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■女の子たちの男性時代(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-09-05
 
2007年夏のインターハイで、千里たち旭川N高校は準決勝で愛知J学園に敗れBEST4停まりとなった。
 
インターハイは3位決定戦を行わないので、F女子高に敗れた東京T高校共々3位ということになる。N高校のメンバーは試合の後、バスで市内のショッピングセンターに移動し、そこのフードコートで軽食を取った。
 
「軽食」のはずだったのだが、「やけ食い」と称して、何だかたくさん食べている子もいる。
 
ハンバーガー屋さん、うどん屋さん、カレー屋さん、アイスクリーム屋さん、牛丼屋さん、ピザ屋さんなどが入っているが、暢子なども「消耗した!」と言って、ダブルバーガーと天麩羅うどんと牛丼大盛りとカレーと食べていた。千里は軽く牛丼を1杯だけ食べておいた。
 
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その後、また会場に戻る。そして、男子の準決勝まで終わった所で、今日の準決勝男女2試合ずつで敗れた4高校を集めた「3位の表彰式」が行われた。
 
滞在費を掛けずに今日帰ることができるようにという配慮ではあるが、実際にはこの台風で今日の帰還は困難なようである。
 

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4つの高校のベンチ入りメンバーが地元の女子高生の持つプラカードに先導されて入場し、整列する。そして主催者から
 
「平成19年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会・第60回全国高等学校バスケットボール選手権大会・女子第三位、旭川N高等学校」
と名前が読み上げられるので久井奈さんが出て行き、賞状をもらった。久井奈さんもここは笑顔である。
 
4校が表彰された後で全員3位の銅メダルを首に掛けてもらう。千里は次は別の色のメダルが欲しいなと思った。但し来年またこの大会に出るためには男子バスケット部にはなく、女子バスケット部のみに認められている「成績が20位以内なら夏の大会まで部活を認める」という特典の条件をキープする必要がある。勉強マジで頑張らなくちゃ!
 
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マネージャーの名目でベンチに座った睦子も一緒に銅メダルを掛けてもらった。睦子は「私、座っていただけなのにメダルまでもらっていいのかなあ」と言ったが、穂礼さんが「いっぱい声援してたからいいんだよ。今年は声援係だったから」と言った。
 
「でも次はコートに立ちたいですよ」
「うん。頑張れ、頑張れ」
 
表彰式の後で、ベンチ入りできなかった部員も全員入って記念写真を撮った。もちろん昭ちゃんも、まるで女子部員の一員のような顔をして写っている。スティル写真だけでなく動画も撮ったが
 
「この映像は当然来年の新入生勧誘のビデオに収録されるよな?」
「昭ちゃんは完璧に女生徒してるな」
「この写真に矛盾しないように来年の春までに性転換しておこうか」
 
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すると昭ちゃんは何やら考えている風。
 
「お、その気になってる、その気になってる」
「千里、良い病院を紹介してやりなよ」
 
「昭ちゃん、福岡で去勢手術してくれる病院知ってるけど、寄ってく?」
などと千里が言うと
 
「えー!?」
と言っている昭ちゃんはかなり本気で悩んでいる。
 

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会場から退出しようとしていたら、久井奈さんと千里が主催者に呼び止められた。
 
「旭川N高校の岬久井奈さん、それから村山千里さん」
「はい」
 
「いつ帰られますか?」
「この時間からは飛行機が無いですし、決勝戦も見たいので明日の午後の便で帰るつもりでしたが」
「もし可能でしたら、明日夕方の表彰式に、おふたりだけでも残っていていただけると助かるのですが」
「いいですよ。何かあるのでしょうか?」
と久井奈さんは宇田先生を見ながら言う。
 
「現時点では確定していないので。残っていただいても、もしかしたら何もないかも知れないのですが」
「それは構いません」
 
主催者さんが離れてから、みどりさんが
「何か特別賞でもくれるのかな?」
と言う。
 
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「千里、優秀選手賞か何かもらえるのかも」
と暢子も言う。
 
「まさか!」
「いや、候補にあがっているのかもよ。だから可能性のある子は取り敢えず残しておくのかも」
 

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この日は結局台風の影響で飛行機も新幹線も止まっていて、今日帰る予定だったM高校の橘花たち4人や、S高校の全メンバーも唐津にそのまま泊まることになったようである。但しS高校のメンバーは、バスケットの日程が終わった後開催されることになっているインターハイ弓道の試合に出る選手が、そのホテルには入ることになっているということで、この日はインターハイ事務局の斡旋で、別の旅館に泊まることになった。
 
JR筑肥線の伊万里方面はまだ動いていたので、昭ちゃんはそれで伊万里の祖父宅に移動することも可能だったが、暢子から「折角だからハイレベルな決勝戦も見ていった方がいい」と言われて、そのまま居残りである。もっとも本人もここに居るとずっと女装していられるので好都合という雰囲気もあった。完全に女装がヤミツキになったようである。
 
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一応、南野コーチは「あんたたちそれいじめじゃないよね?」と何度か注意していたが、本人は女装させられて女子部員たちと一緒に居るのをむしろ喜んでいる風であった。一年生の女子部員たちとも、何だかガールズトークをしていた。彼女たちからは「昭子ちゃん」とも呼ばれていた。
 

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表彰式のあといったんホテルに戻ったのだが、夕方、食事の前に希望者だけでも温泉に行かない?という話になる。
 
「台風が来てるのに営業してるんですか?」
「露天風呂は休みらしいけど、室内のお風呂は使えるって」
 
それで千里や暢子、夏恋と睦子、留実子や雪子、揚羽・リリカ、みどりさんに麻樹さんなど15-16人ほどで行くことになる。
 
みんなでぞろぞろと下に降りて行ってホテルのロビーを歩いていた時、暢子がロビーの女子トイレから出て来た昭ちゃんをキャッチする。
 
「昭ちゃーん」
「わっ、暢子先輩」
 
「今、君女子トイレから出て来たよね?」
「ごめんなさい。つい出来心で」
 
「君、わりと普段から女子トイレ使ったりしてない?」
「そんな訳でもないですけど」
「女子トイレ使うってことは、君は女の子だよね?」
「えっと・・・」
「男なのに女子トイレに入ったら痴漢だぞ。でも自分が女と思っているのなら女子トイレ使っても当然」
 
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「そうかも」
「だったら、私たちと一緒に来なさい」
「どこに行くんですか?」
「温泉」
 
「えっと・・・ボクは男湯でいいんですよね?」
「まさか。おちんちんの無い子は男湯に入る資格無いんだよ」
「お風呂って入るのに資格が必要なんですか〜?」
 
「そうだよ。千里なんて小学3年生の時に、おちんちん取っちゃったから、男湯に入る資格を無くして、それ以降ずっと女湯に入ってたらしいからね」
 
「え?千里先輩って、やはりそんなに小さい頃に性転換しちゃってたんですか?」
「君も早く性転換できるといいね」
「うーん・・・」
 
「昭ちゃん、女の子になりたいんだよね?」
「なりたいです」
「よし。だったら、一緒に女湯に入ろう」
「えーーー!?」
 
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千里は笑っていた。まあ、これだけ多数の女子と一緒なら、おっぱい無くても何とかなるだろう。
 

タクシーに分乗して温泉に行く。麻樹さんが代表で「おとな16名」と言って料金を払う。それでみんなで「湯」と書いてある暖簾をくぐり、その後、青い「男」と書かれた暖簾の前を通過して「女」と書かれた赤い暖簾をくぐる。昭ちゃんはさすがにおどおどしている。女子トイレはたまに使っていても、やはり女湯は初体験なのであろう。
 
みんな堂々と脱いでいるが、昭ちゃんが恥ずかしそうにしているので千里は「こちらを見ないようにして、壁を向いて脱ぐといいよ」とアドバイスしてあげた。それで昭ちゃんも服を脱いで裸になる。裸になった所で暢子から
 
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「ねえ昭ちゃん。こっち向いて」
などと言われてこちらを向かせられる。昭ちゃんは恥ずかしそうに胸をタオルで隠し、お股の所も手で隠している。
 
「昭ちゃん、けっこうウェスト細い」
「肩もなで肩だね」
 
などと言われると、何だか嬉しそう。でも視線が泳いでいる。きっと女子の裸を見慣れていないので、特にバストをまともに見ないようにしているのだろう。
 
「ちなみに女の子の裸を見て、どう感じてる」
「羨ましいと思ってます」
「うん。そう思う子なら、女湯に入れてもいいね。レッツゴー」
 
というので浴室の中に連れ込まれる。暢子と睦子が両脇に付いて、ほとんど連行して行っている感じだ。
 

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各自身体を洗ってから、湯船の中に集合する。
 
「どう?昭ちゃん、ここの湯の感想は」
「もう何だか開き直りました」
「よしよし」
と言って暢子は昭ちゃんの頭を撫でている。
 
「でもまだひとりでは入らない方がいいよ」
「うん。女湯に入りたい時は、誰か女子の友人と一緒に」
「万一の時に、弁明してくれる子がいないとやばいからね」
「とても入れません!」
「手術しちゃえば、普通に入れるようになるけどね」
 
「下はこれで誤魔化せるから、おっぱいさえ大きくしちゃえば結構女湯パスできるかもね」
「ああ、おっぱいがあるといいね」
「昭ちゃん、おっぱい欲しいよね?」
「欲しいです」
 
「千里のおっぱいって、それシリコン入れてるんだっけ?」
「シリコンは入れてないよ。基本的には女性ホルモンで大きくしてるんだけど、実はそれだけではかなり小さいから、ヒアルロン酸の注射してるんだよ」
 
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「ヒアルロン酸って、化粧水なんかに入ってるやつ?」
「そうそう。それをバストに注射すると、ワンサイズくらいアップできる」
「手術じゃないんだ?」
「うん。プチ豊胸って言うんだよ」
「へー」
 
「じゃ、昭ちゃんもそれ注射してみる?」
「ちょっと興味あるかも」
「かなり性転換に前向きになって来たな」
「やはり2学期からは女生徒ということで」
「昭ちゃん、女子制服作りなよ」
「お金無いですぅ!」
「誰か先輩でまだ持ってる人いないかな」
 
「昭ちゃん、マジで女子バスケ部に正式に移籍しない?」
「うーん。。。どうしよう?」
 
昭ちゃんは何だかほんとうに悩んでいる。
 

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そんなことも含めて、がやがややっていたら、そこに新たに女子高生くらいのグループが10人ほど入ってくる。
 
「あれ?花園さん!」
「あ、村山さんだ!」
 
それは何と愛知J学園のグループだった。
 
「そちらも温泉ですか?」
「うん。今日の試合は無茶苦茶消耗したから、疲れを明日に残さないようにと温泉に入りに来た」
「ここに来てないメンバーはホテルで死んだように眠っている」
 
「いや、ほんとにお疲れ様でした」
「そちらこそお疲れ様でした」
 
彼女たちも身体を洗ってから、湯船に入ってくる。花園さんはみどりさんとまた握手などしている。ついでにおっぱいの触りっこしてる!?
 

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「しかし台風凄いですね」
と日吉さんが言う。
 
「これ屋外の競技はできないですよね?」
と麻樹さんが言ったのに対して
 
「ああ。ソフトテニスは屋外じゃ無理ってんで、室内の会場に変更したらしいですよ」
と入野さんが言う。中学の時の同級生がソフトテニスに出場しているらしく、そちらから聞いたのだという。
 
「テニスはボールが風に飛ばされて行っちゃうよね」
「全部アウトになるな」
「ロストボール続出」
 
「でも陸上競技はそのまま強行してるらしいよ。テントが飛んでコースに入って400m走が途中で中断したりしたらしいけど」
と米野さん。
 
「きゃー、そんな中で競技やってるんですか?」
 
「しかしレース中断は気の毒」
「400mなんて無茶苦茶きついのに、2度走りたくないよね」
 
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「さすがにスケジュール通り進まなくてナイターに突入するっぽい」
「ひぇー」
 
後から聞いたのでは、この日の陸上競技が終わったのはもう夜10時頃だったらしい。台風接近中の夜中に競技をするのは無茶だが、宿泊施設の収容能力に余力が無く日程にもゆとりが無いので強行せざるを得なかったようである。
 
「体重の軽い選手は風に飛ばされそう」
「やり投げは記録低調だったらしい」
「そりゃ風で押し戻されたんでしょうね」
「強風の中で槍を投げると、どこ飛んで来るか分からなくて記録員も怖いよね」
「無茶な運営してるなあ」
 
「でもここにいる揚羽は小学生の頃、吹雪の中で屋外でバスケの試合やったことあるらしいですよ」
「それは凄い」
 
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「私たちも吹雪の中でのジョギングは随分やったね」
と花園さんがみどりさんに言う。
 
「うちは弱小だったから、体育館あまり使わせてもらえなかったもんね」
とみどりさん。
 
「それで足腰だけは鍛えさせられたなあ」
と花園さん。
 
「なるほど。スーパーシューターはそうやって基礎ができたのか」
 
「村山さんもなんか凄い環境で基礎作ってるでしょ?」
と花園さんが訊く。
「禅寺で修行したか、山伏でもしてたのでは、なんて言ってたんだけど」
 
「ええ。私は山伏ですよ」
と千里は笑顔で言う。
 
「女山伏の鑑札持ってますから」
「凄っ!」
「まじ?」
 
それはこの冬、100日山駆けをしたので美鳳さんからもらったものである。
 
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「冬山の雪の中をひたすら歩くんです」
「やはりそうやって鍛えたのか」
 

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