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■女の子たちのインターハイ・高2編(12)

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この日、試合に出ない女子部員たちはほとんどの子が女子の試合が行われている会場の観客席で応援をしており、一部の部員が男子の会場で偵察をしてくれていた。昭ちゃんは宇田先生や山本先生などに頼まれて、午前中、市内で物品の調達に走り回ってくれた。結構走り回るので、ホテルが所有しているレンタル自転車を借りてスーパーやホームセンターなどに行っていた。
 
「こちら、リクエストがあがっていたおやつです」
「おお、大漁、大漁」
 
「アクエリアスは重たいからお店の人がホテルまで届けてくれました」
「良かった良かった」
「胃薬、生理痛の薬、風邪薬は山本先生にお渡ししました」
「さんきゅ、さんきゅ」
 
この手の薬はドーピング検査に引っかかる薬(葛根湯やコンタックなど)が多い(というよりほとんど)ので、そういう心配の無い、指定の銘柄のものを買って来ている。風邪薬に関してはコルゲンコーワ錠、生理痛用にはバファリンAなどである。今回のインターハイでも何人か、抜き打ちでドーピング検査を受けさせられたらしい。(但し陽性になっても悪質と判断されない限りは注意だけで失格にはしないという話だった)コーヒーやコーラに関しても、試合前には飲まないことという指示が出ていた。コーヒーはカフェインを含んでいるので、検査直前に5−6杯飲んでいると引っかかる可能性があるらしい。昔はコーヒーを飲んでから試合に出ると闘争心が出るなんて言っていた人もあったが、現在ではそれは完璧なドーピングである。
 
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「それから着替えの下着も大量に買って来ましたから」
「助かる助かる」
 
思った以上に勝ち進んで、着替えが足りなくなって来た子も多いのである。コインランドリーにも持っていったが、そちらはさすがに1年生の女子部員が数人でやってくれている。
 
「女物の下着をたくさん買ってて変な気分にならなかった?」
「えっと・・・自分でも欲しいなって気分に」
「今、男物の下着つけてるんだっけ?」
「あ、いえ。女物ですけど・・・」
「じゃワンセット持ってけ、持ってけ」
「昭ちゃん、サイズは何?」
「あ、えっとショーツはMで、ブラはA80です」
「ふむふむ」
 
「でも蒸し暑い中、お疲れさん」
「そうなんですよ。台風接近前で風も強いけど蒸し暑いんです。だから水分補給しっかりやってました」
「水分補給はいいけど、あまりミネラルウォーターとかポカリとか飲んでるとトイレにも行きたくなるよねー」
「昭ちゃん、トイレはどちらに入るの?」
「え? 男子トイレですけど」
 
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「でも昭ちゃん、おちんちん取っちゃったという噂が」
「なんでそんな噂になるんですか?」
「おちんちん、あるの?」
「えっと、今ちょっと使えない状態で」
 
すると暢子が
「ああ、昭ちゃんのおちんちんは私が預かってるから」
などと言う。
 
「へー!」
 
「だったら昭ちゃん、男子トイレでも個室?」
「はい。小便器が使えません」
「だったら女子トイレに入ってもいいのでは?」
「入れませんよぉ!」
 
「でも昭ちゃん、女子トイレ使ったことないの?」
「あ、えっと・・・・」
 
「ほほぉ」
 

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「でも今日は自転車で随分走り回ったら、ちょっと痛かったです」
「ああ、道の悪い所とか走り回るとおしりが痛いよね」
 
「えっと、お尻はまだいいのですが。。。実は。。。」
と言って昭ちゃんは千里を見る。
 
「ああ。あの状態で自転車に乗ると、あそこが痛いよね」
と千里は笑って答える。
 
タックした状態で自転車に乗ると、衝撃がまともに押さえつけているペニスに掛かるのである。
 
「何が痛いの?」
と質問が出るので、千里は
 
「切っちゃったおちんちんの跡が痛いのでは?」
と答える。
 
「ほんとに切っちゃったんだ!」
 
「インハイが終わったら返してあげるよ」
と暢子。
 
「ほほぉ」
 
「だけどなんか少しずつ風が強くなってきました。結構最後の方は風に向かって自転車こぐのが辛かったです」
と昭ちゃんは言う。
 
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「ああ、台風がまともにこちらに来てるみたいね」
「まじで?」
「例のうさぎちゃんか」
「明日は雨みたい」
「台風で試合が中止になったりして」
 
「ボクもN高校の試合開始前に戻って来たから良かったけど、その後でかなり酷くなってきたみたいです」
「うん無事で良かった」
「昭ちゃん軽いから飛んじゃうかもと話してたよ」
「けっこう飛ばされそうな気がしました」
「昭ちゃん、豊胸手術受けない?」
「えー!?」
「おっぱい作ると、おっぱいの分だけ重たくなるよ」
「えっと・・・」
「おっぱい欲しくない?」
 
と言うと俯いて悩んでいる。どうも本当に欲しいようだ。
 

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その日の晩御飯は昨日の昼間に出ていた要望にもとづき、すきやきであった。唐津に来てからは毎日晩御飯は焼肉だったので(店は毎日変えてマンネリにはならないようにしていた)「美味しい美味しい」「夏に食べるすき焼きもいいよね」と言った声が出ていた。
 
「コーチ、明日勝ったらしゃぶしゃぶにしてください」
「いいよ。じゃ頑張ってね」
 
「優勝したらステーキで」
「そのくらいきっと教頭先生がおごってくれるよ」
「よし、決勝戦まで頑張ろう」
 

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夕食後ホテルのロビーで缶ジュース・缶コーヒーなど飲みながらおしゃべりしていたところに、玄関から中学生くらいの男の子が入ってくる。それを見た昭ちゃんが驚いたような顔をして逃げようとしたので「どうした?」といって暢子に確保される。
 
男の子はフロントで
「湧見と申しますが、旭川N高校の湧見昭一の部屋はどちらでしょうか?」
などと訊いている。
 
声変わりがまだなのか、女の子みたいな声だ。
 
「ご家族の方ですか?」
「いとこなのですが」
 
などというやりとりをしていた時、
 
「君〜、昭ちゃんはここだよ!」
と暢子が言う。
 
それでその子はフロントに一礼してから、こちらにやってくる。
 
「ありがとうございます」
と暢子に言うが、キョロキョロと探している雰囲気。
 
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「えっと・・・」
「ああ、ここ、ここ」
と暢子。
 
「昭一君!?」
とやっと彼は昭ちゃんに気付いたふう。
 
「こんにちは、えっちゃん」
と昭ちゃんも観念した感じで返事する。
 
「嘘!? 可愛い! どうしちゃったの?」
「性転換して女の子になったんだよ」
「へー!」
「名前は昭子に改名」
「夏休み明けからは女子制服で学校に通うらしいから」
「所属も男子バスケ部から女子バスケ部に移籍ね」
「まあ、いいんじゃない? 昭ちゃん可愛いし。女の子だったら良かったのにって小さい頃からよく言われてたね。とうとう性転換しちゃったんだ。手術、痛くなかった?」
「まだ性転換手術はしてないよぉ!」
 
昭一のいとこという彼は伊万里の祖父の家に来ていたものの、こちらに来るはずの昭一がなかなか来ないので、様子を見に来たらしい。
 
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「君は、中学生?」
「はい、そうです。中学3年生です」
と彼は答えたのだが、
 
「えっちゃんはバスケ強いです」
と昭ちゃんが言う。
 
「ほぉ!」

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それで、どのくらい強いの?という話になり、ホテルの駐車場に出て、ちょっと手合わせしてみる。1年生の蘭がボールを持って来てくれた。近くに居た南野コーチも一緒に付いてくる。
 
暢子が敦子を指名するので、敦子と彼とで1on1をしたら、彼は1度目は停められたものの、2度目ではバックロールターンで華麗に敦子を抜いた。
 
「凄い!」
「うまいじゃん!」
「バックロールターンできるんだ!」
「だいぶ練習しました。でも普通に抜いた方が隙が少ないよと言われてます」
「ああ、それは思った」
「回転する時にけっこう無防備になってる」
「雪子なら回転し終わった瞬間をスティールするな」
 
5回やって、彼が攻める側の時は3回敦子を抜き、敦子が攻める側の時も1回だけ敦子を停めた。
 
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「君、かなりやるね!」
 
「よし私がやる」
と言って真打ち登場で暢子が相手したが、暢子が攻める側の時は全部抜かれたものの、彼が攻める側の場合5回目で暢子を抜いた。
 
「やられた!」
「暢子を抜けるというのは凄いぞ」
「いや、この子強いよ。対戦してみれば分かる」
と暢子が言っている。
 
「君どこの中学?」
と南野コーチが訊く。
 
「深川の**中学校です」
「進学先は決めてる?」
「地元の公立高校に行こうかと思っているんですが」
「どこからもスカウトされてない?」
 
「いえ。そもそもうち、正式な部じゃないもので。バスケット同好会なんですよ。男女合わせて10人しか居ないし、顧問もバレー部の顧問が兼任でやってくれてるけど名前だけだし。お金掛かるからバスケット協会にも登録してないから、大会とかにも出てないんですよね。一応市内の他のバスケット部と練習試合させてもらってますけど」
 
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「ね、君と再度お話ししたい。良かったら住所と電話番号教えてよ」
「いいですよ」
 
と言って彼は南野コーチが渡した手帳に住所を書いた。
 
「あ、君名前は何だっけ?」
「湧見絵津子です」
 
「・・・・・」
 
「なんか女の子みたいな名前だね」
「えっと、一応ボク女なんで」
 
「えーーーー!?」
とその場に居た全員が驚いた。
 
「女の子なの!?」
「男の子だと思い込んでた!!」
 
「はい、一応おちんちんは付いてないです。おっぱい小さいけど」
「最初から女の子なの?」
 
「うちのお母ちゃんは、おちんちん付いてたけど邪魔だったからハサミで切って捨てちゃったよとかよく言うけど、多分本当は生まれた時から付いてなかったと思う。取り敢えず生理もあるし」
 
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「君、ぜひうちの女子バスケ部に入ってよ」
「うち貧乏だから、私立はちょっと」
 
「特待生枠が取れるかどうかは分からないけど、取れなくても奨学金出させるから、公立並みの負担で行けるよ」
「そうですか?」
 
「それも含めて、北海道に帰ってからゆっくりお話しさせて」
「はい」
 
そういう訳でN高校は思わぬ縁で、有望な子とのコネを確保したのであった。
 
 
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女の子たちのインターハイ・高2編(12)

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