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(C) Eriko Kawaguchi 2022-02-18
11/15夕方、千里と玲羅は光江さんと一緒にマクドナルドを出てから旅館に向かった。光江さんたちの部屋に行き、天子及び従弟2人に挨拶しておく。弾児さんは男性親族の集まり、要するに飲み会に行ってしまったらしかった。光江さんが
「全く」
と言って、呆れたような顔をしていた。
武矢一家に割り当てられている部屋に移動し、ここで千里も玲羅も普段着に着替えた。
千里たちの両親は結局20時くらいに到着した。留萌から約360kmの行程に15時間かかったことになる(平均時速24km!?)。どうもかなり喧嘩したようだ。一応斎場で故人の遺体と対面してきたらしいが、その後は父は遺体対面の対応をしてくれた喪主の海斗さんに誘われて飲み会に行ってしまったらしい。つまり旅館まで来たのは母だけである!
千里・玲羅も母も夕食は終わっていたが、母は近くのコンビニでLチキを買ってきたということで、3人でそれを食べた。一息ついた所で、お風呂に行くことにする。
最初母が
「玲羅お風呂に行こう」
と言った時、千里が
「私も一緒行くよ」
と言ったので、母は、まいっかと思ったようであった。
旅館の別館に渡り廊下を通って歩いて行き、男女が別れる所がある。千里が平気な顔で母や玲羅と一緒に女湯に来るので、母は少し戸惑いながらも受け入れる感じ。玲羅は何か楽しそうな感じであった。
「中学生になったんだから、堂々と女湯に入らなきゃ」
などと本人は思っている。
千里は母や玲羅と一緒にお風呂に入るのは初めてである。ただ千里は母には一度裸を見せた気がした。いつ見せたのかよくは分からなかったが。実は母も一度千里の裸体を最近見た気がしていた。それで千里が女湯に来るのを容認した。
女湯の脱衣室で、3人でおしゃべりしながら、服を脱ぐが、千里が裸になると母は溜息をつき、玲羅はじろじろ見ていた。(この千里はBなので子宮などは無いものの、バストは充分発達しているし、むろんペニスも無い)
それで浴室に移動して各々身体を洗う。そして浴槽に入ったら、光江さんもいたので、4人で浴槽の中で話をした。母がかなりグチを言っていたのを千里と光江さんでなだめていた。やはり父からは相当無茶苦茶言われたようだ。
「自分では運転できないくせに」
などと文句を言っている。
「武矢さん、免許取らないの?」
「取りに行く時間も無いし、免許取っても使う場面が無いと思う」
「確かに海の上では車は運転できないもんねー」
父たちの世代は、最も運転免許所有率の高い世代だが、父は中学を出たらすぐに船に乗ったので、取りに行くタイミングが無かったようだ。でも父の性格では運転しない方がいいと千里は思った。すぐカッとなる癖があるから、絶対事故を起こすと思う。
母のグチが続いていた所に、龍男さんの娘・富士子さんが、その娘の明理(あかり)さん・輝耶(かぐや)さんと入ってきたので母のグチは終了した。光江さんが紹介してくれたので、浴槽の中で
「初めまして」
などと言っている。
「正確にはキクおばあちゃんの葬儀の時に会ってるけどね」
「千里ちゃんは、あの時は幼稚園くらい、玲羅ちゃんは3歳くらいだったもんね」
と懐かしそうに明理さんは言っている。彼女は高校一年で当時は小学3年生だったはずである。輝耶さんはその2つ下で現在中学2年である。輝耶さんは当時のことは覚えていないようだ。
明理(あかり)さんの名前も“めいり”と読まれて男性と誤解される名前だよなあなどとさっきは光江さんと話していた。しかし目の前にいる明理さんは、どう見ても女の子のようである!
ついでに妹の輝耶さんも、読んでみれば“かぐや”という名前は女の子としか思えないが、字だけ見ると輝という字が男性的なので性別を誤解する人もあるかも知れない気がした。
むろん輝耶さんも、少なくとも外見は女の子にしか見えない!
「彩友家の家系って、ひょっとして女の子が多くない?」
と玲羅が言う。
「男の子はうちの顕士郎・斗季彦だけだと思う」
と光江さん。
「(十四八の妻の)初子さんの親族・海森家には男の子が多いみたいだけどね」
「学生服の子が何人もいたね」
「海斗さんとこも女の子2人、大湖さんの所も女の子3人、うちが女の子2人で美事に又従姉妹が女の子ばかりなのよねー」
と富士子さんが言っている。
「まあ彩友の苗字は、あの5人の誰かが性転換でもしてお嫁さんもらったりしない限り、雪花ちゃん(海斗と浩子の長女)たちの世代で消えるね」
と明理さんは言っていた。
「まあ性転換しなくてもお嫁さんもらってもいいけどね」
と玲羅。
「女同士の結婚というのも少し興味あるなあ」
と輝耶ちゃんが言っているが
「あんた昔からそれ言ってる」
と明理さんが言っていた。
でも明理・輝耶は富士子さんの夫・涼雄さんの苗字、山手を名乗っているのでどっちみち、彩友の苗字とは関係無い。
お風呂からあがって部屋に戻った後、母が何か言いたげであったが、どうも言いにくいようである。
全くもう!
「お母ちゃん、パンクしたりJAF呼んでたりしてたら、時間もだけど、お金も掛かったんじゃない?」
と千里はこちらから話を振ってあげる。
「そうなのよ。JAFの入会金が6000円かかって。タイヤも留萌に帰ったら早急に買い換えないといけないから1本2万円くらいするし」
「お母ちゃん、テンパータイヤのまま冬道を走って留萌まで帰るのは無謀だから釧路でオートバックスかイエローハットに寄っていきなよ」
「でもそういう所で買うと一括で払わないといけないよ」
留萌に帰ってから浜田自動車さんで頼んできっと分割払いにしてもらいたいのだろう。2000円×10回とか!
「お母ちゃん、これ無理言って葬式の笛を吹いてもらったからと言って、神社から3万円もらったから」
と言って袋に入れておいた3万円を母に渡した。
「これくれるの?いいの?」
「うん。大変な時は助け合わなきゃ」
「ごめんね。余裕出たら返すから」
「気にしないで」
全く手の掛かる親だ!と千里は思った。
※戦後の十四八と十四春
1950 村山十四春の船が廃船になり夕張に移動して炭鉱で働く。
1959 村山十四春、怪我をして炭鉱を退職。旭川に出て郵便局に勤める。
1960 村山十四春(35)、彩友天子(28)と知り合い、結婚する。
1961 村山武矢誕生(十四春と天子の第1子)
1963 村山弾児誕生(十四春と天子の第2子)
1952.4 海上警備隊発足。十四八が入隊。8月保安庁警備隊。1954海上自衛隊。
1957 彩友十四八(32)が海森初子(24.舞鶴市出身)と結婚。
1958 十四八の第1子・海斗誕生(京都府舞鶴)。
1960 十四八の第2子・大湖誕生(青森県大湊)。
1963 十四八の第3子・川夫誕生(長崎県佐世保)。
1975 十四八、50歳で自衛隊を定年退職。最終階級は一尉。最終勤務地:函館。
1975 十四八、北海道拓殖銀行に再就職。転勤で道内各地移動。
1977 海斗は札幌の大学に入る(そのまま札幌で就職)
1979 大湖は東京の大学に進学(そのまま東京で就職)
1982 川夫は釧路で美容師になる。
1985 十四八、60歳で銀行を退職。最終勤務地:釧路。そのまま釧路で暮らす。
十四八は自衛隊時代も銀行時代もよく転勤している。釧路では十四八夫婦と川夫の3人で暮らす生活が1979年以来続いていた。1995年、十四八は脳卒中で半身不随となる。すると川夫は“長年の友人”の椎名小足(こたり)を同居させ、2人で十四八の介護をしてくれるようになった。小足は釧路市内の電気工事店に勤めている。
川夫は女性並みの筋力しか無いので、元ラグビー選手の小足の腕力が物凄く役に立っている。十四八と初子は小足を、川夫の事実上の夫として認めていた。1998年には川夫と小足は共同でバリアフリーの家を建て、一家はそこに引越した。
11月16日(日)友引。
この日は夕方からお通夜が行われる。しかし千里たちの両親はお昼過ぎには帰ると言っていた。それで2人でその前に再度故人にお別れをしに行くようである。
しかし父は帰ってきてない!弾児さんも戻って来てないらしいので、どこかでみんなで飲んでいるのだろう。
実際には男性陣は川夫さんの家に集まって飲んでいた。飲み明かしたのは、こういうメンツである。
小足・武矢・弾児・海斗・大湖・涼雄
川夫さん自身はお母さんの初子さんを連れて旅館に退避していた!
旅館に泊まったのはこういうメンツである。
(釧路)初子・川夫
(札幌)浩子・雪花・春桜
(東京)玉緒・心子・南奈・海美
(岩見沢)龍男・秀子
(函館)富士子・明理・輝耶
(旭川)光江・顕士郎・斗季彦
(留萌)津気子・千里・玲羅
千里たち3人は朝御飯に行った時、光江たち3人と遭遇し、一緒のテーブルで食べた。朝御飯は旅館の朝食にありがちな、御飯・味噌汁・焼き鮭・味付け海苔・生卵といったものである。
まだ幼稚園の斗季彦は特に何も感じてないようだが、小学4年生の顕士郎は1学年上の従姉である玲羅に少しドキドキしているようにも見えた。でも玲羅は年下の男の子には興味が無い!
御飯が終わっても津気子と光江は色々話しているので、子供たち4人は
「部屋に戻ってるね」
と言って食堂を出た。
それで千里と玲羅が部屋に戻った時、千里の携帯が鳴る。千里が白いトレーナーのポケットからピンクの携帯を取りだしたので、玲羅はあれ?と思った。
昨日千里は(連絡用に借りた)父の黒い携帯を使っていた。実は自分の携帯を持ってたんだっけ??それよりもっと疑問なのは、目の前に居る千里が白い服を着ていることである。さっきまで青い服を着ていた気がするけど勘違いかな?それとも着替えたんだっけ??
(実は電話が着信したので“その電話を取る千里”が出現した)
電話を掛けてきたのは、きーちゃんであった。
「千里、2〜3時間でいいから顔貸して」
「いいけど」
「多分死なないと思うから」
「死ぬようなことなの〜〜?」
それで千里は
「ごめん。ちょっと出掛けてくる。あ、おやつでも買ってるといいよ」
と言って、玲羅に2000円お小遣いを渡す。
「ありがとー」
それで千里は白いコートを着て出かけていった。
玲羅は、しばらく、ちゃおを読んでいたが、お小遣いももらったし、本当におやつ買って来ようと思い、コートを着て旅館から50mほど離れた所にあるローソンまで行く。
店内でローソンブランドの安いおやつを物色していたら、輝耶と遭遇する。
「どもども」
などと、よく分からない言葉を交わし、結局輝耶はミルクチョコ、玲羅はポテチを買って一緒にお店を出る。ところがそこにちょうど千里が来る。
「お姉ちゃん、きーちゃんの用事は終わったの?」
「用事って?」
うーん・・と思う。そういえば“この姉”は紺色のコートを着ている。さっき、きーちゃんに呼ばれて出て行った姉は白いコートを着ていた。
「2人一緒に来てたの?」
と千里が訊く。
「ううん。偶然」
「あ、そうだ。一緒にパフェ食べに行かない?おごるからさ。輝耶ちゃんも」
「行く」
それで3人は一緒にローソンの先にあるカフェに行った。旅館からは80mくらい離れることになる。
「ここのパフェが美味しそうでさ、昨日から気になってたんだよ」
「ほんとこれ何か豪華ね」
それで3人はカフェに入る。実は9時開店で行った時は8:58くらいだったのだが、お店の人はドアを開けて中に入れてくれた。
それで3人はテーブルの所に座り、千里がパフェを3人分注文する。輝耶が母?に携帯からメールをしていた。
「でもおごってもらっていいの?」
「うん。ちょっと臨時収入があったからね」
「じゃいただきまーす」
と言って、3人はボリュームたっぷりのプリンパフェを食べた。
「美味しいね」
「冬でもパフェは美味しい」
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女子中学生のビギニング(9)