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■春約(2)

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「まあそういう訳で、2/6と1/3は同じなんだけど、より簡単な表現なのはどっちだ?」
 
「1/3です」
と3人は同時に答えた。
 
「そうそう。だから2/6と書いてあったら、1/3に直してしまう。これを《約分》というのだよ」
と言って先生は《約分》と板書する。
 
「約というのは、要約とか節約の約。簡単にする、小さくするという意味。この約分する時というのは、この場合、2/6の分母・分子を各々2で割っているよな」
 
と言って、先生は
 
2÷2=1
6÷2=3
 
と黒板に書いた。
 
「つまり分母・分子をどちらも同じ数で割ることができる場合は、そうすることで約分ができる」
 
西湖は約分ってそういう意味だったのか!と小学4年生の頃以来、訳が分からないままになっていたことが納得できた。
 
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「これは数字の場合だけじゃないぞ。たとえば abc/bd という分数があったら分母も分子も b で割ることができる。だから abc/bd は約分して ac/d になる。
 
うんうん。そう説明されたら結構分かる。
 
「理科の単位とかもそうだ。たとえば kg m s / s という式があったら、分母子どちらにもs(秒)が入っているから約分して kg m にしてしまうことができる」
 
へー!
 
「例えば速度 8m/sで 5s間走った場合は、8m / s × 5s だから、かけ算は分子に掛ければいいから、8 × 5 m s /s となり、sを約分して答えは 40mとなる。だから秒速8mで5秒走れば40m進む。こういう計算でも約分をしている訳だな」
 
西湖はその計算自体は分かるけど、そんな所に分数の約分が使われていたのかと大いに驚いた。
 
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「まあ約分というのは、無駄を省いているということなんだよな。ケーキを6つに分けてから2つずつ配るより、3つに分けて1つずつ配る方が切る手間が省ける」
 
西湖たちも頷く。
 
「ズボン穿いててスカートに着換える場合、ズボン脱いでパンティも脱いで、それからまたパンティ穿いてスカート穿くより、ズボンを脱いだ所でパンティは脱がずそのままスカート穿いた方が速い」
 
教室に笑い声が生じる。
 
「先生もスカート穿くんですか?」
と突っ込む生徒がいる。
「何度か穿かされたけど、あれは病み付きになりそうで怖い」
と先生が言うと、みんな笑うが、西湖はギクッとした。
 
やっぱりスカートって病み付きになるよね!?ね!?
 
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「そういう訳で、約分というのは、そういう手間を省く作業なんだよ。言い方を変えれば相殺(そうさい)」
と先生が言うと教室内で頷いている子が多い。
 
「行儀良くするなら、コーラはいったんボトルからコップに注いで、コップから飲んだ方がいいかも知れないが、手間を省きたい場合は、ボトルからそのままラッパ飲みする」
 
教室内でクスクスという笑い声が聞こえる。
 
「芸能人でよく結婚してすぐ離婚する奴がいるけど、あれってわざわざ結婚式あげたりして無駄だから、最初から結婚しない方が効率が良い」
 
と先生が言うと、また笑い声が起きていた。
 
むろんみんな芹菜リセのことを考えていた。
 

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5月14日の深夜、千里Cこと《せいちゃん》は社長から頼まれていた最後の企画書を書き上げると、印刷を掛けて、そのまま机に打っ伏して眠った。やがて印刷が終わったような音がすると、精神力を奮い立たせて立ち上がり、そろえてクリップで留め、社長の机の上に置いた。
 
それから荷物をまとめ始める。
 
最初は千里本人(千里A)が勤めることになっていたはずが入社初日から千里Bこと《きーちゃん》に「代わりに勤めて」と言われ、彼女は大型機ばかりやってきているので、汎用機とかUnix/Linuxマシンは分かるが、MSDOS/Windows/Macなどの端末は不得意である。それで結局そのあたりが得意な自分が担ぎ出されることになった。最初は3人で分担して仕事をしていたはずが、その内千里Aは全く出て来なくなる。そして昨年の春からは千里B(きーちゃん)も出て来なくなって、結局ほぼ全部《せいちゃん》が仕事するようになった。
 
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千里の代理なのでこの3年間ずっと女装で過ごしたが、あいにく彼は女装の趣味は無いので、この女装で過ごすのが、嫌で嫌でたまらなかった。
 

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「やっと女装から解放される。男に戻れる。もう女子トイレになんか入らなくていい」
 
と思っただけで、少し元気が出てくるかのようである。女子トイレはそこに漂う“女の香り”でむせそうになっていた。
 
「しかし俺、この3年間さんざん女子トイレも使ったし、女子更衣室も使ったし、もう女の下着とかヌードとか見ても何も感じないかも知れない。俺ちゃんと男に戻れるかなあ。もう1年くらいオナニーしてない気がするし」
 
と彼は少々不安も感じていた。
 
荷物をあらかじめ用意していた箱に全部放り込むと、いったんそれを駐車場に駐めているアテンザワゴンに積み込む。そしてあらためて少し掃除などもしてから忘れ物がないか確認。お土産にお菓子の箱を社長の所に置いてから退出する。鍵を締めて、その鍵は郵便受けに放り込んでから《せいちゃん》はアテンザに乗り、取り敢えず経堂の駐車場まで移動した。
 
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千里が名古屋に引っ越すので、用賀の駐車場は解約したのだが、経堂の方は桃香の所に来る場合に使うかもということで契約を維持する。それで《せいちゃん》はこの駐車場で朝まで寝ていた。
 

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トントンと窓を叩く音でギョッとして飛び起きる。
 
しかし見ると《きーちゃん》なのでホッとする。
 
「こんな所で寝てると風邪引くよ。どこか景色の良い所とかで1ヶ月くらい、のんびり過ごさない?」
 
「休んでいいの?」
「もちろん。千里の許可も取ってる。どこ行く?九州?北海道?」
 
「そうだなあ。出張で何度か行った宮崎が結構美しいと思った」
「じゃ、取り敢えず羽田まで送るから、宮崎行きに乗りなよ。ホテルは青龍が飛行機に乗っている間に確保して、そちらにメールするから」
 
「助かる」
 
それで《きーちゃん》がアテンザを運転して羽田に行き、《せいちゃん》には取り敢えず50万円渡して、彼を宮崎行きに乗せ、その後ホテルを探して、青島のパームビーチホテルを予約した。
 
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「1ヶ月のご滞在ですか!?」
とホテルの予約係は驚いた。
 
「何でしたらホテル代は前金で払いますよ。口座番号教えて下さい。振り込みますから」
「分かりました!」
「もしかしたら半月くらいで出るかもしれませんが」
「ではその時は精算して・・・」
「現金で本人に返金してもらえばいいです」
 
「分かりました。ご宿泊なさるのは、えっと男性でしたっけ?女性でしたっけ?」
「女性です」
「ご年齢は?」
「1072歳です」
「は?」
「あ、ジョークです。32歳ということで」
「分かりました」
 

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それで《きーちゃん》は
 
《青島のパームビーチホテルに予約したからバスで移動してね〜。ちなみに名前は五島節子 32歳・女性で登録してるからちゃんと女性の格好でチェックインしてね》
 
とメールを送っておいた。
 
《せいちゃん》は宮崎空港についてからこのメールを読み
「うっそー!?」
と声をあげたものの、そもそも自分がJソフトからそのまま出てきたから、女装したままであることに気付く。だいたい自分が持っている航空券を見ると 42F と印刷されている。そしてハッとして自分が持っているバッグの中身を見ると女物の服ばかり詰まっていることに気付いて、愕然とした。
 
「もう女装辞めたいのに〜」
と泣きそうな顔で呟いた。
 
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さて、一方千里1(=千里A)の方だが、5月14日の深夜もずっと千葉市内のウィークリーマンションでひたすら作曲作業をしていて、何とか1本仕上げて送信したら15日(火)朝だった。パタっと倒れ込むようにお布団の中に潜り込みそのまま眠り込む。
 
そして起きたらもう15時だったので、もう荷物は放置してバタバタと身支度だけ整えて千葉駅に向かう。来た電車に飛び乗って名古屋に向かった。
 
千葉15:51-16:30東京16:47-18:28名古屋
 
車内から信次にメールして、18時半頃名古屋駅に着くことを伝える。
 
《お荷物が届くのは明日だし、今日は一緒に外食しない?》
《OKOK。じゃ18時半に迎えに行くよ》
 
なお、この日は名古屋名物《ひつまぶし》で食事をして“転勤祝い”をした後、帰宅するなり千里が疲れが出て眠ってしまったので初夜?はお預けとなった。
 
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水曜日の日中に荷物が届いたのでとにかく千里1人でできる分だけ片付け、夕方信次が帰宅したら2人がかりでないと難しいものを何とかした。
 
「取り敢えず台所用品とかパソコンとか取り出したけど、残りの箱は少しずつ整理しようか」
「そうしよう」
 
ともかくも調理器具が出てきたので、この日はお肉と野菜を買ってきて、焼肉をして、引越祝い第2弾ということにした。
 
そしてこの日ふたりは初めて夜を共に過ごした。
 
もちろん千里が信次に入れるのだが、千里はこれなら自分のヴァギナを使わないので、貴司に対する後ろめたさが少ない、と思っていた。
 

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木曜日は午前中食料品などの買物に行き、午後からは熱田区内のワンルームマンションに移動して、また作曲作業をしていた。
 
こちらは全ての荷物が配置され、配線も済んでおり、千里はそのまま月曜日の作業の続きをすることができた。
 
千里1はこれを青葉が手配した引っ越し屋さんがしてくれたと思っているが(引越屋さんはネットの設定とかまでしてくれない)、実際に作業したのは千里1とコネクションが取れないまま守護してくれている眷属たちである。
 
今回は《せいちゃん》がお休み中なので、《げんちゃん》が頑張って配線をしてくれた。
 
金曜日は朝信次を送り出したらすぐにマンションに移動して作業を続けた。
 
なお作曲関係のデータは大半をここに置いているが、緊急に連絡があったりした時のために、現在進行中の作品のCubaseプロジェクトと、全ての作品のMIDIデータをノートパソコンに入れて、これは中村区のアパートの方にも持って行っている。
 
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土日、会社は本来休みなのだが、信次は「休日も出勤しないといけないから」と言うので、朝ふつうにお弁当を持たせ、ついでに「多分要る」と言って傘も持たせて送り出す。そして信次が
 
「今夜は徹夜作業になる」
と言っていたのをいいことに、必要な装備・資料を持って新幹線に飛び乗る。
 
(定期券を買うつもりだったが、毎日東京に行くことにはならないようだというので回数券を買った。6枚つづりで62,160円である。通常運賃は10,890円なので3180円:1回あたり530円お得)
 
最初に病院の夜勤明けという話だった蓮菜に会い、午後からは新島さんと毛利さんに会いに行ったのだが、毛利さんは
 
「醍醐ちゃん、いい所に来た!間に合わないんだ。5時までに1曲書いてくんない?」
などと言う。
 
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「誰の曲ですか?」
「三つ葉」
「アルバム?」
「シングル」
「え〜〜〜!?」
 
「タイトル曲を今調整中。カップリング曲まで手が回らない。スケジュール的に今日から音源製作に入らないと発売に間に合わない」
 
「なんかいつもそれですね〜」
 
と言いながら、千里はノートパソコンを広げて、彼のマンションで1曲書き上げた。葵照子に電話して1個詩を送ってもらい、それに即興に近い形で曲をつけた。『マドンナの祈り』という落ち着いた雰囲気の曲である。三つ葉には少し大人っぽすぎるかなとは思ったものの、まあカップリング曲ならいいだろうと思った。
 
時間が無いので、メロディーとコードだけ指定して、伴奏はCubaseの自動伴奏機能で入れてしまった。
 
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「自動伴奏で入れてますから、あと手作業で調整してください」
と千里は言ったが
「ごめん。もう時間無いから、そのまま使う」
と言っていた。
 

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その後、桃香のアパートに寄ったのだが、留守だったので、台所がとんでもない状態なのを片付け、食料品を買ってきて冷蔵庫・冷凍室に放り込んでおいた。
 
その日は都内のホテルに泊まり、日曜日は朝から横浜市にある、レッドインパルス2軍の練習場に顔を出す。
 
「テンさん、お時間取れたんですか?」
と練習に来ていたメンバーがびっくりする。
 
彼女らの認識では“千里”は現在、東京北区のNTCで缶詰になっているはずなのである。しかし千里(千里1)は、名古屋に居るはずなのにと思われたものと思い、
 
「ちょっと気分転換に出てきた」
と言って、彼女たちと手合わせした。
 
「1ヶ月半見ないうちに凄くレベルアップしてる。これなら1軍復帰も時間の問題ですね」
とこの日出てきたメンバーからは言われた。
 
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「私もけっこう進化している気がした!」
と千里1は言った。
 

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