広告:兄が妹で妹が兄で。(4)-KCx-ARIA-車谷-晴子
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■春葉(11)

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青葉は千里に今すぐ報せる必要は無いけど、桃香は巻き込んだ方がいいと言った。
 
「桃姉は優子さんの親友だからきっと心の支えになるはずだよ」
「親友ねぇ・・・」
 
親友というより元恋人だよね?とは思ったが、朋子は(仙台に居る)桃香にメールして千里の居ない所からコールバックしてくれと伝えた。それで5分後に桃香から電話があったので朋子はかいつまんで事情を説明するが
「奏音ちゃんの父親が信次さんだったのか!」
と驚いているようだった。
 
明日朋子たちが千葉まで来るのなら自分も行くと言った。
 
それで翌1月13日(日), 大宮で落ち合うことにしたのである。
 
新高岡7:37(はくたか554)10:10大宮 (朋子・青葉・優子・奏音)
仙台_8:20(やまびこ40) 9:58大宮 (桃香)
 
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大宮駅で落ち合った時、優子は桃香にハグされて言った。
「桃香、辛いよぉ。今晩抱いてよ」
「いいよ。今晩は一緒に寝よう」
などと言ってキスしているので、朋子たちは見なかったことにした。
 
「ところでどちらが女役?」
「じゃんけん」
 
と言ってふたりはじゃんけんで女役を決めていたが、朋子たちは聞かないふりをした。
 

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大宮駅のトヨレンで予約していたエスティマとベビーシートを借り、青葉が運転して首都高経由で(千葉市)大宮ICへ向かう(約1時間)。
 
運転席:青葉、助手席:朋子、2列目:桃香、3列目:優子・奏音
 
ICを降りた後、近くのファミレスで優子と奏音を降ろして取り敢えず待機しておいてもらう。そして朋子・桃香・青葉の3人だけで川島家を訪問した。お土産のお菓子を出してお話しする。
 
話したいことがあるということだけ昨夜の内に桃香が電話しておいたのだが、信次に別の女性に産ませた子供がいたという話に康子は驚愕した。
 
「男の子?女の子?」
「女の子です」
「名前は?」
「“かなで”ちゃんと言うんですよ」
「会いたい!」
 
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康子が受け入れてくれる雰囲気なので、優子と奏音を呼び寄せる。青葉がエスティマで迎えに行った。
 
「可愛い!」
と言って、康子はもう“おばあちゃん”モードである。
 
「なんか耳の形が信次に似てない?」
「あ、それは私も思いました」
 

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「私、孫が2人も増えて嬉しい」
と康子はニコニコ顔である。それで優子も少しホッとしたようだ。お母さんと揉めたらどうしよう?と不安もあったろう。
 
「今どこに住んでいるの?」
「富山県の高岡市です。実家に居候しています」
「あなた生活費は?」
「信次さんが毎月養育費を送って下さっていたので。実家だから家賃は要らないし、それで何とかやりくりしていました」
 
「だったら、夏以降送金が止まって困っていたでしょう」
 
「それがどうも信次さん、自動送金を設定しておられたようで、7月以降もずっと毎月送られていたらしいです。残高があったんでしょうね」
と桃香が説明する。
 
「毎月送金されていたから、優子さん、信次さんが亡くなったことに気付かなかったんですよ」
「ほんと?ごめんねー」
「2人が付き合っていたこと、誰も知らなかったようですね」
 
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「でも残高があって自動送金されていても、いつかは尽きるわよね?」
「と思います」
 
「あなたたちの生活費は私が面倒見るから心配しないで。夫が資産家だったからけっこうゆとりがあるのよ。相場で大失敗してかなり財産を無くしはしたものの、まだ結構残っているから」
と康子は言っている。
 
「済みません!助かります。でもこの子がもう少し大きくなったらパートとかにでも出ようかな」
と優子。
 
「まああまり家に閉じこもっているタイプじゃないもんな」
と桃香は言っている。
 
「もしかして桃香さん、お友達だったの?」
 
「そうなんですよ。千葉で恋人ができて、別れた後実家に戻って赤ちゃん産んだというのは聞いていたのですが、相手が信次さんだったとは、夢にも思いませんでした」
 
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「物凄い偶然ね!」
 

「でも翔和に会いに行きづらくなって困ったなあと思っていたら、孫が続けざまに2人できて、私、嬉しい」
などと康子は言っている。
 
「翔和さん、どうかしたんですか?」
と桃香は尋ねた。
 
「太一の馬鹿、浮気3回もして亜矢芽さんに愛想尽かされて、先月離婚したのよ」
 
「え〜〜!?」
 
これには桃香・朋子も仰天した。
 
「浮気3回って、まだ結婚して1年経ってないじゃないですか?」
「私も匙(さじ)投げたわ」
「はあ・・・」
 
「恋人の続かない子ではあったけど、結婚したら落ち着くと思ったんだけどね」
 
と康子は言っているが、桃香は自分が責められているような気がして冷や汗を掻いていた。
 
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一息ついたところで、優子は仏檀にお参りをした。青葉が般若心経を唱える。奏音にも合掌させて「南無」と言わせるが、飾られている信次の写真を見て
 
「あ、パパのしゃしん」
と言うので、涙を誘われた。
 
仕出しを取ってお昼を食べ、午後からお墓参りに行くことにする。仕出し屋さんに電話したら、手が足りないので配達までは難しいらしい。それで康子が
「じゃ私が買ってくるよ」
と言って青葉の運転するエスティマに乗って買いに行った。
 
待っている間に優子が尋ねた。
 
「そういえば桃香は、川島家とはどういう関わりがあったの?」
 
優子もあまりの衝撃に聞きそびれていたのだろう。それで桃香は説明した。
 
「その信次さんが結婚したのが千里だったんだよ」
「千里って、桃香の奥さんの千里ちゃん?」
「うん」
 
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「うっそー!?」
と優子はマジで驚いた。
 
「じゃ、桃香、千里さんと別れていたの?」
と優子は桃香に尋ねる。
 
「それがさあ。千里としては私ひとすじのはずだったんだけど(桃香的解釈)、信次さんにあまりに熱心に口説かれたのと、仕事上の関わりがあって無碍には断りにくかったのもあって、本人としても流されて結果的に結婚せざるを得なくなってしまったというのが実態みたいで。これお母さんには言うなよ」
 
と桃香は説明した。
 
「なんかややこしそうね」
 
「だから2人は1年間だけ結婚してすぐ別れて千里は私の所に戻ってくる約束だったんだよ。だから2人が署名捺印した離婚届けも存在したんだけど、それを提出する前に信次さん亡くなってしまって」
 
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「え〜〜!?だったら契約結婚?」
「だと思う。そもそも2人は一緒に暮らした形跡もない。千葉でも名古屋でも別の所に住んでいた。それどころかデートをした形跡もない」
「デートもしてない!?」
 
「千里、SEの仕事が忙しすぎてデートなんてする時間なかったみたいで」
「ああ。あの業界は大変そうね」
「結婚式の前日まで徹夜で仕事してて。遊ぶ時間とか全くなかったみたいだ」
「式の前日まで徹夜〜?忙しすぎる」
 
「それに千里はレスビアンで信次さんはゲイだからセックスのしようがないだろ?」
「千里さんってネコだっけ?」
「もちろん。何度か男役やらせてみたけど下手くそだったから即男は首にした」
「そうか。だったらセックス不能だね。信次も男役は全くだめだったよ。どうしても逝けないみたいだったからビニール袋かぶせた歯ブラシの柄を入れてあげたらやっと逝ったんだよ」
 
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朋子はこの会話にしかめっ面をしている。
 
「でもお母さんが孫を欲しがっていたから、代理母さんに産んでもらうことにしたんだよ。千里は子宮が無いから」
 
「そういうことだったのか。千里さんは今日は来ないの?」
「話がややこしくなりそうだったから今日は連れて来なかった。優子とのこともまだ話してない」
 
「だったら千里さんと私会いたい」
「優子、いつまで千葉に居る?」
「さっきお母さんが今度の日曜の二百ヶ日法要に出てと言ってたから、それまで一週間居るよ。ウィークリー料金のあるホテル取ろうかな」
 
「だったら世田谷区の私のアパートに居ればいい」
「あ、それでもいいかな」
 
「来週中には千里も戻れると思うから、そしたら会わせるよ」
「分かった」
 
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この日はお墓参りを終えた後、青葉の運転でいったん経堂のアパートまで行き、そこで桃香に優子と奏音をおろす。それから大宮駅まで行き、レンタカーを返却した。青葉と朋子は北陸新幹線に乗って帰宅する。なお経堂で優子たちと一緒に降りた桃香は翌日朝の新幹線で帰る。この日は経堂で優子たちのお世話をした。
 
「このアパートのスペアキー1本渡しておくね」
「さんきゅ、さんきゅ」
 
その晩は約束通り、桃香は優子と同じ布団で寝た。優子はたくさん涙を流していた。
 

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桃香が東京に出てきていた13日(日)に代理母の潘さんが病院から姿を消した。そして病院の医師は月曜日、職権で由美の出生届を出した。父:川島信次、母:空欄、という凄い出生届である。父親欄が空欄の出生届けはわりとあるが母親欄が空欄というのは普通あり得ない。それと同時に千里は由美との養子縁組の届も出した。未成年の養子縁組には親権者の同意が必要だが、自分は由美の父親の妻だから由美の親権者であると主張したのである。
 
むろん窓口ではいったん保留して、戸籍係の人がわざわざ病院まで来て事情を聞いた。それでDNA鑑定書まで見て、由美の父が確かに川島信次であるということに戸籍係の人は納得してくれたものの、由美を産んだ女性についてはかなり強く追及した。女性の住んでいたアパートなども調査したが、解約済みでむろん荷物なども残っていない。つまり行方不明ということである。外務省に照会して13日に仙台空港から上海行きに乗って出国していることまでは判明したものの、その先は追いようが無かった。
 
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この出生届を拒否すると、目の前にいる赤ちゃんの法的な状態が宙ぶらりんになってしまうこと、父親の妻が養育の意志を示していることから、仙台市役所では人道的な配慮もした上で、結局、市長決裁で、この出生届を受理してくれた。基本的には“捨て子”(戸籍法57条)に準じた扱いである。市民課の課長さんは医師に今後外国人女性に代理母をしてもらう時は、本人の本国での連絡先まできちんと把握してほしいときつく口頭で注意した。
 
ともかくもそれで由美はいったん由美単独の戸籍が作られた。これで由美は取り敢えず日本国籍を獲得したことになる。養子縁組については裁判所の審判を受けてくれと言われたので速やかに申立書を提出した(実は弁護士と相談の上、もう書いていた)。
 
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桃香は月曜日に仙台に戻ると、優子の件を千里に話した。千里は優子の子供の父親が信次だったという話を聞いて驚いたものの、むしろ自分が信次と結婚してしまって、優子さんに申し訳なかったと言い、優子に電話して謝った。優子としては、謝られるのは想定外だったものの、仲良くやっていきましょうと言った。
 
「そういえば名古屋のアパートはガス爆発で滅茶苦茶になったんだけど」
「ガス爆発にあったの!?」
 
「うん。それで爆発跡から回収出来るだけのものは回収したんだけど、その中に信次がよく使っていたバッグがあって。中に女物の衣類とか化粧品が詰まっていたのよ。爆発で化粧品は粉々、衣類も泥だらけにはなってたけど、衣類は洗濯したら割ときれいになった。もしかしてそれ優子さんのかなぁ?」
 
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と千里が訊いたのだが
 
「それ信次が使っていたものだと思う」
と優子は答えた。
 
「信次が化粧品や女物の服を・・・・オナニーに使ってた?」
「違う違う。あいつが着てたんだと思うよ」
「信次って女装の趣味があったの!?」
「千里ちゃん、一緒に暮らしていて気付かなかった?」
「全然気付かなかった!」
と千里は言った。
 
実際には千里1がぼんやりすぎて気付かなかっただけなのだが、優子はやはり信次と千里には生活実態が無かったのだろうと解釈した。最後に会った時も信次はタックした上に陰毛が生えそろっていた。つまり長期間男性器は使用していなかった筈である。だから千里ともセックスレスだったのだろうと優子は考えていた。
 
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「私にはサイズが合わなくて着られないんだけど、優子さん使う?」
「そうだなあ。記念にもらっておこうかな」
 
それで高岡の優子の家に送ってあげることにした。
 

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