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(C) Eriko Kawaguchi 2022-06-05
性同一性障害の診断書をもらった後、原田沙苗は毎月1回札幌のS医大で診察を受けていたのだが、12月26日に診察を受けた時
「君、ブラジャーの跡がきついね。ブラジャーのサイズ合ってないんじゃない?」
と言われた。
「今、A75を着けているんですが」
「君、バストサイズは?」
と言って、検査表を確認する。
「トップ81, アンダー74. あれ?おかしいな。これならAA75でいけるはず」
と言って医師は少し考えていたが気付いた。
「君、ブレストフォーム着けてたね」
「あ、はい」
「それもう要らないよ。生の胸にブラジャー着けたほうがいい」
「え〜〜!?」
「君の胸はもう女の子のバストだよ。堂々と生の胸で過ごすといいね」
「わあ・・・」
「ブレストフォームはもう卒業だね」
沙苗は自分の身体が“女の子”の領域に既に入っていることを認識して嬉しいながら不安も覚えた。
冬休み期間中。
学校の部活は学校の長期休みの間は原則として週1回しかできないので、沙苗・千里・玖美子の3人は毎日、P神社の社務所中庭で自主的な稽古をしていた。冬ではあってもけっこう汗を掻くので着替えるが、その時、玖美子が気付いた。
「あれ〜?沙苗、おっぱい小さくなってない?」
と言って触る!
沙苗は顔を赤くして
「ブレストフォームを外したんだよ」
と答えた。
「ああ、今までは上げ底してたのか!」
「病院の先生に、もうブレストフォームは卒業と言われた」
「なるほど。もう男の子を卒業して女の子になったんだな」
「胸に関してはね」
「めでたい、めでたい」
冬休み中、P神社には千里Rが毎日来ていたのだが、玲羅もそれにくっついてきていた。父が家に居るので、父と話したくない!というのでこちらに退避しているのである。もっぱら漫画を読んでいたが、12/30はかなり神社が忙しくなったので巫女服を着て、物販のお手伝いなどもしていた。
沙苗や世那も巫女服を着て、昇殿祈祷で太鼓を叩いたりしていた。世那も沙苗が居ると“仲間”が居る感じで気安かった。もっとも沙苗は女の子っぽい声が出る(千里や玖美子はきっと彼女は5年生頃から女性ホルモンを飲んでいたのだろうと想像している)ので販売とかお客さんの案内の仕事もできるのだが、世那は声が男の子なので、声を出さなくてもいい、太鼓係や巫女舞の係を主としてやっていた。
なお世那も巫女服に着替える時は他の女子と同じ部屋で着ていた服を脱いで巫女さんの千早と袴を身につける。でも剣道の稽古をした千里たちのように下着までは交換しないので、大きな問題は無かった。むろん玖美子や千里たちの下半身をできるだけ見ないようにしていた。
「あれ、セナ、スリップ着けてる?」
「うん。お母ちゃんが買ってきてくれた」
「スリップの感触、いいでしょ?」
と千里が言うと、セナは恥ずかしそうに俯きながら
「うん」
と言った。結構このスリップの感触に魅せられて女装にはまる人もあるのである。
「でもセナ、親御さんに理解されてるみたい。ほんとに3学期からはセーラー服で通学したら?」
「恥ずかしいよぉ」
「好きなくせに」
「取り敢えず先生たちはセナがセーラー服を着てても何も言わないことは確認済み」
「あれなぜ注意されないんだろう」
「女子生徒がセーラー服を着ていて問題になる訳が無い」
セナの姉はセナをモデルに描いた絵を市民展に応募するようである。そうするとセナの“女の子姿”が市全体に公開されることになる(今更だけど)。
津気子は12月30日まで会社に出て、1月5日(月)が仕事始めだった。12/31-1/04の5日間が休みである。津気子が仕事に出ている間は武矢は1人では面白くないので、友人の福居さんや神崎さんなどの所に行ってビールを飲みながらマージャンや将棋などをしていたようである。
12/31は、旭川の天子の所に行き、一緒にお正月を迎えることにしていた。玲羅は毎日P神社に行っていたのだが
「旭川に出るなら行こうかな」
と言って、母の運転する車に乗り、一緒に旭川に出た。ここで玲羅は助手席に乗る。父と隣り合わせに乗るのは御免である!
なお千里は「神社が忙しいから」と言って今回はパスした。
旭川では“下宿人”の朝日瑞江さんと会い
「あなたが天子さんの下宿人になったのか!」
と津気子が驚いていた。
「どうもその節はお世話になりました」
と瑞江が挨拶すると、武矢の顔も弛んでいた。
たくさんお料理が作ってあるので、
「瑞江さんが作ってくれたの?」
と訊くと
「千里ちゃんが昨日1日かけて、おせち料理作ってくれたんですよ」
と言う。津気子は少し悩んだものの、気にしないことにした!
昨日旭川に来て料理を作ったのは、“赤い腕時計をしていた”し、“ピンクの携帯を使っていた”ので、瑞江は千里Rだと思い込んでいるが、実は千里Gである。
この日はみんなで旭川市内のスパに行ったが、武矢だけが男湯、母と玲羅、天子と瑞江は女湯に入る。
「千里が来てれば一緒に男湯に入れるんだけど」
などと武矢は言っていたが、お姉ちゃんはこれが面倒だから来なかったんだろなと玲羅は思った。姉が男湯に入れるわけがない。
なお、弾児の一家は1月10-12日にこちらに来ると言っていた。郵便局は年末年始は全く時間が取れない。
12月31日。
千里Rはこの日もP神社に行き、この日は勉強会はしなかったものの参拝客の対応をしていた。この日は参拝客が多いので千里はけっこう昇殿祈祷の笛も吹いた(千里・恵香・小町の3人で交替)。
一方、12月30日に大阪から帰ってきた千里Bはこの日Q神社に出て行き、大阪市内のユーハイムで買っていたバウムクーヘンをお土産に渡した。そして
「助かった。心細かった」
と京子や循子に言われて、昇殿祈祷の笛の半分くらいを吹いた(あとは京子と映子が半々くらい吹く)。循子は今日はもっぱら巫女舞をしていた。
年末年始の千里たちの行動:
Y:12/25に千葉県松戸市へ。12/27 三重県河洛邑へ。1/17留萌に戻る
B:12/25に大阪へ 12/28伊勢に移動 12/30留萌に戻る。その後毎日Q神社に行く。1/17バスケ大会
R:P神社で勉強会、玖美子・沙苗と3人で自主的な剣道稽古。1/17剣道大会。
1/17にはきっと何か起きる。
旭川に行っていた玲羅と両親は、1月2日の夜に帰宅した。千里がカレーを作っておいたので、武矢は「金曜日はこれが楽しみ」と言って喜んで食べていた。
なお千里Rも千里Bも毎日神社に出ていたので、このカレーを作ったのも千里Gである!
1月3日以降、玲羅はまた千里にくっついてP神社に来るようになり、1/3-4は巫女服を着て、物販や福引き・おみくじの手伝いをしていた。
2004年1月5日(月).
剣道の級位・段位検定があり、初段を受けた沙苗が合格。現時点でS中剣道部男女を通して唯一の初段となった。
「男子なのか女子なのかが問題だけどね」
沙苗は一応男子として受験したのだが、審査官には女子と思われた可能性もある!?(女子にしか見えないし)
沙苗の受験では、木刀の型を披露する時に他に適当なパートナーが居なかったので千里が掛かりて/元立ちの相手を務めた。
「どちらも初段認定」
とアナウンスがあったので
「すみません。私は受験者じゃありません」
と千里は言った。
「あ、ごめん。コーチさんだっけ?」
「彼女とレベルの近い者が居なかったのでパートナーを務めましたが私は1級です」
「なぜ君初段を受けなかったの?」
「まだ13歳になってないので」
「なんと残念!」
そういうわけで千里はまだ13歳になっていないので初段の検定を受けられない。
玖美子は昨年7月に1級を取ったばかりなので、今年7月の検定までは初段は受けられない。2年生女子の武智部長、2年生男子の古河部長は、いづれも1級の検定に落ちた。1年生の竹田君は1級に、工藤君は2級に合格した。また2年生女子の宮沢さんが2級に合格した。
またR中の木里さんが初段認定を受けた。今回の検定で1年生女子で初段になったのは、木里さんと沙苗の2人だけである。
高岡と夕香の遺体は検屍の上で、1月7日(水)に、やっと遺族(高岡越春および長野松枝)に引き渡された。上島は高岡の父・越春にふたりを合同で葬儀し、一緒のお墓に入れてあげたいと言ったが、越春は拒否した。
「だいたい長野さんが運転してたんじゃないの?未熟な技術で運転してたから事故を起こして息子を死なせてしまった」
「運転者が長野夕香でないことは警察も確かだと言っています」
「信用できん」
高岡の父は、事務所やワンティスのメンバーに対しても不信感を持っているようだった。ただ上島と海原が直接会って交渉した結果、各々の密葬を家族で済ませた後、ワンティスとしてのお別れ会で2人を追悼するという形は了承してくれた(*7)(*8).
それで上島と雨宮が個人的に費用を出してあげて、高岡の遺体と夕香の遺体は葬儀屋さんの車で、高岡の郷里の愛知県、夕香の実家の仙台まで運び、双方とも1月8日に通夜、9日に葬儀が行われた。
そして1月11日(日)、東京都内でワンティス主宰のお別れ会が行われた。葬儀委員長は木ノ下大吉さんが務めてくれた。
(*7) 後にポルシェの残ローンの一括返済を求められて越春は上島に泣き付き、上島たちがローンの肩代わりをしてあげたが、そのことから越春は軟化。四十九日、一周忌、三回忌の法要は合同で行われることとなった。
(*8) 高岡猛獅と長野夕香の墓がひとつにまとめられるのは2015年12月の十三回忌を待たなければならない。龍虎が高岡越春にあらためてお願いして認められた。長野松枝は最初から容認していた。
人気絶頂バンドのメンバーの死ということで、お別れ会には物凄い数の弔問客が訪れた。メンバーは色々な人に声を掛けられて応対に忙殺された。
8時頃、赤ちゃんを抱いた女が会場を訪れ、夕香の遺影にケチャップを掛けるという騒動があり、警備員に取り押さえられた。(遺影は雨宮と山根の手できれいに拭かれた)
女は
「自分は高岡の愛人だった。この子は自分と高岡の子供である」
と主張し、
「きっと事故は夕香が未熟な腕で運転していて起こしたんだ。私の猛獅を返して」
と泣き叫んだ。
メンバー間に当惑した空気が流れるが、左座浪が
「君の妄想は何度も聞いた。警察にやっかいになりたくなかったらすぐ帰りなさい」
と恐い顔(左座浪の恐い顔は本当に恐い)で言うと、
「諦めないからね」
と言って、帰った。
9時頃、送る会に出席していた高岡の父・越春の所に赤ちゃんを連れて喪服を着た女が来て声を掛けた。
「高岡猛獅さんのお父さんですか?」
「はい」
「私、****と申します。猛獅さんにはたくさんお世話になりまして」
「そうだったんですか」
「この子も、一度お父さんに見せに行かなければと言っていたのですが、その前に本人が亡くなってしまって」
「え?まさか、この子、猛獅の子供なんですか?」
「はい、そうです。後先になってしまったけど、結婚式も今年あげようと言っていたのですが」
「それは気の毒なことになってしまった。この子の名前は・・・」
などとやっていた所に、左座浪が気がついて寄ってきた。
「警察に突き出される前に帰れ」
「またあなた邪魔するの?」
「お父さん欺されないで下さい。この女は猛獅さんとは何の関係も無いです。自分が猛獅さんに愛されて子供を産んだという妄想に取り憑かれているだけなんです」
「え〜〜〜!?」
「妄想じゃないわよ。事実なんだから」
「妄想か真実はDNA鑑定すれば分かる。嘘だと判明したら高岡猛獅の名誉を毀損したとして1億円の損害賠償を提訴するから覚悟しておいてもらおうか」
「そうやって私を脅すのね?」
「脅してるのは君の方だろう。さっさと帰りなさい」
それで女はすごすごと帰って行った。
(しかし越春はこの手の話に何度も欺されて合計で200-300万ほどの金品を高岡の愛人を自称する女に与えてしまうことになる:散々欺されたので、後日、龍虎の件が出て来ても、にわかには信用しなかったのである)
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女子中学生のバックショット(13)