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■春枝(2)
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身体の線に影響が出ないように、お昼はハンバーガーで軽く済ませたが、晩御飯のタイスキもあまり食べ過ぎないように言われた。
2日目は町中での撮影をメインにした。プーケットタウンのカラフルな町並みの中で、雑貨屋さん・洋服屋さん・食べ物屋さんなど、様々な商店や建物を背景に撮影する。
今日はビキニにならなくて済むようだ!
それでもたくさん着換えて、色々な服を着て撮影した。着替えは現地の協力会社のスタッフで、サーリーさんという人が運転するワゴン車の荷室の中でする。この荷室に大量の衣装も積んでいる。汗を掻かないようにクーラーを入れているので正直寒い!
ちなみに「サーリーって可愛い名前ですね」と言ったら「日本語でいえば梨ね」と言っていた。タイでは果物やおやつなどの名前をニックネームにする人も多いらしい。
2日目の夕方、アクアの写真集撮影でも使用したJWマリオット・プーケット・リゾート&スパの、海に回廊が浮かぶように見える反射池で、夕日の中、ビキニの水着、白いワンピース、豪華なドレス、の3種類の衣装で撮影をした。この日はこの豪華なホテルに泊まり、ホテル内の施設や部屋の中でも撮影をした。
「こんな豪華なホテルに泊まれるなんて役得・役得」
などと、原田マネージャーも写真家の田中さんも言っていた。
この日は晴れていたこともあり、夜景の撮影もたくさんした。ホテルの中庭や部屋の窓際などで写真を撮る。
「月が出てないのが惜しいなあ」
と田中さんは言っていたが、写真集を編集した時、ここの部分の映像がとても神秘的で、結局写真集の中核になった。
3日目はプーケットの東海岸にあるスイレイ島(島だが地図で見るとプーケットと陸続きに見える。橋でつながっているが海峡がまるで川のようである)に早朝から行き、午前中の光の中でまたたくさんの写真を撮った。
午後はプーケットタウンに戻って14時頃まで撮影してから、帰国した。
HKT 4/7 16:20 (TG216 777) 17:45 BKK 21:45 (NH850 787-9) 4/8 5:55 HND
8日(月)は西湖の学校では始業式なので、飛行機の中ではひたすら眠っていた。朝羽田まで迎えに来てくれていた山下ルンバの車で学校に行ったが、その車内でもひたすら眠っていた(学校の制服とカバンはルンバが持って来てくれていた)。
青葉は4月8日に日本選手権を終えた後、そのまま東京北区のNTC(正確にはNTC敷地内にあるJISS:国立科学スポーツセンター)に入り代表合宿に参加した。“長距離陣”は青葉とジャネの2人だけなので、端の第1レーンを男子の長距離陣と共用して、2時間泳いでは2時間休むペースで練習していたが、コーチも「君たちには特に指導することは無い」などと言っていた。しかし池江璃花子不在の短距離陣は、コーチたちがやや殺気だっている感もあった。
1日目の合宿が終わった所で青葉はコーチに提案した。
「女子長距離陣は河岸を変えませんか?ほぼ独占して練習ができる場所があるのですが」
「どこかの学校のプール?」
「私の姉がオーナーをしている施設のサブプールなんですよ。25m×4レーンですが、その半分は私たちで独占できますから」
「2レーンあれば、君たちそれぞれ1人1レーン占有出来るね!」
「はい」
「使用料は?」
「私は3万円で年間パスを買っています」
「そのくらいの予算は出るよ!」
「いやそれ個人的に年間パス買いたい」
とジャネが言った。
それで深川アリーナの事実上の管理者である荻野浩子(旧姓石矢)に連絡したら年間パスの件は千里に尋ねてみるが、取り敢えず2レーンの独占はOKということであったので、ジャネと青葉はコーチと一緒に深川アリーナに移動した。それで女子長距離陣が使用していたJISSのレーンも男子に明け渡した。
「短水路であっても完全に1レーン独占できるのは素晴らしい」
とジャネは言っていた。
2レーン使用しているので、何度も青葉とジャネでかなり競争した。これはお互いに物凄く刺激になった。
2人で練習していたら、千里姉が「気分転換に泳ぎに来た」と言ってやってきた。
「千里さん、ここを使う年間パスについて荻野さんに訊いたら、千里さんに聞いてみてと言われたんだけど」
とジャネが言った。
「じゃマラさん、マソさんの2人で2万円で。カード2枚発行するよ」
と千里。
「まあいいけど」
と答えてから、唐突にジャネは思いついたようで尋ねた。
「千里さん、ここに50mプールを作る気は?」
「使うなら作ってもいいよー」
「おお。ぜひぜひ。夏までの限定でもいいですから」
「限定か。それなら割とどうにでもなりそう。どこに置こうかな?」
「本館地下に置く?あるいは今の25mプールを置換する?」
と青葉が尋ねる。
「本館の面積っていくらだったっけ?」
「さあ」
「浩子に訊いてみよう」
と言って千里が電話していた。
「メインアリーナの床面積が34m×94mで、体育館自体の敷地面積は70m×120mあります。現在の8レーン25mプールは周囲のウェットゾーンを含めて35m×20mです。10レーン50mプールに置換した場合は、60m×35mくらい必要と思われます。設置は可能ですが、面積が追加で4倍、置換でも3倍になるので、トレーニングルームがその分狭くなり、たぶん苦情が来ます」
と浩子は説明するとともに問題点も指摘した。
「むむむ」
このあたりは40 minutes単独の施設ではなく、共同施設であるのと、ここの土地は都が所有しているという面倒くささもある。容積率も特例で現状まで認めてもらっているので勝手に地下3階!とかを増設したりはできない。
「そうだ!若葉に訊いてみよう」
と言って、千里は若葉に電話した。
「ね、ね、郷愁村にさ、50mプール1個作らせてくれない?9月くらいまでの限定でもいいんだけど。建設費は私が出す。面積として60m×35mくらいあればいいんだけどね」
若葉は即答した。
「いいよ〜。土地は余ってるから、ずっと置いてていいよ。どうせなら100m×100mくらい貸すから観客席も作って。そういう施設があれば郷愁村の資産価値が上がるし」
それで郷愁村に「プールを1個」作ることにしたのである!
千里はすぐにプールメーカーに連絡を取った。すると、既にプールを設置する場所が確保されていて、プールの形の窪みがある場合は浄化設備まで入れて3億円くらいで作れるという話だった。工期も純粋にプールだけなら50-60日で行けるらしい。
「じゃお願いします。設置場所は来週までに用意しておきますから」
と千里は答えたが、近くで顔をしかめている者たちが居た!(青葉やジャネには見えない)
「しかし凄いですね。普通50mプールを1個建設するといったらそれだけで30億円は掛かると思っていたのに」
とコーチさん。
「FRP(*1)のプールは工場でほとんど製造して、現地で組み立てるだけですから」
と千里は言う。
(*1)FRP = Fiber Reinforced Plastics, 繊維強化プラスチック
「なるほどー」
「それに市とか県とかが作ると、わざわざそのためにデザインしてオーダーメイドで作ろうとするから高くなりますけど、民間の事業ならそもそも使える規格品でプール本体も更衣室などの付帯設備も全部間に合わせますからね」
「ああ」
「ちー姉、そのプールの建物とかはどうするの?」
と青葉は“敢えて”訊いた。
「来週くらいまでに建ててくれるよう、播磨工務店さんに頼んだよ」
「播磨工務店!?」
(実際には《こうちゃん》に「市川の人たちに頼んでね」と言っただけである!)
「今小浜に巨大アリーナを建設している会社」
「あ・・・」
「物凄く仕事が速いんだよね〜」
しかし結局壁とか天井が無い状態の方がプール自体の作り込みは楽だということになり、このプールの建物の建築自体は保留して、床だけを作ってもらうことにした。また播磨工務店も今は小浜の事業が忙しいようである。しかし青池さんがわざわざ来てくれて彼(彼女?)の指揮の下、《こうちゃん》、《せいちゃん》《げんちゃん》も加わってホントに1週間でプールの土台を作ったようである。
「壁や天井がしばらく無くてもいいよね?」
「うん。プールさえあればいい。できたら浄化設備付きで」
とジャネは言う。
「OKOK。そのくらいはすぐ付けるよ。浄霊設備は無しでね」
「恐いこと言わないでくれる?」
2人の会話に青葉は呆れていたが、コーチは意味が分からず首をひねっていた。
しかしジャネは浄霊されると困る訳だ!
「そうだ。筒石も連れてきていい?」
「女性専用プールにしようかと思ったけど、まあ彼ならいいよ」
「何なら女子水着を着せようか?」
「あの人平気で着そうだ。それにたぶん女子水着を着たらスピードアップする」
「だろうね!」
「でも年間維持費とかはどのくらい掛かる?」
と青葉が訊く。
「たぶん3000万円くらいだと思うけど。青葉、これ折半しない?」
「OKOK。何なら運用会社設立しようか?」
「それでもいいよ。ほとんどペーパーカンパニーだろうけどね」
しかしそういう訳で、わずか2ヶ月後の5月下旬に埼玉県の郷愁村に50m 10レーンのヤマハFRP製・水連公認競泳プールが完成することになる(公認は事前に予備審査してもらっておいて、正式には建物完成後に取得)。そして青葉とジャネは5月下旬のジャパンオープンの後はここを2人の事実上の専用練習場として使えるようになったのである(その他に筒石も使う)。
なお最終的にはこの50mプール(公認を取るので深さ3m)には一般客が利用できる深さ1.0-2.0m可変の25mプール、更にはウォータースライダー・流れるプール付きのレジャープール群も併設することにした。すると郷愁村に来たお客さんがここで自由に泳ぐことができる。そのサブプール、観客席やショップを入れられるエリアまで確保して20億円の事業となった。
NTC/JISSでの世界選手権代表合宿は4月12日で終わったのだが、青葉とジャネはその後も2人だけでひたすら深川アリーナのプールで泳いでいた。この時期はまだ青葉が所属している(はずの)K大のプールがまだ使えないので、青葉は金沢に帰ってしまうと練習場所が無い。日本代表の活動で授業に出席できないのは大学側も了承済みである。
しかし青葉が東京に居てくれると、§§ミュージックやTKRなども助かるようであったし、松本花子プロジェクトのメンバーもやりやすいようであった。
2019年4月19日(金).
町添専務が音頭を取って、数人の作曲家の会合が都内で開かれた。
3月いっぱいで、上島雷太の謹慎が解けてホッとしていたら、彼が謹慎している間に驚異的な速度で楽曲を書いていた(と町添さんが思っている)ケイが今全く楽曲が書けない状態だと聞き、これは何とかしなければと思ったのである。
ここに顔を揃えたのはこういうメンバーである。
町添専務・氷川上級係長・和泉・マリ・七星・Elise・鮎川ゆま・葵照子・雨宮三森。
それに千里だが、ここに出てきたのは千里1である。
ケイが精神的に回復するまでの間、何とかケイの作品を代替して欲しいという話を聞き、千里1は先日菊枝から
「もうあなたは回復しているはず」
と言われたことを思い出した。
会議の後で千里はマリからケイの楽器を取ってくるのを頼まれたが自分はどれがどれか分からないから手伝ってと言われ、一緒にハイヤーに乗って恵比寿のマンションに行こうとした。ところが千里がぼーっとしている間にハイヤーはマリの道案内で迷走していた!
「お客さん、どこに行きたいんですか?」
という困ったような運転手の声に我に返った千里は、車が東京体育館の傍に来ていることに気付き、
「ここでいいです」
と言って降りてしまう。
東京体育館では何かスポーツイベントが行われていたが、そこで千里1は自分がウィンターカップでここに来た時の幻影を見た。そしてお人形さんの道具のような小さな赤い鏡を拾ったことから、自分は何か思い出さなければならないものがあることを認識したのである。
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