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■春葉(4)

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それで委員長さんが再度“呪い”というキーワードで検索したらいくつかの本がヒットした。
 
算数の呪い
お呪い大好き!
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々(3)タイタンの呪い(上)
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々(3)タイタンの呪い(下)
料理のその手間いりません: 台所の呪いを解く方法
アダムの呪い
エジプト王ファラオの呪い
魔と呪いの系譜
呪いと日本人
ハリー・ポッターと呪いの子
科学探偵vs.呪いの修学旅行
少年探偵・二十面相の呪い
秘密・呪い (シャーロット・ブロンテ初期作品集)
・・・・・
 
「全部で32冊ヒットしていますね」
と言いながら委員長さんは表示された一覧をスクロールしていく。
 
「あたりさわりの無い本が多い」
と幸花が言っている。
 
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「ファンタジー系にはよく“呪い”という単語を含む本もあるのですが、その手の本は盗まれやすいので、高校図書館ではあまり買わないんですよ」
と司書さんが言っている。
 
ところがヒットした書籍の一覧を見ていった時、最後に表示された本にそこにいた全員がピクッとした。
 
H高校・七つの呪い
 
という本である。クリックして本の詳細を表示させる。
 
「この著者は?」
「そのお名前は先々代の校長先生です。もう10年ほど前にお亡くなりになりました」
と司書さんが言った。
 
「この本ありますか?」
「帯出中ですね。借りているのは3年の生徒ですが」
 
画面に3年7組・夏野明宏という名前が映ったが、カメラはその画面を映さない。クリックする前に青葉の方に向け直している。
 
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ここからはカメラを止める。
 
幸花が、昔の校長先生が書いた本なら図書館以外でも持っている人がいないだろうかと言う。それで旧校舎に付き合ってくれた事務長さんに電話してみた。すると事務長さんも「そういえばそんな本がありました。自宅で探したら出てくるかも」などと言っている。
 
それでそれを探してもらおうか?などと言っていた時に、ちょうどその借りていた生徒がその本を返却に来たのである!
 
「これ話ができすぎで台本だろうと言われるだろうけど、今の所再現ドラマを」
と言って、借りていた生徒・夏野君に協力をお願いして返しに来た所の再現ドラマを撮影した。
 
カメラを回した状態で本を開けて中身を見る。
 
「今のH高校七不思議とは全然違う!」
と生徒会長さんが声をあげた。
 
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そこに書かれているのはこういう7つである。
 
(1)学校裏の石炭倉庫付近で人魂を見る。
(2)音楽室のショパンの絵が笑う。
(3)生物準備室の人体骨格が踊り出す。
(4)旧校舎の階段が夜中に行くと1段多い。
(5)グラウンドで夜中に顔の無い子供たちが野球をしている。
(6)初代校長の像が夜な夜な歩き回る。
(7)逆さ杉にお願いすると物事が逆転できる。
 

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「今に残っているのもあるけど、入れ替わっているものもありますね」
 
「音楽室は昔はショパンだったのか」
「きっと肖像画の置く場所が変わったんですよ」
 
「人体骨格は昔ありましたけど、もう10年以上前にかなり壊れているからということで廃棄したと思います」
と司書さんが言う。司書さんはここに15年ほど勤めているらしいが、勤め始めた初期の頃だったと思うということだった。
 
「怪談の主が無くなったので怪談も消えたのかな」
 
「昔は石炭ストーブだったのかも知れないけど、今はエアコンだから」
「それで石炭倉庫も無くなった訳か」
 
「顔の無い子供たちの野球って何でしょうね?」
「浮遊霊っぽい気がしますよ。ひょっとしたら昔の校庭がそういうものを溜めやすい状態にあったのかも」
 
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「実はこの本の中でも解説されているのですが」
と借りていた夏野君が言った。
 
「(6)と(7)は繋がっているんですよ」
「そうなんですか?」
「この逆さ杉は樹齢800年くらいで、物事を逆転させてくれるという伝説は江戸時代の文献にもあるそうなんです」
 
「そんな昔からあるんだ!」
「それでこの著者の人が見た江戸時代の本によると、この杉にお願い事をする方法は、杉模様の小袖を着て、正子刻(夜中の0時)に杉の枝に干飯(ほしい)をぶら下げ、灯明を持って四町ほど歩いて戻ってきてから、その干飯を食べよ、というものなんだそうです」
 
「四町ってどのくらいだっけ?」
と幸花が訊くので、青葉が
「1町は109mです。ですから約400mでいいと思います」
と答える。
 
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「それでこの著者の方はその距離がちょうど学校一周くらいだとおっしゃるんですね」
「なるほどー!」
 
「干飯は戦前まではわりと作られていたそうです。今なら災害食や海外旅行用に作られているアルファ化米のおにぎりか何かでいいだろうと。そして小袖は現代なら女性用の小紋の和服が近いだろうとおっしゃってます」
 
「ええ。それでいい気がします」
と青葉は言う。
 
「それで、昔からこの方法で夜中に願掛けをした生徒が結構いたのではないかと。それで夜中に学校の敷地内を和服で歩く生徒を偶然見掛けて、和服を着ていて灯明を持っている初代校長の像と似ているので、初代校長の像が歩いているという噂が起きたのではないかと」
 
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「なるほどー!!」
 

「しかしお供えは干飯(ほしい)だったのか」
「ええ。それでボクもアルファ化米のおにぎりでやってみたんです」
 
「君やったの!?」
と幸花が言うので、夏野君は
 
「えっと・・・はい」
とためらいがちに返事した。
 
「アルファ化米はイオンに売ってあったので、それを水で戻しておにぎりを作って、それを小学生とかが使うコップ入れの袋に入れ、木の枝に掛けました」
 
「小袖は?」
「市内の呉服店で小紋の服を買いました。男のボクが買ったら変に思われるかなとも思ったんですが、特に何も言われませんでした」
 
「女性用?」
「はい。男性用の小紋の服って無いかも」
「いや、君の容姿なら女の子と思われたかも」
「ああ。わりと小さい頃から女の子に間違われていました」
「女の子になりたいとかは?」
「その付近は個人情報ということで非公開で」
「ふむふむ」
 
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「呉服店にあったのは、アテの葉の模様だったんですけど、杉もアテも針葉樹だし、まあいいかなあと思って代用しました」
と夏野君は言うが
 
「アテの方が強力かも。“アテ”という言葉は“明日檜(あすひ)”が縮まったことばで、この木は“あすなろ(明日成ろ)”とも言いますよね。願望を実現する木なんですよ」
と青葉は解説する。
 
(「アテ」=「アスナロ」は別名「ヒバ」。石川県の能登半島はアテの名産地)
 
「灯明は通販で売っていたので買いました」
 
「かなり投資している気がする」
「お年玉の残っていたの全部使いました!」
「なるほど」
 
「それで灯明に火を付けて校内一周してきました。木に結んだ紐が外れて落ちていましたが、中身は無事だったので、それを食べてから普通の服に着替えて帰宅しました」
 
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「それ昭和30-40年代頃なら野犬に食べられちゃってたかも」
「そんな気もします。だからこれ成功しにくいんだと思います」
 
「そんな遅くに出かけて親から何か言われなかった?」
「たまたま両親は旅行に出かけていたんです。それでこの計画を立てたんですよ」
「なるほどー!」
「学校までの往復は?」
「自転車です」
 
「ところで何をお願いしたの?」
と幸花が訊いたら夏野君は真っ赤になって恥ずかしがっている。
 
「個人情報ですよ」
と青葉が注意したので
 
「そうですね。それも秘密ということで」
と幸花は言った。
 

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これは夏野君にお願いして再現ドラマを撮ることにした。学校とご両親に許可を取って、11月8日の闇夜に実行した。この祈願はもともと闇夜にしなければならないのを彼は、両親が不在の夜にやるため、この条件を無視して先日は実行したのである。
 
夜23時半にテレビ局の車が自宅に迎えに行く。既に小紋の和服に着替えているが
 
「可愛い!女の子に見えるよ」
と幸花が言うと、彼は恥ずかしがっていた。でもその恥ずかしがっている所がまた可愛い。青葉はこの子、マジで女装の才能があるじゃんと思った。本当に女の子になりたいとかは!?
 
彼を乗せて学校に行く。対応してくれた事務長さんが校門を開けてくれる(先日はオーバーフェンスしたらしいが、このことは放送では曖昧にしておく)。夏野君は23:55に車を降りてさかさ杉の所に行く。0:00に持っていたアルファ化米おにぎりの入った袋を木の枝に結びつけ、懐中電灯(学校の要請で灯明はやめて懐中電灯にした)を持ち校内を巡回する。高感度撮影できる状態にしたカメラを持った森下さんがそれに付いていく。青葉も一緒に行ったが、幸花・青山・神谷内は逆さ杉の所に残る。
 
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青葉は夜中にこの付近の「気」が不安定になっているのを感じた。雑霊なども結構いる。しかし懐中電灯を持って学校の敷地の端を歩いて行く夏野君のそばで、雑霊がはじき飛ばされるのを何度か見た。たぶん、杉の神霊の一部が彼を守っているのだろう。
 
約6分でさかさ杉の所に戻る。前回途中で落ちた反省から今回はしっかり結んでいたのもあり、袋は落ちていなかった。紐を解いて中のおにぎりを食べ、それから再度逆さ杉の前で合掌して心の中で願い事を唱えて、儀式を終えた。彼を放送局の車に乗せ退出。自宅に送り届けた。
 

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「金沢ドイルさん、どうでした?」
と幸花が訊くが、青葉はカメラを止めてというポーズをした。森下がカメラを止める。
 
「これ結構効果がある気がする」
「え〜〜?」
 
「だから何の効果も無いということにしましょうよ」
と青葉は神谷内さんを見て言った。
 
「そうしようか。でないと真似する人がたくさん出る」
「ね」
 
「夏野君にだけはちゃんと伝えましょう」
「うん。それでいいね」
 
そういう訳でカメラを再度回して
 
「金沢ドイルさん、どうでしたか?」
と尋ねるところから再度撮影する。
 
「まあ頑張ってくれた仮名A君には悪いんですが、何の効果もありませんね。でもこういうことまでしようと思ったほどの彼の気持ちがあれば、いつか夢は実現するかもしれませんね」
と青葉は笑顔で言って、この件の締めくくりとした。
 
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これでH高校七不思議の探訪の取材は終了したのである。
 

この件は放送開始前にもう一展開あった。
 
青葉たちが心配したように、この逆さ杉の祈願を真似する生徒が出ないだろうかと学校側が心配し、代わりに逆さ杉の前に祈願用のお地蔵さんか何かを建てられないかと学校側から放送局に照会があったのである。
 
この件は青葉が理事長さんと直接話し合い、結局無宗教の碑を建てることにした。学校が予算を出して美術部の部員たちに制作してもらった。鐘も取り付け、鐘を叩いて願い事を心の中で3回唱えればよいということにしたのである。お供え物はおにぎりやパンなどでよいとして、碑の上に置いてお祈りをし、終わったら持ち帰るというルールを生徒会が決めた。美術部員たちが張り切り、年内に作ってしまったので、放送直前にこの映像も入れることができた。
 
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生徒会長さんによれば結構好評で毎日列ができているらしい。
 
10年後には、小紋の和服を着て校内一周などという話は忘れられてしまうだろう。図書館では「H高校七つの呪い」の本はしばらくの間閲覧除外し、1年後に解除したものの禁帯出にした。
 
 
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