[*
前頁][0
目次][#
次頁]
しかしコリン・きーちゃんと紫微が居たから使えた術だった。きっと初代子牙でも(生還するつもりなら)助手無しでは使えなかったろう。
「でも封印はできたよ。ありがとう」
「いえ。でも虚空さんにもできたと思うけどなあ。私より上手く」
善美は先代子牙の葬儀の時虚空に会ったらしい。善美の印象から読み取った虚空のイメージは無差別に殺戮しまくる巨大戦闘ロボットである。ヤクトミラージュみたいな。
「あの子はめんどくさがり屋だから」
「会いたくない人ですね」
美鳳が苦笑している。
「ぼくは彼が恐いよ」
と紫微は言う。
「何となく見当が付きます。サイコパスでしょ?」
「あれだけの力があったら仕方無いね。誰も他人は信用できないだろうし」
と紫微は言っていた。
「あとは寝ます」
と千里は言った。
「ホテルに連れて行くよ」
それで紫微は千里を一流ホテルに連れてってくれて千里はそこで3日間眠り続けた。実際にはホテルのチェックイン手続きは美鳳がした。また美鳳は紫微に小切手を渡していた。
それで結局千里は今回の報酬に3億円もらった。しかしそれをすぐ使ってしまうことになる。
しかし今回の封印の件、出羽が動いていた場合、瞬嶽はさすがに高齢すぎるので羽衣に頼んだ可能性が高いだろう。それで羽衣は殉職したかもしれないが、羽衣のエネルギー源として使われる青の千里も力尽きて道連れに死亡した可能性がある!
xw<7月の鰻事件は思わぬ余波を及ぼした。
千里は証券会社さん経由で和歌山県南部が地盤のスーパー、ホリデイという所から連絡を受けた。
☆☆が和歌山県産と偽って販売していた中国産鰻を買っていたスーパーは和歌山県内に多かった。ここもそのひとつである。青池はここの株が暴落したので大量に買ったのだが、事件が落ち着いてもここの株価は戻らなかったので、売るタイミングがつかめず、結果的に多数保有したままになってしまった。暴落した株を買うというトレード方法は時々こういう事故を招く。しかしそれで結果的に千里はここの6%の株主になったので大量保有報告書を出したのである(書いたのは青池だが)。
「あぁあ。塩漬けにするしかないな。帰蝶に叱られる〜」
と青池は思った。
(塩漬けとは売れる見込みの無い株を所有したまま長期間実質放置しておくこと)
ホリデイの社長・白浜さんが千里に接触してきて言った。
「実はうちの大株主の紀南鉄道さんが今大変なんですよ」
「先日の台風で被害が出たんでしたっけ」
「そうなんですよ。線路が流されて復旧工事のため大量の資金が必要でして。それで紀南鉄道さんが持ってるうちの株をどこかに売ってもいいかと言われてまして」
「ああ」
「地元の地方銀行には買うだけの余力が無いみたいで。大手スーパーのAからお話はあったものの、絶対全部飲み込まれてしまいそうで」
「そうなりかねませんね」
「村山さんってプリンスのオーナーさんですよね」
「オーナーというほどは持ってません。ほんの28%の株主ですよ。私はむしろ姫路のプリンセスというスーパーの事実上のオーナーなんです」
「同じ近畿の方なら安心です。紀南鉄道さんが持つうちの株式24%ほど、約3億円ほどを引き受けてもらえませんかね」
千里は話し合いの場にプリンス社長の田上とプリンセス社長の片倉を呼んだ。
どちらもすぐ来たが、田上と片倉は目を合わせない!このふたり面白ーい!と千里は思った。
しかし田上と片倉がそういう状態なのでこの打合せの司会は南紀銀行の人が議長役をした。出席者は他にホリデイの白浜社長、紀南鉄道の梅沢社長である。
しかしそれで千里が紀南鉄道からホリデイ株24%を3億円で買い取り結果的に30%の株を所有することになるとともに、ホリデイはプリンス・プリンセスグループと業務提携する話がまとまった。仕入れでプリンス・プリンセスが持つ商品仕入れルート(特にプリンセスの生鮮食品のルートが大きい)を利用するとともに、ホリデイ全店にプリンス仕様のレジを導入し、プリンスの電子マネーやPASMOなどが使えるようにする(システム面ではプリンスの力が大きい)。またレジ袋もプリンス・プリンセス・グループ共通のデザインのものを使用するなどの方針が決まった。今後細かい点は実務者レベルで詰めることにする。
しかしそれでプリンスは今まで店舗の無かった和歌山県南部にも拠点を持つことになった。
12月になったので白石たち鰊(にしん)プロジェクトでは昨年春から育てていた鰊を水揚げして三泊の魚市場に持っていった。これから3月くらいまで水揚げを続ける。昨年春からはスケソウダラも育てていたので今年は一週おきにニシンとスケソウダラを交互に水揚げすることにした。むろん昨年同様、他の船にも魚を獲らせる。土曜日の鰊伝説健在である。
12月5日、旭川の“東の千里”は母から連絡を受けた。
「お父ちゃんがさ、東京までスクーリングに行ったんだけど、帰りの切符を忘れて行ってるのよ。お前悪いけど東京まで行って渡してきてくれない?私は今日玲羅の学校で面談があるのよ」
「ちょっと待って。東京まで往復すると8万掛かるよ。それよりその忘れていった切符は諦めて向こうで新たな切符を買ったほうがいい」
「でもお父ちゃんお金も一緒に忘れて行ってて」
「お父ちゃんの口座に振り込んで向こうで引き出してもらえばいい」
「あの人キャッシュカード持ってないのよ。ATMの使い方も知らないし。船での給料は全部現金渡しだったから」
なんて現代文明に遅れている人なんだ。
職業訓練校では植木の剪定とか木材加工とか習っているらしいけど、そんなのより自動改札の通り方とかタッチパネルの使い方を習った方がいいぞ。きっとお父ちゃんは駅の券売機も使えないし、ファミレスで注文もできない。
なお武矢の東京までの交通手段は往復ともJRである。以前一度飛行機に乗せたら、金属探知機に4回もひっかかり、肥後守(*16)は没収され、また上昇中に雲の中を通って機体が激しく揺れたのにかなりびびっていた。船のしけは平気な人が。
(*16) 肥後守(ひごのかみ)とは小型の折り畳みナイフ。刃を収める部分まで全部鉄でできている。昭和時代には多くの人が持っていた。“肥後守”は兵庫県三木市の永尾かね駒製作所の登録商標だが、ほぼ一般名詞的に扱われ、どこの製品でも肥後守と呼ばれた。1970年代以降はカッターナイフに押されて姿を消していった。平成も半ばになってこんなの持ってるのはきっと武矢くらい。
それで千里が大金掛けて東京まで往復しチケットを渡してくることになったのである。千里はきーちゃん(2番)に旭川空港に先行させ、旭川→羽田のチケットを買ってもらった。
母は父が忘れていったJRのチケットを持って車で旭川まで来るらしい。玲羅の面談があるから千里にチケットを渡したらトンボ返りということだった。千里は母と旭川駅で会うことにした。父は、千里が到着するのを待つと当初乗るはずだった列車には間に合わないから、みどりの窓口で列車の変更をする必要がある。
千里は学校を早退すると旭川駅で母と会った。みどりの窓口で父のチケットの変更をし、母の車で空港に送ってもらう。それできーちゃんから航空券を受け取り羽田行きの飛行機に飛び乗った。
千里B(ブレンダ)ときーちゃん(2番ルミナ)が父の救援のため頑張っていた時刻、グレースに指示されたきーちゃんの1番(ノエル)は別の工作をしていた。母と玲羅の担任の面談を妨害するのである。
幸いにも?津気子の車は旭川からの帰り道に道路脇の雪溜まりに突っ込んでスタックしてしまった。実はまだスタッドレスに交換していなかったのである。理由は交換を頼むお金が無いからである!
それで津気子は学校の先生に電話するがこの通話をきーちゃん(1番)が横取りした。それで車がトラブって遅れるという連絡を聞いたのはきーちゃんである。一方きーちゃんの3番セリナは津気子を装って指定の時間に学校に行くと「玲羅さんは本当に頑張っています。このまま行くと国立大学に届く可能性もありますよ」などという話を聞いた。
羽田まで飛んだ千里B(ブレンダ)は、東京駅で父にチケットを渡したが、結局父と一緒の列車で北海道に戻ることにした。札幌から朝一陣の連絡でぎりぎり学校に間に合うのである。
一方2時間遅れでS高校に辿り着いた津気子は担任を装ったきーちゃん(1番)に空いている面談室に案内され「玲羅さんの成績がとても悪くこのままでは留年とかの可能性もあるのでもっと勉強させてください」と言われることになるのである。
むろん津気子が帰宅してから愚痴を聞いたのはライラ(玲羅のコピー)である。玲羅本人はきーちゃんから(本物の)先生に言われたことを伝えられ、また頑張ろうという気持ちを新たにするのである。
千里は大力工務店の臨時スタッフ(由布たち)を使って京都南邸の工事をした。
最初に零風に掘ってもらっていた穴で地下水の排水の仕組みを作ってから、山留めの鉄板にプラスチックの板を張り、更に杉の板(奈良県産)を貼り付けてもらった。床には兵庫県産のカエデの無垢材(白)を敷いた。
そしてこの“地下室”に蓋をした上で部屋のユニットやバストイレなどのユニットを乗せて1階の住居を組み上げる。
そしてその上に2階の道場を作った。2階の床は兵庫県産の桜の無垢材(褐色)を使用した。壁は奈良県産の杉板である。道場が狭いので安全のため壁の内側にはクッション材も貼っている。
床をグラインダーで削るのまでは那川や滝野がやったが、そのあとのワックス掛けや壁のクッション材貼りなどはきつねたち(大力工務店二部)にやらせた。襖紙を貼るのなどもキツネたちのお仕事である。2階の外壁は那川たちがしてるが、1階の外壁にサイディングを貼るのはほとんどきつねたちがしている。
ここは、1階が住居で地下と2階が道場になる。この地域は建蔽率60%, 容積率100%で、ここは敷地が120坪、建坪は約56坪だが、地下室は条件を満たせば容積率に参入しなくて良い特例を利用する。
なおフロア間の移動は階段も一応付けているが多分エレベータがメインになる。エレベータは降りる時は重力を使いしかも位置エネルギーをキャパシタに貯めて上昇の時に利用する省エネ設計である。
また庭に離れとして小さなユニット(建坪4坪の2階建て)を置き、これを百合さんの仮眠所とした。小鴨(3月以降は小糸)については千里の部屋に小型のサブベッドを置いて、そこで仮眠してもらう。ふたりともこの家から20mほど離れた場所に建てるアパートが正式の宿舎になるが、そこまで帰るのが面倒な時にこの仮眠場所で寝てもらう。庭の仮眠所は一応2部屋あるので小鴨もこちらで寝ても良い。でもきっと百合の近くより千里のそばのほうが安眠できる。
なおこの家にも太陽光パネルを載せており、ここで使う電気は自給できるが、一応念のため関西電力とも線はつないでおいた。関電(60Hz)の電力はバッテリー充電にだけ使うので、この家の中の電気は姫路の家と同じく50Hzである。