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■女の子たちのインターハイ・高2編(6)

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「ところで台風が発生してるね」
と南野コーチが言った。
 
「こちらに来るんですか?」
「それがどうも良く分からないコース取ってるんだよ。今は沖ノ鳥島付近にいるんだけど、進行方向がまともに九州向いているんだよね」
と言ってコーチはパソコンの画面で気象衛星の写真を出す。
 
「向きとしては九州を向いてますね」
「でもこれ右に曲がるのでは?」
「それを祈りたいね」
 
「このUsagiって何ですか?」
「台風の名前」
「へー」
「日本では台風5号と呼んでるけど、アジア名はウサギになってる」
「可愛い名前なのに凶悪なやっちゃ」
 
「可愛い名前の女の子が意外に強い性格だったりする」
とひとりが言うと
 
「ああ、それは私随分言われた」
と言っている子が何人も居る。
 
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「私とか背が高いのもあって、女の子の集団に溶け込めなかったんだよねー」
「あ、私も〜」
「バスケやることで、自分の場所を見つけたって気がする」
「同じ、同じ」
 
「高校卒業しても何らかの形で続けたいね」
「クラブチームみたいなのでもいいよね」
「クラブ作っちゃってもいいよね」
「あれ何か条件あるんだっけ?」
「審判ができる人がひとり居ればいいんだよ」
「じゃ、私審判の資格取ろうかなあ」
「女性の審判って道大会でも何度か当たったけど格好いいよね」
「うん。なんか憧れちゃう」
 
そんなことを言っている部員たちを見て南野コーチは微笑んでいた。
 
「結婚して子供産んでもママさんバスケとかで」
「あれって子供がいないと参加できないの?」
「子供いなくても結婚していれば良かったはず」
「一度でも結婚したことがあればその後離婚してても良かったはず」
「じゃ誰か男の子に頼んで1日だけ籍入れてもらおうかな」
などと危ないことを言っている子もいる。
 
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「確か結婚したことなくても、何歳とか以上なら参加できる」
「男でも参加できるんだっけ?」
「さすがにママさんバスケは女だけでしょ」
「まあ性転換すれば参加してもいいのではないかと」
 
「だってよ、昭ちゃん」
 
唐突に自分の話になったので、またまた女装させられて会議に出席している昭ちゃんは恥ずかしそうに俯いた。
 

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翌日の試合は午後一番なので、午前中はまたお寺で座禅をした後、11時すぎに早めの昼食を取るのに、唐津駅構内の割烹料理店《萬坊》に行った(このお店は2011.6.30に閉店した。呼子の本店は現在でも営業している)。
 
「美味しい!」
とあちこちで声が上がる。
 
試合前なので用心のためお刺身は避けて、火を通した料理で構成してもらったのだが、名物のいかしゅうまいにしろ、天麩羅や煮魚などにしろ、なかなか美味であった。
 
「これだけ天麩羅や煮魚が美味しければ、お刺身も美味しいよね?」
という声も出るが
 
「万一のことがあったらやばいから」
と南野コーチ。
 
「コーチ、今日の試合に勝てたら明日のお昼はお刺身かお寿司にしてくださいよ」
「そうだねぇ」
「成功報酬ということで」
「うん。じゃちょっと宇田先生に相談してみるよ」
 
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それで南野コーチは宇田先生に電話をする。こういう場合は曖昧にせず確約してしまった方が、みんながハッスルしてくれるとコーチは判断したのであろう。
 
「宇田先生のOK取れたよ」
「やった!」
「よし。明日のお昼、玄界灘のお刺身かお寿司か食べられるように、今日は勝つぞ」
「頑張ろう!」
 
とみんなが盛り上がっているのを見て、南野コーチは頷いていた。
 

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千里たちが料理に舌鼓を打ちつつ、おしゃべりに興じていた時、お店の入口に男女3人組が来て
 
「あれ?貸し切りかな?」
などと言う。
 
お店が狭いので、実際問題として、ほとんどのテーブルがN高の選手で占められていたのである。
 
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
と言って、お店の人が1つだけ空いているテーブルにその人たちを案内する。N高のメンバーがざわめく。そして向こうも「あれ?」という顔をした。
 
その3人の内の1人の若い男性は大きなテレビカメラを肩に掛けており、1人は多くのN高選手が見覚えのあるアイドル歌手・春風アルトであった。歌手とはいっても最近はむしろレポーターや司会のような仕事が多い。何かの取材中という感じだ。
 
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そのカメラを持った男性が、もう1人の四十代くらいの男性(ディレクターさんか?)に促されてカメラのスイッチを入れたようであった。春風アルトが近くのテーブルに座っていた千里にマイクを向けた。
 
「こんにちは〜。インターハイの選手さんですか?」
「そうです。こんにちは、春風アルトさん」
 
と千里は笑顔で答えた。
 
「私の名前を知っている君は誰だ?」
「有名なバスケット選手です」
「有名なんだっけ?」
「数年以内に有名になりますから」
「よし。では名乗り給え」
「村山千里・16歳です」
「彼氏はいるか?」
「いまーす」
「彼氏がいるならアイドルとしては売れないな」
「春風さんも彼氏作っちゃうといいですよ」
「それでは売れなくなる」
「彼氏に稼いでもらえばいいんです」
「それもいいなあ。って何私は人生相談してるんだ?」
 
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「取材ですか?」
「取材でなかったら何に見える?」
「カメラを使う練習とか」
「君たち、バスケットの選手だよね?」
「NBA目指して頑張ってます」
「NBAって女子も入れるの?」
「NBA初の女子選手を目指します」
「どうしてもダメと言われたら、ちょっと手術しておちんちん付けちゃって」
「性転換するのはひとつの手だよね」
「ああ、おちんちんってあると便利そう」
「おちんちん付けて立っておしっこしてみたいなあ」
「千里、おちんちんあったら便利じゃない?」
「さあ。おちんちんなんて付けたことないから分からないな」
「ふむふむ」
 
女子高生たちがあまり「おちんちん」を連呼するので、いったんカメラを停めて注意がなされる。
 
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「すみませーん」
 
その時、春風アルトが気付いたように言った。
「君、見た記憶ある。去年の春、どこかでお花見してた?」
 
「よく覚えてますね。ヨナリンの番組です。女子高生にいきなり楽器渡してバンドになるかってのです」
と千里は言う。
 
「君、ヴァイオリン弾いた子でしょ?」
「すごーい。そこまで覚えて頂いていて光栄です」
「髪がもっと長かった気がする」
「ええ。さすがにバスケやるのに不便だから切ったんですよ」
「へー。ちょっともったいないね」
「でも、あのあと、私たち本当にバンドを作ったんですよ」
「おお、凄い」
「あ、1枚差し上げます」
 
と言って千里は自分のバッグからDRKの昨年秋に作ったCDを出して春風アルトに渡す。
 
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「ありがとう! これいつも営業用か何かに持ち歩いてるの?」
「いえ。今日は誰かに渡すことになる気がしたので持って来たんです」
「すごーい!」
 
それで撮影が再開される。
 
「今日は試合これから?」
「そうでーす」
「じゃ試合に向けた抱負を」
「全力で頑張るよー」
「120点取るよー」
「今日も勝って明日のお昼はお寿司たべるよ!」
「明日の夜はすきやきが食べたいなあ」
「このまま決勝戦まで行くぞー」
 
南野コーチがそういう選手たちの言葉に微笑んでいた。
 

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そして福岡C学園との試合が始まった。
 
両者整列して、久井奈さんとC学園の小橋さんとで、キャプテン同士握手する。こちらの先発はPG.雪子 SG.千里 SF.夏恋 PF.暢子 C.揚羽で、暢子がキャプテン代行となる。揚羽と向こうの小橋さんとでティップオフ。揚羽がうまくタップして雪子がボールを確保し攻め上がる。
 
そして雪子はそのまま相手コートまで走り込み、自らシュートしてゴール!試合はN高校の先制で始まったが、相手チームにこちらのスタンドプレイを強く印象づけたプレイであった。
 
C学園の攻撃に対しては基本的にゾーンで守る。向こうに卓越したシューターが居ないのは確認済みである。ここは福岡県予選でもスリーポイントの得点がひじょうに少ない。ゾーンで守っていると、向こうはなかなか中に侵入しにくい。しかし相手はさすが強豪である。強引に中に入って来てシュートするし、近くからのシュートの精度は高い。それでも揚羽や長身の暢子がブロックする。こぼれ球は雪子や千里が拾い、単独で、あるいはふたりでパスのやりとりをしながら速攻で攻め上がるパターンを最初はよく使った。速攻を印象付けているので、向こうもできるだけ速く戻るようにしているものの、それより雪子や千里の速攻が速いのである。
 
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それで第1ピリオドを終わって20対30とN高校がリードしていた。この内千里がスリーで得た得点が15点と半分を占めている。
 

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「なんかリードしてるね」
「結構いけるかな」
という声が出るが久井奈さんが引き締める。
 
「たまたまこちらの点数が多いだけ。勝負は勝てると思った瞬間負ける。向こうはリードされたことで必死になってくるから、次のピリオドはさっきよりずっと手強いと考えた方がいい。点数は終わった時の結果にすぎない。ひとつひとつの攻撃機会を大事にしよう。イージーミスに気をつけて」
 
「まあこちらのスローインで始まったら確実に点を取って相手の攻撃は停めればいいよな」
と暢子は言う。
 
「まあ、そういうことだね」
 
「セックスと同じだよね」
と唐突に留実子が言う。
「こちらが上になった時は徹底的に遠慮無く攻める」
 
「・・・・・」
 
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「サーヤ、ここにいる子の大半はセックスなんて未経験なんだけど」
と寿絵が言う。
 
「あ、そんなもんだっけ?」
「きっと経験してるのは、君と千里と穂礼先輩くらい」
 
唐突に話が飛んできて千里も穂礼さんも苦笑する。
 
「だけど実弥って、ほんとに発想が男の子だ」
と夏恋が言う。
 
「うん。サーヤは間違い無く男の子」
と千里も言った。
 

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第2ピリオド。C学園は2年生の橋田さんと熊野さんを入れてきた。そして橋田さんが千里のマークに入った。熊野さんは揚羽対策で入れて来た感じであったが、こちらは揚羽を下げてしまう。雪子・揚羽・夏恋の代りに久井奈さん・留実子・透子さんを入れる。透子さんはスモール・フォワードのポジションである。熊野さんは結果的に留実子とマッチアップしていた。
 
橋田さんは確かに優秀なマーカーであった。瞬発力があるので、千里が多少のフェイントを入れた後でマーカーを振り切るような動きをしてもそれに付いてきて、簡単にはフリーにさせない。しかし彼女の意識の隙に千里が足音も立てずにすっと消えると見失ってしまい、あれ?あれ?と探している。むろんその間に千里はスリーを撃っている。
 
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また彼女は瞬発力はあるのだが、動き自体はわりと鈍い。それで数m以上の移動を伴うプレイでは彼女が千里に付いてこれず、結果的に振り切られてしまうことも多かった。
 
またこのピリオドは透子が入ってダブルシューターになっているので、橋田さんのマークがきついと見たら、久井奈さんは透子さんにパスし、透子がシュートするパターンもかなり使った。マークが弱くフリーになりやすい分、透子さんも結構ゴールに入れてくる。
 
リバウンドでは第1ピリオドは8割ほど揚羽が取っていたのだが、熊野さんは上手い。かなり取るが留実子も負けていない。どちらも180cmの身長があるので物凄い高さでの空中での争いが起きていた。留実子も何度かダンクを決めたが、熊野さんもダンクを叩き込んでいた。
 
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第2ピリオドを終えて48対64と点差は開いている。
 

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