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■夏の日の想い出・二足のわらじ(14)
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「あ、じゃS学園の制服を頂ける話はパスで」
「もらっとけば?どうせ放送局に入る時は女子制服でしょ」
「あ、そうなんですよね。だいたいこれまでも今着ている中学の女子制服使ってました」
「それ用に取っておけばいいよ。それともL高校の女子標準服作る?」
「あまりそういう展開にはしたくないです」
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「でもこれ。私が高校に入った時に似てるなあ」
と葉月は言った。
「何かあったんですか?」
「いやあ、あの時は参った」
と笑いながら葉月は言う。
「私アクアの代役で物凄く忙しかったからさ。高校の入試について情報収集する時間も無くて。願書出した全ての高校に落ちた、と思ってたんだけどね。S学園は用紙だけもらっていて受けるつもりがなくて記入もしてなかった。ところが母に印鑑もらいに行った時、その用紙もあったもんだから母が勝手に記入して一緒に出してくれてたんだよ。自分では、2次募集もいくつも受けたけど、全部落ちて、もう行き先が無いと思ってたけど。実はS学園が通ってたからここに入ったんだよ」
(↑話の脚色が酷い。しかしあの複雑な事情を他人に説明するのは無理。そもそも全貌を理解している人が誰も居ない。千里はきれいさっぱり忘れてるし)
「2次募集!?」
「だいたい3月中旬から定員に満たなかった高校が二次募集をすることがある。思った以上に入学辞退者が出た時、あまりにも定員より少ないと文部科学省から叱られるし補助金も減らされる。だから二次募集を掛けて定員を埋めるところがあるんだよ。概して滑り止めにされるような低位校が多い。でもどの学校が募集するか、どのくらい取るかは分からない。だいたい3月中旬から掲示が出るから気をつけてないと見落とす。裕紀ちゃんの場合も、通いやすい高校の二次募集があったらすぐ応募するといいよ」
「そうします!」
やがて用賀に到着する。
葉月さんはここの6階243号に住んでいる。
男子寮に女性の今井葉月が住んでいるのも不思議だが、元々ここは葉月さんが以前住んでいたアパートを建て替えてマンションにしたもので、§§ミュージックはこのマンションの1〜5階を借りて男子寮として使っているのである。だから葉月さんの戸はここのオーナールームである。
6階にはもうひとつ戸があり、そこには大宮万葉先生の友人さんが住んでいると聞いた。何度か顔を見たが凄く頭の切れそうな女性である。上場企業の秘書室に勤めていて社長の運転手を務めているらしい。寮の駐車場に派手な色のアクアが駐めてあるが、それがその人の個人の車と聞いた。
各々のidカードで建物内に入ったあと、葉月のidカードで6階まであがる。裕紀のidカードでは4−6階に入ることはできない。
「ここ、なんで6階なのに243号室なんですかね」
「“ふしみ”の符合なんだって」
「へ?」
「伏見のおキツネさんたちと繋がるものが置いてあるんだよ。まああまり気にすることはない」
「へー」
それで葉月さんと一緒に243号室に入る。大きなお腹を抱えた桜木ワルツさんが
「いらっしゃーい、花園裕紀ちゃん」
と歓迎してくれた。
「赤ちゃん、予定日はいつですか?」
「うん。予定日は3月9日だけどね。初産は遅れがちというから少し遅れるかもね」
とワルツは言っている。
裕紀は、女同士で子どもができる訳無いから、葉月さんの兄弟とかから精子をもらって赤ちゃん作ったのかな?などと思った。もちろん父親のことは聞けない。
「これなんだけど合うかなあ。裕紀ちゃん、背丈があるし」
と葉月は奥のタンスから女子制服を出してきて言った。
確かに裕紀のほうが葉月よりも背が高い。しかし試着してみると特に問題なく着ることが出来た。
「じゃ夏服・冬服ともにあげる」
「ありがとうございます。助かります」
その後、勧められて食卓に座り、お茶とお菓子を頂いた。
「すみません。もらってばかりで」
「若い内はそれでいいんだよ。その内たくさん稼げるようになったら後輩におごってあげればいいんだし。私もよくゆりこちゃん(川崎ゆりこ副社長)やみちるちゃん(桜野みちる:桜野レイアの姉)から言われたよ」
「そんな日が来たらいいですけど」
「まあこの世界毎年100人くらいの歌手がデビューして、1年後まで生き残るのは10分の1、2年後まで残るのはその半分、なんて世界だからね。俳優はその10倍規模だけど、減衰も激しい」
「全くそうですね」
昇格試験に合格した兵庫県の杉本ひかりは、§§ミュージックから荷物が届いていたので開けて中を見た。中学の制服である。向こうの中学に進学することになるので、そこの制服だろう。
「わぁ」
と思って、取り敢えず着てみる。鏡に映してみると何だか可愛い。
母が戸惑ったような顔をしている。
「あんたその服で新しい中学に通うんだっけ?」
「通ってみたーい」
と本人。
「あんた結構そういうの似合うね」
と姉も言っている。
母は、いいんだっけ?と思いながらセーラー服を着た“息子”の姿を見ていた。
連絡を受けた佐々木春夏は
「ごめーん。間違った。だったら男子制服を作ってそちらに・・・じゃなかった。君は男子寮に入ることになるから、通う中学が違ってくるよね。すぐ手続きするね。制服はあらためて作り直して送るから」
と答えて、すぐに中学に連絡する。
この時、新採用にはもうひとり男の子がいたはずと思い出し、名前を確認して世田谷区の中学に連絡し、そちらに転入生を2人受け入れて欲しいと頼んだ。そして足立区の中学には2人転入がキャンセルになったことを伝えた。
そして長岡飛鳥の分の足立区の中学の女子制服を頼んでしまっていたのは放置して、世田谷区の中学の制服を作ってくれる業者さんに、料金は倍払うから急いで制服を作って欲しいと頼み、ふたりの採寸表をFAXした。
(↑重大なミスをしている気がするぞ)
2月27日(日). 男子寮の201,202に住んでいる三陸セレン・山鹿クロムは
「新しい子の部屋を確保したいから301,302に引っ越して」
と言われて2階から3階に荷物を移動した。
「ぼくが301でクロムが302ですか?」
「どっちでもいいよ」
と、ゆりこ副社長。
「なんかぼくたちどちらがどちらでもいいと思われているみたい」
「まあだいたいセットだね」
引越は鈴原さくら・長浜夢夜なども手伝ってくれた。花園裕紀はドラマの撮影中である。立山煌は
「女の子の部屋の荷物に触るわけには」
と言って、部屋の中には入らず、重たいもの(本の入った箱など)の移動だけ手伝ってくれた。
移動後、業者さんによる清掃と消毒が行われた。
2月28日(月).
門脇真悠(芸名:大崎忍)は3年間住んだ赤羽駅近くのマンションから用賀の男子寮寮母室に引っ越した。彼女は赤羽駅近くにあるC学園高校に通っていて、そこに近いマンションで暮らしていたが、明日は卒業式だから、そこを出て両親や妹(元弟)が住む所に引っ越すのである。
学校は明日までだが、この日に引っ越したのは2月中だと引越屋さんが安いのと、平日だと益々安いためである。マンション自体は年契約なので住んでもいても住んでいなくても3月20日までの家賃は支払わなければならない。
元々真悠は2016年のロックギャルコンテストで3位になり、信濃町ガールズに入るのにひとりで東京に出てきた。当時中学1年生だった。当初別のマンションに住んでいたが、2019年3月にC学園高校に進学するとともに赤羽に引っ越した。
2020年、真悠の父が東京に転勤になった。急な辞令で住む所を探している時間が無いので、一時的に赤羽の真悠のマンションに両親と弟が引っ越してきた。当時は1Kのマンションに親子4人が住んでいるという凄い状態だった。
その頃ちょうど§§ミュージックは男子寮を作ろうとしていた。ケイとコスモスは、タレントの母親というのが寮の管理人として最適と考え、真悠の母に寮母を頼めないかと打診した。
それで両親と弟は、男子寮の寮母室に引っ越したが、真悠本人は通学の便の問題で赤羽のマンションに住み続けた。しかし今回卒業するので、両親たちの所に同居することにしたのである。
真悠の2つ上の姉・晶は香川県の大学に通っており、元々大学近くにアパートを借りていた。現在もその大学に通学中である。
真悠の4つ下の瀬那は徳島県に居た頃は男子小学生だった。しかし2020年に中学に進学する時、ちょうどコロナ下で学校の授業がリモートになっている状況を利用して、女子制服を着た写真を学校に提出。その写真が貼られた生徒手帳が発行された。瀬那本人を見た中学の先生は瀬那を女子だと思い込み、小学校から送られてきた書類上の性別が男子になっているのは間違いだと思って性別を女子に訂正してしまった。
しかしそのままだといづれ戸籍上は男子であることがバレていたと思うが、授業の頻度が少ない中、ばれる前に東京に転校してきた。それで転校元の中学校の書類で瀬那が女子になっているので、東京の中学でも女子として受け入れられた。
つまり、中学に入った後、すぐ転校したというのが大きなポイントである。
それで瀬那は現在女子中学生をしているのである。彼女は小学5年生の時から女性ホルモンを飲んでいたので充分なバストがあるし声も女の子のような声である。睾丸は姉・真悠の勧めで除去済み。お股も常時タックしているので、女子中学生として全く破綻せずに過ごしている。
その瀬那も4月からは中学3年生である。1年後には高校に進学する。真悠は瀬那に「女子高に入っちゃえよ」と唆している。
「でもさすがに女子高はバレないかなぁ」
「夏休みの内に性転換手術受けちゃえばいいよ。手術代は出してあげるよ」
「どうしよう?」
2月28日(月)、学校が終わってから花園裕紀は寮で普段着に着替えた後、SCCの車でL高校の標準服を作っている衣料品店に行き、採寸してもらって注文をした。しかしここまで来るのに寮から2時間近く掛かったので、やはり女子寮に引っ越さないと葛飾区の高校に通うのは無理だなあと思った。
でも女子寮に入ったら絶対“解剖”されるよね?コスモス社長は気にするなと言ったけど、あれ恥ずかしいよぉ。
まあ二次募集でどこか別の高校に行くことになるかも知れないけど、ここに行くかもしれないから念のため作っておく。今混んでいるので3月20日くらいの仕上がりになると言われた。
3月2日(水).
AT3名義のデビュー?シングル『パスケースとオムレツ』が発売された。ここでAT3とは“あけぼのテレビ3人娘”の略で実際には、鈴鹿あまめ・夕波もえこ・古屋あらたの3人である。
これは昨年秋のあけぼのテレビの歌謡番組で、古屋あらたが司会をしていて、出演者のスリルボカンにからがわたのをうまくボケて切り抜けた時のことが元になっている。
「あんた1ヶ月に何回くらいオ***するの?」
「オムレツ得意だから5〜6回作りますよ」
「今何色のパ***穿いてる?」
「パスケースはライトグリーンです」
番組終了後に注意されたスリルボカンは謝って、おわびにと言って古屋あらたにこの曲を書いてくれたのである。それをこの3人で歌うことにした。伴奏音源はスリルボカン自身で作ってくれたので、AT3はその音源に歌を乗せた。
歌詞はオムレツ作りが得意な女子中生がライトグリーンのパスケースに入れた定期券(「TB←→AT3」と書かれている(*31) )を持って出掛けて行くという日常風景?を描いたものである。
(*31) "TB"は Tera Byte でも結核(Tuberculosis) でもテッカマンブレードでもタイムボカン (Time Bokan) でもなくスリルボカン (Thrill Bokan).
何の変哲も無い歌詞だが、スリルボカンの小気味好い伴奏に3人のボーカルが時にはハーモニーを作り時には呼び合うようにして、気持ち良いサウンドになっている(ボーカルアレンジ:醍醐春海)。
c/wは、水野歌絵作詞・北沢晶菜作曲『オムライス・ロック』で、オムライスへの讃歌となっている。
3人がオムライスをたくさん食べている映像が出ている。オムライスを作っているのは、アクア!である。
(アクアだからジョークになる。他の人だと落ちぶれてサポートに回っているように見える。演じたのはFだが、本人は息抜きになって楽しかったと言っていた)
伴奏をしているのは4人の男の娘? Gt.山鹿クロム B.三陸セレン Dr.花園裕紀 KB.鈴原さくら である。実際にこの4人が伴奏している。花園裕紀はピアノもうまいのだが、この4人の中できちんとリズムキープして正確にドラムスを打てるのが彼だけなのでドラムスを打ってもらった。
この4人は後述、ホワイトデーの番組でもAT3の伴奏をした(生伴奏)。
3月2日は、舞音withスイスイ『こどものうた・はるのうた』がリリースされているがアルバムなので別統計である。シングルでは姫路スピカのシングルも出ているが、3月7日(月)に発表されたウィークリーランキングで、スピカ、WindFly20に次ぐ3位になっていて本人たちがびっくりしていた。
このシングルはゆっくり売れて3月末には10万枚を突破。AT3は初シングル・初ゴールドを記録することになるが、本人たちは「おまけ、おまけ」と言っていた。
桜木ワルツは3月3日に女の子を産み落とした。赤ちゃんは比奈(ひな)と名付けられた。
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