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■春秋(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-29
 
8時半頃、風花が昨日の内に借りていたプリウスαを運転して女満別空港にケイとマリを迎えに行った。少し遅れて、千里や青葉たち、チェリーツインのメンバーも数台の車に分乗して網走市内のスタジオに向かう。10時前にケイたちが到着して『赤い玉・白い玉』の制作を始めた。
 
スコアは既に1週間前に演奏者全員に配られており、みんな練習しているので合わせると1発で合う。取り敢えずそれを録音したものを聴いて検討する。
 
なお、今回は青葉・千里・天津子・七美花と“破壊力”のあるメンツが4人もそろっているので、録音用の機器などが壊れたり、窓ガラスが割れたりするが、気にしない! 録音を担当するケイの友人・有咲は平然として破損した電子チップやスピーカーを交換するし、ガラス屋さんまで待機していて、すぐにガラスを交換する。割れたガラスは助手の近藤妃美貴さんが掃除機を掛けて片付ける。ケイたちと一緒に飛んできた、ローズ+リリー専任ドライバーの佐良さんも「これ凄いですね」と驚いていた。
 
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かなり難しい曲であったにも関わらず、お昼過ぎには演奏部分が完成した。そして午後からは歌唱の収録に入る。伴奏者はみんな暇なので、おやつを食べたりして、音楽談義をしている。
 
ただしその間、千里・青葉・天津子の3人は別室に入り、これまでにお互いが得た情報を交換し、例の問題について議論した(今日明日はスタジオ全体を丸ごと借りている。そうしないと他の利用者に迷惑が掛かる可能性があるからである)。この結果、これまで3人があるいはと考えていたことが、事実として認定された。また、一連の問題で最も根本的なものについても、お互いが想像した内容を突き合わせた。3人の想像が一致したことから、証拠は無いものの、多分そういうことであったろうと意見がまとまった。
 
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録音の方はマリの歌も4時前には完成し、ケイの歌と合わせて、伴奏に乗せ、『赤い玉・白い玉』の録音は完成した。
 
一応2日間の予定だったのだが、案外簡単に済んだね〜と言いながら撤収。牧場に引き上げることにする。スタジオも明日まで借りていたのだが、もしかしたら明日は来ないかもとスタジオの人には言って出る。念のためキャンセルはせずに、明日いっぱいスタジオ丸ごとリザーブしておくことにする。
 

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牧場に戻り、少しした所で、枝幸町に住む真枝亜記宏が到着する。
 
亜記宏は物凄く可愛いチュニックに女子大生でも穿きそうなまた可愛いプリーツスカートを穿いていて、春美が顔をしかめていたが
 
「ごめん。僕の男物の服無い?」
などと言って、出してもらい着換えていた。
 
しかし、あの服でここまでドライブしてきたのか?途中でのトイレとかどうしたんだ???
 
それで春美、亜記宏、千里、青葉、天津子の5人はE棟の千里と青葉が泊まっている部屋に入り、春美から依頼されていた問題について報告をすることにした。食事をしながらが良いだろうということで、この5人の分の食事をこちらの部屋に用意してもらっていた。
 
お酒もあった方がいいということで、富良野ワインと網走ビールも用意してもらっている。春美と亜記宏には最初からビールを1本くらい飲むことを勧めた。2人にとって結構シビアな話し合いになることが予想されるからである。
 
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少しお腹が満ちた所で、青葉が説明を始めた。
 
「私たちの疑問の出発点は、多津美ちゃんと織羽ちゃんが、あまりにも似ているということだったんです」
 
■戸籍上の関係
 

 
■遺伝子上の関係
 

 
「実際には、織羽ちゃんと多津美ちゃんは、どちらも有稀子さんを遺伝子上の母とする子供なので、似てておかしいことはないのですが、ふたりはまるで双子のように似ている。父違いの姉妹とは思えなかったんです」
 
「それで私たちは関係者の血液型を調べさせて頂きました。これがこの結果です」
と言って青葉は血液型を書き込んだ系図を見せる。
 
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「理香子ちゃん、しずかちゃん、織羽ちゃん、多津美ちゃんはいづれも不妊治療で生まれているので、血液型が明確です。理香子ちゃんたちを妊娠した実音子さん、多津美ちゃんを妊娠した有稀子さんもきちんと血液型が調べられています。実音子さんは交通事故で半年にわたって入院した時に輸血の血液の確保に苦労したそうです。ただこの時、亜記宏さんも同じRH-B型だったので、かなり大量に血液を提供したらしいです。そういう訳で亜記宏さんの血液型も間違いありません。春美さんは献血の常連さんで献血カードの持ち主で、春美さんの血液型もRH+ABで間違い無いです」
 
「洲真子さんは長期間施設に入っていたので、血液型が記録に残っていてRH-AB型は間違いないのですが、騨亥介さんの血液型については誰も知りませんでした」
と言って青葉は一度言葉を切る。
 
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「ところが、今回調査していてあらためて有稀子さんに照会した所、何か資料が残ってないか調べて下さいまして。すると騨亥介さんの遺品の中から古い献血手帳が見つかりました。それで騨亥介さんはRH-AB型であったことが確認されました」
と言って青葉は系図の騨亥介の所にRH-ABと書き加える。
 
「2000人に1人しか居ないと言われるRH-ABがこんなに居るなんて」
「凄いですね」
 
「あれ?」
と亜記宏が声を挙げる。
 
「駆志男さんの血液型が変なのでは?」
 
「そうなんです。騨亥介さんも洲真子さんもRH-であった以上、駆志男さんが2人の間の子供であれば、彼もRH-でなければおかしいです」
 
「RH+B型というのは、医療機関か血液センターで調べたものですか?」
「それが、本人がRH+B型だと、周囲に言っていたらしいのですが、どこで確認したものかは分からないようです。有稀子さんも本人がそう言っていたのでそれを信じていたということなのですが」
 
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「少なくともRH型は違いますね。あっ・・・・。それなら多津美の血液型もおかしい」
 
「そうなんです。有稀子さんがRH-、駆志男さんも今回の推論からRH-であるなら多津美ちゃんもRH-であるはずです。ところが多津美ちゃんはRH+なんです」
 
「そういうわけで2つの結論が導かれます」
と千里が言う。
 
「駆志男さんが騨亥介・洲真子夫妻の子供であるなら、血液型RH-であるはず。そして多津美ちゃんは駆志男さんの子供ではない」
 

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ここで春美が発言した。
 
「前からひょっとしてと思っていたのですが、多津美はもしかしたら私の子供なんでしょうか?」
 
「その可能性が高いと思います。だから織羽ちゃんと多津美ちゃんは、同父同母の姉妹だから、双子のように似ているのだと思います」
と青葉。
 

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「それから、これは亜記宏さんは認識しておられたと思うのですが、理香子・しずか・織羽を産んだのは実音子さんじゃないですよね?」
と青葉が言うと
 
「え〜〜!?」
と春美が声を挙げる。
 
亜記宏は疲れたような顔で頷いた。
 
「どうして分かりました?」
「3人の誕生日ですよ」
と青葉は言った。
 
「理香子ちゃんの誕生日は2002年11月21日、しずかちゃんは2003年9月24日。間隔が307日しかない。しずかちゃんが予定日通り産まれたとしたら受精したのは、2003年1月6日になります。出産して2ヶ月も経たない内に次の体外受精をやるなんて、あり得ない。更に織羽ちゃんの誕生日は2004年6月18日。しずかちゃんとの日数差は268日。逆算すると受精日は2003年9月26日です。しずかちゃんが生まれた2日後。こんなの物理的に不可能ですよ」
 
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「全然気付かなかった。それどうなってるの?」
と春美が訊く。
 
こういう問題に全く気付かないのは、のんきな春美らしい。
 
「代理母ですよね?」
と青葉は訊いた。
 
「そうです」
と亜記宏はため息をつくように言った。
 

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「これ明らかになると、法的な問題も出てくるので、内緒にしてください。僕と実音子は2001年夏に結婚したのですが、僕が彼女と婚約した2000年暮以降、ぼくは全然立たなくなってしまって。それで実音子も『人工授精すれば問題無いよ』と言っていました。当時、勃起はしなくても、刺激すれば射精はしたので。ただ、この時点で実音子が実は閉経しているという話を聞きました。更に僕の精液は調べてみると精子が含まれていないことが分かった。それで生殖細胞を借りることになった」
 
そのあたりは過去に亜記宏が春美たちに説明していた内容である。
 
「ところが、借りた精子と卵子から作った胚を実際に実音子の子宮に投入しても全く育たなかった。仕方ないので人工流産させたのですが、実音子はRH-なので、次に妊娠した時に血液型不適合によるアナフィラキシーショックを起こさないように、ガンマグロブリン注射をしました。ところが、この注射自体でショック症状を起こしまして」
 
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「うわぁ」
「これはマジで危なかったんですよ。それでもう妊娠するのは無理だということになって・・・・」
 
「それで代理母を使うことにしたんですね?」
「はい」
 
と言って亜記宏は小さく頷いた。
 

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「ただ、現在国内では代理母の法制度ができていないので、治療を行った医師が処分される可能性もあるし、子供はいったん代理母さんの子供として戸籍に登録され、その後、特別養子縁組でこちらの子供にしなければならない。その法的な手続きもひじょうに大変だということでした。それで内緒で実行することにしたんですよ」
と亜記宏は説明する。
 
「ということは、結局、理香子・しずか・織羽は、実音子さんの遺伝子上の子でもなければ、自分が産んだ子でも無かったのか・・・」
 
と春美が厳しい顔で言う。
 
「僕たちは当時、その精子と卵子が誰の物かというのも説明されてなかったけど、結局、第三者の精子と第三者の卵子を使い、代理母さんが産む。僕も実音子も、あの3人の誕生には全く関係無い」
 
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「うーん・・・・」
 
「要するにほとんど普通の養子に近いよね」
と天津子が言った。
 
「それも実音子が、あの3人に愛情をもてなかった原因かも知れません」
と亜記宏は言う。
 
「アキはちゃんとあの3人を最初から愛してた?」
 
「もちろん。そもそも男って『あなたが父親よ』と女から言われたらそれを信じるしかない存在なんだよ。だから、これは自分の子供、といったん思えば、ちゃんと愛情を持てる仕組みになっているんだと思う」
 
「そのあたりは男と女の感覚の違いかもね」
と天津子が言った。
 
青葉はその問題は自分には分からない気がした。やはり私、根本的には女ではないのかなぁ、などとまで思ってしまう。
 

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