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「神集島は元々植物のほうの《柏》の島(柏島)と書いて、牛の放牧地だったらしいです」
と真鍋さん。
「ああ。牛さんが散歩するには良い地形」
「牛さんが柏の葉を食べていたのかな」
「堅い玄武岩でできてるから、堅岩島というのがなまってカシワ島になったという説もあります」
「ふむふむ」
「神が集まる島と書くようになったのは、神功皇后がここに神様を集めたという伝説があるからなんですよ」
「神様を集めちゃうのが凄い」
「いや。神功皇后は典型的な巫女だもん」
「神功皇后か。日本には天照大神に始まって、神功皇后、持統天皇、称徳天皇、光明皇后、北条政子、日野富子、春日局と威勢の良い女性が多い」
「やはり女が強い国なんだよ、日本って」
「それで女になりたい男も出てくる」
「それ関係あるの?」
「容認されやすいかもね」
「日本では、女の子にしてあげたいってのは、わりと褒め言葉」
「日本神話では、天照大神は男装したし、ヤマトタケルは女装したし」
「ふむふむ」
「上杉謙信の女性説というのは古くからあるけど、女装者説というのもあるよね」
「まあ400年も経てば性別なんて分からないよね」
「豊臣秀吉も明智光秀も実は女だったりして」
「まさか」
「柴田勝家が女だったらびっくりするけど」
「それはさすがに有り得ない」
「でも戦国時代は偉い武将をもてなすのに、息子に女装させて酒の酌をさせたりするなんてことも行われていたらしい」
「おお、おもてなしか」
「それって、そのまま夜のお相手もするんだよね?」
「当然そうでしょ」
「気に入ってもらったら、そのまま近習として召し抱えてもらったりして」
「つまり愛人として実質お嫁入りの道か」
「そういう人生も悪くない気がするよ」
「現代ならお嫁入り前にちょっと手術受けてもらうかも」
「昔でも特にお気に入りの子は男っぽくならないように玉くらい取っちゃったかも」
「実際、女装して美人になる男の子は結構いるよね」
「あ、昭ちゃんに可愛い服を買って帰ろう」
「まあ男の娘は昔からいたろうね」
「昔の歌舞伎者とかは、女物の服を着ていたというけど、美形の歌舞伎者は女に見えちゃう人もいたかも」
「戦国時代は歌舞伎者も多かったんだろうね」
「女装くノ一とかもいたかも」
「そういえば千里は忍者になれるという説があった」
「でもくノ一なんてセックスして情報聞き出すのもお仕事だよね。どうやってセックスしたんだろう」
「やりようはあるんじゃない? 千里は性転換前から彼氏とセックスしてたみたいだし」
「いや、千里は小学生の頃、既に性転換していたという説も」
「で結局、千里は性転換済みなんだよね?」
「そうでなきゃ、女子としてインハイに出られないよ」
と千里は苦笑しながら言う。
「それは月初めに東京で再度診断受けてきたから」
と山本先生も言う。
一行は唐津城を出るとしばらく松浦川の西岸に沿って歩き、松浦橋の方に向かっていた。
「レイカーズvsフォートウェイン・ピストンズ戦の背景にはジョージ・マイカンという凄い選手の存在があったんですよね」
と穂礼はさっきの話の補足説明を続ける。話が暴走しているので停めるのもあったのだろう。
「マイカンは2mを越える長身で、動きも素早く、誰も彼に対抗できなかったんです。シュートしてもブロックされるし、リバウンドは確実に取られる。逆に彼のシュートには誰も対抗できない。18対19の点数の18点の内15点がマイカンひとりで取ったものだった」
「それはまた凄いね」
「現在はバスケットのシュートはボールが落ち始めてから叩くとゴールテンディングと言って反則になりますが、このルール(当初はバスケット・インタフェアで2001年に分離された)はマイカン対策で設けられたんです。そうしないと誰もゴールできないから」
「なるほど。ひとりの選手のためにルールが変わるというのは凄い」
「当時のNBA選手って170cm代の選手が主流だったから、そこに唐突に2mを越える選手が入って来たら、日本人小学生チームに1チームだけアメリカ人大学生が入っているような状態だったと思います。マイカンの登場でバスケットボールは背の高い人がやるスポーツになったんです」
「バスケット自体が変わっちゃったんだね」
「でも彼は逆に小さい選手への配慮もした。引退して連盟の仕事をするようになった時、スリーポイントシュートの導入をしたんですよ。これで背の低い選手でもシュート能力が高ければお仕事が出来るようになった。彼の登場でバスケは背の高い人のスポーツになったけど、彼の提言で、逆に背の低い選手でも活躍できるスポーツに再変身した」
と穂礼。
「じゃ透子ちゃんや千里ちゃんが活躍できるのは、マイカンのお陰なんだ」
と山本先生。
「マイカンがその時言ったのは、背の低いプレイヤーにチャンスを与えたいということと、内側に固まって敵を入れないように守るディフェンス方法を改めさせて、もっとエキサイティングなゲームにしたいということ」
「確かにスリーが無ければ、絶対進入させないように守れば失点を防げる」
「だからゾーンで守るチームとかにやはりスリーは有効だもん」
「千里みたいな高確率シューターがいればね」
「だけど背が低くてスリーも入れられない人はどうにもならないかな」
と寿絵からツッコミが入る。
「スリーは天性のものもあるけど、ある程度練習で進化するから頑張ってみよう。背は簡単に伸びないけど。私も中2まではむしろスリーは苦手だったんだよ。全然届かなかった。それが中3の春に突然入るようになったんだ」
と透子が言う。
「凄い!」
「それは筋力が付いたからだろうね」
と久井奈。
「あれって誰でも練習すればシューターになれるもの?」
「大学の先生が素人の大学生にいろんな距離からシュートをさせるという実験をしてみたら、完全に2つの群に別れたそうです。近くからは入るけど遠くからは入らない人たち。もうひとつがどこから撃っても入る確率があまり変わらない人たち。後者がシューター型ですね」
と穂礼。
「元々のタイプがあるのか」
「たぶん力まかせに行動するタイプとちゃんと狙うタイプじゃないのかな」
「その狙うという感覚自体が未発達だと狙えないんだと思う。それは何らかの偶然とかで鍛えられていないと使えない感覚だと思う。シューター群の人って、きっとバスケやってなくても、何か他のことでそういう感覚を鍛えてるんじゃないかな」
とみどりが発言する。
「千里はバスケット始めた中1の時からスリーが凄かったね」
と留実子が言う。
「あれは元々、小さい頃からゴミ捨てで鍛えたんだよ」
「何それ?」
「いや。鼻をかんだティッシュを捨てるのにさ。ゴミ箱の所まで行って捨てるのは辛いじゃん。特に冬とか」
「ああ。コタツから出たくないよね」
「それで投げて入れるのか」
「そうそう。それで上手くなったんだよ」
「私もゴミは投げ入れることにしよう」
「花園さんも釧路出身だし千里と同様だったりして」
松浦橋を渡る。
「長い橋ですね」
「最初は有料だったんですよ。橋の確か西側に料金所があってそこで通行料を徴収していた。ところが時々交代の時間帯があるんですよね。その時は、一時的に係員が居なくなる」
と真鍋さんの説明。
「その間に渡っちゃうんですか?」
「そうそう。でもタイミングが悪いと、渡り終える前に次の係官が来ちゃう」
「あらあら」
「その時、わざと逆向きに歩き出すんです」
「ほおほお」
「それで呼び止められる。『あんた料金は?』と。それで『すみませーん。やはりこの橋渡るのやめます』と言って戻ってくる」
「実はそれで渡り終えられるんだ!」
「頭脳プレイ!」
「今は松浦川にいくつも橋が掛かって市街地が東西に広がっているし、最近はむしろ東岸のバイパス沿いが発達してきてますけど、昔は今の唐津駅のある付近を中心とした旧市街、お城のある満島(みつしま)、そして虹の松原のある東唐津って、けっこうバラバラだったんですよ」
「城下からすると旧市街地は下町って感じかな」
「なんか職人町っぽい雰囲気ですよね」
「きっと虹の松原はゲームでいうと旅立ちの草原のような感覚」
「そういえば、英語ではスリーポイントのことを『from downtown』とも言うんですよね」
と透子が言う。
「スリーポイントエリアを下町に例えた?」
「うん。それで意味が通ってそうなんだけど、実はフレディー・ブラウンというスリーポイントの得意なシューターにちなむもの」
「ほほぉ」
「彼が下町の高校出身でダウンタウンというニックネームを持ってたんだよ」
「おっと」
「千里がオールジャパンのスリーポイント女王になったら、スリーポイントは留萌と呼ばれるようになるかも」
「おお、そのくらい頑張れ」
「男の娘とよばれるようになったりして」
「それはさすがに勘弁して〜」
「ところで今日の散歩けっこう距離歩いてない?」
と発言の少なかった麻樹から意見が出る。
「確かに結構歩いた気もするね」
「まあ唐津駅を出てからお城に登って川岸を歩いてホテルまでだいたい5kmくらいのコースかな」
と穂礼。
「実はこれも鍛錬だったのだよ」
と久井奈。
「そうだったのか!」
しかしホテルに戻ってから睦子は夏恋と敦子を誘って松原に沿って軽く1時間ほどジョギングしてきていた。揚羽とリリカも志願して付き合っていた。
一方、暢子は千里・雪子・留実子を誘ってホテルの駐車場で2on2やパスの練習で2時間近く汗を流した。途中でジョギングから戻ってきた夏恋と揚羽も参加して3on3にした。
2日目の結果。貴司たちのS高校はそこそこの所と当たり快勝。昨年は2回戦で負けたので初の2回戦突破である。また橘花たちのM高校は長身のセネガル人選手の居るチームと当たったが、春から散々やったマリアマさんを入れたチームとの対戦で鍛えたのが功を奏し、宮子がその人のマーカーになって完璧に封じた上で、橘花がどんどん点数を取り勝利することができた。千里たちのN高校も今日は長身の中国人選手と戦ったし、どちらも外人対策がうまく行った感じであった。
留萌S高校も旭川N高校・旭川M高校もこれでBEST16である。
千里たちは今日の夕食も焼肉であった。たっぷり食べて満腹したところで部屋に戻ろうとしていたところで、暢子が昭ちゃんをキャッチして
「ちょっとおいで〜」
と言って、自分の部屋(千里・寿絵・夏恋と同室)に連れ込む。
「昭ちゃん、着替え持って来てる?」
「着替えは実は祖父の家に宅急便で送っていたので、手持ちは下着1セットしかないんですよ」
「やはりね〜。それで昭ちゃんの着替え買っておいてあげたよ」
と言って、暢子はゴールドのブラ・ショーツセットに、可愛いチュニックと膝丈スカートを取り出す。どうも暢子と寿絵がお金を出して1年生の結里に買い出しに行かせたようである。
「えー?これを着るんですか?」
「私は今着ている服を無理矢理脱がせて、これを着せてみたい」
「自分で着ます! 後ろ向いててもらえませんか?」
「おっけー」
それで女子がみんな後ろを向いている間に昭ちゃんは着替えた。
「おぉ、可愛い!」
「ちゃんと女子高生に見えるよね」
と暢子と寿絵は盛り上がっている。夏恋は感心している感じだが、千里は苦笑していた。
「足の毛は無いね」
「え、えっと最近剃っているので」
「ほほぉ」
「えらい、えらい」
「ブラジャー自分で着けられた?」
「だいぶ練習しました」
昭ちゃんは普段の練習の時にも、しばしば女子更衣室に連れ込まれて女物の服を着せられている。ブラジャーを付ける練習もだいぶさせられていた。
「でもちょっと恥ずかしいです」
「それでちょっとお散歩とかしようよ」
「勘弁してください」
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女の子たちのインターハイ・高2編(4)