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■女子中学生のバックショット(12)

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「科学主義の警察さんは信用しないでしょうが」
と言って、高岡の付き人・義浜が警察に述べた“呪い”の件で、警察は先日夕香を襲った女性に再度事情を聞くことを考えた。
 
12月30日、彼女のアパートを訪ねた警察官は、アパートに異臭がするのに気付いた。
 
それで警察官がアパート内にやや強引に立ち入り、赤ん坊の遺体を発見する。警察は取り敢えず彼女を死体遺棄罪の疑いで現行犯逮捕した。
 
「窓ガラスが割れてるね?」
「お金が無いので放置してました」
 
窓ガラスが全部割れているのをカーテンで覆って風が入らないようにしてある。他にも部屋の中に茶碗やコップの割れたものが散乱していて、まるで大地震にでも遭った後のような状態であった。
 
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「あんた歩けないの?」
「3日ほど前に部屋の中で転んで」
 
結局男性警察官に抱えてもらってパトカーに乗せられ警察署に行った。警察は“簡単な聴取”をするつもりだったのだが、女の供述が全く要領を得ず、警官は手を焼いた。女は夕香を殺したが、その時に車が事故を起こして高岡も死なせてしまったと供述した。
 
「じゃあんた車に乗ってたの?」
「うん。女装してポルシェに乗ってた」
「女装ってあんた女じゃないの?」
「女装は気持ちいいよ。刑事さんも女装してみない?」
 
(念のため女性捜査官に身体検査させたが間違い無く女だった)
 
「車の車種は?」
「911カレラ・40周年モデル」
「でも乗っていたのならあんたも怪我したんじゃないの?」
「私は幽体で乗ってたから大丈夫」
 
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実は高岡の愛車は996カレラであることがファンの間では知られていた。それを40周年モデルに買い替えたのは今月に入ってからである。そのことを高岡はどこにも発表してない。知っている人が居るとすれば車の車種に詳しい人で、実際にその車を見たことのある人だけであろう。この女は高岡たちをストーカーしていた可能性はある。
 
普通なら、2人が事故で亡くなった報道を聞いて自分が殺したという妄想を持ったものだろうと考える所である。しかし義浜や左座浪の話の件もある。その上、女は高岡が乗っていた車の車種を知っていた。
 
そして女は他にももうひとり、八王子のマンション前で自分に声を掛けた女をサイコキネシスで殺したと供述した。これがジャスト義浜が話した内容と一致する。佐藤小登愛の死亡については、特にマスコミは報道していない。それを供述するのは、女の供述が単なる妄想ではない可能性を示唆している。
 
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そもそも佐藤小登愛の死因が不明なのである。直接の死因は心不全という検死結果だったもののその心不全を起こした原因が不明である。感電死にも似ているという医師の“感想”だったが、現場付近に感電を起こしそうなものは無かった。
 
しかし“幽体の状態で殺した”とか“サイコキネシスで殺した”というのは日本の法律では不可能犯と考えられるのが普通である。
 
それで警察は検察と協議したのだが、女が翌12/31朝留置場内で死亡しているのが発見されたため、結局この件は曖昧なまま捜査終了せざるを得なくなったのである。
 

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櫃美の“行動”を、きーちゃんは見ぬ振りをした。むしろ自分がやりたい気分だった。
 
(きーちゃんは友人のつーちゃんと交換で櫃美を日本に戻した。つーちゃんはきーちゃんのパスポートを使って飛行機で帰国する予定)
 
しかし櫃美もきーちゃんも、彼女に霊的な能力を失うほどのダメージを与えた人物が居たことには全く気付かなかった。
 
女を一発で殺さず手加減したのは多分千里の甘さである。
 
その千里も、この女が高岡と夕香を殺し、更に小登愛の命まで奪っていたとは、思いもよらなかった。千里は自分と真理が殺されそうだったから、自衛のために相手を倒しただけである。
 

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女の検屍をした医師は“死因とは思えないが”、女には全身に打撲を受けた跡があり、何かに速い速度で衝突した、もしくは何かが速い速度で衝突した痕のようにも思われるという意見を付していた。
 
捜査官は、そういえば女が立てないので抱いて運んだことを再認識した。しかしこの件はマスコミなどに知れると“なぜ治療を受けさせなかった?”と追及されそうな気がしたので、取り敢えずバッくれた!
 
警察は女の部屋を捜索した(窓ガラスは通報を受けて管理会社が交換した)が、この女の職業を示すようなものは見付からなかった。美事に物の無い部屋で赤ちゃん用品のほか、「ひよこクラブ」のバックナンバーが積み重ねられているくらいである。ゴミの中から何か大きな図形を描いたような布が見付かったが、ズタズタに破れていた。オカルト関係に詳しい捜査官が「恐らく魔法陣だと思う。何か儀式をしたものの失敗したのだと思う。物凄く想像を豊かにすれば、高岡の車が事故を起こした時に破れた可能性もある」と言ったので、取り敢えず証拠品として押収した。蝋燭やお香、何かを焚いた皿なども一緒にゴミに入っていたので、それも押収した。皿に残る物を分析した所女性の経血であることが判明。恐らく本人のものと思われたがDNA鑑定することにした(この捜査は結構費用を掛けている)。先のオカルト関係に詳しい捜査官によれば、魔術の儀式で経血や愛液、男性なら精液を使うことはよくあるらしい。
 
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(DNA鑑定したら夕香のDNAと一致した!おそらく使用済みの生理用品を盗んだものと考えられ、女が家宅侵入していた疑いが濃厚となった)
 
“期限切れ”のA級ライセンスが見付かった。警察は国内の自動車クラブなどにこの女性を知らないかという照会をした。すると5-6年前にレースで見たことがあるという報告が数件あった。実際に過去のレース記録に女の名前が10件見付かった。ただし入賞歴は無かった。どこかのクラブに所属していたことはないようである。しかしレースに出ていたということは、結構な資金力があった筈である。運輸支局(旧陸運局)で過去のデータを調べてもらった所、彼女が3年前まではスポーツタイプの車を所有していたことが判明した。資金が無くなり手放したのだろうか。
 
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しかし女が運転が上手かったことが判明したことで、高岡たちの車を運転した謎の人物が、実はこの女なのでは?と想像する捜査官が複数あった。女が運転していたのなら、女の全身打撲の跡というのも事故の時に負ったものである可能性が出てくる。ただ、高岡たちがこの女を信用して運転を任せるとは到底思えないのが難点である。
 

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女は死亡した赤ちゃんと2人暮らしだったようである。税務署の記録を確認して、少なくとも過去10年、源泉徴収されるような勤め先には勤めていなかったことが判明する。生活保護は受けていない。警察は女の収入源に首をひねった。
 
戸籍を確認すると、両親は亡くなっていて、姉1人と弟2人がいたが、姉と弟の1人は既に亡くなっている。唯一生存しているもうひとりの弟さんは九州に居るようなので、手紙で連絡を取り電話で話すことができた。彼は姉に子供がいたなんて今知ったと言う。弟さんは姉とはずっと音信不通になっており、東京に住んでいたこと自体知らなかったという話だった。むろん送金したりしたこともないという。
 
女の銀行口座は公共料金の引落しと時々現金で入金されているだけで、振込入金の記録が無い。警察は風俗などで働いていたのではないかと考え、都内・千葉県・埼玉県・神奈川県の風俗に「この女性を知らないか」という照会をしてみたものの、情報は得られなかった(関わりあいになりたくないから黙っている可能性はある)。
 
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警察は女に恋人がいたのではないかとも考えた。だいたい赤ん坊の父親が存在したはずである。
 
戸籍にも、母子手帳にも、父親欄の記載は無かった。出産した病院に照会してみた。すると、本人は「父親はワンティスの高岡猛獅です」と言っていたので、本人の認知届を出してもらって欲しいと言った。しかし、それがもらえないと言う。それで、病院では父親欄は空欄にしたということだった。
 
なお警察であらためて血液型を確認した所、赤ちゃんは高岡猛獅の子供ではあり得ないことが判明。高岡の子供だというのが妄想であったことも確認された。後に再鑑定が必要になった時のため、警察は高岡・夕香・女・赤ちゃん、更に念のため佐藤小登愛の血液を冷凍保存した。
 
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女の携帯(ロック等はされていなかった)のアドレス帳はドミノピザと女のアパート近くのラーメン屋さんに保健所だけだった。通話履歴もその3軒のみである。ピザ屋さんとラーメン屋さんに尋ねてみたところ時々注文があり配達していたが個人的なことは知らないと言う。女と赤ちゃん以外の人を見たこともないとい話だった。保健所は赤ちゃんの検診で連絡をしたのだろうと思うということだった。健診の記録を提出してもらったが、特に注意すべき点は見付からなかった。
 
結局この女の超能力??魔法??により、高岡猛獅・長野夕香・佐藤小登愛の3人が死亡したと考えると、きれいに整合性が取れる。しかし、“超能力”とか“魔法”による殺人が起きたと警察が発表したら、警察が世間から非難されるだけである。超能力でなくても、女が実際に高岡と夕香をポルシェに乗せて中央道を走行し事故を起こしたという解釈は充分成り立つ。しかし前述のように高岡たちが彼女に運転を任せるはずがないので、この仮定も成立しそうで成立しない。
 
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結局この調査結果は発表されないことになった。
 
ここまでの捜査が完了したのは4月である。
 
本人と赤ちゃんの遺体は九州にいる弟さんの了承のもと1月中旬に荼毘に付していたのだが、弟さんと再度連絡を取った所、自分は貧乏なので、とても遺骨引取りに東京までも行けないし葬儀費用も払えないと言う。それでこの件は保健所に委託され、保健所から再度弟さんに遺骨引き取りに関する意思確認の手紙を出したが、返事が無かったので、女と赤ん坊の遺骨は一緒に無縁仏として納骨堂に収められた(受け取り拒否の連絡があるか指定期日までに連絡が無い場合はこのように処理されることになっている)。
 

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警察が運転者不明としたことで困ったのが保険会社だが、保険会社の調査係が再度警察に事情を聞いたところ
 
「運転者は長野さんでないことは確実。また運転者は高岡さんでない可能性が高い。運転席に居たのならあるはずの、ステアリングと激突したような跡が無い。第三者が運転していた可能性が高いが運転者は捜査したものの不明だった」
 
と言う。それで、結局保険会社は責任者不明として、5月、保険を全額払った。
 
この結果、この車の残ローンは、保険で充当され(一時的に上島と雨宮が銀行からお金を借りて代理返済していた:高岡父が上島と雨宮に借用書を書いていた)、また高岡と夕香には慰謝料が支払われて、高岡の父、夕香の母が受け取った。
 
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ただし夕香の母は期待していた娘の死にショックを受け、寝込んでしまっていた。支香は「どうせなら、あんたが死ねば良かったのに」と親から言われてマジで殴りたくなった。支香は姉が死んでも涙が出て来なかった自分に悩んでいた。
 
(母もその後の闘病生活で全面的に支香に依存することになったのもあり、支香と和解することになる。夕香の三回忌あたりからは仲の良い母娘となった)
 
 
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