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1月23日(金・友引・たつ).
その日、雨宮三森が朝から自分のアパートでひとりで酒を飲んでいたら、三宅行来が尋ねて来た。
「酒持ってきた」
と言って見せるのは“山崎12年”である。
「あんたいいもの持って来たね!飲もう飲もう」
と言って、雨宮は完璧に迎え酒である。
三宅がスモークチーズとビーフジャーキーも持って来たのでそれを食べながらふたりともストレートで飲むが
「このウィスキー美味い!」
と雨宮は喜んでいる。
途中でウィンナーもボイルしたし、冷凍ピザも焼いた。出前でお寿司・ラーメン・天丼とかまで取った。
出前のデリヘル嬢が来たのは「ごめん、電話の掛けまちがい!」と言って料金だけ渡して帰ってもらった。
「あんたの普段の生活がよく分かる」
「私は見ず知らずの素人とはセックスしないわよ」
「そのあたりの感覚がやはり女性的だね。男はわりと誰でもいいみたいだし」
「私男だけど」
「はいはい」
「しかし色々あったなあ」
「千代さんは4月になったらワンティス活動再開しなよと言ってたけど、どう思う?」
「無理だと思う」
「だよね〜」
「アルバム制作の最後の方はほんとにお互いの音楽に対する考え方の違いが噴出して収拾が付かなかった。あれの妥協点を見つけ出して何とかマスターを作った加藤ちゃんはほんと偉いよ。人間ができてる」
と雨宮は言う。
「バンドの方向性に関して妥協点を見いだすのが困難な気はしてる」
と三宅も言う。
「高岡は死ななくても脱退するつもりだったと思う。志水君も彼と行動を共にするつもりだったんじゃないかな。高岡がベース、志水がギターを弾いて夕香が歌えば一応バンドの形になる。たぶんそういう形で新たな活動を始めるつもりだったんじゃないかと想像している。千代さんが代替のギタリストを用意していたのは、高岡・夕香・志水が脱退の意思を千代さんに伝えていたからだよ」
「ああ、そういうことか」
「4月に打合せすることになってるけど、水上は来ないかも知れん」
と雨宮は言うが
「俺がとにかく顔だけは出せと言って連れてくるよ」
と三宅は言った。
水上と三宅は大学時代同じバンドにいた。長い付き合いである(でも水上は三宅の性別を知らない)。
2人はあれこれ3時間くらい酒を飲みながら話していた。やがて三宅が持参した山崎12年を飲んでしまったので、雨宮は台所の棚からフォー・ローゼスを持ってきて開けた。
「個人的にはスコッチ系の味が好きだけどバーボンも嫌いではない」
と三宅は言う。
「いつだったかはカティサーク持って来てたな」
「うん。今日もカティサーク持って来ようかと思ったんだけど、ファンからの贈り物で山崎12が届いたから」
「熱心だなあ」
「物凄い数のファンがいるから、中には高岡の愛人だと妄想する女みたいなのも出た。でもあの手の話、出たのは高岡だけだね。雷ちゃんや俺にはその手の話が無かった」
「上島はその手の話が出る度にきちんと話付けてたんだと思う。本当に寝た女には充分な補償をして、そうでない女とは、その女の親族呼んで話し合って無縁であったことを確認してもらう。高岡はその手の対策がなってなかった」
「なるほどー」
「要するに上島はたくさん女とトラブル起こしてるから揉め事に慣れてて対処方法も確立していた。でも高岡は真面目すぎて、清濁併せ呑む対処ができなかった」
「真面目すぎるのも問題だなあ」
「海原も真面目すぎるけど、彼の場合は見た目恐そうだからその手の話が持ち込まれない」
「なるほどー!」
「水上・下川はあまり女に惚れられるタイプじゃない」
「ちょっとちょっと」
「イクの場合は、ホモだという噂が立っていたからだと思う」
「そんな噂立ってた?」
「結構2ch(にちゃん)の書き込みで見たよ。コウさんとヤマちゃんはホモだよね〜とか」
「知らなかった!」
「2chは勝手な噂も立てるけど、けっこう真実を突いてる所もある」
「山根君はバイみたいだけど、俺はホモじゃなくてストレートのつもりだけどな」
「イクの言うストレートの意味がよく分からない」
「俺たちのセックスはストレートだよな?」
「それもよく分からない」
「取り敢えず確認してみる?」
「ああ。いいよ」
と言って、ふたりは布団を敷くと“正常に結合できる”ことを確認しあった。
「PをVに入れたんだからこれストレートだよね」
「そうかもしれない」
2人は大学4年の頃から何度もセックスしているが、お互いに性的な快楽のためにセックスするだけであって恋愛ではないというコンセンサスを持っている。
「でも俺、2ヶ月ぶりくらいにセックスした」
と三宅は言う。
「イクが2ヶ月前に誰とセックスしたか気になる」
「ふーん。妬いてるの?」
「馬鹿ね。妬くわけないでしょ」
「ミモリンさぁ」
「うん?」
「もし俺に少しでも恋愛感情があったらさ」
「無いわよ。私とイクの関係はただのセックス友だちだったはず」
「うん。俺もそのつもりだったけどさ。それでも少しでも気持ちがあったら、俺と結婚してくれないかなあ」
「はぁ!?」
「俺、ミモリンのこと好きになってしまった」
と三宅は少し、はにかむような顔で言った。
可愛いじゃんと雨宮は思った。“彼”のことは通常男としか思ってないのだが、この時、雨宮は彼の表情にわずかな“女”を見た。
まあ、こいつとの仲も長いし、結婚してもいいかも知れないという気がした。なにしろ、自分とイクは“合法的に入籍可能”である。こんな相手はめったに居ないだろう。
「これも用意したんだよ。填めてみて」
と言って、なんと三宅は水色のジュエリーケースを出してきた。ティファニーの指輪だ。三宅はそのケースを開くと中に入っていたダイヤの指輪を雨宮の左手薬指に着けた。雨宮は抵抗せずに黙って指輪が着けられるのを見ていた。
「結婚してもいいけど条件がある」
と雨宮は言った。
「どんな?」
「結婚式無し・新婚旅行無し・指輪無し・入籍無し・同居無し・浮気自由なら結婚してもいい」
「え〜〜〜!?」
と三宅は声をあげたがすぐ答えた。
「それでもいい。結婚して欲しい。俺の奧さんになって欲しい」
「いいよ」
それで2人はキスして、再度セックスした!
なおさっきしたセックスでは、雨宮が三宅に入れたのだが、今度は三宅が雨宮に入れた。ちなみに三宅は長年の男性ホルモン服用で既に生理は止まっていて、妊娠することは無い。つまり・・・雨宮にとっては避妊具無しでセックスできる貴重な相手でもあった。
但し3回に2回は、三宅が男役になって、雨宮が入れられている!ふたりはどちらも男役・女役をするが、三宅が男役になる方が多い。つまり2人の関係は、雨宮が妻で三宅が夫である。
2人は今日結婚したことで、避妊具は全く必要無くなった(雨宮は三宅以外の恋人とのセックスでは確実に避妊している)。
「今のセックスが2人の初めての共同作業ということで」
「まあそれでいいよ」
「でも指輪無しと言われたけど、その指輪はどうする?」
「せっかくだし預かっとく。預かっとくだけ。もらった訳じゃない」
「いいよ!それで。ミモリンに預けとく」
「でも記念の食事くらいしようか」
「うん。どこがいい?すぐ予約するよ」
「わりと気に入ってるお店があるのよ」
と言って、2人が出掛けたのは、銀座にあるエオン(aeon)というメイド喫茶!であった(*12).
(*12) この店が2005年に神田に移転し名前もあらためエヴォン(aevon)となる。2010年に和実が入店し、2011年にはチーフメイドになる店である。但し更に後2012年にエヴォンは再度銀座のこことは別の場所に銀座店を作り、和実がそこの店長兼チーフメイドになった。
可愛いコスチュームのメイドさんたちが来客に
「お帰りなさいませ、旦那様」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
と言っているのを見ながら三宅は
「ミモリンにお店の選定任せたのは間違いだった」
と頭を抱えて言った。
三宅はブラックスーツで決めており、雨宮はプリンセスドレスを着ている。左手薬指にはちゃんと三宅からもらった指輪を填めている。
「でもここ、普通のメイド喫茶とは少し違うのよ」
「へー」
「ここは風俗営業ではなく飲食店営業だから、メイドさんは客と3分以上話しては、いけない」
「3分以上話すと接待行為になるからか!」
「そうそう。だから最初はカラータイマー着けてて2分30秒経つと赤の点滅になってたのよね」
「おもしろーい」
「ウルトラマンカフェと間違われるからというので、カラータイマーはやめたみたいだけど」
「確かに別の客層が来そうだ」
「あとお酒は禁止。メニューにも無いし、酔った客の入店も禁止」
「ミモリンにはそういう店の方がいいな」
「それから風俗営業じゃないからメイドさんへのタッチも禁止。何度もタッチする客は去勢しますと店長さんから警告された」
「警告されたって経験者か!」
「去勢は勘弁してもらって出禁くらったけど、出禁期間が過ぎてまた入れるようになった」
「去勢されとけば良かったのに」
「そのうち去勢したくなるかもしれないけど、今はまだ男を辞めたくない」
「とっくの昔に男はやめてる気がするけど。おっぱいも大きいし」
「そうだなあ。今おっぱいからバストに進化途中かな」
「おっぱいとバストって何か違うの?」
「Aカップ以下は“胸”と言う。“胸が全然無いね”とか。Bカップ・Cカップ程度は“可愛いおっぱい”とか言う」
「ほほぉ」
「Dカップ・Eカップくらいは“豊かなバスト”とか言う」
「確かにそうかも」
「Fカップ以上は“でけぇ乳”と言う」
「言うかも!」
と三宅は面白がっていた。
「ミモリンのおっぱいは今Cカップくらいだよ。確かに」
「イクの胸はAカップかな」
「あまり大きくならないように頑張ってたからな。でもこのくらいでも胸があると男と寝る時に便利だから、普通のFTMさんみたいにこれを除去する手術を受けるつもりは無い」
「私もイクの微乳が好きだからそのままにしといて」
「うん。ミモリンの睾丸は取ってもいいよ。無くても俺困らないし」
「睾丸が無くなると立ちにくくなる気がする」
「俺は全然困らない」
メイド喫茶という変化球店舗のわりにはコース料理はどれも美味しく、三宅は満足した。雨宮はやはり“品質の悪い”店には入らない人だ。一種の哲学なのだろう。
エオンを出てから雨宮と三宅が銀座の町を歩いていたら、バッタリと長野支香に遭遇した。
「どうしたの?まるで新婚夫婦みたいな格好してる」
と言ってから、支香はハッとしたように、口を手で押さえた。
「もしかして結婚したの?」
「うん。結婚した」
「おめでとう!」
と支香は喜んでくれた。
「今日結婚式挙げたの?」
「いや式は挙げないつもり。今日は記念の食事だけした」
「それは後で後悔するよ。式だけでも挙げなよ。そうだ。私の知り合いが巫女さんしてる神社にかけあってあけるよ」
「いや別にいいんだけど」
とは言ったものの、支香は友人に電話して、挙式OKを取ってしまう。
それで、雨宮と三宅、それに支香はタクシーでその神社に移動した。
「ところであんたたち、どちらが花嫁でどちらが花婿なんだっけ?」
「えっと・・・」
「見た目通りで」
「じゃミーやん(三宅行来)が花婿で、モーリー(雨宮三森)が花嫁さんね」
「まあどっちでもいいけど、それでいいよ」
「でもこんな変則的なカップルの挙式とかしてくれるかなあ」
と三宅が不安そうに言う。
「特に性別を言わなきゃ普通のカップルだと思うって」
「そうかもしれない!」
それで支香は2人を船橋市内の小さな神社に連れて行った。
支香の言った通り、宮司さんは2人の性別には何も疑問を感じなかったようで普通にふたりの結婚式を挙げてくれた。初穂料は3万円以上ということだったのだが、三宅は10万円納めた。
「今年はいいことあるかもしれないよ」
と支香は2人に笑顔で言った。
「そうだといいね」
と三宅も笑顔で答えた。
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女子中学生のバックショット(15)