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■女の子たちのインターハイ・高2編(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-08-29
 
8月1日。インターハイは4日目。4回戦(準々決勝)の4試合が行われる。昨日は2つの会場で2試合ずつ同時進行だったのだが、今日はひとつの会場で1試合ずつ行われる。当然、見物客も多い。千里たちは第4試合になっていた。
 
第1試合は10時からで橘花たちのM高校を破った岐阜F女子高と倉敷K高校であった。千里はどちらのチームも12月のウィンターカップで見ていたので少し免疫があったものの、初めて岐阜F女子高を見たメンツは無言になってしまった。
 
インターバルにやっと寿絵が言葉を発する。
 
「ここ、ほんとに女子高生のチームなの?」
「私たちと同じ年代の子たちだよ」
「強すぎる!!」
「まあ、凄いよね」
「対戦してるチームもかなり強いよね」
「まあ、私たちよりは強いだろうね」
 
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試合は86対50で岐阜F女子高が勝ったが、ポーカーフェイスの千里、厳しい目でコートを見詰める暢子、何か考えている風の雪子、そしてぼーっとしている感じの留実子を除くと、みんな雰囲気に飲まれてしまっているかのようだった。
 

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第2試合は少し置いて11:40から東京T高校と大阪E女学院の試合が予定されていたが南野コーチは宇田先生と何やら話した上で
「ちょっと出ようか」
とベンチ入りメンバーを促して会場の外に出た。
 
タクシーに分乗して虹の松原まで行く。浜辺に整列して点呼を取った。そして
 
「各自海に向かって何か叫ぶこと」
と言われる。
 
キャプテンの久井奈さんが躊躇していると、暢子が手を挙げた。
「7番・若生暢子行きます」
と言うと
 
「今日は勝つぞー!」
と叫ぶ。
 
千里も微笑んで手を挙げ「8番・村山千里行きます」と言うと
「5時間後、98対96で旭川N高校の勝ち!」
と叫んだ。
 
すると睦子が手を挙げる。
「マネージャー瀬戸睦子行きます」
と言ってから
「気合い120%!自分を信じて!あと1歩前に進めば勝てる!」
と長めのセリフを言う。
 
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それでようやく責任感を回復した久井奈さんが
「4番・キャプテン・岬久井奈、行きます」
と言って
「貪欲に行こう! 最後の最後は強い思いを持った者の勝ち」
と言った。
 
ここで留実子が手を挙げると
「6番・花和実弥行きます」
と男名前を名乗った上で
「みんな、今夜も明日も美味しい焼肉を食べよう」
と言うと、みんながどっと笑う。
 
「サーヤは男になりたいと叫ぶかと思った」
「今朝一発抜いといたから今は大丈夫」
「ふむふむ」
「抜くってどうやるんだろう」
 
しかし結果的にはこの留実子のセリフでみんなリラックスできたようで、各々思い思いのセリフを海に向かって叫んだ。
 
これで全員、さっきの試合を見たショックから何とか立ち直ったようであった。
 
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再びタクシーに乗って行ったのは地元の中学校である。
 
「宇田先生が知り合いを通じて話を付けてくれた。ここで1時間くらい軽く汗を流そう」
 
と言って、準備運動をした上で、6人対6人に分かれ、試合形式で軽い練習をした。みんなやはり身体を動かすと、気合いが乗ってくる。
 
「まあとんでもない強豪相手でも、まぐれで勝てるかも知れないよね」
「そうそう。世の中、絶対なんてことは無いんだから」
 
疲れるほどまでやっても仕方無いので30分くらいで切り上げて、その後は整理運動などに移行したが、暢子は千里を誘って1on1の練習を続けた。するとそこに睦子が
 
「私は出場しないから疲れても平気だし、パス相手に」
と名乗り出て来たので、南野コーチも入って、2on2の形で、更に練習を続ける。他の子も入ろうとしたが南野コーチが
 
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「千里ちゃんと暢子ちゃんのスタミナは特別だからいいけど、他の子は今疲れてしまうと試合に影響するからダメ」
と言って停めた。
 
結局千里と暢子はマッチングの練習を30分ほどみっちりとやった。
 
「頭が空白になったぞ」
と暢子が言うが
 
「暢子の頭はいつも空白かと思ってた」
などと寿絵に言われている。
 
「私もアルファ状態になったよ」
と千里も言う。
 
「そのアルファってのが、超能力なんかが出る状態だよね」
「そうそう」
「千里、コートの反対側の端からスリーを入れられるようになるとか」
 
「そんな確率の低いプレイはする意味が無い。確率の高いプレイを重ねることで、相手に有利に立てる。バスケットって基本的には交代で相手のゴールを攻めるスポーツだから、確率の高いことをしていった方が勝てるんだよ」
 
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「それは多くの人が忘れてしまいがちな点かもね」
と穂礼さんが言った。
 

 
今日の対戦相手については昨夜、確認していた。
 
「予想通り、秋田N高校があがってきた」
と南野コーチが言った。
 
「このチームはここにいる子の多くが新人戦を見てるよね」
というと、みな頷いている。
 
「中心選手はパワーフォワードの倉野さん。長身の沼口さんがセンターをやっているからパワーフォワードとして登録されているけど、リバウンドに強くてチームの基本的な得点源」
 
「もうひとりの中核がシューティングガードの中折さん。この人は新人戦東北大会のスリーポイント女王になっている」
 
「ただこの人、ビデオで見ていても、必ずしもスリーを撃ちませんよね」
と千里は言う。
 
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「そうそう。中に侵入してシュートできそうなら、そういう選択をしているんだよ。この人、結構フィジカルも強いから、中からも撃てるんだよね」
と南野コーチ。
 
「要するに確率の低い3点を狙うより確実性の高い2点を選択してるんだな」
と久井奈さんが言う。
 
「うん。そういうタイプみたい」
 
「実際スリーの入る確率は2−3割程度みたいですね」
「まあ、普通はそれでもかなりの高確率」
「千里や、愛知J学園の花園さんが異常なだけ」
「ああ、やはり千里は異常なんだ?」
「何を今更」
 

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「恐らく、向こうはこちらのビデオを分析して攻守を組み立てると思う」
「インターハイのここまでの試合ですよね?」
「うん。地方大会までは見てないと思う」
 
「ということは多分攻守ともに、千里対中折さん、私対倉野さんになる」
と暢子は言った。
 
「中折さんは宮城N高校の金子さんを完全に封じてたからね。シューターの封じ方が物凄く巧い」
 
「自分もシューターだから相手の動きを読めるんだよね」
 
「この試合のポイントはそのマッチアップに勝てるかどうかだな」
 

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中学校の体育館での練習が終わった後、お昼を食べに行く。午後に
試合がある日はこれまで昼食に生ものは避けるようにしていたのだが
今日はみんなの希望を入れて回転寿司を食べに行った。
 
「美味しい〜!」
 
「まぐろ、まぐろ」
と言って、ひたすらマグロを食べている子もいれば鮭専門の子もいる。みな思い思いのネタのお寿司をたくさん食べていた。千里もハマチ、イカ、シャケ、タイ、カニ、ヒラメ、甘エビ、アナゴ、と食べて、最後はマグロを食べた。
 
「千里がこれだけ食べるというのは偉い偉い」
「必勝祈願で9皿食べた」
「9がいいの?」
「9は縁起が良い数字」
「よし。私は18皿食べるぞ」
 
などと言って暢子は頑張って食べている。
 
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最後の方は
「さすがに食べ過ぎたかも」
などと言っている子が数人居た。
 
「あんたたち食べ過ぎて動けなかったら罰金だからね」
と南野コーチからまた言われている。
 
「千里、早くお腹がこなれるようにするには横になってるのがいいんだったっけ?」
「うん。血液が胃腸に行きやすくなる。但し眠らないように」
「本でも読んでればいい?」
「おしゃべりした方がいい。頭使うとそちらに血が行くから」
「なるほどー」
 
それでいったんホテルに戻って、ベッドに横になっている子も結構いたようである。
 

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千里たちが体育館に戻ったのは14時半である。既に第3試合も終わっていて会場は雑然としていた(男子の試合は別の体育館で行われている)。
 
南野コーチ、そして宇田先生からいつものようにお話がある。
「ここまで来たんだから、もう優勝するぞ!という気持ちで頑張ろう」
 
そして試合開始である。お互いに握手してから、スターティング・ファイブがコートに散る。お互いに気合い充分。
 
ティップオフ。秋田N高校の沼口さんと留実子で争い、留実子が勝ってボールを久井奈さんが確保する。攻め上がる。向こうは素早く防御態勢を作っている。暢子にパス。中に飛び込んで、かなり強引にシュート。しかしブロックされる。リバウンドを沼口さんと留実子で争い、沼口さんが確保。ポイントガードの横山さんにパスされて向こうが攻めあがって来る。
 
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久井奈さんがマッチアップ。しかし抜かれる。千里がフォローする。微妙なフェイントを入れる。千里が右に身体を一瞬動かした所で身体を回転させて自分の身体を楯にして左を抜こうとしたが、千里の身体の動き自体がフェイントなので、1回転して前を向いた瞬間、ボールをスティール。そのまま久井奈さんにトスして、久井奈さんが攻め上がる。
 
最初の3分間はお互いに攻守交替はするものの、全く点が入らなかった。
 
向こうがタイムを取った。
 

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「何話し合ってるんだろうね」
「たぶんこちらの動きが予想していたのと違っていたんだよ」
「へ?」
「いや、今日の守備体制を見てたら、速攻を物凄く警戒している。攻撃の時も中折さんと荒川さんがあまり深入りせずに浅い位置で控えていた」
「どういうこと?」
 
「向こうは多分こちらの福岡C学園との試合だけを見ている」
「ああ!」
「まあ対戦相手は福岡C学園になるものと思ってたろうからね」
 
「昨日の試合だけ見てるからうちをラン&ガンのチームと思ってたんだよ」
「それで!」
 
「向こうは多分システムを変えてくる」
 

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実際、試合が再開されると、攻撃の時、中折さんが先程までより深い位置まで来るようになった。横山さんからエンドライン近くまで行っている中折さんにパスが来る。スリーポイントラインの外側である。
 
撃つ!
 
それにきれいにタイミングを合わせて千里はジャンプしていた。
 
きれいにブロックが決まる。
 
こぼれ球を穂礼さんが取ろうとしたのだが、一瞬早く倉野さんが飛びついていた。
 
体勢を崩しながら沼口さんにパス。しかし沼口さんのそばには留実子が居て、とても撃てない。それで倉野さんにパスを戻す。そして倉野さんがシュート。
 
これが決まって2点。
 
先制したのは秋田N高校であった。
 

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こちらから攻めて行く。向こうはすばやく防御態勢を取っている。千里に中折さん、暢子に倉野さんがマークで付いている。
 
ボールを穂礼−暢子と回すが、倉野さんのマークがきついので中には入れない。それでも暢子は強引に中にドライブインする。完全に行く手を阻まれてしまう。それでも強引にシュートする!
 
上手い具合にブロックを免れてボールはバックボードに当たるが、リングには当たらないまま落ちてくる。この場合、ボールがリングに当たってないので、ルール上はシュートとはみなされず、ショットクロック(24秒計)はリセットされない。そのボールを沼口さんと争って留実子が確保。中に飛び込んできた穂礼さんにトス。そこからいったん久井奈さんに戻すが、もうショットクロックの数字は残り3秒である。
 
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久井奈さんが再度制限領域に飛び込んで来た暢子に向かって振りかぶる。
 
一瞬、相手の意識がそちらに集中する。
 
がボールは千里の所に飛んでくる。
 
受け取って即撃つ。
 
撃った直後にショットクロック(24秒計)が鳴った。
 
しかしボールはきれいにネットに飛び込む。
 
ゴールが認められて3点。
 
3対2で旭川N高校1点のリード。
 

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