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■春約(15)

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ジャネが参加したアジア大会の競泳は8月19日から24日まで開催された。
 
会場となったGelora Bung Karno Aquatic Centerは「半室内」のプールである。屋根はあるのだが、壁が無い。それで強風が吹くと水面に波が立つ。更に今回は大会中に競泳プールと飛び込みプールを仕切る仕切り板が倒れたり、表彰式で掲揚台から国旗が落下したり!となかなか凄かった。国旗掲揚台が使えないというので、国旗を軍人に持たせて表彰式を実施したりもした(すぐに応急修理が行われた)。
 
ジャネは800m,1500mに出場したが、どちらも中国選手が1・2位を独占し、ジャネは銅メダルであった。
 
しかし「footless swimmer got medals」などと騒がれて、現地の新聞や放送局の取材も受けていた。
 
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さて、青葉たちの先輩、筒石君康は、昨年1年間“幽霊付き(憑き?)アパート”で暮らしたのち、ジャネや青葉の忠告で、まともな?マンションに引っ越したのだが、ここは3部屋あるのを1部屋は筒石、1部屋はジャネが使い、1部屋、窓の無い部屋(サービスルーム)を千里が“使う”ということにして家賃は千里が払うことにした。
 
それで春からずっと住んでいたのだが、確かにここは幽霊とか妖怪とかが出ないので、いい所に引っ越したなあと思っていた。そのせいか5月下旬のジャパンオープンで凄い記録を出して優勝。急遽アジア大会の代表に追加された。そしてアジア大会でも金メダルを取り、一躍有力選手として注目されることになる。筒石の素質を信じて、ここ1年半仕事免除で水泳の練習だけをさせてくれていた彼の所属企業の社長も物凄く喜んでいた。
 
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その彼がアジア大会から帰国した晩、寝ていたら
 
「すみません」
という声が聞こえたので目を覚ます。
 
何だか7〜8歳くらいの女の子がいる。
なんでこんな所にこんな子がいるんだ?と思ったら、その子は
 
「カンナさんはまだ来てませんか?」
と筒石に尋ねた。
 
「え?そんな子は居ないと思うけど」
と答える。
 
「そうですか。まだ到着してないのかな。失礼しました」
と言って、千里が使っているサービスルームの方に行こうとする。
 
その時筒石は声を掛けた。
 
「あのさ、君」
「はい?」
「俺疲れててさ、お腹空いててたまらないから、コンビニに行って、冷凍ラーメンと冷凍ピザとおにぎり5個買ってきてくれない?」
と言って、千円札を2枚渡す。
 
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「えっと・・・」
「じゃよろしく〜」
と言って筒石はまた寝てしまう。
 
「私が買物に行くの〜?」
とその女の子は戸惑うように声を出した。
 

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8月23日(木)に大阪まで行き、緩菜の誕生に立ち会った千里1は、帰宅した時には、活き活きとした目をしていて、康子を驚かせた。
 
「お母さん、私ちょっとジョギングして来ますね」
「うん」
 
それで千里は“軽く”4kmほど走ってきた。
 
実は10km走るつもりだったのだが、息が苦しくなってきたので4kmで中断したのである。
 
「なまってるなぁ」
と言って、千里は整理運動をした。
 
「どこかでボールを使っての練習もしたいな」
と千里はつぶやいた。
 
なお、運動中は出産したお股があまり痛くならないよう《びゃくちゃん》が鍼を打ってあげている。
 

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千里は翌日、8月24日(金)、千葉市内の千城台体育館に行ってみた。
 
ここは千里自身が所有している体育館で、一応ローキューツの専用体育館であるが、40 minutesの選手も自由に使っていいことにしている。千里は実はどちらの選手でもないが、オーナーなので、別に使うのは問題無い。
 
他の人とぶつからないように朝早く行ったのに、原口揚羽・紫の姉妹が練習していた。
 
「お早うございまーす」
と声を掛けるが向こうはびっくりしている。
 
「千里さん、合宿は?」
「ちょっと気分転換に出てきた。最近なまっているかなあと思って。そうだ少し手合わせしてくれない?」
 
「私たちではとても相手にならないと思いますけど」
と揚羽は言ったが1on1をすると千里は半分ほど勝った。
 
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むしろ半分しか勝てなかったというところだろう。
 
「ほんと調子悪いみたいですね」
と揚羽は言っていた。
 

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翌8月25日(土)の夕方、千里のところに、冬子が訪ねて来た。
 
冬子は千里を見るなり言った。
 
「千里、だいぶ元気になったみたい」
「うん。少し元気になった」
と本人も言っている。
 
それでケーキを食べながら話をしたら、千里は
 
「私、女の子のママになったから、頑張らなくちゃと思った」
と言った。
 
「仙台で代理母さんのお腹の中で育っている子のこと?」
と冬子は訊くが否定する。
 
「あの子の性別はまだ分からない。でも一昨日、私の血を引く女の子が生まれたんだよ。カンナちゃん」
 
「かんな?なんか10月生まれみたいな名前」
「そういう名前にするって、貴司と約束していたから」
「貴司さんと千里の子供!?」
「そうだよ。貴司は美映さんが産んだと思っているだろうし、美映さんも自分が産んだと思っているだろうけど、本当に産んだのは私。だからこれ使っているんだよ」
と言って千里は産褥パッドを見せてくれた。
 
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(緩菜の父親が貴司ではないことに千里が気付くのはずっと先である)
 
「私、初乳もカンナちゃんに飲ませたよ」
「へー!」
 
どうも京平君が生まれた時と同様のことが起きたようだ、と冬子は考えた。
 
千里は本当はちゃんと妊娠・出産する能力を持っているが、元男性が子供を産めるはずがないということに世間的には(科学的には?)なっているので、今回も美映が産んだことにしておく、ということなのだろう。
 
実際問題として、そのために法的な妻の座を阿倍子や美映に“貸した”というのが、貴司さんがその2人と結婚した真相なのでは、と冬子は思った。
 
しかし・・・それなら千里と同様に生理がある、私、青葉、和実にも子供が産めるんだったりして?と一瞬、冬子は思った。そして2ヶ月ほど後、更にその説を強化することになる事件が起きる。
 
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千里1は、バスケの練習も始めたが、まだ本調子ではないと言っていた。しかし揚羽とマッチアップして半分は勝ったということは、かなり回復してきているのではと冬子は思った。
 
それで冬子は一度廊下に出てから千里2(現在フランスに居る)に電話して、千里1の回復状況を話す。すると千里2は驚いているようだったが、適当な練習パートナーを行かせると言っていた。
 
部屋に戻ってから言う。
 
「南野鈴子(みなみのすずこ)さんというローキューツのOGさんがしばらく練習パートナーを務めてくれるって」
「ローキューツの?知らないなあ」
と千里1。
 
「うん。千里とは入れ違いになったから、千里は彼女のこと知らないはずと言っていた。短期間の在籍だったらしいし」
「へー」
 
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千里2は《きーちゃん》に頼んで、《すーちゃん》にしばらく千里1の練習パートナーをしてあげてと言って欲しいと頼んだ。
 
「分かった、やらせるよ」
と《きーちゃん》は言い、《すーちゃん》に連絡をした。
 
「もうそんなに回復してるんだ!さすが千里だね」
「現状ではたぶんとても朱雀の相手ではないとは思うけど、よろしく」
「たぶん、すぐ追い抜かれちゃうよ」
 
なお、この時点で、千里2,3が直接使える眷属はこのようになっている。
 
千里2:《こうちゃん》《きーちゃん》《つーちゃん》
千里3:《すーちゃん》《せいちゃん》《えっちゃん》
 
《えっちゃん》は実は千里2の眷属だが、千里3のガードを命じられている。千里3はそのことに気付いているが、気付かないふりをして、運転代行をさせたり、荷物運びをさせたり、様々な事務手続きの代行をさせたりして自由に使っている。わりと、こき使われている!
 
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《きーちゃん》は千里2の直接の眷属ではあるが、元々美鳳から“千里”に従うよう命じられているので《千里2》《千里3》の双方に義理立てして、お互いの情報を相手には流さないように気を付けている。
 

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《すーちゃん》は翌日朝、千葉の川島家を訪れ“南野鈴子”を名乗って千里1を連れ出すと、千里自身のミラを運転して、常総ラボに向かった。1時間ほどで到着するが、千里1はここを微かに覚えているようで
 
「なんかここ昔来ていた気がする」
と言った。
 
「ここは今誰も使っていないんですよ。ここでしばらく練習しましょう」
「ええ」
 
それで千里1の“リハビリ”は始まったのである。
 

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8月30日(木)、緩菜・貴司・美映のDNA鑑定結果が出るが、それはまた医師たちを悩ませるものであった。
 
緩菜の血液型はこの鑑定ではA型となっており、更に性別は男性となっていた。赤ちゃんの血液型は元々判定が難しいので先日の院内の検査でABとなっていたことは特に問題にしないが、性別に関しては、この鑑定結果から、この子は若干性別に疑義はあるものの、染色体的には男性であると医師たちは考えた。
 
それより問題は親子鑑定の方である。
 
《ホソカワタカシがホソカワカンナの生物学上の父親である可能性は未鑑定の父親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
 
《ホソカワビバエがホソカワカンナの生物学上の母親であることは否定されました。親子である可能性は全くありません。0%です》
 
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つまり緩菜は間違い無く貴司の息子(娘?)であるが、出産した本人・美映の子供ではないというのである。
 
「なぜこんなことが起きる!?」
と医師たちは悩んだが、ひとりの医師が気がついた。
 
「ひょっとして卵子を借りたのでは?」
「あ!そういうことか!」
 

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それで院長は貴司を別室に呼んだ。
 
「失礼ですが、そちらではお子様を作られる時に体外受精とかなさいましたでしょうか?」
 
すると貴司は“体外受精”ということばで、京平のことを訊かれたのかと思い、
 
「ええ。妻の卵子がどうしても育ってくれなかったので卵子を友人から借りたんですよ」
 
と言った。緩菜の出産をした病院で京平のことを聞かれる訳がないのだが、貴司は、何にも考えていない。しかし医師はそれでホッとするとともに「そういうのは最初に言っておいて欲しいよ!」と思った。
 
なお、京平は阿倍子と一緒に暮らしているので、ここの病院には姿を見せていない。それで医師たちは貴司に他にも子供がいることに気付かなかった。
 
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このDNA鑑定書を医師たちは貴司や美映には見せなかったので、貴司たちは、緩菜の血液型を出生直後に検査された時に言われたAB型だと、ずっと思っていた。
 
また医師たちは緩菜の性別について「精密検査の結果、染色体上は男の子で間違いありません」と言ったので、貴司と美映は話し合い、男の子として出生届を出すことにした。貴司たちが「男の子でいい」と言ったので、医師は“そばにあった”ボールペンを取り、出生証明書の「男女の別」の所と母子手帳の性別欄に、どちらにも丸を付けていなかったのを、男の方に丸を付けた。
 

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そして貴司は医師から受け取った出生届・出生証明書の用紙(これは紙の右半分が出生証明書、左半分が出生届になっている)に“近くにあった”ボールペンで細川緩菜・嫡出・長男・平成30年8月23日15時2分生、と記入し、母子手帳と一緒に持って歩いて豊中市役所に向かった。
 
この病院から市役所までは充分歩いて行ける距離なのである。
 

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