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■女の子たちのインターハイ・高2編(16)

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夏恋が両手を合掌するように合わせて「ごめーん」と言っている。ここは本当はフリースローを外して、暢子が叩き込んで3点プレイにするのが理想だったのだが、確率が超低いプレイなので、むしろちゃんと確実に入れた夏恋を褒めるべきところである。ここで1点を取っていなければ即敗戦していた。
 
60秒のタイムアウトの間に、N高校側も束の間の休憩をしながら配置の確認をする。暢子も千里もスポーツドリンクを飲んでいる。
 
試合再開。
 
スローインするのはこのタイムアウトで交替で入った正ポイントガードの入野さんである。他のメンバーは全員反対側のゴール近くに居る。何だか昨日の秋田N高校戦と似たような状況だ。しかし昨日は時計が0.9秒残っていた。今日は0.4秒しかない。昨日のようにキャッチしてからシュートというのは無理だ。
 
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J学園がしなければならないプレイは分かるし、N高校側もそれを阻止しなければならない。
 
N高校で阻止のためにコートに入っているのは、留実子・麻樹さん・揚羽・暢子・夏恋と長身のメンバーである。千里はベンチで束の間の休憩である。
 
入野さんが超ロングスローインをする。
 
ボールは正確にゴールのリング右手そばまで飛んでくる。ベンチで見詰めていた千里は凄い投擲能力だと思った。
 
ゴールの右側に居た全員、中丸さん・米野さん・日吉さん・留実子・揚羽・暢子、全員がジャンプする。(左側に向こうの道下さんとこちらの麻樹さんが居た)この残り時間ではボールをつかんでシュートする時間は無い。J学園はタップで入れるしかない。N高校はそれを阻止しなければならない。
 
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しかし、結局誰がボールに触ったのか良く分からないままボールはコートの左側へ飛んで行った。リングにはかすりもしなかった。
 
ボールが床に当たる前にピリオド終了のブザーが鳴った。
 
再々延長!トリプル・オーバータイムだ。
 

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時計はもう14時を回っている。本来は男子の準決勝第1試合が始まる時刻を過ぎているのだが、女子の試合が終わるまでは始められない。
 
2分間のインターバル、暢子も千里もその場で横になっている。
 
「まあ実際問題としてあの状況でタップやアリウープでボールを放り込むのは無茶だけどね」
 
と穂礼さんが言っている。コートの反対側から飛んできたボールは物凄い速度である。それを空中で指や掌だけで軌道を変えて、ゴールに入れるのはさすがに不可能に近いし(拳を使うのは違反)、空中で腕の力だけでキャッチしたままゴールに放り込むのも女子高生の身体能力では難しい。
 
「確率は低いけどJ学園は挑戦せざるを得なかったし、こちらもその阻止に全力を尽くさなければならなかった」
と久井奈さんは言う。
 
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その時唐突に留実子が言った。
「性転換したい」
 
「うーんと、実弥君。頑張ったら、ご褒美に試合が終わった後で男性ホルモンを飲むことを許すぞ」
などと暢子が言う。
 
「ほんとに飲んじゃおうかな」
「彼氏が困らない?」
「もう彼にはゲイになってもらう。僕、おちんちん付けて、卵巣と子宮も取っちゃおうかな。千里要らない?」
「ああ、取るんならちょうだい」
 
「千里のおちんちんは手術した時捨てちゃったの?」
「中身は捨てたよ。皮はヴァギナの外装に再利用」
「へー」
「それが保存してあったら、実弥君が使えたのにね」
「仕方無いから竹輪でも付けてもらって」
「竹輪をおちんちんにするの!?」
「なめた時美味しいよ」
「なめるって?おちんちんを舐めるの?」
 
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こういうのは知識のある子とウブな子とがいる。
 
「取り敢えず実弥君は、帰りの飛行機に男装で乗ったら?」
「いや、それやると航空券が違うと言われる」
「夏休み明けから男子制服で通うというのではどうだ?」
 
すると留実子は言う。
「実は男子制服、買っちゃったんだよ」
「おお!」
「ほんとに男子制服で通いなよ。応援してあげるよ」
「そうしようかな」
「だから頑張れ」
「よし!」
 

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3度目の延長ピリオドが始まる。むろん花園さん・日吉さん・千里・暢子は出ている。4人とも既にとっくに体力の限界を越えている。こちらの他のメンバーは、久井奈さん・留実子・穂礼さんである。向こうは入野さん・中丸さん・大秋さんだ。
 
どちらのメンバーも疲れ切っているが、こちらでは久井奈さん、向こうでは入野さんが「声出して!」と言ってみんなを励ましながらプレイする。しかしさすがに集中力がもたずに、久井奈さんと日吉さんが1回ずつダブルドリブルを取られて天を仰いでいた。今自分がここまでドリブルしてきたことを忘れてしまっているのである。
 
しかし疲れていても花園さん・千里ともにスリーの精度は落ちない。2人とも死ぬほどシュートを撃ち続けた練習の成果が出ている。このピリオドではこの2人が得点の大半を稼いだ。
 
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点数は抜きつ抜かれつのシーソーゲームが続く。どちらももう既に勝敗を滅却して、ほとんど頭が空白の状態でプレイしている。ふと気がつくと、残り1分を切って、150対143とJ学園が7点のリードを取っていた。
 
こちらのメンバーは途中で留実子・穂礼さんに代えて麻樹さん・透子さんを出している。
 
N高校が攻め上がる。久井奈さんから透子さんにパスが行く。撃つ。きれいに入る。150対146と4点差。残り46秒。
 
J学園が攻めて来る。入野さんから花園さんへのパス。
 
だがちょっと無警戒だった。やはり集中力が途切れたのだろう。一瞬早く千里が花園さんの前に立ってパスカット。そのままドリブルで走り出す。
 
しかし日吉さんがその行く手を阻む。
 
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マッチアップ。
 
複雑なフェイントを入れた上で左側からバックロールターンで抜く。でも、日吉さんが審判に見えない死角で千里のユニフォームを掴む!?
 
ここはこのまま速攻で行きたいので、走り寄ってきた久井奈さんにパス。
 
久井奈さんがゴール近くまで運ぶが、中丸さんがゴール下では頑張っている。遅れて走り込んで来た暢子にパス。暢子が中丸さんを押しのけるようにしてシュート。
 
入って2点。150対148。残り18秒。
 

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24秒以内なのでJ学園は時間稼ぎをすれば勝てる。
 
当然N高校は激しいプレスに行く。こちらはもう最後の力を振り絞っている。向こうも疲れているので、N高校の勢いに押されてボールをフロントコートに運べない。
 
このままでは8秒ルールに引っかかってしまうというところで入野さんが誰もいないフロントコートにめがけてボールを投げる。そこに日吉さんと暢子が走り込んで奪い合う。いったん日吉さんが取るも暢子がそのボールを横取り。透子さんにパスする。透子さんは自分で撃とうとしたが、大秋さんが凄いチェックをする。久井奈さんに回し、久井奈さんから千里にボールが来る。
 
花園さんが物凄い顔をして千里に詰め寄ってくる。
 
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しかし千里は一瞬にして花園さんを抜いた。
 
が、そこに中丸さんが居た。千里は構わず1回フェイントを入れてから撃つ。しかし中丸さんはそのフェイントに騙されなかった。本当のシュートのタイミングでジャンプして、千里のシュートをきれいにブロックした。
 
ルーズボールを麻樹さんが飛びつくように確保した。千里はこんなに必死な麻樹さんを初めて見る思いだった。そこからシュート。
 
しかし日吉さんがブロックする。
 
そのこぼれ玉を暢子が確保して撃つ。
 
しかし大秋さんがブロックする。
 
こぼれ球を千里と花園さんがほぼ同時に掴んだ。
 
どちらも譲らないままブザー。
 

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試合終了の合図であった。
 
花園さんが手を離し、千里はそのボールをつかんだまま座り込んでしまった。
 
何だかもう立てない気分だったが、暢子が近づいてきて手を握って起こしてくれた。昨日と逆だ。
 
千里は笑顔で立ち上がる。そして暢子・麻樹さんとハグした後、花園さんともハグした。暢子も日吉さん・中丸さんとハグしている。久井奈さんも入野さんと握手していた。
 
両チームとも完全に体力・精神力を使い果たした上での決着だった。
 
激しい戦いだったしゲーム時間だけでも55分に及ぶ長時間の戦いだった。しかし両チームのファウルが合わせて4個という非常にきれいな試合でもあった(それで後から特に表彰状をもらった)。
 
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両軍整列する。
 
「150対148で愛知J学園の勝ち」
「ありがとうございました」
 
またあちこちで握手したりハグする姿がある。千里は再度花園さんとハグしたし、日吉さん、道下さんなどとも握手した。花園さんはみどりさんともハグしていた。道大会にも出たことが無かった弱小中学バスケ部の同輩が高校で旭川と名古屋に分かれて、インターハイの準決勝で戦うというのは感無量だろう。
 
「村山さん、ウィンターカップでもやろうよ」
「はい、ぜひ」
と花園さんと千里は笑顔で言葉を交わした。
 
この試合の経過
N 24 26 17 29 14_18 _20
J 14 16 26 40 14_18 _22
N 24 50 67 96 110 128 148
J 14 30 56 96 110 128 150
 
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整列までは試合で全力を尽くした後の笑顔があったものの、ベンチに引き上げると最初に麻樹さんが泣き出し、それが伝染して、みんな泣き出した。試合に出ることの出来なかった睦子も夏恋と抱き合うようにして一緒に泣いていた。泣いていないのは千里と暢子だけだった。2人は笑顔でフロアから立ち去っていくJ学園のメンツを見詰めていた。千里と花園さんの視線が合った。彼女から闘志あふれる視線を受けて千里も力強い視線を返す。
 
千里は必ずどこかでまた彼女と戦いたいという気持ちを新たにした。
 

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千里たちがフロアを出ると、何やら人が色々居る。
 
「凄い試合でしたね。私なぜこのコートに居ないんだろうと思って見てました。それが悔しかった」
と言ったのは札幌P高校の佐藤玲央美である。
 
「佐藤さん、来ておられたんですか!」
「うちの主力はみんな見学してますよ。ウィンターカップではJ学園やF女子高と戦わないといけませんし」
「それは残念ですね。今度のウィンターカップにはまたうちが出ますから」
 
お互いに軽い言葉のジャブを打ち出して、取り敢えず笑顔で握手した。
 
旭川L女子高の溝口麻依子や大波布留子も居る。
 
「佐藤さんも村山さんも間違っている。ウィンターカップに出るのはうちだから。だけどほんとに手に汗握る試合だった。こういう場で戦いたいという気持ちを新たにしたよ」
と溝口さん。
 
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千里は溝口さんとも力強い握手をした。
 
「そちらは彼氏かな。どぞー」
と溝口さん。
 
「お疲れ様。惜しかったね」
と貴司が言った。
 
「ありがとう。ちょっと悔しい。最後のシュート私が入れてたら逆転か同点再延長だったのに」
 
「いや。もうさすがに限界だったでしょ?」
「まあね。鍛え直すよ。でも貴司、飛行機の時間いいの?」
 
「台風で運休。仕方無いからもう1泊する」
「ありゃー。S高全員?」
「そうそう」
 
「まあ、そういう訳で私たちももう1日居残り。決勝戦まで見て帰ることになったよ」
と橘花が言った。
 
「橘花、また鍛え直そうよ。練習試合やろう」
と千里。
「うん。旭川に帰ったら、また頑張ろう」
と橘花。
 
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そう言ってふたりは握手した。
 
「彼氏とはキスしなくていいの?」
「あ、えっと・・・」
 
「取り敢えず握手くらいにしときなよ」
 
と暢子が言うので、千里は貴司とも握手をした。それを佐藤さん・溝口さんや橘花が笑顔で見守っていた。
 
 
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