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■夏の日の想い出・二足のわらじ(12)

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語り手「フリックはその馬が充分水を飲み、川から離れようとした所で手綱を投げます。馬車とその馬がつながります。フリックの馬が駆け出すと、青毛の馬も走り出しました。一斉にカラスが襲ってきますが、フリックが鶏の肉を投げるとカラスたちはその肉に飛び付きました」
 
「フリックは鶏の肉を投げながら逃げます。そしてついに森を抜けて無事都まで戻ることが出来たのです。馬を連れ帰ると、王様は大喜びして、フリックに約束の倍の金貨200枚をくれました」
 

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馬係は面白くありません。それで王様に言いました。
 
「王様、あの若者は、自分なら2年前に行方不明になった王妃様を見付け出せると申しておりますぞ」
「何?ほんとか」
 
それで王様はフリックを呼ぶと言いました。
「お前は2年前に行方不明になったわしの妻を見付けられるそうだな」
「何ですか?それは」
 
「3日以内に見付けてこい。見付けたら褒美に金貨200枚をやる。見付けられなかったら死刑だ」
「そんなあ」
 

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フリックが王様のところから戻ると暗い顔をしているので馬が尋ねます。
 
「フリックどうしたの?」
「2年前に行方不明になった王様の奧さんを見付けて来いと言うんだよ。見付けられなかったら死刑だって」
 
「大丈夫。王様に言って。鶏200羽分のお肉を用意してって。それから探しに行きましょう」
 
語り手「それでフリックが王様に言うと王様は鶏200羽分のお肉を用意してくれました。それを馬車に載せ馬に曳かせようとしたら、馬は言いました」
 
「その荷物は“ムーン”に曳かせて」
「君は一緒に来てくれないの?」
「私は単に一緒に行くだけ。昨日の川の所に。そこで何が起きても驚かないで」
「うん」
 

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語り手「それでフリックは“ムーン”を預かってくれていた町人(まちびと)にお礼のお金を渡し、“ムーン”を受け取ってきました。大量の鶏肉を馬車に載せ、“ムーン”に曳かせて“スノー”を連れ、昨日の川の所まで行きました」
 
「ここで待ってて」
と言って、“スノー”は自分で川の中に入っています。
 
すると何としたことでしょう!
 
“スノー”は美しい女性の姿に変わったのです。
 
「あまりじろじろ見ないで」
とその女性(アクア:女声で)。
 
「ごめん」
と言ってフリック(アクア:男声で)は謝って目を瞑ります。
 
「目まで瞑らなくてもいいよ。魔法使いからもらったドレスを私にちょうだい」
「うん」
 
それでフリックは「お前私の娘にならないか?」と言われてもらった白いドレスを荷物から取りだして、川の中から出てきた女性に渡しました。女性がドレスを着ます。
 
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(ここまでアクアの首から下はモザイクが掛かっている。実際にはアクアは水着を着ているので裸体は曝していない。なおこのシーンは“2人のアクア”を使って撮影したので合成はしていない。ちなみに水着になったのはMである!「女の子にそんなシーンの撮影はさせられない」と言ってMが自分でした。もちろんMは女の子水着を着た。もちろん女の子の水着姿にしか見えない!)
 

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白いドレスを着た女性(アクア:女声)は言いました。
 
「私が王妃です」
「そうだったんですか!」
とフリック(アクア:男声)は驚いて言う。
 
「魔法使いに馬に変えられていたの」
「あの家の小間使いが言ってた。魔法使いは気に入らないと人を馬や鹿に変えてしまうって」
 
「私を王宮に連れてって」
「はい。王妃様」
 
それでフリックと王妃は馬車に乗ります。
 
「行くよ」
「うん」
 
語り手「フリックは“ムーン”を走らせます。一斉にカラスが襲ってきますが、フリックが鶏の肉を投げるとカラスたちはその肉に飛び付きました。その隙にどんどん先に行きます。そしてついに森を抜けて無事都まで戻ることが出来たのです」
 
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王妃を連れ帰ると、王様は大喜びして、フリックに約束の倍の金貨400枚をくれました。
 

なお帰還した王妃は「私疲れてるの」と言って王との同衾を拒み、ひとりで寝ました。
 

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フリックがほんとに王妃を連れ帰ったので、馬係は面白くありません。それで王様に言いました。
 
「フリックは調子に乗って、次の王様は自分だなどと言っています」
「何だと!?死刑だ」
 
フリックは逮捕され、弁明も許されず、裁判も無しでいきなり死刑に処されることになりました。KISSかデーモン閣下かという感じの逝かれた格好をしている斬首人(キャロル前田)が待ち構えている所にフリックは役人(メリー川本・ジェーン佐藤)に引き立てられて連れて行かれます。
 
「首を切るのは楽しみだ。おい。いきなり首を切ったほうがいい?それとも手足を切ってから首を切る?それともあそこ切ってから手足を切って首を切る?」
などと斬首人は妖しく笑いながら言っています。
 
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フリックは言いました。
「王様、死刑になる前に愛用のチターに触らせてください」
「うん。許可する」
と王様は言いました。
 
それで大臣(在杢)がフリックの荷物からチターを取り出しフリックに渡します。
 
するとチターにフリックが触った途端、チターは勝手に鳴り始めました。
 
(ドイツ民謡『哀しき羊飼い』 performed by Georg Voigtmann)
 
すると斬首人も、役人も、王様や大臣も、ぼろぼろ涙を流して泣き始めます。チターの演奏が流れる間、斬首人は役人と抱き合って泣いています。
 
「4時間経過」と書かれたプラカードを持った緑のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
 
やがてチターの演奏が終わりますが、斬首人は言いました。
 
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「悲しいことをたくさん思い出した。人を殺すなんてできないから帰る」
 
それで斬首人が帰ってしまったので今日の死刑は中止になり死刑は明日に延期になりました。
 

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王妃はその夜も「私まだ疲れてるの」と言って王との同衾を拒み、ひとりで寝ました。
 

語り手「フリックは翌日処刑されることになりました。でも斬首人が『もう人を殺すのは嫌だ』(この部分キャロル前田の声)と言って出て来ないので、王様は役人たちに絞首台を組み立てるよう命じました。役人たちは『フリックは無実です』(この部分大臣役:在杢の声)と言って拒否します。しかし王様は組立てないとお前たちを死刑にするぞと言うので、役人たちは渋々組立てました」
 
それでフリックは絞首刑にされることになります。フリックは言いました。
 
「王様。死刑になる前にぼくのフィドルを弾かせてください」
 
王様は昨日のことがあったので
「だめだ。弾かせない」
と言います。しかし大臣(在杢)はじめみんなが「弾かせていいじゃないですか」と言うので、王様は渋々許可をしました。
 
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王妃(アクア)がフリックの荷物からフィドルを取り、
「絶対助けるからね」
と小声で言ってフリック(アクア)に渡します。
 
(このシーンは葉月をボディダブルに使って2度撮影して合成)。
 

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そしてフリックがフィドルを弾き始めると、昨日は泣いてしまった廷臣たちが今日は陽気な気分になってむみんな踊り出します。
 
「なんか楽しいぞ。踊れ踊れ」
 
と言って大臣も役人たちもみんな踊っています。更にあのフリックが処刑されると聞いて集まって来ていた群衆も浮かれて踊り出しました。更には王様まで踊り始めます。
 
「6時間経過」と書かれたプラカードを持った藍色のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
 
「演奏やめてくれー。もう体力が持たない!」
と王様が叫びます。
 
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたいのに」と言って演奏をやめました。
 
王様はくたくたになって座り込みました。
 
群衆が叫びます。
 
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「死刑を中止しろ!」
「フリックは無実だ!」
「フリックは木を伐ってくれたじゃないか!」
「フリックは王様の愛馬を連れ戻したではないか!」
「フリックはお妃様を連れ戻したではないか!」
 
しかし王様は、こんなに民衆に人気があるフリックを生かしておいたら絶対自分はこいつに倒されると思いました。それで役人たちに処刑を命じますが全員拒否します。
 
「だったらわしが処刑してやる」
と言って王様は自分でフリックを絞首台に引き立てて行こうとしました。
 

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その時、王妃がフリックの荷物の中から呼び笛を取り出します。そして
「フリック!」
と言って彼にトスしました。フリックはその呼び笛を受け取ると
 
ピーーーーーーー!
 
と吹きました。
 
天がにわかに曇り、雷が鳴ります。
 
そして魔法使いが現れました。
 
「息子よ。どうしたのだ?」
と魔法使い(獄楽)は訊きます。
 
「死刑にされそうになってました」
とフリック(アクア)。
 
「そんなことはさせん」
と言って、魔法使いは絞首台を掴むと、空高く放り投げました。
 
絞首台はどこまで飛んで行ったのか分かりません。
 
「お前を死刑にしようとした奴はどいつだ?」
「王様です」
「とんでもない奴だ」
と魔法使いは王様(太荷馬武)を掴むと、空高く放り投げました、
 
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王様はどこまで飛んで行ったのか分かりません。
 
それで魔法使いは姿を消しました。
 

王妃は言いました。
「王様が居ないので代わりに私が命じます。死刑は中止です。フリックは無実です」
 
すると群衆から凄まじい拍手と歓声がありました。廷臣たちもみんな拍手をしています。
 
「明日みなさんと話し合いたいことがあります。明日もまた集まって下さい」
 
それでその日群衆は解散しました。
 

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そして翌日、人々が集まってきました。
 
王妃は町人(まちびと)たちに言いました。
 
「王様が居なくなりました。新しい王様を決めなければなりませんが、どうしましょうか?」
 
町人たちは声々に叫びました。
「フリックを王様にしよう!」
「フリックは優しい人だ。王様にふさわしい!」
 
語り手「それでフリックは王様に推挙されたのでした。王妃はフリックと結婚しました。実際にはフリックはあまり政治(まつりごと)は分からないので、王妃と大臣が話し合って政治をしました。新しい王宮を作るといって木を伐らせたところは、そんなものよりみんなのための病院や学校を建てました。それでフリック王は人気の王様になりました」
 
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語り手「フリック王は厩舎の世話人を呼びました。世話人は自分は間違い無く処刑されるだろうと、生きた心地がしませんでした」
 
「王様。願わくばできるだけ苦しまなくて済む方法で処刑してください」
と厩舎の世話人(木取道雄)。
 
「死刑にすることは無いよ。だって君が居なかったらぼくは王様になってないからね」
とフリック王は笑って言いました(*24).
 
「厩舎の世話は今後も君に頼むからよろしく」
「分かりました!」
 
王妃は馬たちを全部元の姿に戻してあげました。世話人は一所懸命働きました。
 
(*24) 原典はこのセリフを“オチ”にして終了している。
 

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語り手「1年後王妃はフリックの子ども、跡継ぎの王子を産みました」
 
赤ちゃんを抱えているアクアの姿が映る。
 
(この赤ちゃんはケイの友人、佐野敏春・麻央夫妻の第2子・桂ちゃん(2021.08.10生まれ、約7ヶ月)。ちなみに抱いているのはアクアF。Mは抱くのを怖がった)
 

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語り手「またフリックと王妃は、落ち着いた頃を見計らって結婚式を挙げました」
 
ダブレットを着たアクアと目が覚めるようなブルーのドレス(*25)を着たアクアが並んで結婚式を挙げる様子が映る(*26).
 
語り手「そして結婚パーティーの席で新しい王様になったフリックは言いました」
 
「皆さん。お祝いしてくれてありがとう。お礼に一曲弾きます」
 
それでフリック王がフィドルを弾きはじめると、パーティーの出席者はみんな楽しい気分になって踊り出します。
 
「なんか楽しいぞ」
「王様。もっともっと弾いて」
 
それでパーティーの出席者も、お祝いに集まった群衆もひたすら踊ったのでした。
 
「演奏は夜中まで8時間続きました」と書かれたプラカードを持ったすみれ色のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
 
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そしてみづほがプラカードを裏返すと「おしまい。」と書いてあった。
 

(*25) このドレスは人工ウルトラマリンで着色した。天然ウルトラマリンより鮮やかな色である。アクアが青を着るので、わかなの衣裳は青を飛ばして、緑の次は藍色に行った。
 
(*26) 放送時「アクアは本当に自分と結婚するつもりかも」という声多数。このドラマは映画『黄金の流星』公開より早いゴールデンウィークに放送された。
 
「姉弟では結婚できないのでは?」
「ほんとに姉弟なの?姉妹なのでは?」
「姉妹だと同性だからますます結婚できない」
 
 
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夏の日の想い出・二足のわらじ(12)

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