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■女子中学生のビギニング(16)

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2003年12月3日(水).
 
この日、札幌ドームで、新庄剛志の入団発表が行われた。
 
当初入団発表は報道陣にのみ公開される予定だったが、ファンが2000人も詰めかけたため、急遽公開の場で行われるとになった。
 
新庄は背番号1、登録名“SHINJO”となるが、
「札幌ドームを満員にする」
「ファイターズを日本一にする」
などと、威勢の良い言葉が飛び出していた。
 

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弾児一家が札幌に引っ越していってしまった後、ガランとしたアパートで天子はぼんやりと、テレビを“見て”いた。
 
時計が5時を告げる。フレディ・マーキュリーの『I was born to love you』の曲が流れる。洋楽好きな天子のために洋楽たっぷりのメロディー時計を光江さんが置いていってくれたのである。
 
6:00 In the Morning (Bee Gees)
7:00 Morning Train (Sheena Easton)
8:00 Penelope (Paul Mauriat)
9:00 I Just Called to Say I Love You (Stevie Wonder)
10:00 Sara (Starship)
11:00 La isla bonita (Madonna)
12:00 What a feeling (from "Flash dance")
13:00 Wake Me Up Before You Go-Go (Wham!)
14:00 Woman in Love (Barbra Streisand)
15:00 There must be an angel (Eurythmics)
16:00 Wuthering Heights (Kate Bush)
17:00 Born to Love you (Freddie Mercury)
18:00 Mbube - Lion Sleeps Tonight
19:00 Lambada (Kaoma)
19:00 We are the world (USA for Africa)
20:00 I like Chopin (Gazebo)
21:00 A Whiter shade of pale (Procol Harum)
22:00 Bei mir bist du schoen
23:00 Moonlight Serenade
24:00 Stardust
 
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およそ71歳の趣味ではない!
 
天子は2000枚くらいのLP/CDのコレクションを持っているが、そのほとんどが洋楽である。天子は
 
「日本の歌手はほとんどが音痴だ」
 
などと言って、日本の歌手の曲はほとんど聞かない。どうも目が見えないだけあって物凄く耳がいいので、音程が外れた歌を聴くと頭痛がするらしい。もっとも正確な歌を歌えばいいというのでもないようで
「クラシックは眠くなる」
「民謡とは肌が合わない」
と言って、クラシックや民謡も聴かないようである。
 
わずかながら天子のコレクションに入っている日本の歌手は、宇多田ヒカル、椎名林檎、シャネルズRATS& STAR, MISIA, などといった付近である。やはり音程が正しいというのは大前提のようだ。
 
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このあたりは演歌が好きな弾児、ジャニーズ・フリーク20年の光江とはなかなか趣味の合わないところであった。
 

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"Born to Love you"の曲を聴いて天子は
「あらら、御飯作らなきゃ」
と言って、お米をといで水加減を目視(?)し、キッチンタイマーで15分計ってから炊飯器のスイッチを入れた。御飯が炊けている間に野菜を切ってお肉を切って鶏肉のトマトスープを作る。ポットでお湯を沸かして紅茶を入れる。紅茶は津気子か「もらいものですけど」と言って置いていったブルークボンドのティーバッグだ。
 
しかしこのポットを使うことで自分の無事を光江と津気子に報せることができる。面白いコミュニケーションの道具ができたもんだと天子は思った。
 
ほかに光江と津気子は、家事がしやすいようにと、洗濯から乾燥まで自動でやってくれる洗濯機、食洗機、更にルンバという昨年発売されたらしい、自動でお掃除してくれる掃除機を置いていってくれた。ルンバは面白い動きをするので、天子はすっかり気に入り、弾児たちが去って行った後、もう3回も作動させている。文明の利器というのは素晴らしいものだ。
 
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他にお風呂もお湯が溜まったら音声で教えてくれる機械と温度が上がりすぎない機械を付けてくれたし、脱衣場とトイレにセラミックヒーターを置いてくれた。また食材の配達を毎日してくれるサービスも契約してくれたので、面倒くさい時や体調の悪い時は買物に行かなくても済む。
 

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18時の時報と『ンブベ』(別名:ライオンは寝ている)(*15)のメロディーが流れる。天子はメロディーに合わせて
 
「Uyimbube Uyimbube Uyimbube Uyimbube」(*15)
と楽しく歌いながら炊き上がった御飯を十四春の遺品の茶碗に盛り、仏檀に供えてチーンと鳴らす。そして
 
「またあんたと2人だけになったよ。のんびり暮らしていこうね」
と笑顔で仏檀に置かれた位牌に語りかけた。
 
(*15) “ンブベ(mbube)”はズールー語で“ライオン”の意味。この曲は南アフリカのミュージシャン、ソロモン・リンダ(1909-1962 男性)が1940年にヒットさせた曲である。近年では『ライオンキング』の中でも使用されたことで知名度が広がった。
 
Uyi mbube というリフレインはズールー語で「あんたはライオン」という意味。このリフレインは時々 Wimoweh と書かれているが、これはズールー語が分からなかった英語詩の作者が元の歌詞を音写して生まれた不思議な表現である。日本人が聞くと「うんだらった・うんどばっど」みたいに聞こえたりする。
 
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自分でも御飯とスープを盛って晩御飯を食べ、一息ついた所でピンポンが鳴る。インターホンで
「はい」
とだけ返事すると
「天子おばあちゃん、こんばんわ」
と千里の声がする。
 
付けてもらった“モニターで見ると”セーラー服姿の千里と、ワンピース姿の20歳くらいの女性が立っている。
 
びっくりして開ける。
 
「入っていい?」
「もちろん、もちろん」
 

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それで2人を部屋の中に入れた。
 
「こちら、私のお友達の、みーちゃん。この子をここに泊めてあげてくれない?」
「へ?今夜?」
「取り敢えず2〜3年」
「え〜〜?」
 
「何か仕事がある時は、出ていることもありますが。可能な範囲でおそばに居させていただけないでしょうか?」
と、ミミ子は言う。
 
「ヘルパーさんは来るだろうけど、おしゃべりの相手とかが居た方が寂しくないかなと思って」
と千里は言う。
 
天子は目の前にいる女性を“感じ取った”。
 
「北山紫さん?」
などと天子が言うので、ミミ子は
「千里、おばあちゃんにも私の名前教えたの〜?」
と言う。
 
「そんなの教えたりしないよ」
と千里。
「教わらなくても、“見れば”分かるよ」
と天子。
 
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なんて恐ろしい祖母と孫だと、ミミ子は思った。
 

「みーちゃんは元々旭岳にお住まいがあるのよ。でもここ半年くらい、留萌に出張してきてたのよね。でもそろそろ“留萌の案件は落ち着いてきた”から、旭川に戻ってもいいんじゃないかなあと思って」
 
「一応上司の許可は得ました」
とミミ子。
「上司ってア***の神様?」
と天子。
 
「なんで分かるんですか〜〜〜!?」
 
「見れば分かるわよねぇ」
「分かるよね」
と千里と天子は言い合っている。
 
全くこの2人は・・・。
 

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千里は言った。
「私ね、目が見えなくてもできることをいくつか考えたの。ひとつはこれ。天子おばあちゃんにこの笛あげる」
 
それで千里は花梨製の龍笛を渡した。札幌の楽器店で買ってきてもらったものである(買いに行ったのはミヨ子!)。価格は5万円だった。
 
「みーちゃんは笛も上手いから、おばあちゃんも練習するといいと思う」
「私、横笛なんて吹いたこともないから音も出せないよ」
「練習すると出るようになると思うよ。うまくなったら、この笛もあげる」
と言って、Tes.No.219の龍笛も触らせる(A大神様から頂いた)。
 
「こんなに立派な笛はもったいないよ!」
「だから“うまくなったら”」
「私みたいな素人が、こんな立派な笛を使えるようになるには30年はかかる」
「だから30年元気にしててよね」
「あはは。これは1本取られた(死語)」
 
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しかしこれで天子も少し練習してみようという気になったようである。
 

「電子キーボードも1個置いてくね。笛ばかり吹いてて飽きたらこれ弾いてもいいし」
と言って、千里は小町に88鍵のフルキーボードを運び込ませ、小春が運びこんだ座卓の上に置いた。
 
「それは結構好きかも」
 
「それから、お祖母ちゃん、確かタイプライターができたと思ったから、これも使えるかなと思って」
と言って、富士通のノートパソコン FMV-Biblo MG13D (Windows XP) をコタツの上に置く。実はパソコンに強い美那に頼んで基本的なソフトをインストールしてもらっている。ATOK, No Editor, Excel, Virus Buster なども入れている。
 
「ユーザー名は tenko 全部小文字で t-e-n-k-o で設定してる。パスワードはお祖母ちゃんの誕生日の1012で」
 
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「パソコンは使ったことないけど」
「お祖母ちゃんならすぐ使えるようになると思う。パソコンって指の感覚で入力できるから、紙に文字を書くより楽なんだよ。紙に字を書いていると、上の行と下の行の向きがずれて重なってしまっても気付かないけど、パソコンなら、そういうトラブルが無いから。使い方は、みーちゃん教えてあげて」
 
「はい。私の分かる範囲で」
 
「回線がね。取り敢えず高速モデム付けてるけど、すぐADSLの申請するから、それが開通したらネットも自由に使えるようになるから。ネットにつながったら、2ch(にちゃんねる)とかやると楽しいと思うよ」
 
「ゲーム?」
「電子掲示板なんだよ。日本中の色々な人とおしゃべりができるよ」
「ふーん・・・」
「名前も性別も自己申告だし、18歳の女子高生の振りしててもいいし」
「さすがに言葉が古くてバレる」
「全員匿名だから、名乗ることもないですけどね」
 
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(この時代はmixiのサービス開始前、@niftyの終了直前である)
 
「やってみたら、お祖母ちゃん、ハマっちゃう気がする」
「へー」
 
ADSLの開通には1ヶ月かかったが、実際にはその1ヶ月の間に天子はパソコンの基本的な使い方を瑞江から習った。そしてネットが開通すると、天子は2chに完璧にハマり、毎日5-6時間パソコンの前に座っているようになる。
 

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「それから、将棋のセット買ってきた」
と言って、千里は将棋の盤と駒のセットを開ける。
 
「私もある程度は物の位置とか分かるけど、私には駒の識別は難しい」
「この将棋の駒は特殊なんだよ。ほら、触ってみて」
「あ」
「ひとつひとつの駒にリレーフがされてるから、触ると何の駒か分かるんだよ。この将棋盤も線が盛り上げて引かれてるから、マス目が分かりやすい」
「へー」
 
「私は個人的には囲碁の方が好きなんだけどね。碁盤は広すぎて、見ないで囲碁を打つのは凄く大変。将棋なら盤が狭いからまだ分かるかなと思って」
 
「ありがとう!やってみるよ」
「それも私がお相手しますから」
と瑞江。
 
「そういうので少しでも気が紛れたらと思って。私も月に1回くらいは寄るから」
「無理はしないでね」
「私はむしろ今までより来やすくなるんだよ。“おばあちゃんち”だから」
「ああ、そうかもね」
 
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「みーちゃん、でいいのかな」
「はい、それでお願いします。本名とか真名はあまり呼ばないで下さい」
 
「OKOK。みーちゃんは、お仕事か何かしてるの?」
「一応大学2年生という“設定”で。だから下宿人ということで。家賃も払いますよ」
「それは私のお世話賃と相殺にしようよ」
「そうですか」
 
「でも大学生なら学校に通学するんじゃないの?」
「あ、そうか。だったら平日は毎朝出掛けて夕方帰って来ます」
 
「あ。いいんじゃない?それと2年生なら1月は成人式かな?」
「そうだなあ。成人式に行ってもいいかなあ。一応振袖は持っているから」
 
「10回目くらいの成人式かな」
と天子は楽しそうに言った。
 
「それは言わない約束で」
 
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ともかくも、天子はミミ子の同居?に同意したのである。
 
「でも千里。もう6時半だけど、留萌行き最終に間に合う?」
 
「大丈夫だよ。留萌まで走って帰るから」
「え〜〜〜!?」
 
 
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