアノ伴奏で君が代を全校生徒で斉唱する。それから卒業証書授与になる。卒業生の名前が各担任により1人ずつ呼ばれて生徒は壇に上がり、校長から卒業証書を受け取った。クラスは授業を受けているクラスではなく、本来の在籍クラスである。だから千里は9組のところに並び、出席番号が最後なので全卒業生の最後に名前を呼ばれた。
千里はみんなの最後に担任から「村山千里」と呼ばれて壇上に上がり、校長先生から証書を受け取った。校長先生は証書を渡してから「インターハイとかで頑張ったね」と声を掛けてくれた。
全員が卒業証書を受け取った後、壇上にいる校長がそのまま卒業生への式辞を述べる。そのあと理事長さんがあがって告辞を述べる。更にPTA会長、同窓会長の祝辞のあと、来賓の祝辞が続いた。
在校生代表で2年生の現生徒会長から送辞が読まれ、3年生の前生徒会長が卒業生を代表して答辞を読んだ。
ここで「卒業生表彰」がありますと言われる。
「今回の卒業生の中で、下記の人を表彰します。野球部で平成18年夏と平成20年春の2度の甲子園に出場した、青沼明君」
実はこの2つともに出場したのは彼だけなのである。
「テニス部で2度インターハイに出場した杉本賢治君」
彼が呼ばれるのならもしかして・・・と思ったらやはり呼ばれた。
「剣道部でインターハイに3度も出場して上位の成績を収めた木里清香さん、工藤公世さん、村山千里さん。特に木里さんと村山さんは優勝して日本一になりました」
やはり公世は女子扱いっぽい。“くん”ではなく“さん”と呼ばれたし「きみよ」と名前を呼ばれたし。(卒業証書授与の時は正しく?“こうせい”と読まれた:あの時は名前を呼んだのは担任。今回は事務長!)
それで名前を呼ばれた5人が壇上に昇り、賞状と記念のメダルをもらった。
公世が男子制服を着ているので事務長が首をひねっていた!
その後吹奏楽部がレミオロメンの『3月9日』、スピッツの『空も飛べるはず』、さとう宗幸の『夢ある姫路』を演奏した。
音楽の先生のピアノ伴奏で、出席者全員で「蛍の光」を歌った後、更に校歌を斉唱して、最後に教頭先生が卒業式終了の宣言をした。吹奏楽部の演奏で『花(瀧廉太郎)』が流れる中、卒業生が退場して、式は終わった。
卒業生には紅白のお饅頭も配られた。
この日の千里家では卒業祝いとおひな祭りと千里の誕生日を兼ねたお祝いをした。白酒代わりのカルピスで乾杯し、ケーキを食べて、ちらし寿司(すし太郎)も食べた。菱餅もぜんざいにして食べた。卒業式でもらったお饅頭も食べた。
きーちゃんは3日の午後にひな人形を片付けた。
東の千里たちが高校時代に組んでいたバンドDRK は卒業と共に解散し。メンバーの行き先により3つのバンドが再構成された。
(1)北海道 Northern Fox
(2)関東 Golden Six
(3)関西 Violet Max
北海道のNorthern Fox は、飲み会に近い会合は何度か開いたが、音楽活動は何もしないまま自然消滅した。蓮菜や東の千里はGolden Six に参加し、年に1枚くらいのペースでインディーズの横浜レコードからCDを出し、2014年メジャーデビューに至る。Violet Maxは2009-2012まで活動し、2枚のCDを自主制作したが、2013年春、ほとんどのメンバーが大学を卒業して就職したことから解散した。
Golden Six は、ほとんどの曲の歌詞を蓮菜が書き、作曲は7割くらいが千里、残りが水野麻里愛である。メジャーデビュー以降は南国花野子(カノン)矢嶋梨乃(リノン)も結構曲を書いているが、インディーズ時代はほとんど書いていない。
3月になったので、イーグレット美術館は新美術館への引越作業をする。ただ、ちょうど引越シーズンとぶつかるので運送屋さんが空いてなかった。特に品物の性質上、あまり適当なところには頼みたくない。
そこで千里は白井さんたちと話し合い、このようにすることにした。
(1)現在の美術館のスタッフ、イーグレットのメンバー、篠山グループの女子たちで展示品を梱包し箱詰めする。(丁寧な作業を期待できる人たち)
(2)美術館スタッフやイーグレットの男性メンバーでトラックに運び込む
(3)絶対に信頼できるドライバーとして、青池ときーちゃんにトラックを運転してもらい、新美術館に運ぶ。
(4)美術館スタッフやイーグレットの男性メンバーでトラックから建物内に運び出す。
(5)美術館スタッフの手で展示ケースに収めていく。
実際には(1)の梱包作業で一週間かかり、(2)-(4)は1日で完了した。残り半月ほどで開封と展示作業を行った。一応計画はしていたものの、実際に並べて見てから違和感のあるところなどを修正していたら、けっこう時間を食った。
3月3日、高校の卒業式の翌日、千里と公世は姫路市内の自動車学校に合宿タイプで普通免許のコースに入校した。合宿所の部屋は千里と公世が一緒になった。どちらも7階の703号室である。この宿舎は低層階を男子、高層階を女子で使っているようである。
「なんで同室になったんだろう。別室にしてもらうように言うよ」
「問題無いよ。お互い着替えを見ても平気だし」
「それはそうだけど」
一緒に申し込んだ女子同士なら同室にされて当然よね
実車教習で千里は言われる。
「これまでも運転してたね」
「そんなことないですー。初めてです」
「初めての人がこんなにうまくは運転できません」
でもほんとに上手いよと褒められた。
「一発試験受けても良かったのでは」
「あれは絶対通してくれませんし」
「よく分かってるじゃん」
第1段階は15時間なので8日間必要である(第1段階は1日に2時間まで)。これを3-10日で受けて11日(水)に仮免試験を受けて合格。その日の午後から第2段階に入る。これが19時間だから7日必要である(第2段階は1日3時間まで)。それで11-17日に受けて18日(水)に卒業試験を受けて合格した。それで翌日19日には免許センターに行き、学科試験を受けて普通免許を取得した。千里は既に原付免許を持っていたので新しい免許の色はブルーになる。有効期限は2012.04.03までである。
公世は仮免試験で1度落とされたので千里より1日遅れになり20日(金)に免許を取得した。彼の免許はグリーンである。彼は誕生日が9月7日なので有効期限は2011.10.7までである。
しかし公世の免許証は性別女で発行されたかもしれない気がする。(きっとそうだ)写真も女性にしか見えないし。
双葉は夏休みに取りに行くと言っている。清香は「あんたは車の運転に向いてない」
と母親に言われたらしく(ほんとにそうだと思う)免許は取らない方針である。
千里と公世が自動車学校に行っている間、千里家には双葉が泊まりこみ、毎日たくさん清香と剣道の稽古をしていたらしい。
なお東の千里は3月14-27日にやはり合宿で自動車学校に行き、30日(月)に免許を取得した。こちらの免許証はグリーンである。
グレースは大神様にお願いして、赤の免許をコピーして、グレース・ジェーン・ヴィクトリア・アイリーン・ロゼ・夜梨子・夜詩子・ゆりに、青の免許をコピーして、ゆきに渡した。基本的に青の免許は性別が男になっているので他の子は使えない。性別が女になっている赤の免許を流用する。しかしゆきは青と一緒に行動しているので青と同じ免許証番号でないとまずい。それでこういうことになった。
3月上旬、前橋から西の千里に連絡があった。
「ねぇ千里、二十八部衆買っていい?」
「ちょっと待って、ヴァージニア。何買ってるのさ」
「お人形ですよ。富山の木彫り人形を見に来てるんですけど、木彫りで二十八部衆が揃ってるのよ」
しかし頼んでたのは人形だぞ。仏像って人形なの???
取り敢えずロビンは教習の代理を夜梨子に頼み、前橋たちのいるところにジャンプしてみた。
(夜梨子・ゆきはロビンやグレースほどではないが、一応運転できる)
「これは美事だね」
とロビンは言った。
「すごいでしょ」
と前橋。
二十八部衆は各々1m程の高さだが、どうも一木造り(1本の木から彫りだしたもの)っぽい。美事である。これは技術的にかなり高度のものである。しかも28体揃っている。前橋が買いたくなったわけがわかった。
(千手観音を祀る所は多いが二十八部衆が揃っている所は少ない。筆者は福岡県糸島の雷山(らいざん)観音で拝見した。圧巻だった。実はそこで二十八部衆というものを知った。観音様を拝観しに行っただけなのにお経まであげてくださった。感謝。そのあと二十八部衆が並んでいるのを見た。連れて行ってくれた人は京都の三十三間堂でも見たことがあると言っていた。筆者は5年くらい後にそちらも見て懐かしい思いだった)
千里が前橋たちといろいろ話しながら像を見ていたら60代の男性が寄ってくる。
「君たちこういうのに興味ある?」
どうも制作者さんご本人のようだ。
「これ寄せ木造りではなく一木造り(いちぼくづくり)ですよね」
「あんた若いのに目が利くね」
「材料は杉ですか」
「うん。20年乾燥させた飛騨杉を使ってる」
「こういう細かい細工は針葉樹じゃないと厳しいですよね。ケヤキとかでは変形しやすい」
「あんたほんとによく知ってるね」
「これだけの数、作るのには10年以上掛かってません?」
「他の仕事の合間合間に彫ってたからね。こればかりしてたわけじゃないけど、確かに期間としては15年くらい経ってると思う」
普段は土産物の、5cmくらいの“火牛”の人形、スプーンやお椀などの食器、照明器具のフレーム、また竜とか恵比寿・大黒、仏像にしてももっと小さい10cm程度の阿弥陀様とかを彫っているらしい。
5cmの“火牛”1000円は年間30体くらい、高岡大仏(阿弥陀如来)の10cm程度のミニチュア3000円は年間10体くらい売れると言っていた。
この1m大の二十八部衆はほぼ趣味の世界で彫ったもので、どうせ売れんだろうと思い30万という値札を付けておいたら本当に今まで一度も売れたことが無いと言っていた。それで売れないまま28体揃ってしまったらしい。一応最初は売れるかもしれない気がする毘沙門(びしゃもん)とか金比羅(こんぴら)とか迦楼羅(かるら)とか阿修羅(あしゅら)とかから彫り始めたらしい。28番目を仕上げたのは先月で、完成してしまったのですることが無くなり、次は何を彫ろうかと悩んでいたらしい。
しかし30万なら28個で840万になる。でも千里はこの像に30万は安すぎる気がした。それより一木造りでここまでよくできたものは貴重だ。それがしかも28揃っている。
「これはあまりにも貴重すぎて買うのが申し訳ない感じだよ」
と千里は言ったが男性は
「あんた気に入ったからお嫁にやってもいいよ。まあ男ばかりだけど」
「最近はお嫁に行く男の子わりといますよ」
と千里。
「女が強くなったからね」
と前橋。
「僕が君のために毎朝お味噌汁を作ってあげるよ、というプロポーズの言葉があるらしいね」
「ついでに子供も産んでくれると助かる」
それはどこから産むのかが難題だ。
「これ千手観音は?」
と千里は何気なく訊いた。二十八部衆は千手観音の眷属である。
「あんたよく知ってるね。千手観音はまだ彫ってないんだよ」
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女子高校生・3年の冬(10)