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■夏の日の想い出・二足のわらじ(4)
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実は大崎忍およびヴァンドールの山口暢香・高島瑞絵は、事務所から事実上放置されていることから、事務所との契約を解除したいとコスモス社長に申し入れていた。コスモスも申し訳無いとは思っていたものの、本当に人手不足でどうにもならなかった。
そんな時、唐突に、沢村朋代(§§プロ時代からの社員で現在最古参社員)がマネージング部長を退任したいと言ってきた。彼女は元々おっとりしたタイプで、あまり“切れる”タイプではない。それで本来は彼女がタレントのスケジュールの元締めだったはずが、実際には助手の美崎瞳が事実上全員のスケジュールの最終管理をしており、みんな瞳を頼るようになっていた。それで自分は辞めるから瞳を部長にしてやってほしいと言ってきたのである。
コスモスは言った。美崎瞳をマネージングの責任者にしてしまうと、何かミスがあった時に謝る人が居ない。そういう時、沢村のほんわりとした雰囲気が役に立つのだと。だから名前だけでいいからマネージング部長に留まってほしいと。
(実際には美崎瞳はまだ21歳で部長にするには若すぎるのと、それでなくても瞳の仕事の重圧は凄まじいので、部長にして責任まで重くするより、サブという立場のほうが精神的に仕事がしやすいというのがあった)
それで沢村は辞意を撤回し形だけのマネージング部長に留まることにした。そしてだったら自分は今放置されているヴァンドールと大崎忍の面倒を見たいと言った。それでコスモスはこの5人を沢村に任せたのである。
沢村は5人と丸一日かけて話し合い、一緒にアルバムを作ろうということになった。とはいっても、アーティスト魅力が無い(「はっきり言うなあ」と5人の弁)ので、普通の楽曲でアルバムをリリースしても全く売れないだろう。そこで、今回UK(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、通称イギリス)の唱歌をとりあげようということにした。
「舞音ちゃんと水谷姉妹が童謡を歌ってるじゃん。あの子たちは優しい雰囲気があるから、子供向けの歌が似合ってると思うのよ。でもヴァンドールは大人びた雰囲気を持っている。そしたら、外国の唱歌が似合うと思う。これがうまく行ったら、次はロシア民謡とかやってもいいかもね」
(と言っていたのだが、ロシアのウクライナ侵略でできなくなり、次回はアメリカのフォークソング・ブルーグラスに行くことにした)
曲の選定は5人(主として“辞める”と言っていた暢香・瑞絵・忍の3人)に任せた所、上記のような曲のラインナップができたのである。3人はできたらイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドから同数程度の曲を選びたかったが、日本での知名度で、どうしてもスコットランドとイングランドの曲が多くなってしまった。しかし無理にあまり知られてない曲を歌うより、このまま有名曲を歌うというのでいいだろうということにした。
制作はこのように進めた。
音楽教育をしっかり受けている大崎忍がスコアを書いた上で、
(1) 最初に大崎忍がエレクトーンで仮音源を作る。
(2) この仮音源を聴きながら合奏する
Fl.南田容子 Pic.山口暢香 Cla.高島瑞絵 Oboe.佐藤ゆか Sax.大崎忍
(3) この木管楽器演奏で作った音源を聴きながら、ヴァンドールの4人が歌い、大崎忍はフィドルを弾く。
実はUKの音楽ユニット、ケルティック・ウーマンを意識した音作りである。オーボエを入れたのも、ケルティックウーマンがバグパイプを使っていることを意識している。
エレクトーンの音は最終ミクシングに残さないので、完成した音源には、リズム楽器の音は残らない。ポピュラー音楽では通常入る、ギターもドラムスも入っていない。金管楽器も入っていない。しかしそういう音作りがかえって特徴が出てよいのではないかと沢村は言った。
そして約1ヶ月間にわたる制作を経て、アルバムが完成したのである。
大して売れないだろうしと思い、3000枚しかプレスしなかったのだが、他の子のファンクラブ会報に、§§ミュージック共通のプレス情報としてこのアルバムも掲載されたことから興味を持ってくれた人もあり、最初の一週間で3000枚が売り切れてしまい、慌てて追加プレスすることになった。
2020年に出した「倶利伽羅峠の歌」なんて500枚くらいしか売れなかったのに!
しかしこのアルバムが思いもよらず売れたことから、山口暢香・高島瑞絵・大崎忍の3人は引退を撤回。4月からまた新しいアルバム作りに臨むことになった。(3月は南田容子が高崎三姉妹が歌う若杉千代トリビュートアルバムの制作スタッフをしていて時間が取れなかった)
さて、アクアは2021/11-12月にワンティスのトリビュートアルバムの制作をしていたのだが、その期間、その作業をColdFly5のメンバーで蔵原リア以外の4人、Flower Sunshine のメンバーで安原祥子・桜井真理子・立花紀子の3人がお手伝いした。その時“余った”FLower Sunshineの残り:竹原比奈子、神谷祐子、山道秋乃、水端百代の4人は女子寮の一室に放り込まれて(ほんとに4人で一室を使う)、
「あんたたち少しレッスン受けなさい」
と言われて、§§ミュージックの他の女子寮生と一緒に歌やダンス・楽器などのレッスンを受けた。
これが思わぬ効果を生み出すことになった。
ひとつの集団があれば、その中にどうしてもピンからキリまでできることになる。
太田芳絵などは、アクアとか東雲はることか、常滑舞音とか七尾ロマンとか、凄い人たちばかり見て
「自分はとてもかなわないから、もうやめよう」
などと思ってしまっていたのだが、隅田可愛(春野わかな)などから
「100人以上いる地方ガールズたちの頂点にたつ本部生」
と言われて、そうか。自分を見上げている子たちもいるんだ、というのを認識してやる気を回復した。
2021年秋の時点で退団を申し出ていた子たちなどはむしろ
「太田芳絵ちゃんみたいに歌がうまい人でも、なかなか売れないでいるから、自分たちはもうやめよう」
と思っていた。
ところがFlower Sunshine のメンツを見ていたら、
「自分たちのほうがよほど上手いぞ」
と思ってしまったのである。
つまりこれまで上ばかり見ていた子たちが初めて自分たちよりずっと下がいることに気付いてしまった。実際、今川容子など、竹原比奈子あたりから
「上手いですねー。どうしたらそんなに歌がうまくなれるんですか」
などと訊かれてしまう。
それで、この“ピンからキリ”の“キリ”付近にいた子たちの心情に変化が現れたのである。
「私そんなに下手じゃないんじゃないかなあ」
「取り敢えず楽譜は読めるようになったし」
「私年間お給料400万円くらいだけど、食事・住宅付きでこの金額って、もしかして芸能界ではいい方だったりして」
などと思うようになった。
Flower Sunshine は以前の事務所にいた頃は給料20万とかだったらしい。♪♪ハウスに移籍してから25万に上げてもらったとか。
20万から家賃・光熱費・交通費・国民健康保険・スマホ代を払うと月7万くらいしか残らないはずである。ここから洋服代・食費を払うとかなりきつい。みんな高校の学納金は親に払ってもらっていたらしい。信濃町ガールズの子たちは学費はみんな自分で払っている。
それでついに今川容子などは花ちゃんに
「私ずっと信濃町ガールズのままでもいいですか?」
などと尋ねたのである。
「まあ中学卒業したら信濃町ミューズ、22歳すぎたら信濃町エルフだけど(*5), エルフには定年は無いから60歳すぎてもやっていいよ」
「60歳でミニスカ穿く自信はないです!」
「それで65歳のアクアのバックで踊ったりしてね」
今川容子は考えた。
「それはそれで絵になる気がします」
「うん。私もジョークで言ったけど、想像してみるとそれなりに美しいかもしれない気がするよ」
と花ちゃんも言っていた。
それで今川容子は退団を撤回したのである。
「ついでに字を変えてもらえません?“容子”って南田容子ちゃんとかぶってるし」
「あれは南田容子ちゃんに“デビューまでには”芸名付けるつもりが、本人たちが自主的にリセエンヌ・ドオを始めて、芸名が付かないままになってしまったんだよねー。昔はデビュー時点で芸名付けてたから」
§§ミュージックでタレントに芸名を付けるようにしているのは、タレントを辞めた時に“普通の女の子”に戻りやすいようにするためである。本名で活動していると、辞めた後で名前を見られただけで元タレントと分かってしまう。
研修生の段階では“表には出ない”から芸名も不要と昔は考えられていた。信濃町ガールズに芸名が付けられたのは、2019年末に制作した『The源平記』に信濃町ガールズを全員出演させた時からである。この時から信濃町ガールズは名前がームページに掲載されるようになったのだが、“今川容子”もこの時に付けられた芸名である。
この時コスモスはほんの数日で15人くらいの芸名を考えている(実は東雲はるこ・町田朱美もその時に5分で決めた)。余裕が無いのでリセエンヌ・ドオは「あんたたちはリセエンヌ・ドオの名前があるからいいよね?」ということにされてしまった。
花ちゃんは名前ソフトで画数を確認してくれて、今川容子は“今川ようこ”と改名することになった。
今川容子 総19△不達挫折 天7◎開拓打破 地12△天地波乱 人13◎和合繁栄 外6◎福禄強靱
今川ようこ 総13◎和合繁栄 天7◎開拓打破 地6◎福禄強靱 人5○安定成長 外8◎質実剛健
「“今川容子”はソフトで見るとあまりいい名前ではないな。コスモス社長も多分短期間にたくさん名前付けたから画数まで見てる余裕無かったんだろうな」
と花ちゃんは言った。
(*5) 今唐突に思い付いた設定!ゆりこはスタッフなどに転身するためにミューズを辞めた子がエルフだと言っている。
本来は“信濃町ガールズ”というのは、デビューに向けて訓練中のタレント予備軍の中学生たちに名前を付けたものだったので、中学生でデビューするのが普通のアイドルの世界では、高校生の信濃町ガールズというのがそもそも想定外だった。
しかし人数がふくれあがってしまい、結果的にデビューをほぼ諦めている信濃町ガールズが増えた。しかし信濃町ガールズのまま、テレビに出たりする子も多いので、信濃町ガールズ自体が半ば集団アイドルに近い状態になりつつある。(むしろ、ジャニーズ・ジュニアとかにもっと近い)
この傾向は特に2020年春にあけぼのテレビを始めてから更に強くなった。信濃町ガールズのまま、かなりのファンメールをもらっている子もいる。B+契約の子も増えた。彼女たちはA契約(*6)の石川ポルカや大崎忍などよりよほどたくさん報酬をもらっている。
(*6) §§ミュージック・ΘΘプロなどを含む∞∞プロ系タレントの契約形態は基本的に下記の3種類(共通契約書)である。
C契約(練習生契約)地方ガールズがこれ。仕事かあった時だけ報酬を払う。専属条項が無いので他の事務所の仕事や直接の仕事をしても良い。実際、ローカルのCMなどに出ている子もいる。名前が事務所のアーティスト一覧に掲載されない。
B契約(研修生契約)一般の信濃町ガールズ本部生がこれ。仕事があれば報酬を払うが営業はしない。専任マネージャーが居ない。専属条項があるので他の事務所の仕事はできない。事務所のアーティスト一覧に名前と誕生日・性別(*7)が掲載されるしidカードも渡される。報酬の取り分は2割(業界で一般的な水準)だが、毎月の最低保証があるので大半の子は事実上の月給制。
A契約(タレント契約)歌手や女優としてデビューした子がこれ。マネージャーが付く。報酬の取り分は4割(業界最高水準)だが、毎月の最低保証は無い。
B+契約(俗称)というのは基本的にはB契約に準じるしマネージャーも居ないのだが、報酬をA契約の子と同じ4割支払うというものである。最低保証があるのかどうかは曖昧だが、最低保証が必要な金額になることはない子に適用されている。§§ミュージック独自の“運用”で他の事務所には無い。そもそも契約書はB契約のままである。
§§ミュージック以外の事務所はほとんどのタレントがB契約で、A契約しているのはトップクラスのごく一部のタレントのみである。またA契約の報酬取り分もだいたい3割である。4割も払ったら普通経営が成り立たない。
§§ミュージックが業界最高水準の4割でも経営が成り立ってきたのは、大宮とれみ、秋風コスモス、桜野みちる、そして、アクア、白鳥リズム、常滑舞音などの“スーパースター”を輩出してきたからである。
(*7) アーティストの性別は掲示しなくてもよいのではという意見が最近強まっている。
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