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第2ピリオド。
J学園は花園さん以外の4人を変えてきた。N高校も千里と暢子以外の3人を雪子・夏恋・揚羽に変える。
千里は攻守ともに花園さんと対峙する。第1ピリオドとは気合いの入り方が違うのを感じる。しかしN高校の攻撃の時は、しばしば花園さんの一瞬の隙にマークを外して、千里はスリーを撃つ。第1ピリオドの時ほど千里に話しかけなくなった花園さんが「えー!?」と言うのを何度も聞いた。
雪子はどこにパスするのにも一切相手を見ないし投げるタイミングも読みにくいので、J学園はほんとに守りにくそうにしていた。
一方のJ学園の攻撃の時、花園さんがボールを持って千里と対峙する。一瞬千里の横を抜いてドリブルで抜こうとしたかに見せて、ボールを保持して逆に後ろにステップする。しかし千里は騙されずに踏み込む。結果的にふたりの距離は離れないままである。
1度ドリブルしてしまったので、再度のドリブルはできないから撃つしかない。巧みなフェイントを入れて撃つのだが、千里は本当に撃つタイミングに合わせてジャンプする。
この場合、花園さんが得意な低い軌道のシュートは千里がことごとくブロックする。それで仕方無く高い軌道のシュートを撃つのだが、高精度のスリーポイントシューターである花園さんでも、さすがに高い軌道のシュートは必ずしも入らない。
結局第2ピリオドで花園さんが撃ったスリーポイントシュート6本の内、入ったのは2本だけであった。
一方の千里は第2ピリオドも3本のスリーと4本のツーポイントシュートを放り込んで17点をもぎ取った。
第2ピリオドを終えて、N高校が50点、J学園が30点と点差はむしろ開いている。観客席がかなりざわめいていた。
ハーフタイムで千里たちが話し合いをしていると、体育館の窓がガタガタと音を立てていた。
「台風はまともにこちらに来ていたみたいだから。でも気にしないでプレイしよう。みんな吹雪の中での試合は経験してるでしょ?」
「私は小学校のミニバス時代に吹雪の中で外で試合やったことありますよ」
などと揚羽が言う。
「それは凄い」
「ボールが全然思った方向に飛ばないし、シュートは狙うと入らないから、風に流されるのを計算して撃ってた。ブロックしたつもりが自殺点になったこともあったし。弱いパスは自分に戻ってきたりするんだよね」
「なんか壮絶な試合だ」
「バスケで自殺点って珍しいね」
「パスしたはずのボールを自分で受け取ったら何になるんだろう?」
「それ自体がドリブルとみなされるかも」
「むしろトラベリングかも」
「どっちだろ?」
「いったん地面に叩きおとして、そこからドリブルするしかないかな」
「でも吹雪の中のドリブルはまともにできん気がする」
「うん。ドリブルが困難だからパスでつなぐんだけど、そのパスがなかなかつながらないんだよ」
「やはり壮絶だ」
「だけど雪の中でのドリブルはけっこう経験あるでしょ?みんな」
「うん、やってるやってる。さすがに吹雪の中じゃしてないけど」
「千里はそれかなりやってるよね?」
「うん。今年の冬は実は雪の上でのドリプルをかなりやった」
「お正月にS高の子たちと特訓してた時もかなりしたでしょ?」
と留実子が言う。
「毎晩、夜10時頃まで外でやってたよ」
「S高の子たちと?」
「ううん」
「じぉひとりで?」
「えっと・・・」
「彼氏とに決まってるじゃん」
と留実子。
「ほほお」
「暗闇の中、雪の中だと、誰にも見られないよね」
「デート兼練習か」
「キスとかするの?」
「もちろん。抱きしめてキスしてくれたよ」
「ふむふむ」
「セックスした?」
「おうちに戻ってからするよ!」
「まあ吹雪の中でセックスしてたら凍死できそうだ」
第3ピリオド。
ついにJ学園は千里に花園さんと控えスモールフォワードの道下さんの2人が付くダブルチームをしてきた。このまま千里にスリーを撃たせていたら負けるという判断だろう。女王もお尻に火が点いてしまった感じだ。
どうも道下さんはマークの達人っぽい。花園さんだってマークが物凄く巧いのだが、道下さんはとにかくマーカーに徹して他のことは何もしなくていいからと言われて、このポジションに入ったようである。
花園さんと道下さん、2人の意識が同時に隙を見せることはまずないので、さすがの千里もマークを外すのが困難になる。千里は何とかマークを外そうと奥に走り込んだり、手前に戻ったり激しく動くが、道下さんがしっかり付いてくるので、どうしてもマークが外せない。
しかしJ学園の攻撃の時は、花園さんがたくみなフェイントを入れても、千里には全然通じない。道下さんや控えセンター米野さんなどがスクリーンに入ろうとしても、千里と花園さんの間の距離が、元々小さいので、スクリーンができず、一度無理矢理割り込んだらイリーガル・スクリーンを取られてしまった。
結果的に花園さんのスリーはほとんど封じられたままである。
それでもこのピリオド、千里が封じられていることからN高校の得点が大幅に低下し、J学園はフォワード陣の活躍で必死に追い上げてくる。第3ピリオド7分半まで行ったところで50対56と、点差6点まで詰め寄られた。
ところがここで千里をマークしている道下さんに疲れが見え始めた。千里はこのピリオド、ダブルチームされた状態で激しく左右に動き回っている。それも定常的な動きではなく、右へ行って一時停止してから、更に右へ行くなど予測困難な動きをするので、花園さんはそれほど動かないものの、細かく千里に付いてくる道下さんが、しばしば反応が遅れるシーンが見られる。
すると、花園さんから少し離れた位置で道下さんの追随が一瞬遅れた隙に久井奈さんからボールが飛んでくる。「あ」と言って花園さんがフォローに来る前にもう千里は撃っている。
こうして千里の反撃は始まった。
花園さんの攻撃が封じられていても、J学園は優秀なフォワードが何人もいるので、強引に中に進入してきて点数を奪う。またしばしば速攻でまだ各選手にそれぞれのマーカーが付く前にボールを運んで来たポイントガードがそのまま壁になって、ボールを後ろにトスあるいはハンドオフしてそこから花園さんがスリーを撃つというプレイも見せた。しかしN高校も千里がマーカーの体力限界を越えた動きで2人のマークを振り切りスリーを撃つ。
たまらず残り1分でJ学園は道下さんを下げて代わりに別の人を入れて来た。道下さんは、お疲れ様でしたという感じだ。しかし交替で出てきた人は道下さんほどの凄さは無い。千里の予測不可能な動きに翻弄されるので、千里は相手のマークを簡単に外してしまう。
結果的にはN高校は第3ピリオド残り2分で挽回し、56対67の11点差に突き放した。
しかしこの程度はまだJ学園にとって充分射程圏内である。
「千里、マーカーが2人いてもマークを外すって凄い」
とみどりさんが言う。しかし千里は答える。
「マーカーは数じゃないですよ。質なんです。花園さんが本気でマークしたら多分1対1でもかなり停められる。道下さんは花園さん以上にマークに関しては凄かった。でも後から出て来た人はそこまで無かったです」
本格的に台風が近づいているようで、窓がガタガタ鳴っている。とうとう雨も降り出したようだ。
「まあ千里を何とか停めていたのは、北海道でもL女子高の溝口さんとP高校の佐藤さんだけだったね」
「佐藤さんは凄かったよ。完璧に封じられていた」
「たぶん中継でこの試合を見てるんだろうな」
と言って千里はガタガタ音を立てている2階の窓を見詰めた。
「千里は勘が鋭いから相手がどちらに意識を集中しているかを敏感に感じとって、その反対側を抜くんだよ。だから相手もある程度の霊感持ってないと千里は停められない。たぶん佐藤さんも巫女体質」
と留実子が言う。
「ああ。佐藤さんは霊感強いと思う。でも私、霊感ゼロの貴司には完璧に停められるよ」
「それは以心伝心ってやつでしょ?」
と寿絵が言う。
「なんだ、ただのノロケか」
第4ピリオド。
J学園は千里のダブルチームをやめてしまった!?
花園さんひとりでマークする。その花園さんが千里の近くで言う。
「私、本気出すからね」
「こちらは最初から本気ですよ」
と千里は答える。花園さんは頷く。
そしてN高校の攻撃で千里に付いた花園さんは千里の前で目を瞑った!
目を瞑っていても、千里が左右に激しく動くのに、しっかり付いてくる。確かに目で見てなくても、千里の足音や床に伝わる振動で相手の動きはある程度つかめる。元々そういう感覚は発達している人だろう。しかし花園さんは千里を見ていると見た目の動きでよけい翻弄されていると考えて、敢えてその視覚を封じたのであろう。
それで千里が左右どちらに行くのかをほぼ正確に判断して、厳しいマークをする。雪子からボールが飛んでくる瞬間にパス路に飛び出したりする。もっともそれに簡単に負ける千里ではないので、強引に身体で押しのけてパスキャッチする。
しかし花園さんは千里が左右から抜こうとすると半分近く停めたものの、千里がシュートを撃つとブロックもせずに放置した。
逆にJ学園が攻めて来る場合も花園さんはこちらのコートに来た所で目を瞑って待機する。そして千里のちょっとした意識の隙を狙ってバックステップして距離を空け、そこでパスを受け取る。千里が踏み込む前に撃つ。その素早いシュート動作が美しい!と千里は思った。
結果的にこの第4ピリオドは千里と花園さんのスリーの撃ち合いになった。どちらもほとんど外さないので、シュートが決まるたびに観客席から大きなどよめきが起きていた。フォワード陣の方は、千里のマーカーを減らしたことで、パワーバランスが完全にJ学園側に行く。
こちらは暢子・揚羽を核として、留実子・穂礼・寿絵・夏恋と順次投入するのだが、実際問題として相手と勝負になるのは暢子だけで、揚羽もさすがにこの相手とやるのには経験不足、留実子でさえうまく立ち回られて、他のフォワードではスキルの高いJ学園の選手に完全には対抗できず、向こうはとにかく一番弱い所から攻めて来る。
それで点差はじわじわと縮んでいった。
その一方で花園さんと千里のスリー対決は息もつけないくらいに黙々と続いていた。
第4ピリオドも残り2分。J学園がとうとうN高校に追いついた。点数は86対86である。J学園は第4ピリオドのここまでに30点も取る猛攻であった。
相手のゴールが決まった後、雪子がドリブルで攻め上がる。この試合は第1ピリオドと第3ピリオドで久井奈さん、第2ピリオドと第4ピリオドで雪子が司令塔になっているのだが、雪子もそろそろ疲労限界である。とにかく消耗の激しい試合だ。2〜3試合やったくらい疲れている。この試合、両軍で最初からずっと出ているのは、千里と花園さんの2人だけである。
揚羽がポストの位置に入って、そこから暢子にパスして中に進入。相手のブロッカーを押しのけて強引にゴールを奪う。86対88でN高校のリード。
J学園が攻めて来て、花園さんのスリーが決まる。89対88でJ学園のリード。 しかしN高校も反撃して千里のスリーで89対91とN高校のリード。試合終了を目前にして激しいシーソーゲームが続く。
その後日吉さんが2点、暢子が2点、と取った所で残りはもう36秒しか無い。J学園が速攻で攻めて来る。花園さんがかなり遠い所から撃ち3点。94対93とJ学園のリード。残り29秒。こちらも速攻で攻める。揚羽からロングスローインで暢子が中に進入するが、向こうが必死のブロック。それで暢子は外側にいる千里にバウンドパス。千里がスリーポイントラインの外側から撃ち94対96とN高校のリード。
残りは9秒。
J学園は必死で攻め上がる。ボールが花園さんに渡る。
撃つ!
が千里が必死のジャンプで指で触る。
ボールはリングに当たったものの跳ね返る。
揚羽と中丸さんの壮絶なリバウンド争い。
いったんは揚羽が確保したかに見えたが、中丸さんは揚羽の手の中から強引にボールを奪い取った。
ゴール真下から噴水のような高いシュート!
直後にブザーが鳴る。
ボールはネットに吸い込まれた。96対96。同点!!
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女の子たちのインターハイ・高2編(14)