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■春枝(12)

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怜は、結局校長に相談する前に男の身体に戻ってしまったので、そのまま男性教師として勤務し続けた。夏の水泳大会では、男性用水着を着て胸も曝し、デモンストレーションで3000mを泳ぎ切ってみせると生徒たちから歓声があがった。
 
実は生徒たちの間では春頃「あの先生実は女では?」と噂されていたのだが、この水泳大会で、怜が男性であることが明らかになり、性別疑惑は解消されたのであった。
 
サトミは病院で診断書をもらい、秋には性別の訂正が認可され、あわせて名前も男性的な“智司”から女性的な“智美”に変更。2人は年末に、夫が怜で妻が智美の婚姻届を提出。翌年に智美が妊娠して、子供も産まれた。2人は4年前に一緒に暮らし始めた時、子供はできないものと割り切っていたので、子供ができたのが嬉しくて泣いていたという。
 
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「でも赤ちゃん産むのがあんなに辛いとは思わなかった!」
と智美は言っていたらしい。
 

2019年6月14日(金).
 
今井葉月の初めての写真集『Leaf Moon』が発売された。当日は本人と写真家の田中麗華さん、事実上のマネージャーである桜木ワルツ、そしてこの写真集の総指揮者である川崎ゆりこが出席して、TKRの大会議室で記者会見を行った。
 
CDの発売記者会見ではないので、歌などは無い。BGMに北里ナナ『招き猫の歌』のインストルメント・バージョンを流しながら、写真集の中から何枚かピックアップしてスライドショー・モードで背景に映写し、田中さんからどんな感じで撮ったかとか、現地でのエピソードなどを説明してもらった。それに葉月自身が少し補足した上で、質疑応答もおこなった。
 
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「葉月ちゃんのCDデビューの予定は?」
「ありません。私はあくまでアクアさんのスタッフなので、彼の負荷を下げるために全力を尽くしています。私自身が忙しくなっては困りますので」
 
「リハーサルにはたいてい葉月さんが出てこられて、歌唱もなさっているらしいですが、歌が物凄くうまいと聞いていますが、もったいなくありませんか?」
 
という質問には川崎ゆりこが
 
「歌が超上手いアクアのリハーサル役は、やはり彼女くらい歌が上手い子でないと務まりませんから」
と答えていた。
 
ゆりこが“彼女”という言葉を使った時、桜木ワルツが一瞬ピクッとしたものの、女の子の写真集にしか見えない写真集を出しておいて、今更男の子ですなどとは主張できないので“彼女”でもいいことにしたようであった。
 
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この写真集の売り上げは8月にアクアの写真集が発売されるまで、ランキングのトップ3以内を維持し続けた。
 

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千里1は5月下旬は、康子と一緒に、信次の菩提供養のため板東三十三箇所巡りをした。その中で康子は千里に尋ねた。
 
「千里さん、一周忌がすぎたら、桃香さんと結婚するの?」
「三回忌までは再婚のことは考えません」
「そう?一周忌すぎたらもういいと思うよ」
 
「それに桃香とは法的に結婚できないし」
「日本の法律って面倒ね」
「同性婚できる国もありますけどね。でも私、もしかしたら桃香以外の人と結婚するかも」
「誰か好きな人できた?」
「うーん。誰だろう?」
 
千里1は誤魔化したが、むろん貴司と結婚する気満々である。どうせ貴司は今の奥さんとも長くは続かないだろうと考えている。法的な問題もあるし、まあ貴司と結婚して桃香は愛人でいいかな、などと勝手なことを千里1は考えていた。
 
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ちなみに千里1はまだ自分の分裂には気付いていない。
 

康子は板東三十三箇所を巡っている内、供養というより、途中から楽しくなってしまったようである。
 
「西国三十三箇所やって、その後秩父三十四箇所やって、善光寺まで行っちゃおうかしら」
 
「すみません。私、お仕事しなくちゃ」
「ごめーん」
 
それで結局、康子と千里が“分担”して回ることにした。秩父三十四箇所は近い所に集まっているから康子がやり、長い距離の移動がある西国三十三箇所を千里が由美を連れて行ってきて、最終的に善光寺で落ち合うことにしたのである。千里はこの西国霊場巡りに信次のムラーノを使用することにした。
 
ムラーノは実は6月末で車検が切れるので、それでムラーノはお役御免として廃車にすることにした。
 
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そして千里1はこの西国巡りの間にたくさん楽曲を書くつもりでいた。千里が“復活した”ようだと聞き、たくさん作曲依頼が舞い込んでいるのである。
 
(千里1は松本花子のことも夢紗蒼依のことも知らない)
 

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それで千里1は6月18日の青岸渡寺に始まって、和歌山から滋賀・京都・大阪・兵庫方面にある霊場を次々と回っていった。その中で千里1は結構自分は体力があるようだと認識していた。4番札所・施福寺は900段の急な階段を登らなければならないが、千里1はノンストップでこの階段を登り切った。普通は男性でもある程度休憩しながらでないと登るのが辛い階段である。
 
最初の内は霊場と霊場の間に距離がありよかったのだが、京都付近に入ると距離が短くなる。千里は車のシガーソケットからインバーターで電気を取り出してパソコンに充電しているのだが、この充電が間に合わなくなってくる。
 
茨木市の22番・総持寺まで行った所でパソコンのバッテリーもモバイルバッテリーも全部空になってしまった。
 
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千里1は少し悩んでから貴司に電話した。
 
「こないだも出羽で電気と軽油借りたのに申し訳ないんだけど、今度はバッテリーに充電させて欲しいんだけど。電気代は払うから」
 
「また車のバッテリーあげたの?」
「ううん。パソコンのバッテリーなのよ」
「そちらか!今日は家にいるからおいで」
「ありがとう」
 

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それで千里1は豊中市の貴司のマンションまで行くと、貴司に電話して駐車場のゲートを開けてもらい、来客用の駐車場にムラーノを駐めた。そしてノートパソコンを持ち、由美を抱いて33階まで上がっていき、再び貴司に電話して部屋のドアを開けてもらった。
 
敵対的な視線を投げかけている美映に笑顔で挨拶し、まずは由美とパソコンを置く。
 
「その赤ちゃんの父親は?」
「川島信次というんですけど」
「ああ、結婚しているのね!」
と言って、美映が安心したような顔をした。
 
万一その父親が貴司だったら・・・ここで血を見る争いになっていたかも!?
 
(実は緩菜と由美は異母姉妹なのだが、そのことをこの時点では千里1〜3の3人も含め、誰も知らなかった)
 
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千里が更に車から大量のモバイルバッテリーを持ってあがってくると美映は驚いた。
 
「何のお仕事なさってるんですか?」
「音楽関係なんですよ。締め切りが厳しくて」
 
と言うと、美映は頷いていた。
 

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千里が赤ちゃん連れで西国三十三箇所・車中泊の旅をしながら、パソコンで仕事もしていると言うと「無茶すぎる!」と貴司は言い、充電されるまでの間でも寝た方がいいと言った。美映さんまで「赤ちゃんがつらいですよ」と言うので、来客用寝室で寝せてもらった。
 
結局千里1はここで一晩泊めてもらい、その間にパソコン本体にも多数のバッテリーにもたっぷりと充電できた(充電するバッテリーの交換は貴司がしてくれていた)。美映は千里が制作中の楽曲に興味を持ち、
 
「聞かせてもらったりできます?」
というのでCubaseのプロジェクトデータから再生を掛ける。
 
「可愛い曲ですね!」
「まあ売れたらいいんですけどね」
と千里は答えておいた。実は遠上笑美子用に書いている曲である。
 
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結局美映さんお手製の朝御飯まで頂いてから出発したが、ほんとにゆっくり休むことができたので助かった。
 
美映には正直に自分が貴司とかつては夫婦であったことを話した(貴司と毎月会っていることを千里1は知らない)。
 
「でも私、阿部子さんに負けちゃったんですよ」
「ああ」
 
どうもそれで美映の千里に対する印象が大きく変わったようである。
 
「ほんっとに貴司さんって薄情だから」
「それは同感!」
と美映は言うが、貴司は
「美映と結婚した後は浮気してないよぉ」
と言い訳している。
 
実際には男性器が無ければ浮気のしようがない。阿部子さんと結婚していた時もこうしておけば良かったな、などと千里3!は思っていた。(でも貴司の男性器が無いので千里2は困っている)
 
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「だから私、貴司さんが阿部子さんと婚約した以降は1度もセックスしてないですよ」
と千里1は言った。
 
「じゃ古い話なのね」
 
美映はそれで結構納得してくれたようで、先月出羽で会った時の敵対的な視線はかなり和らいでいたのであった。
 

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千里が貴司のマンションに泊まったのは、6月22日の昼から23日の朝に掛けてである。そしてこれが千里が貴司のマンションを訪れた最後になった。
 
千里は貴司のマンションを出たあと、残りの11の札所を巡り、姫路では阿部子・京平の親子とも偶然会ったので、この旅はいったいどういう旅なんだ?と思った。千里は6月25日に最後の札所・華厳寺にお参りをし、その後長野の善光寺に向かう。そして6月26日に康子・太一と落ち合い、一緒に御参りをして、巡礼の旅を終えた。
 
太一・康子と一緒に東京に戻ることになるが、この時、唐突に千里1は思いついた。
 
「ね、お母さん、ムラーノには、優子さんも思い入れがあるみたいなことを言っていたでしょ?この車、廃車にするつもりだったけど、優子さん使わないかな?」
 
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「ああ、それは訊いてみる価値があるね!」
 

それで長野から千里が優子に電話してみた。
 
「あ、欲しい。実はこちらで使っているソリオがかなり限界っぽくて、買い換えないといけないかなあ、お金がないなあと言っていた所なのよ」
 
「使うなら、これ車検を通してからそちらに渡そうか?」
「でもおいくらで?」
「どうせ廃車にするつもりだったから、タダでいいよ」
「マジ?」
 
それでこの車は廃車予定が、急遽、東京に戻ったら(千里がお金を出して)車検を通した上で登録住所も移転させて優子に渡すことにしたのである。信次の想い出が1つ消えてしまうところを取り敢えず残ることになったことが、千里1には嬉しかった。
 

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「すっかり女の子らしくなったね」
「セーラー服可愛いよ」
 
とクラスメイトたちから言われて岬は真っ赤になってしまった。
 
「岬ちゃんって、私小学2年頃までふつうに女の子だと思っていたもん」
などと言っている子もいる。
 
「まだ声変わりが来ないなあと思ったら、実は本当はやはり女の子だったのね」
「ちんちん切ってもらってよかったね」
「でもちんちんに見えて実は大きなクリちゃんだったんでしょ?」
「それを短くしてもらったのね?」
 
一方近くでは
「平野はチンコ切られなくて良かったな」
「いや、平野はチンコ2〜3本切ってもらった方が良かった」
などと言われて、学生服を着た本人も
「全くどうなることかと思ったよ」
と言っていた。
 
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「私、まだおっぱい小さいから恥ずかしい」
などと岬は言っていたが
「すぐに大きくなるよ」
と言ってもらっていた。
 
一方啓太は
「でもおっぱい大きくなるんだろう?」
と言われている。
「少しな。薬の副作用でやむを得んらしい」
「それでもチンコ切られるよりずっとマシだな」
「全くだよ」
 
 
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