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留実子は雨宮先生に何度も会っているが、他のメンツは誰か分からないようだ。それで質問が出るので
「ワンティスの雨宮三森先生」
と紹介すると
「うっそー!?」
という声があがっていた。
「でも、雨宮三森さんって男の方じゃなかったんですか?」
「私、男だけど」
「男なのに、女湯に入っていいんですか?」
「そこの千里なんて、男だった頃から何度も女湯に入っている」
「ああ、犯罪者ですよねー」
「でも、雨宮さん、おちんちん無いですね」
「隠してるのよ。千里がいつもしてたようにね」
「そんなに隠せるもんなんですか?」
「隠し方は、あとで千里に訊きなさい」
「よし。追及してみよう」
「千里も付いてるのを隠してるんだっけ?」
などと質問が出る。
「昔は隠してたよ」
と千里は笑って答える。
「今はもう隠してない?」
「私、女の子だから」
「あんた、やはり性転換手術したの?」
と雨宮先生から訊かれる。
「内緒です」
「警察に通報してみようか?」
「警察が来たら、先生こそ困るのでは?」
「私は特に疑問持たれたことないけどなあ」
「私も疑問を持たれたことはないですね」
夏恋は少し呆れたような顔をしてふたりの会話を聞いている。
「そうだ。千里、それでさ。ちょっと頼まれてくれない」
やはり下請けに出すのか。
「はい。何でしょうか?」
「明日の朝までに1曲書いてくんない?」
「いいですけど」
「南部梅林っぽく書いて。渡す相手は石丸公子」
「いいですよ」
「歌詞は既にできてるのよ。それをいつものメールアドレスに歌詞をメールして大丈夫? ノートパソコンは持ち歩いているよね?」
「試合の後、ここに来たので今は持ってないですけど、ホテルにありますよ」
「じゃよろしく。今日は負けたの?」
「勝ちましたけど」
「じゃBEST1024くらい?」
「BEST8です。2048チームも参加してインターハイやったら大変なことになりますよ」
「千里、何か雨宮さんのお手伝いとかしてるの?」
「うん。作曲してるよ」
「すごーい。どんなの書いたの?」
「うーん・・・」
千里が「言って良い話」と「言ってはいけない話」との仕分けをするのに少し悩んでいたら、雨宮先生が言っちゃう。
「ここだけの話でオフレコにしておいて欲しいんだけど、インターハイ・バスケのテーマ曲『走れ!翔べ!撃て!』は私の名前で出してるけど、本当は千里が書いた」
「うっそー!」
「あとは鴨乃清見名義の津島瑤子『See Again』とか」
「うっそー!!!」
「あれ、あちこちで品切れ起きてるらしいね」
「千里、だったら印税が凄いことになってない?」
「実は修学旅行の代金は『走れ!翔べ!撃て!』の作曲料で払ったんだよ」
「おぉ」
「もしかして千里って勤労学生?」
「まあ、それは最初からそうだったね」
と留実子が言った。
ホテルに戻ってから、暢子に訊かれる。
「雨宮さんがお股の所を誤魔化してたの、どうやってんの?」
それで千里はタックの方法を簡単に説明する。
「なるほどー。面白そう。実物を見てみたい」
「私、おちんちんもう無いから見せてあげられないなあ」
「それは、やはりおちんちんのついてる子を生け贄にすればいいんだよ」
「生け贄なの?」
「おちんちんを生け贄にささげて女の子になってもらう」
「あぁ」
それで暢子は、自分で町のドラッグストアに出かけてタックに必要な道具を買って来たようである。
「熱心だね」
「いや、おやつ買うついで」
それで、やがて生け贄ちゃんこと昭ちゃんが戻ってくると
「昭ちゃん。今夜は君を女の子に性転換させてあげるよ」
などと暢子は言う。
「えー? ボクどうなるんですか?」
「今夜を限りに君はもう男の子とサヨナラしてもらう」
「えーーー!?」
千里や暢子たちの部屋についてるお風呂で汗を流し、特にあの付近はきれいに洗っておくように言う。
「じゃ、昭ちゃん。このハサミとかみそりで、あそこを処理しなさい」
「このかみそりで、あれ切っちゃうんですか?」
「ん?」
「でもちょっと切る勇気無い」
「うーん」
と暢子は悩んでいる。
「まあ、おちんちん切っちゃってもいいけど、取り敢えず毛を切って欲しいんだけどね」
「あ、毛だったんですか! びっくりしたー」
「まあ、おちんちんを切りたくなったら病院に行ってお医者さんに切ってもらった方がいいけどね」
などと暢子が言うと何だか悩んでいる。どうも本当に切りたいようだ。
「私がやってあげようか?」
「自分でやります!」
それで暢子たちが後ろを向いている間に、昭ちゃんはあの付近の毛をハサミで切り、その後、シェービングフォームを付けてカミソリで剃ったようである。千里はその作業の様子を音で聞いていて、この子、時々実際に毛を剃ってるなと思った。
「剃りました」
「じゃ、その後は私がやってあげるよ。他の子は後ろ見てて」
と千里は言い、昭ちゃんのそばに寄る。
「私、一応戸籍上は男子だし、触っていいかな」
「あ、はい」
「じゃタックしちゃうね」
「痛くないですか?」
「まあ死にはしないよ。おちんちん取っちゃうくらいで」
「ホントに取るんですか〜?」
なんか本当に取って欲しいようだ。でも私医師免許持ってないしね〜。
千里は、おちんちんが大きくなると作業ができないので、お風呂場に行って水で冷やしてくるよう要求する。それで戻って来てから作業を始めた。
最初に睾丸を体内に押し込んでしまうのだが、これは昭ちゃんは知っていたようで自分でやってくれた。きっと時々自分でしているのだろう。それから、おちんちんの先を絆創膏で会陰(蟻の門渡り)に固定し、睾丸が無くなってぴらぴらしている陰嚢で両側から、おちんちんを包んでいく。適宜絆創膏で固定する。
「すごいですね。これ」
と昭ちゃんは何だか感動してる?
「つなぎ目が割れ目ちゃんに見えちゃうんだ?」
「そうなんだよ。これ考えた人は天才だと思う」
「これ覚えたい」
「練習すればいいよ。これだけでも下着姿になった時に盛り上がりが見えないから。テープタックというんだよ。でもこれだと水に入ったりすると外れちゃうから気をつけてね」
「水に入るというと?」
「お風呂に入ったりプールに入ったり」
すると昭ちゃんはおそるおそる訊く。
「お風呂ってどっちに入るんですか?」
「おちんちんの無い子は男湯には入れないよ」
「じゃ女湯に入るんですか?」
「入ってみる?」
「さすがに勘弁してください!」
千里はテープで仮留めした左右の陰嚢の合わせ目を今度は瞬間接着剤で留めて行く。
「固まるまで待ったら仮留めのテープは外していいよ」
テープを外すのは自分でできるだろうということで、千里は昭ちゃんから離れて手を洗い、暢子と寿絵の横に並んで座った。
「じゃ昭ちゃん、テープを取ったら見せてね」
「見せるんですか〜?」
「おちんちん見られる訳じゃないからいいじゃん」
やがてそろそろいいだろうということでテープを外す。外し終わりましたというので、暢子・寿絵・千里・夏恋はそちらを見る。
「すごーい。一見すると女の子のお股だ」
「きれいにできてるね」
「実はきれいに作るのが難しい。私もこれ覚えた時は、きれいにできるようになるまで半年くらいかかったよ」
「へー」
「でもこれマジで女湯に入れない?」
と寿絵。
「連れて行ってみようか」
と暢子。
しかし千里は
「おっぱいないから無理だよ」
と言う。
「私はこれ覚えた頃、まだ小学生だったから、胸が無くてもなんとも言われなかったんだよ」
「なるほどー」
「でも接着剤で留めたんならお湯くらい入っても平気だよね?」
「うん。はがし液を使わない限り、これが自然に外れることはない」
「だけど万一中にいる時に外れちゃったら通報されて逮捕確実」
「逮捕者が出たら、インターハイ辞退になったりして」
「それはさすがにやばいな」
「人の少ない時にでも女湯に連れ込んでみたいなあ」
と暢子。
「むしろ人が多い時が少しくらい変な子いても平気かも」
と寿絵。
すると少し考えているふうの夏恋が言った。
「千里ちゃんが女湯に入っても騒がれなかったのって、おちんちんを上手に隠していたというのもあるだろうけど、見た雰囲気が女の子だからだと思う。昭ちゃんはどんなに可愛いといっても、やはり雰囲気は男の子なんだよね。だから女湯に入れると、騒ぎになる気がする」
すると千里も微笑んで言う。
「確かに男女を見分ける時の第1ポイントは雰囲気なんだよ」
「それどうやったら偽装できる?」
「私は生まれた時から女の子の雰囲気しかなかったみたい」
「全然参考にならない話だ」
この日の他の学校の結果。貴司たちのS高校は延長戦にもつれる大激戦の末、最後は1点差で勝ち、千里たちと同様BEST8となった。
しかし橘花たちのM高校は強豪の岐阜F女子高に当たり、橘花や宮子が気合い負けせずに必死に戦って善戦はしたものの、最後は12点差で負けてしまった。負けはしたものの橘花も友子も試合後向こうの選手から握手を求められていた。最後は向こうも総力戦という感じだったようだ。
M高校はBEST16停まりであるが、10年以上前にM高校がインターハイに出た時は1回戦負けだったらしいので立派な成績である。
これで帰ることになった橘花も友子も「そちらは頑張れよ」と千里との電話で言っていた。実際には今夜まで泊まるので、橘花は伶子と1年生の宮子・輝子を誘って明日の試合を見られる所まで見た上で、帰るらしい。唐津駅を16:23に発てば旭川に戻れる最終の羽田発新千歳行きに乗ることができる。明日の第4試合は15:00開始なので、第4試合の前半くらいまでは見られるだろう。
但し大半の選手はもっと早い旭川空港行きに乗るため13:38唐津駅発で帰るらしい。これが事実上高校でのバスケット活動の最後になってしまった友子も早い便で帰る組である。
「友子さんは高校卒業後はどうするんですか?」
と千里は電話で訊いた。
「高校に入った頃はこの3年間でやめるつもりだったんだけどねー。なんかインハイまで出られて、楽しくなっちゃったよ」
「友子さん、大学進学ですよね?」
「うん。今志望校は(北海道)教育大学旭川校」
「バスケ強いじゃないですか」
「うん。強いから私みたいなの入れてくれるかなと思ってたんだけど」
「インハイまで行ったチームのシューターだもん。充分興味持ってもらえますよ」
「そうだね。少し頑張ってみようかな」
橘花とは結構技術的な話もした。
「F女子高の前田さんが凄すぎる」
と橘花は言っていた。
「この人、私と似てるでしょ?」
と千里は言う。
「分かる?」
「ビデオ見ててたぶんそうだと思った。相手の意識の隙を読んで、その瞬間にマークを外しちゃうんだよ」
「そうそう。それそれ。私、千里にそれだいぶやられてて、絶対に意識の隙を見せないように、よそを見る時も1%意識を残すように気をつけてたんだけどね。それでもやられちゃうんだよ」
「そのあたりって実際に対戦してみないと、なかなか分からないんだよね」
「うん。観戦してる人は、なんで今の動きにディフェンスは対応できなかったんだろうと思うだろうね」
「千里とやってたおかげで、かなり防いだけど、それでも今日は負けた」
「いや。向こうも負けたと思ってるかもよ」
「そのくらい頑張れたらいいけどね。どっちみち試合に負けたらどうしようもない」
そして実際にF女子高の宿舎。
「今日は彰恵ちゃん、調子悪かったの? なかなかフリーになれなかったね?」
と前田さんは同学年の大野さんから声を掛けられる。
「今日私とマッチアップした子、凄かった。全然隙が無かったんだよ」
「へー」
「普通なら相手の意識が一瞬途切れた隙に移動しちゃうんだけど、それが全く効かないんだ。他の選手とか見る時も意識の一部をこちらに残してる」
「そのあたりが実際に対峙している人以外には分からないんだろうなあ」
「多分私と似たタイプの子とかなりやった経験がある」
「札幌P高校あたりに居るのかな。今年は出て来てないけど」
「あるいはそうかも。P高校も国体やウィンターカップには出てくるだろうから、情報収集しておかないといけないね」
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女の子たちのインターハイ・高2編(8)