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■春枝(15)

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結局病院は岬が半陰陽であったという診断書を書いたので、松井の“性別曖昧だった股間をちゃんと女性の股間に見えるように修正した”という診断書と合わせて、岬の父は渋々ながら、岬の性別訂正を家庭裁判所に申し立てた。これが6月初旬になって通り、岬の続柄は二男から二女に変更された。岬は1週間、松井医師の病院に入院した後、6月上旬まで自宅療養してから、女子制服を着て学校に出てきた。
 
学校の方には、連休明けの段階で、弁護士さんにも同行してもらって、岬が半陰陽であったことが判明したので、性器の形を調整する手術を受けさせたこと、この後裁判所に性別の訂正も申請する予定であることも説明した。そして退院して自宅療養も終わったら女子生徒として復帰させて欲しいと言った。校長は「半陰陽なら仕方ないですね」と理解を示し、女生徒に移行することを口頭で認めてくれたので、退院してすぐ指定の洋服屋さんで採寸してもらい、セーラー服の冬服・夏服を作り、体操服も女子用を購入しておいた。
 
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そして裁判所から通知が来た時点で母はそれを学校にも提示したので、学校も学籍簿の性別を訂正してくれた(裁判所の決定が間に合わなくても事実上女生徒として扱うことは決まっていた)。
 
一方の啓太も結局5月いっぱいまで祖母の家から東京の病院に通院したが、腫瘍は最近開発された治療薬がひじょうによく利いて腫瘍のサイズが劇的に小さくなった。
 
それでこのまま様子を見て、状況次第では部分切除の手術をするが、もし化学療法だけで腫瘍が消滅した場合は手術自体が不要になる可能性もあるということであった。
 

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なおこの化学治療の副作用として男性機能が低下し、むしろ身体が女性化するというものがあるということだったが、啓太はそれはもう構わないと言った。ペニスを切断されてしまうよりはずっとマシである!
 
そういう作用が出ることが予想されたので治療開始前に精液の冷凍保存を行った。将来男性機能が回復しなかったとしても、この精液で子供を作ることができる可能性はある。
 
「冷凍ではなくフリーズドライにする方法もあるのですが。その場合は保管費用はゼロです」
「精子ってフリーズドライできるんですか!?」
「できますよ」
「・・・何か、やな感じがするから冷凍でお願いします。保管費用は払いますので」
 

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「いや、マジで胸が少し膨らんで来たんだけど」
と啓太が言ったので茜はわざわざそれを実際に見た上で
 
「ブラジャーをプレゼントしてあげようか?」
と言った。
 
これが5月下旬頃のことであった。
 
「茜のブラジャーがもらえない?」
「今すぐ男を廃業できるくらい蹴ってやろうか?」
「やめろ!それだけはやめろ!」
 
今までの茜なら言う前に蹴っていたのだが、病人なので少しだけ配慮したようである。
 
「でもこれホントにジュニアブラ着けて乳首を保護したほうがいいかも。服ですれて痛くない?」
「実は痛い」
「じゃジュニアブラ買ってきてあげるよ」
「あはは。やはりブラジャー着けるのか」
 

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ふたりがそんなことを言いながら、じゃれて(?)いた時、病室に
「失礼します」
と言って、40歳くらい(と茜は思った)の女性が入って来た。
 
「金沢ドイルさん!?」
 
岬が『金沢ドイルの北陸霊界探訪』という番組のビデオを送って来てくれたのだが、入って来た女性はその番組に出演している霊能者さんと思えた。そしてその番組の中で、天狗岩が崩壊した時、その根本から男性能力を低下させる霊気?のようなものが噴出していたため、ここに来た男性はその影響を受けると番組内で言っていたのである。岬は
 
《私が女の子になっちゃったの、そのせいかも。でもこれ啓太君にも影響が出ていたかも》
 
とコメントしていた。啓太はあり得るかもしれないとは思ったものの、元々幽霊とか死後の世界とかは信じていないので、眉唾な話と考えていた。
 
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「唐突にお邪魔してすみません。私、金沢ドイルという名前でテレビ出演もしております、霊能者の川上瞬葉と申します」と言って青葉は
 
《霊能者・川上瞬葉》
 
という名刺を渡す。
 
「実はそちら様が、曲木町の天狗岩に行っていたのではという情報を掴みまして。実はあの岩が倒れた時に、有害物質が噴出するようになっていて、そこを訪れた男性には男性能力の低下や女性化作用が出ると思われたのです。それであそこに行った男性がいないか探していたのですよ」
 
「そうなんですか!」
 
わざわざ被害の出た人を探したりするほどというのは、もしかしてこれはマジにやばかったのかも知れないと啓太は思った。
 
「実は、あの時、行った依田先生ご自身も身体が女性化してしまって」
「え〜〜〜!?」
「胸も大きくなって、ペニスはほとんど無いような状態にまでなっていたのですが」
「マジですか!?」
「私の姉が先生と偶然関わって、除霊したら、男性の身体に戻ったんですよ」
「きゃー」
 
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「それで依田先生に、その時一緒に行った生徒さんの中に男子はいませんでしたか?とお聞きしたら、平野さんがいたということでしたので、私は依田先生から依頼されて、フォローに来ました」
 
「先生に・・・」
 
「今拝見した所、確かに平野さんには、変なものが憑いているのですが、これを浄霊してもいいですか? 費用は依田先生から頂いています」
 
「お願いします!」
と茜が言った。
 
それで病院のベッドの横で青葉は“藤雲石”の大きな数珠を取り出すと、目を瞑って何か唱えている様子だった。
 
「終わりました。きっと腫瘍も急速に小さくなると思いますよ」
と青葉は笑顔で言った。
 
「助かります!」
「それでは私はこれで。たぶん依田先生も追ってこちらにおいでになると思います」
「分かりました」
 
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実際、依田怜は6月1日(土)に啓太が入院している東京の病院を訪問し
 
「君が病気になったのは僕のせいだ。本当に申し訳無い」
と祖母と母もいる前で病院の床に土下座して謝った。
 
しかし本人も母も「頭を上げて下さい」と言い、
 
「こういうのは不可抗力ですよ。先生が手配してくださった霊能者さんの祈祷がきいたのか、腫瘍はこの一週間で急激に小さくなったんですよ」
と言う。
 
「ほんとですか!良かった」
と言って、依田は涙を流して喜んでいた。
 
「先生のほうはもうお身体大丈夫なんですか?」
と祖母が心配して訊く。
 
「ええ。一時完全に女の形になってしまった時は、このまま女として生きていかないといけないのだろうかと悩みましたけど、何とか男の身体に戻れたので、このまま年内には結婚するつもりなんですよ」
 
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「あら、そんな方がいらしたら、先生が女の人になってしまったら困ってましたね」
 
と祖母は言ったが、依田先生の“性的傾向”を知っている啓太は内心
 
『女になってしまった方が“彼氏”とうまくやれるのでは?』
などと思っていた。
 
そして・・・啓太も依田先生も、岬にはまだ呪いが掛かったままではないか?という問題に全く気付いていなかったのである!
 

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そういう訳で“ペニス切断手術未遂?事件”のあった4月下旬以降、岬も啓太も学校を休んでいたのだが、ふたりとも6月11日(火)から学校に出てきた。岬の性別変更について、母は岬の学校復帰前日の月曜日、ひとりで学校に出て行き担任と一緒に同級生たちに説明した。
 
「あの子、もうすぐ中学2年になるというのに声変わりもしませんし、それで精密検査を受けたら半陰陽で肉体的には中性、精神的には完全な女性ということでした。それなら女性として生きていきたいということで、手術して、中途半端な性器をちゃんと女性に見える形に整えまして、裁判所にも性別の訂正を申請し、今月初めにそれを認可する通知が来ました」
 
と母は“新しい娘”のために説明した。
 
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「岬ちゃん、声変わりがまだだったもんね」
「中学2年でまだって珍しいねなんて言ってた」
「喉仏も無かったよね」
「性格は完全に女の子だったよね」
 
などと女子たちの声。
 
「月乃さんはトイレはいつも個室を使ってた」
「実はチンコ無いのではと噂していた」
「月乃さんのパンツ姿何度か見たけど、女の子パンツ穿いてたし、チンコがあるような盛り上がりが無かった」
「それで端の方で着換えさせて、みんな月乃さんの下着姿は見ないようにしていた」
 
などと男子たちの声。
 
「小学校の修学旅行を休んだのは、やはりお風呂に入るとまずいからだったのね」
「身体測定の時は、月乃さんは服を脱がなくてもいいことにしてたもんね」
 
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そういう訳で同級生たちは岬の性別“訂正”を受け入れてくれたのであった。
 
なお、声変わりが来てなかったというのは本人の演出で、いつもハイトーンで話していて、男性的な声を決して他人に聞かせないようにしていただけである。岬は実は4オクターブくらいの声域を開発していたので、通常その上の方の高さだけを人前では使用していた。
 
岬は小学4年生頃以降、睾丸をわざと体内に押し込んで降りてこないようテープなどで押さえていたし、更にはカイロで暖めていたので、睾丸の活動が低下し、それでそもそも二次性徴の発現が抑えられていたのもあった。下着もこの効果を高めるため女物のショーツを穿くようにしていた。ショーツは初期は姉の物を借用していたが、その内姉からの苦情で母が岬専用のショーツを買ってあげるようにしていた。そのため岬は男子小便器が使用できなかった。
 
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実はそのせいで月乃にはまだヒゲが生えていなかったし、体毛も少なかった。そして重要なポイントとして、まだ喉仏もあまり発達していなかった(更に松井医師が削ってくれた)。
 

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翌日、学校に出てきた岬は男女双方の同級生たちから歓迎された。
 
セーラー服姿が可愛いと言われて照れている様がまた可愛い。休み時間に女子トイレに入れずにもじもじしていたら「ああ、まだひとりで入る勇気無いのね」と言われて茜に手をつないでもらって一緒に入る。茜が
 
「前から思っていたけど、岬ちゃんの手ってほとんど女の子の手の感触だよね」
と言う。すると
「そうだっけ?」
と言って、みんな岬の手に触る。岬は恥ずかしがっていたが、その場にいた女子がみんな
「ほんとだ。岬ちゃんの手って女の子の手だよ」
と言っていた。
 
初日に体育の授業があるが、また女子更衣室に入れずにいるのを香美が連れていってあげた。恥ずかしそうにしながらセーラー服を脱ぐ様子がまた可愛い。
 
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「岬ちゃん、すっごい可愛いパンティとブラつけてる」
「恥ずかしいと言ったんだけど、ちゃんと女の子として生きていくならこういう可愛いのを着けられるようにならなきゃとお母ちゃんから言われて」
 
「なるほどー」
「女子化教育だな」
 
「あかん、私にも女子化教育が必要だ!」
と言っている子がいた。
 

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その日の体育ではダンスをしたのだが、みんな岬がダンスが上手いのを改めて認識した。
 
「岬ちゃん、身体が柔らかいよね」
「そうかな」
 
「柔軟体操では胸が地面に付いちゃうし」
「私、おっぱい無いから」
「いや、おっぱいが無ければ、よけい胸が地面に付くのは難しい」
「あっそうか」
 
「男の子を装っていた時は誰と柔軟体操してたっけ?」
 
「僕」
と言って手を挙げるのは荻原君である。
 
「実は月乃さんの身体に触ると、ほとんど女の子の感触だからみんな組みたがらなくてさ。僕は女の子に興味無いから、僕としていた」
 
「ああ。荻原君は男の子が好きだと公言してるもんね」
「うん。男の子のお嫁さんにしてほしい」
「女の子になりたいんだっけ?」
「なりたくない、なりたくない。男同士で結婚したい」
「まあ、そういうのもいいかもね」
「そういうのが好きな人同士で結婚すればいいよね」
 
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この日は音楽の時間もあったのだが、岬は“以前通り”ソプラノの子が座る界隈に座った。音楽の桜井先生が来て
 
「月乃さんはまだお休みなのね」
と言ったが
「います」
とクラス委員の羽緒が言った。それで岬が恥ずかしそうに手を挙げると
 
「あ、そうか。女の子になったんだったね。ごめんごめん」
「ソプラノのセーラー服の女子の中でひとりだけ学生服で歌っていたのが可哀相だったけど、本人がセーラー服を着る女子になったから、今後は問題無いですね」
などと茜が言っている。
 
「岬ちゃんって、もし男の子で、17世紀のヨーロッパに生まれていたら間違い無く去勢されてカストラートになってますよね」
などと香美が言う。
 
それはそうかもと岬本人も思った。
 
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「でも結局岬ちゃん、そもそも睾丸が無かったらしいですよ」
と茜。
 
「ああ、だから声変わりもせずにソプラノボイスが出ていたのね」
と桜井先生は納得するように言った。
 
「合唱部の練習はいつから出る?」
「今日から出ます」
「うん。頑張ってね」
と桜井先生も笑顔で言った。
 
「次の大会からは、他のソプラノの子と一緒にセーラー服を着てステージに並べますね」
と同じ合唱部の萌は言った。
 

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