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■夏の日の想い出・二足のわらじ(11)
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目次 8
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語り手「老人は機嫌が良く、メイドに命じてたくさんお肉を持って来させ、調理用ストーブで焼いてフリックに勧めました。フリックも商家を出てから何も食べていなかったのでたくさん食べました。老人はお酒も勧めたので、フリックはお酒もたくさん頂きました」
「フリックはやがて眠くなったので2階の客用寝室で寝せてもらいました。老人も寝ました。メイドが夜中にフリックの部屋に入って来ます」
メイドはフリックを揺り動かして
「若い人、若い人、起きて。うちの主人は本当は悪い魔法使いなんです。あなたここに居たら殺されるか馬や鹿に変えられてしまいます。早く逃げて」
と言います。
でもフリックは起きませんでした。
語り手「翌日、朝になってもフリックは起きませんでした。魔法使いの老人は出掛けます。メイドはフリックを起こして逃がそうとしますが、フリックは起きませんでした。夕方になってもフリックは寝ていたので老人は『客人はよほど疲れているのだろう』とそのまま寝かせておきました」
「その翌日の朝。フリックはやっと起きました」
「おお、客人目が覚められたか。取り敢えず朝御飯を食べてください」
と言って朝食を勧めます。
「そういえば客人は良い斧を持っておられるな。木こりでもなさっておられるのか?」
「木こりではないですが、木は切りますよ」
「だったらもし良かったらこの家の近くの木を少し伐ってもらえないだろうか。私も年を取ってなかなか体力が無くて」
「いいですよ」
と言ってフリックは家の周囲の木を言われる範囲全部伐ってしまった。
「おお、これで明るくなった。助かるよ」
と老人は感謝した。
「君は色々私を助けてくれた。私の息子と呼んでもいいかい?」
「いいですよ。私のお父さん」
それでフリックと老人は親子の契を結んだのです。
「それとも私の娘になるか?お前可愛いから女の子でも通りそうだし、女の子に変えてやろうか?」
「いえ結構です」
「そうか?ドレスをあげるから着てみなさい」
と言って、老人は純白のドレスをくれました。こんなものもらってもしょうがないのにと思ったものの。フリックはそれを荷物に入れておきました。
その日の夜、フリックが2階の部屋で寝ようとしていたらメイドの少女が入ってきます。
「あなた何度も逃げなさいって言うのに、なかなか逃げないのね」
「どうして逃げないといけないの?」
「うちの主人はああ見えて本当は悪い魔法使いなんです。これまでも人を泊めて仲良くしてたかと思うと。その内気に入らなくなると、馬とか鹿に変えてしまうの」
「うーん・・・馬にはなりたくないな」
「だから明日には産みの親の様子を見てこないといけないとか言ってこの家を出たほうがいい」
「分かった。そうする。ありがとう」
「出がけに何かお礼をしたいと主人は言うと思うの。そしたら厩舎の左から3番目の馬が欲しいと言って。きっとあなたの役に立つ」
「分かった」
「でも君は逃げなくていいの?」
「私はもっと悪い魔法使いだから。あなたを助けるのはただの気まぐれだから」
「そうなの?悪い人に見えないけど」
「人は信用できそうに見える人ほど実は信用できないから」
「ふーん」
「ついでに私こう見えても男だから」
「その言葉を信用しないことにしよう。君は信用できそうに見えるから」
語り手「それで翌朝、フリックはあなたと親子の契はしたが、産みの親の様子も見てきたいので、おいとましたいと言いました。老人は残念がりましたが、こう言いました」
「お前には色々助けてもらった。お礼に何かあげたい」
「だったら厩舎の左から3番目の馬をもらえませんか」
「3番目の馬!?さすがに3番目の馬はやれない。2番目の馬にしてくれ」
「そうですか?ではそれで」
ということでフリックは2番目の馬“ムーン”(セブンドリーム号)を受け取りました。これもかなり良い馬のように思えます。フリックは言いました。
「ありがとうございます。でも泊めてもらって御飯も食べさせてもらって、その上、馬までもらったから、お礼に何か弾きましょぅ」
と言い、フリックはフィドルを弾き始めました。
すると、老人が踊り出します。メイドも一緒に踊り出します(巻き添え)。
「これは何だか楽しい気分になってきたぞ。息子よもっともっと弾いてくれ」
と老人は笑顔で言います。
「2時間経過」と書かれたプラカードを持った黄色いドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
「これ楽しいけどそろそろ疲れてきたぞ。弾くのやめてくれない?」
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたかったのに」と言って演奏をやめました。
老人は笑顔ですが、疲れたような顔をしています。メイドの少女もかなり疲れたような感じです。
(この感じを出すために2人は撮影時に30分間踊らされた!花園裕紀は若いから平気だったが、獄楽は翌日筋肉痛が酷かったらしい)
老人は言いました。
「でもすごく楽しかった。やはりお前には3番目の馬をあげよう」
「ほんとですか!?」
それでフリックは3番目の馬“スノー”(ホワイトスノー号)をもらったのです。フリックが2番目の馬“ムーン”を返そうとすると
「その馬もおまけでやるから持って行け」
というので、そちらの馬ももらいました、
老人は更にフリックにチターと呼び笛を渡して言いました(*20).
「このチターは触るだけで勝手に鳴る。そしてその音を聞くと悲しいことを思い出してみんな泣いてしまう。それから、お前はたいていの危険は自分で切り抜けられるようだが、どうにもならない時はこの呼び笛を吹きなさい」
「わかりました」
(*20) 『魔法使いのプレゼント』では、魔法使いからもらったのが馬の他にチター、フィドル、笛の3つ。でも今回のドラマでは、フィドルは女神からもらう展開にしたので、馬・チター・笛の3つということにした。
チターというのは、スティールギターや和琴(わごん)に似た楽器で、横に貼られた多数の弦を琴爪で演奏するもの。ドイツ南部の民俗楽器で、この話のルーツがドイツにあることを想像させる。この楽器はカンテレ(kantele) になっているものもある。これはチターに似たフィンランドの楽器らしい。
映画『第三の男』のテーマ曲がチターにより演奏された。チターは演奏がとても難しく演奏できる人が少なくなりつつあると言われる。
今回のドラマではモンドブルーメのスタッフがドイツ南部で売られている本物のチターを1個買って、手回し洗濯機などと一緒に日本に持って来た。ドラマで流れた演奏は、チターの上手い人に実際に弾いてもらったものの録音である。撮影終了後は、欲しいと言ったアクアに進呈された。
原作で魔法使いからもらう楽器の効果は
zither:危機に遭ったら触りなさい
fiddle:誰も助けに来なかったら弾きなさい
flute :人が来ても危機から脱せなかったら吹きなさい
と言っている。
どうでもいいが、この物語を自動翻訳で読んでいたら「ツィター」と表示されたので「なぜこんなところにツィッターが?」と思った。読者も誤読すると思ったので今回の原稿では「チター」と表記した。
語り手「それでフリックは老魔法使いの家を出て、彼からもらった美しい馬“スノー”に乗り、“ムーン”も連れて、イナカイナカ村に向かいました。ところが魔法使いの家を出てから少しして“スノー”がしゃべったのです」
「ね。故郷の村に行っても、お父さん貧乏だから困っちゃうよ。それより新しい旅に出ようよ」
(アクアの女声)
「わっ、びっくりした。君、しゃべれるの?」
「驚くことないよ。行き先はこっちがいいな」
「分かった。君に任せる」
語り手「それでフリックは行き先は“スノー”に任せて進んで行ったのです」
フリックはやがてたくさん人が働いている所に来ました。みんな木を切っています。フリックが近づいていくと声を掛けられました。
「若い人、あんたも手伝ってくれんか」
と40代くらいの男性(釜倉@サウザンズ)。
「どうかしたのですか?」
「王様が新しい宮殿を作るからこの付近の木を伐れと言って。今日中に伐らないと全員死刑だというので」
「それは酷い。私も手伝いますよ」
と言って、フリックは自分の斧を取り出すと、どんどん木を伐っていきます。
「おお。凄い」
と声があがります。
そして半日ほどでフリックはその付近の木を全部伐ってしまったのです。
町人(まちびと)たちから、歓声と拍手が送られました。
やがて王様(太荷馬武)が来ます。木が全部伐られているのを見てびっくりしています。
「よくやった。お前たち褒美をやろう」
と言って、たくさん金貨(*21)をくれました。
「王様。この木のほとんどはそこに居るフリックが伐ってくれたものです」
「おお、それは素晴らしい。お前には特に金貨を100枚やろう」
「いえ。私は旅の者ですし、その金貨はみんなにあげてください」
というので、王様は町人(まちびと)たちに追加で金貨を配りました。歓声があがります。みんなフリックに感謝しました。
その時、王様はフリックが持っている真っ白で美しい馬に目を留めました。
「なんて美しい馬なんだ。この馬を私に売ってくれないか」
「いえ、私は旅の途中なので馬が無いと困ります」
「代わりの馬を授けるぞ」
「いえ。この馬でないと困ります」
と言っていたのですが、馬はフリックに囁きました。
「私を王様の厩舎に連れて行って1晩過ごして。そしたら全ての馬が私そっくりになるから」
(*21) この金貨は、真鍮製の小道具。3Dプリンタで型を作り1000枚製造した。表面はアクアの似顔絵!で裏面には1蔦巴(1萬円ではない)と描かれている。シリアル番号入り。
欲しいと言った出演者に記念に1枚ずつあげた。渡した金貨のシリアル番号は転売を牽制するため記録させてもらった。
それでフリックは王様に
「この馬は売れませんが、自分と馬を王様の厩舎に1晩泊めてくれたら、王様の馬が全てこの馬とそっくりになります」
と言いました。それで王様はフリックと馬(“スノー”)を王宮に連れて行きました。フリックはもう一頭の“ムーン”は町人に預かってもらいました。
夜中、フリックの馬は厩舎の飼葉桶(かいばおけ)から1口だけ餌を食べました。すると厩舎に居る全ての馬が、フリックの馬そっくりに変化したのです。(この部分はCG)
語り手「王様は喜び、フリックにたくさん金貨をくれました」
語り手「ところがこれを快く思わなかった者が居ました。厩舎の世話係(木取道雄)です。世話係は、自分がこれまで世話していた馬が勝手に姿を変えられたことを恨みました。それで王様に申し上げました」
「王様、あの若者は、自分なら3年前に行方不明になった王様の愛馬を見付け出せると申しておりますぞ」
「何?ほんとか」
それで王様はフリックを呼ぶと言いました。
「お前は3年前に行方不明になったわしの愛馬を見付けられるそうだな」
「何ですか?それは」
「3日以内に見付けてこい。見付けたら褒美に金貨100枚をやる。見付けられなかったら死刑だ」
「そんなあ」
フリックが王様のところから戻ると暗い顔をしているので馬が尋ねます。
「フリックどうしたの?」
「3年前に行方不明になった王様の愛馬を見付けて来いと言うんだよ。見付けられなかったら死刑だって」
「大丈夫。王様に言って。鶏100羽分(*22) のお肉を用意してって。それから探しに行きましょう」
(*22) 原典では牛100頭分と書かれている。牛肉は現代の牛の場合1頭分で300kg(0.3t)ほどある。100頭で30tである。馬は道路上ならだいたい自分の体重と同程度の荷物を牽引できる。悪路だともっと少なくなりオフロードではかなり少なくなる。
馬の体重を800kgとするとだいたい馬1頭が牛2頭分くらいの牛肉を運べることになる。すると牛100頭分のお肉を運ぶには馬が50頭必要である!
原典はこういうことをなーんにも考えていない。派手に牛100頭と言ってみたものだろう。
当時の馬も牛も現代のものより体重が軽いだろうから結果的に計算は同じになる。
しかし「牛2頭分のお肉」というのでは迫力が無い。それで鶏で考える。現代の鶏の肉は1羽分で1.2kgくらいである。馬1頭で運べる重さを600kgくらいと考えるとこれは鶏500羽分である。それで切りの良い所で1回目が100羽、2回目が200羽ということにした。
語り手「それでフリックが王様に言うと王様は鶏100羽分のお肉を用意してくれました。それを馬車に載せ馬に曳かせて出発します。馬は言いました」
「森の中に入ったら何もしゃべらないでね。やがて川に辿り着く。そこに馬が水を飲みに来るけど、1頭目の馬は無視して。2頭目も無視して。でも3頭目が来たら、手綱を掛けて。そして全速力で退散。でも馬を奪おうとすると多数のカラスが私たちを襲ってくる。その時、鶏肉を撒きながら逃げて。そしたらカラスたちは鶏肉のほうに行ってしまうから」
「分かった」
それでやがて川のほとりに辿り着きます。やがて一頭の芦毛の馬が水を飲みに来ますがフリックは無視しました。次に栗毛の馬が来ますが、これも無視します。そして3番目に青毛(*23) の馬が来ました。
(*23) 黒い毛の馬(black horse) のことを日本語ではなぜか“青毛”という。
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