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■夏の日の想い出・二足のわらじ(7)
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さて、花園裕紀の件だが、少し時間を遡ることにする。
花園裕紀は少し誤解していた。
彼の場合、みんな上の人は信濃町ガールズするのに去勢などする必要は無いと言っているのに実際は自分以外みんな去勢したり女性ホルモンを飲んで男性化を停めているみたいと思っていた。だから「去勢しなくていいよ」というのは、あくまで単なる建前だと思ってしまった。
それで自分が男を辞める、あるいは女の子になっちゃう、などというのを考えた場合、長浜夢夜・鈴原さくら・水森ビーナなど、既に性転換手術を終えている(と裕紀が思っている)人たちを見ていると、自分はあそこまで完璧に女の子ではないと思い(←本人がそう思っているだけ)、女として生きる自信が無いから高校進学を機に退団して“普通の男子高校生”になろうかと思って退団を申し入れていたのである。
(でもみんな“普通の女子高校生”になりたいんだろうと思った)
ところが彼が驚く事件があった。
立山きらめきちゃんの声変わりである。
彼が2021年7月にビデオガールコンテストに実質優勝してデビューまでの間、信濃町ガールズにいったん籍を置くことになった時、彼が中学1年でまだ声変わりしてないというので、てっきり去勢しているか女性ホルモンをしているものと思った。
(↑中学3年でまだ声変わりしてない自分はどうなのさ?)
ところが彼はその年の秋、声変わりが起きて声が約オクターブ低くなった。それで彼のデビューシングルには、声変わり前に録音した音源と声変わり後に録音した音源の両方が収録された。
また彼は“立山きらめき”ではなく、より男の子らしい“立山煌”の名前でデビューすることになった。
てっきり立山ちゃんは女の子歌手としてデビューするのかと思ってたのに、男の子歌手として売る道もあるの?と裕紀は驚いた(←西宮ネオンは忘れられている)。
立山煌は声変わりしたことを嬉しがっていた。
「やっとこれで女みたいな声だって言われなくて済む」
このあたりも裕紀にはよく分からない世界である。裕紀は自分自身は男の子という意識があるものの
「男みたいに“きたない”声にはなりたくない」
と思っていた。
だから自分に声変わりが来ないのを嬉しいと思っていた。ずっと女の子のような“美しい声”のままでいたいなあと思っていたし、そのためには女性ホルモン飲んだ方がいいのかなあ、と少し悩んでいた。
裕紀は、1月中旬(←動き出すのが遅い!)、退団するならやはり実家から通える高校だよなあと思い、母に地元の高校のパンフレット送ってと頼んだら、女子高のパンフレットばかり送って来た。
「あのお、ぼく男の子なんだけど」
「え?でもあんた性転換して女の子になったんでしょ?だから女の子アイドルしてるんだよね?」
うーん、ぼく親からも誤解されてるなあ、などと思っていた時、木下宏紀と話す機会があったのである。
(↑理解されているのだと思う。家の中でいつもスカート穿いてる子は女の子になりたいのだろうと普通思う)
2月中旬、学校は別であるものの同学年の水谷姉が、同じ学年の子はどこの高校に行くのだろうと思い、情報を確認している内に花園裕紀の進学する予定の高校を誰も知らないということに気付いた。
水谷姉妹は CAT Sisters の中核である。それで仕事で一緒することの多い、招き猫バンドの木下宏紀に相談した。相談する場合、水谷姉としては“男の子”の篠原倉光より“女の子”の木下宏紀のほうが相談しやすかった。
木下君は、2月19日(土)、男子寮の花園裕紀の部屋を訪ねてきた。彼のidカードは男子寮の1-4Fに入ることができる。彼は男子寮の“名誉寮長”らしい。(現在の寮長は花園裕紀!)
それで木下君は裕紀に訊いた。
「一葉ちゃん、進学する高校決めた?」
「母からは姉が通っているSY女子高校は?とか言われたんですが。生徒またはOGの娘や妹は推薦で入れるらしくて」
「それはいいけど、ちょっと遠くない?仕事に差し支えると思うけど」
うーん。。。女子高というのにはツッコまないのか?
「いえ。3月一杯で信濃町ガールズを退団しようかと思って」
「なんで?裕紀ちゃん、結構ファンも居るのに」
確かに誕生日には“男の子”ファンから結構プレゼントもらって、直筆のお礼を何十枚も書いたなあなどと思う。ホームページにはちゃんと性別:男と記載してるのに!
「信濃町ガールズの男子って、去勢したり女性ホルモンしたり、性転換手術とかも受けて女の子になっちゃう子が多いみたいだけど、ぼくは女の子として生きる自信無いなあと思って」
「それは誤解だよ。別に去勢とかする必要は無い。信濃町ガールズ男子で、性転換したのは、直江姉妹くらいだし、後は元々性転換済みだった長浜夢夜くらいだし」
「え?宏紀ちゃんもでしょ?」
「ぼくは去勢もホルモンもしてない。もちろん性転換もしてない」
「嘘でしょ1?」
だって宏紀ちゃん、女の子にしか見えないのにと思う。今日はバイクスーツだけど招き猫バンドでは大抵スカート穿いてるし。
(↑自分も今スカート穿いてるじゃん)
「たぶん一葉ちゃんに近いと思う。ぼくの睾丸は働いてないんだよ」
「あぁ!」
「全く仕事してないから取っちゃってもいいんだけどね。でも機能停止してるなら、無理して取らなくても同じことだから付けたままにしてるだけ」
「ぼくもそうかも」
と裕紀は答えた。
「それにうちの事務所が別に男の子に去勢を強要してないのは、立山煌ちゃんや西宮ネオンちゃんを見れば分かるでしょ?」
「そうか。ネオンちゃんも居ましたね!」
忘れてた!!
「だから一葉ちゃんも睾丸を積極的に取って女の子になって、将来はお嫁さんになりたいとかでなければ、付けたままにしとけばいい。一葉ちゃんの睾丸は多分もう機能停止してるから付けてても声変わりを起こすことは無い」
「そうかも。でも宏紀ちゃん、男声出ますよね?」
「これは出し方があるんだよ」
と彼は男声を出してみせた。
「すごーい」
「君も覚えない?うちの事務所、男声が出る子少ないから仕事増えるかもよ」
「やってみようかなぁ・・・いや、でも辞めようと思ってたんですが」
「辞める意味が分からない、信濃町ガールズ楽しいでしょ?」
「はい」
「だったらガールズをしてればいい。まあ4月からは高校生になってミューズという扱いになるけどね。別に歌手デビューできなくてもいいんでしょ?」
「はい。だって歌手デビューした人たちって物凄く歌がうまいもん。あそこまでは歌えないです」
「だから今のまま、男と女の境界線の壁の上を歩いてればいいんだよ。そのうち、どっちかに落ちちゃうかもしれないけど」
「あまり女の子の方には落ちたくないなあ」
「一葉ちゃん、恋愛はどっちなの?」
「恋愛したことないから分からないです」
「白雪姫の物語で白雪姫になりたい?白雪姫を助ける王子さまになりたい?」
「うーん・・・鏡になりたいかな」
「面白いね。鏡ってのは前に男が立てば男になるし、前に女が立てば女になる。つまり一葉ちゃんは男女どちらにもなれるということ」
「あっそうかも」
「夢夜ちゃんなんかは完全に女の子志向だけど、きららちゃんなんかは去勢しちゃったのに心はかなり微妙。あまり女の子になりたいようには見えない」
「そんな気もします」
「あの子に睾丸取っちゃったのならもう男にはなれないから女の子になるために女装したら?と言ったけど、女装はしたくないみたいだし。女物の下着も持ってるけど大抵男の子下着付けてるし。信濃町ガールズのユニフォームも一時キュロット穿いてたけど最近はまたショートパンツに戻してるし」
「そういえば最近はたいていショートパンツですね」
「きららちゃんは男にも女にもなりたくないのかもね」
「なんか普通のMTFさんとは違う気がします。男性化していく自分に耐えられなかったから去勢したと言ってたし」
「一葉ちゃんは男と女の両方生きてもいいかもね」
「両方生きるんですか!」
「だから男と女、二足のわらじを履く」
「そういうのも二足のわらじというんですか?」
「そうそう。ケイ会長とかは経営者と音楽家の二足のわらじ、大宮万葉先生は水泳選手と作曲家の二足のわらじ、城崎綾香さんとかは女優と小説家の二足のわらじ、信濃町ガールズの多くは中高生とタレントの二足のわらじ、アクアは男の子と女の子の二足のわらじ」
「ああ、アクアはそうかも!」
「アクアは色々言われるけど、あの人、男と女が同居してる」
「そんな気がします。男役の時は完全に男だし、女役の時は完全に女だし。実は男女の双子なのではと思っちゃいます」
「アクアは多分バイセックスの双子なんだよ。男にも女にも自在なれる双子」
裕紀は考えた。
「それあり得るかも!」
「そんなアクアを身近で観察してみない?」
「というと・・・」
「アクア映画に出てみない?今度アクアが撮る映画で、端役の男の子を演じる子を信濃町ガールズの男子の中から誰か推薦してくれないかと頼まれていたんだよ。男声が出るということなら立山煌か夢島きららだけど、きららは演技力が微妙だし、煌はまだ経験が浅い。考えてたんだけど、裕紀ちゃんが一番適任のような気がしてきて」
「うーん」
「条件は結構な演技力があること、男声が出ることと、走り幅跳びで2m以上飛べること」
「走り幅跳びですか?ぼくあまり筋力無いほうだけど、さすがに2mは楽勝です。3mくらいは飛べると思いますが」
「普通そのくらい飛べるよね。あとは男声を出す練習。ぼくが要領を教えてあげるから練習しない?」
「男声が出るようになっても女声はキープできますよね?」
「もちろん。これね、スイッチを切り替える感じなんだよ」
「へー。その映画っていつ撮影するんですか?」
「撮影は6月になると思う。その前にセリフの録音をするけど、これは多分ゴールデンウィーク明けになると思う。それまでに男声が出るようになればいい」
裕紀は考えた。
「やろうかな」
「よし。だったら退団は無しでいいね」
「はい。もう少し頑張ります」
「それで高校はどうする?女子高または女子制服で通える所に行く?男子寮からなら女子高のS学園が近いし、ぼくの母校M高校も結構寛容だし、女子寮からなら足立区T女子高校、北区C学園女子高校のほか、葛飾区L高校は制服が無いから女子標準服を着るのも自由。一葉ちゃんなら女子寮に移動したいと言えば認めてくれると思うよ」
「どうしよう?」
(↑かなり女子制服を着る気になっている)
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