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敷地の半分にたくさん変圧器のコイルが並んでいる。左手に5階建てのビルがあるのが管理棟だろう。その管理棟の玄関を入ると、ブロンズの彫像が並んでいる。目で数えると12体並んでいた。
「1980年代にメセナとか言って美術品を結構買ったらしいです。この彫刻は西村南風さんの作品ですが、他に安井一三さんの絵画も10点あります」
「西村南風さんといったら、神戸の『阪神淡路大震災復興祈念像』を作った人ですかね」
「そうです、そうです。でもこの像を買った1980年代にはあまり知られていなかったんですよ。だからこの像は一体50万円で買ったらしい」
「今なら20倍するのでは」
「多分そうです。ですから先方の希望は、土地建物とこの彫刻12体、安井一三さんの絵画も10点で合計1.5億円なんですよ」
「土地建物は2000万円か」
「この彫刻の現在の価値を考えるとそんなものですね。美術館のエントランスにピッタリですよとか言われましたけど」
「確かによく美術館の玄関に彫刻が立っていたりしますね」
千里は白井さんに言った。
「この物件、共同で買いません?私が西村さんの彫刻と安井さんの絵画を1億2000万で買い、白井さんがここの土地建物を3000万で買うというのは?」
「すみません。村山さんってどういう方でしたっけ?」
と白井さんが訊いたが、銀行の支店長が答えた。
「村山さんは桜製菓や播磨アルミのオーナーさんですよ」
「播磨アルミさんなら組みたいです。鉄と非鉄の協同ですね(*16)」
と白井さん。
(*16) 非鉄とは、鉄や鉄の合金(鋼(はがね)など)以外の金属のこと。主として銅やアルミおよびその合金を指す。工業的・経済的な分類であり、化学的な意味は無い。大雑把に次のように分類できる。
軽金属:アルミニウム、マグネシウム、チタンなど。
ベースメタル:銅、錫、亜鉛、鉛
レアメタル:ジルコニウム、ルビジウム、ガリウム、ゲルマニウム、セレンなど(日本独自の分類)
レアアース:21スカンジウム、39イットリウムおよび57ランタンから71ルテチウムまでの15元素(ランタノイド)、合計17元素のこと。
貴金属:金・銀・白金・イリジウム・パラジウム・ロジウム・ルテニウム・オスミウムの8種類
欧米ではレアメタルとレアアースはひとつのグループとして分類されることが多い。
アルミはサッシの材料だし、食器・調理器具などに使ったり、ジュラルミンなどの合金が作られる。航空材料として重要。
銅は(アxルミも)電線の材料だし、黄銅(ブラス)・青銅(ブロンズ)などの合金が作られる。
千里は支店長さんに言った。
「例えば私がこの彫刻を買って白井さんの美術館に単に置かせてもらったりした場合、税金とか何とかも掛かりませんよね」
「寄贈するとかでなく置くだけなら贈与税はかかりません。美術館側が置き場所代を取るかどうかですね」
「そんなもの取りませんよ」
それで千里が彫刻代で1億2000万出し、白井さんが自宅や所有株式(姫路製鉄や播磨鉄道など)を担保に播州銀行から3000万借りてこの物件を買い取る話ができたのである。千里が8割出資するが、長年姫路製鉄の社長を務めた白井さんだからこそ関西電力は売ってくれるのである。
「安井一三さんの絵もあるけど見なくていい?」
「いいです。安井さんの絵ってどれも似たようなのばかりだし」
「あはは。うちの女房もそんなこと言ってました」
「好きな人は凄く好きみたいですけどね。特に女性にはファンが多い」
「でもそれ見に来る人は絶対出ますよ」
しかしここで銀行の支店長は言った。
「村山さん、1億2000万出すのなら、いっそ1億5000万全額出しません?共同で買うというのは後で揉めやすいですよ」
「私はそれでもいいですよ。だったら私がこの土地建物を買って、そこで白井さんが美術館を運営するということで。彫刻や絵画は建物のおまけです」
「それでもいいですよ」
と白井さんが言ったので、この物件は千里が単独で買うことになった。
それに白井さんは3000万円借りても、現在無収入に近いようなので返済のあてがない。銀行さんとしては、それを懸念したのもあったのだろう。それどころか実は現在の美術館を建てた時の建築費も播州銀行から借りたままである(白井さんの生命保険が事実上の担保になっているので最終的には取りっぱぐれは無い)。
しかし支店長は最初から千里に全額出させるつもりで、千里を話の場に呼んだのだろう。
また現在の美術館の建物を崩すのは千里が自分の工務店に崩させますよと言った。人手で崩すとだいたい建築するのに掛かるのと同じくらいの日数と費用が掛かる。大力工務店にやらせれば1日で崩せるだろうし費用はお酒1本ずつ程度だ。
なおここの変電設備の解体は危険でもあり、また電力会社の機密にも関わるので先方で解体してくれるらしい。解体後は来館者駐車場にする。
日程的には新しい展示ケースなどを買って新美術館の建物に展示ができるようになるのが多分2月末。そして3月いっぱいかけて展示品の引越作業をすることになった。そのあと千里が旧美術館を崩して5月には土地を姫路製鉄に引き渡すというスケジュールを立てた。
姫路では学校は1月9日に始まったが、3年生は自由登校であった。先生はこの先は出欠を取らないと宣言した。受験のため関東とかに遠征している生徒も居た。
1月11日(日)、留萌では成人の日の集いが行われた(祝日としての成人の日は翌日1/12)。
玲羅はS高校吹奏楽部としてこの式典に行き、お祝いの演奏をしてきた。西城秀樹の『ヤングマン』、いきものがかりの『ブルーバード』、スクエアの『オーメンズオブラブ』
と吹いてきた。スクエアの曲ではアルトサックスでステージの前面に立って吹いたので快絶だった。先日千里姉からもらった新しいサックスを使った。ピンクのサックスはとてもめだっていて司会者の人からも
「可愛い色のサックスですね」
と言われた。
この日(1/11)、P神社では成人式を迎えた人のご祈祷をたくさんした。和也が祝詞をあげ、太鼓は善美が叩いて笛は玲羅が吹いた。玲羅は成人式の式典の演奏で外出したが、その間は成人さんも来ない!
1月12日は各地の神社で鏡開きがおこなわれた、
旭川のQ神社では成人の日とぶつかったので、振袖を着たお嬢さんたちはさすがにお餅など食べられない。そこでこういう人には、ぜんざいのセットを袋に入れて渡した、
一般の参拝客にはどんどんぜんざいをふるまった。
留萌では成人式は前日の11日だったのでこの日は鏡開きの客だけである。じゃんじゃんぜんざいを作って参拝客に配った。ご祈祷は常弥が祝詞をあげ、太鼓は善美が叩いて笛は夕方までは玲羅が吹いた。夕方以降は善美が笛を吹き、太鼓は菊子さんが叩いた。
姫路の立花K神社では北町社でも上町社でも12日は鏡開きでぜんざいをたくさんふるまった。旭川と同様、晴れ着の人には袋に入れたぜんざいセットを配った。
この日ために臨時の巫女さんのバイトを5人入れている。みんなお正月の3ヶ日にも来てくれていた子たちである。
和也とまゆりは星月を連れて12日午前中に桜ジェットで姫路に戻った。
それで12日の午後には姫路でご祈祷に応じた。この日はお昼頃和也たちが戻って来たので、花絵は午後からは上町社のほうでご祈祷に応じた。
なお鏡開きのために集めたバイトさんたちには10-11日には来月の節分用の、豆の袋を作ってもらった。ただし袋に金券や交換券を入れるのは千里たち常駐巫女でやった。
1月11日、小糸が可愛い女の子を3匹産んだ。留萌から小鳩と小町が来てサポートしてくれたがとても安産で、母子共に健やかであった。小糸の産休は一応2月いっぱいまでである。
2009年1月17-18日(土日)、センター試験が行われ、東の千里も西の千里たちもこれを受験した。解答は各々自己採点して、その結果で最終的な志望校を決める。
西の千里は京都教育大学の英語コースに願書を出した。京都府立大にも心は動いたのだが、府立大と教育大は試験日が同じなのでどちらかしか受けられない。
公世は同じく教育大の国語に出した。双葉は教育大の幼児教育に、清香は体育に出した。
東の千里は千葉大に願書を出した。
1月18日 - 世界最初の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」など人工衛星計8基搭載したH-IIAロケット15号機、種子島宇宙センターから打ち上げ成功。
1月21日 - 「ジュエリーマキ」などを経営する三貴、東京地方裁判所に民事再生法適用を申請。負債総額、117億円。
三貴は1980年代には「ブティックジョイ」「ジュエリーマキ」で有名になったが、その後何度も倒産したり買収されたりしており、その経緯は極めて複雑である。