広告:不思議の国の少年アリス (2) (新書館ウィングス文庫)
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■春枝(6)

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「今回雛祭りのイベントで女声合唱で出たから、男子は参加しなかったんだよ」
「あんたは?」
「ボク・・・じゃなかった、わたしはソプラノだもん」
 
これまで岬は自分のことを“ボク”と言っていたのだが、姉から「女の子になったんだから“わたし”とか“あたし”と言わなきゃと言われて、現在練習中なのである。
 
「ソプラノが出るんだ?」
「結構な努力をして維持している」
「そういえば、あんたの睾丸を見て、まだ小学4年生並みのサイズですねと松井先生が言ってたね」
「うん。絶対に発達しないように頑張ってたから」
 
「あんたヒゲも生えてなかったしね〜」
 

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「でも顧問の先生は男じゃなかったっけ?」
「依田先生、何か影響が出てないといいけど」
「転任先では女性教師になっていたりして」
 
合唱部顧問の依田先生は3月末で別の中学に転任していった。合唱部は新たに転任してきた若い女性の先生・桜井先生が顧問をすることになった。
 
「さすがにそんなにすぐには変わらないと思うけど」
「あんたはすぐ性別変わっちゃったじゃん」
「まあ、ボ・・・わたしはそうだけどね」
 
「あ・・・」
「どうしたの?」
 
「よく考えたら、あの時、ピアニストの啓太君も一緒だったんだよ」
「啓太君、合唱部だっけ?」
 
「うん。彼はテノール。普段はピアノは寺下さんが弾くんだけど、あの日は風邪で休んでしまって、それで急遽、サブピアニストの啓太君が呼び出されたんだよ。女ばかりの所に1人だけ男って居心地悪いとか言ってたけど」
 
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「女ばかりって、あんたは男の数に入ってなかったんだ?」
「わたしって、その時の都合で男とみなされたり、女とみなされたりしてた」
 
「なるほどね〜。でも啓太君がおちんちん切られそうになったのも、倒壊した天狗岩のせいだったりしてね」
「それもあるかも!」
 
取り敢えずこの録画は啓太の所にも送ってあげることにした!
 

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ところで12月いっぱいで番組を離れた青山広紀だが、今回の放送の中で彼が大学卒業とともに退任したことを幸花も神谷内も述べたのだが・・・
 
放送から数日経って、ネットで変な噂が流れているのに気付いて幸花は吹き出した。
 
それは青山はテレビ局を辞めてゲイバーに勤務するようになったらしい、という噂話である。片町の何とかいうゲイバーで見掛けたとか、いや、ひがし茶屋街で見かけたとか、中には山中温泉で普通の(女性の)仲居さんとして働いているのを見たなどという話まで色々出ていた。
 
幸花はこんな騒ぎになっているって青山君知っているだろうか?教えてあげたほうがいいだろうか?と少し悩んだが、放置しておくことにした!
 
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なお、崩壊した天狗岩であるが、曲木町では町長自身が主催するプロジェクトチームを発足。それで復元できないかあちこちら照会していたところ、過去に崩壊した石仏の修復や折れた鍾乳石の修復などをしたことのある人が九州のU大学にいることが分かり、連絡を取ったら「ぜひやってみたい」ということだったのでお願いした。
 
まだ40歳くらいの准教授である。准教授は、目立たないようにチタン合金の杭を内部に打ち込んで岩の破片と破片を繋ぎ合わせ、また道路工事の壁面処理などで使用される接着剤でも岩と岩をくっつけて、美事に天狗岩を復元することに成功した。崩壊した時に細片化してしまい、足りない部分は、近隣の山中から採取した岩を整形し補填した。
 
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なお青葉が「この岩は動かさないで」と言ったいちばん下の岩だが、この先生も「何か怪しい雰囲気があるから動かさないようにしよう」と言って、基礎工事代りに根本付近に円錐状に小さな岩を積み上げ、岩が傾いたりするのを防ぐようにした。
 
杭や接着剤の部分は内側で使用しているので表面には現れない。それで見た目は崩壊する以前とほとんど変わらない仕上がりとなった。
 
この作業をした准教授が受け取ったのは、杭や接着剤の材料費、九州からの出張費用だけである。先生はこの修復の課程を論文にして発表するということだけを条件に事実上無償で修復作業をしてくれたのである。
 
作業中は先生には曲木町内の民宿に泊まってもらい、その宿泊費・食費は町が負担した。また実際の作業は地元の工務店が土木機械も持ち込み全面的にバックアップしたが、先生の作業を見て工務店の社長が「物凄く勉強になります」と感心していた。
 
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修復作業は何度にも分けて行われ、7月に完成したが、町では
 
「復活した天狗岩、男性の復活」
 
などと広報して、観光につなげるようにした。また、これまで道案内が無く、知っている人と一緒でないと到達困難だったのを、分かりやすいように標識や地図を随所に立て、また駐車場の拡大・トイレの設置などの投資も行った。駐車場の所は「寄り道パーキング・曲木」とし、地元産の農産物や民芸品などを売る店まで作った。ここには天狗岩・饅頭岩のレプリカ(コンクリート製)も作り、記念写真が撮れるようにした。
 
そしてついでに!?天狗岩饅頭まで作った!天狗岩の形の饅頭(粒あん)と饅頭岩型の饅頭(漉し餡)のセットということにしたが、実際には、おちんちん型のものとおっぱい型のものが並んでいる!通販でも売るようにしたら、結構な反響があった。
 
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崩壊した所の写真と復元された天狗岩の写真を並べた図は、男性機能を復活させたい老年男性に人気となり、これまでの「知る人ぞ知るスポット」から「町の観光の目玉」に変身したのであった。
 
なお、青葉たちが目撃した熊であるが、あの時案内してくれた黒田さんによると『美味しく頂きました』ということらしい!
 

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青山広紀は全国的な機械メーカーに就職し、金沢支店の配属になることは決まっているのだが、本社採用なので、入社式は4月1日(月)に東京の国際パティオで全国の新入社員を集めておこなわれた。そのあと1週間、横浜の研修施設に泊まり込んでオリエンテーションが行われる。更にその後は2ヶ月掛けて全国全ての工場を廻り、実際の作業も体験する予定である。
 
用意されているバスで入社式会場から研修施設に移動する。研修施設の入口で制服が配布される。
 
真新しい社員証を見せる。
 
「あなた身長とバスト・ウェストは?」
と訊かれる。
「身長は165cm、ウェストは73cmですが」
「じゃLでいいかな?もし着てみて合わなかったらリーダーに言ってね。交換するから」
「分かりました」
 
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それで受け取り、更衣室で着換える。着ていた背広とズボンを脱ぎ、渡された制服の上着(前ファスナー)を着て、ズボンを穿く。サイズはちょうどいいようだ。だが、ズボンがハーフ・パンツなので少し戸惑う。同じ部屋で着換えている他の人を見るとみんな足首まであるロングだ。部署によって違うのかな?と思った。この時期にハーフ・パンツは寒くないかな?とも思ったが、空調が効いているので問題ないようだ。
 
しかしこのパンツ、前開きがないのは不便だなと広紀は思った。一見開きがあるように見えるのに、ただの飾りなのである。実際トイレではそのままできないので個室に入って膝まで下げてしていた。
 

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丸一日濃厚な講義が続いた。ビデオもかなり流されたし、社内外の講師から社会人・職業人としての意識の持ち方についてたくさん話を聞く。特に守秘義務や個人情報保護については、随分詳しい話があった。また業務システムや会社の電話などで仕事と関係のない操作・通話をしてはいけないなどといった話もあった。
 
昼食も夕食も施設内の食堂で食べたが美味しかった。さすが全国企業だなと思う。
 
講義は夕食後も続き9時までやってから各自割り当てられた部屋に入って就寝ということになる。広紀は受付で渡された部屋番号票を見て、指定されている614号室に行く。ここは4階から6階までが宿泊室になっているようである。エレベータで6階にあがり、614号室を探す。それで
 
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「失礼します。よろしくお願いします」
などと言って、その部屋のドアを開ける。
 
戸惑う。
 

部屋には女性が2人いた。
 
「こんにちは〜、よろしく」
と中に居た女性たちが挨拶する。
 
「あのぉ、部屋って男女混成なんですか?」
と広紀は訊いた。
 
「まさか。ここは女子部屋だけど」
とセミロングで少し横幅のある女性。
 
「ごめんねー。私よく男と間違えられるけど女だから。中学高校とバレーやってたんだよね」
とショートカットで170cmくらい背丈のある女性。
 
「あ、いえ。私男なんですけど」
 
「何ですと!?」
 
「でも女子制服着てるじゃん」
「これ女子制服なんですか?」
「男子はロングパンツ、女子はハーフパンツ。以前はスカートだったらしいけど、うちの会社は床に寝そべって機械の下に潜り込んだりするからさ。スカートでは仕事しにくいというので10年くらい前パンツに変更になったんだよ」
 
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「そうだったんですか?」
 
「ちょっと社員証見せて」
「はい」
 
それで広紀が社員証を見せると
「2になってるじゃん」
と言われる。
 
「2?」
「社員番号の先頭が男性は1、女性は2。あんたは 294400372。これは女子の社員番号だよ」
 
「うっそー!?」
と広紀は本当に驚いて声をあげた。
 
「これ名前は“ひろき”と読むの?」
「いいえ。“ひろのり”です」
 
「“ひろのり”なら男名前だけど、女の子で“ひろき”ちゃんはいるよね?」
 
「でも社員番号が女子の番号ということは、あんた女子社員として採用されたのでは?」
「どうしよう?」
「男ですということになったら、解雇されたりして」
「困ります」
 
「とりあえず連絡しよう」
と言って、バレーをしていたというショートカットの女性(藤尾さんと言った)が、研修の管理をしている総務部に連絡してくれた。
 
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「事務局に来てって。私も付いてってあげるよ」
「すみませーん」
 

それで藤尾さんが付いていってくれて、3階の事務局まで行った。
 
「ああ、すみませんね、社員データベースに登録する時にうっかり間違ったんだと思います。すぐ修正させますね。でもあなた女性でも通りますよ」
 
と課長さんは“藤尾さんに向かって”言った。
 
「あ、いえ。私は本当に女子ですが、間違えられたのは彼です」
と藤尾さんは広紀の方に手をやって訂正した。
 
課長さんはたっぷり10秒近く広紀を見てから
 
「あなた本当に男性?」
と言った。
 
「男ですー」
 
「女子にしか見えないんだけど、もしかして女の子になりたい男の子だとかは?」
「なりたくないです」
 
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「失礼しました。社員証を見せてください」
というので見せる。
 
「名前は“ひろみ”さん?」
 
なぜそう読む〜〜?
 
「“ひろのり”です」
「すみません。ちょっと書いておきますね」
と言って、課長さんはメモ用紙に社員番号とヒロノリという読み仮名を書いていた。
 
「では後日登録を変更して。たぶんこの研修所での研修をやっている内には新しい社員証を発行できると思いますが、取り敢えずはそのままその社員証を使っておいてください」
「分かりました」
 
それで登録は変更してもらうことにし、部屋も男性の部屋528号室に変えてもらった。
 

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