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■春秋(15)
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それで青葉は吉田君の後ろに乗り、少し走り回ることにする。
「吉田君、二人乗りはOKだっけ?」
「高3の夏休みに免許取ったからね」
「さすがさすが」
交通量の少ない所がいいよと言って、郊外に向けて走る。森本まで旧8号線(県道215号)を進み、その後、国道304号に乗った。
「この道、初めて走った。気持ちいい!」
「バイクで走ると車より気持ちいいよ」
「そんな気がする」
バイクの操作に関しては、減速・加速、カーブの曲がり方などをひとつずつ吉田君は解説してくれたので、ほんとに青葉は春に普通自動二輪免許を取った時の講習内容を随分思い出した。
国道304号の終点、南砺(なんと)市では
「ここに来たら、絶対これは必見」
と言って、“セフレ”に連れて行ってくれた。
お店の看板には堂々と《A-COOP なんと セフレ》と書かれている。青葉も「うーん・・・」とうなって、そのお店を見上げた。
中に入って、飲み物とおにぎりにチキンを買ってきて、一緒に食べた。
「なぜセフレになったんだろう?」
「確かセーフティ&フレッシュの略とかいう話だった」
「なぜ誰も停めなかったんだろう?」
「それが一番の疑問やね」
と吉田君も笑って言っていた。
そのまままた吉田君の運転で金沢まで戻った。
ガソリン代などはもちろん青葉が出したのだが、付き合ってくれた御礼に夕食に誘った。
「途中で言うと意識されると困るから言わなかったけどさ」
「何?」
「川上、おっぱい結構大きいな」
「ごめんねー。身体を密着させておかないと怖いから」
「うん。それでいいんだけど」
「あそこ反応した?」
「それは聞かないのが武士の情けというもので」
「だけど今日もブラジャー着けてたのね」
「学園祭までは毎日着けることって厳命されてるんだよ」
「銭湯にもプールにも行けないね。ブラ跡付いてるでしょ」
「付いてる。性別移行する人の辛さを垣間(かいま)見ている」
10月1-2日、千葉県では先週の千葉県秋季選手権の準決勝と決勝が行われた。ローキューツは準決勝でフドウ・レディスを破り、決勝では千女会に1点差勝ちして、関東総合へと駒を進めた。
2009年以来、千葉県ではローキューツ(クラブ協会所属)と千女会(教員連盟所属)の“2強”時代が続いている。
10月8日(土)。青葉は母・朋子と一緒に市内のバイクショップを訪れた。
「でもホントに私心配で心配で」
と朋子はまだ言っている。
「疲れている時は絶対運転しないし、練習以上の使い方はしないと誓うから」
と青葉はまだ母を説得している。
実は青葉はどっちみちステップにするバイクだから中古でいいと言ったのだが、母は中古を買ってトラブルがあると困るから、どうしても買うというのなら新車と言い、その点は青葉が妥協した。
ともかくも、ショップの中に入り、青葉は
「ヤマハのYZF-R25の新車が欲しいのですが」
と言ったのだが・・・・
「女子大生さんならビッグスクーターがお勧めですよ」
とアットホームな雰囲気のスタッフさんがニコニコ顔で言う。(後で気付いたがオーナーの息子さんだったようである)
そしてそのスタッフさんが「まあ取り敢えず見てください」と言って連れて行って見せてくれたのは、ホンダのPCX-150 キャンディーノーブルレッドと白のツートンカラーである。
「色合いも可愛いでしょう?」
「あ、いえ。私、大型二輪免許が欲しくて、その練習用、ステップアップ用に中型バイクが欲しいんですよ。ですからATではなくMTで」
と青葉は趣旨を説明した。
「大型二輪を目指すんですか!女の子で大型も格好良いですよ」
「憧れますよね。でも実際には大型二輪取っても、けっこう日常は中型使うことが多いかもという気がするし、今中型を買っても無駄にはならないと思うんですよね」
「確かにそうですよ。私もゴールドウィング持ってますけど、もっぱらツーリング用で、普段はCBR250Rに乗っているんですよ」
とスタッフさんが言う。
「ゴールドウィング格好いいですね!」
と青葉はまずは褒めておく。
「でしょでしょ?」
と向こうはどうも商売を忘れている感じだ。
「それで私はそのホンダCBR250Rと同クラスのヤマハYZF-R25狙いで来たんですよ」
「ああ!それ悪くないですよ。将来大型取りたいのなら、そのあたりもいいと思いますよ」
とスタッフさんは褒められたこともありご機嫌である。
結局、吉田君も言っていたライバル車種、ホンダCBR250R, カワサキ・Ninja250, ヤマハYZF-R25, スズキGSR250Fと4台乗り比べてみませんかと言われる。
どちらかというと青葉も試してみたい気分だったので、まずは持参のヘルメットと手袋を着け、バイクスーツも着る。
「準備万端ですね!125ccとか乗っておられます?」
「いえ。友だちのバイクに同乗する時のために持っているんですよ」
「なるほどー!」
それで各々のバイクに跨がり、スムーズにエンジンを掛けて発進。構内で各々30mずつ往復で走らせてみた。
「発進・停止はスムーズですね」
とショップの人には褒められたし、母も
「へー、やるじゃん」
と言ってくれたが、実は青葉としてはかなりドキドキであった。
内緒だが、先日吉田君のバイクで南砺市まで往復した時に、山中の道で
「誰も見てないから、ちょっと走らせてごらんよ」
と言われて少し練習させてもらったのである。最初は結構発進できずにエンストさせたりもしたが、おかげで、今日はスムーズに出来た。
結局4台乗り比べて、やはり事前にスペックをチェックして自分の好みはヤマハっぽいと思っていた通り、ヤマハのバイクがいちばん自分に馴染む感じがした。
それで結局YZF-R25を買うことにする。
お店の人は中古にも新車同然の状態の良いものがありますよと言ったが、朋子が新車という線を譲らない。
「ABSはどうします?」
という質問に、青葉は
「無しでいいです」
と言ったのだが、母が横から
「いえ、それ付いてるのにしてください」
と言う。
「ではABS付きで」
「今在庫はありますか?」
「YZF-R25-ABSの新車でしたら、今ブルーとブラックの在庫がありますが」
「ブルーがいいです」
「金額はどうなりますか?」
「定価は消費税込み599,400円で、これに重量税4900円、自賠責12ヶ月で9,510円、登録代行手数料6000円を加えて619,810円になります。お支払いはどうなさいます?バイクローンとかありますが」
「あ、いえ現金で払いますよ」
「分かりました。でしたら少しサービス品付けておきますね。それと端数取って61万円ジャストにしますよ」
「ありがとうございます」
万円単位で端数を取ってくれるのはさすが個人経営っぽいショップである。本来バイクの特に新車はほとんど値引きしない。
サービス品としてヘルメットとバイク用グローブ、タイヤのロックチェーン、バイクカバーまで頂いた。ヘルメットは「うちにあるのでこのエリアにあるの好きなの取って下さい」と言われたので、ブルーのヘルメットを選んだ。自分用にピンクのを買ったので同乗者用はブルーにしようかという考えである。但し2人乗りができるのは来年の春以降になる。
「ありがとうございます。では休み明け10月11日の夕方にはお引き渡しできると思います。準備ができましたら、ご連絡します」
「分かりました。お願いします」
10月7日(金)。今年のWリーグが開幕した。
千里が所属するレッドインパルスは昨年の覇者・サンドベージュとの代々木第2での二連戦に臨むが、76-61, 72-59で二連敗のスタートとなってしまった。この後リーグは年末まで全チームと当たる通常シーズン戦(1次ラウンド)が行われる。
10月7-10日、岩手県で第71回国民体育大会が開かれた。今年のバスケットは成年男子が47都道府県から代表が出ることになった。貴司は大阪府の選手として選ばれ、出場していた。
7日の1回戦は不戦勝、8日の2回戦では島根代表に勝ち、同日行われた3回戦で宮城代表に勝ってベスト8に進出する。しかし9日の準々決勝で愛知代表に敗れ、今年はここまでであった。
大会が終わって大阪に戻ってきた貴司は、新大阪駅の出口に阿倍子が京平の手を引いて待っているのを見た。
「もう浮気しない?」
と阿倍子は訊いた。
「ごめんね。本当にあれは悪かった」
と貴司はあらためて謝った。
「だったら今度だけは許してあげる。次やったら、もう本当に許さないよ」
と阿倍子は言った。
「分かった」
「じゃ一緒に帰ってあげるよ」
「ありがとう」
「パパ、ぼくカレーがたべたい」
「よしよし。作ってあげるよ」
と言って貴司は京平の頭を撫でた。
この家では実はカレー作りは貴司の仕事になっている。カレーなんて脂っこいもの食べられないと阿倍子は言い、ひとりだけ冷や奴でごはんを食べる。
「でも僕が到着する時刻、よく分かったね」
と貴司は阿倍子に言った。
「千里さんが教えてくれたからね」
と阿倍子。
確かに千里なら分かるだろう。しかし・・・・
「まさか仲良くなっちゃったの?」
「まさか」
と言ってから阿倍子は付け加えた。
「私は千里さんを信用していないけど、今は貴司の方がもっと信用ならない」
「ごめーん」
阿倍子は帰宅後、年内セックス拒否を宣告した。
(とは言っても、実際にはふたりはセックスをしたことがない。要するに同衾拒否ということのようである。なお、貴司は実は千里からも年内射精協力拒否を宣告されている)
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春秋(15)