広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■春秋(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-31
 
そして20時を過ぎた時であった。
 
猫形態のアキが青葉をチラっと見た。青葉はハッとしたが、意識状態は変えないように気をつけて、そっと教官室の方に意識を向ける。千里も既にそちらに意識を向けているようである。
 
「4人いるね」
「うん。小さな子が3人と、もう1人は女子高生くらいかな」
「ああ、3人は小さな子だと思った」
「どうする?」
「そっと行ってみようよ」
「うん」
 
青葉と千里は各々自分の存在を滅却させた状態で、ロビーの階段を通り、静かに2階へ行った。猫形態のアキがその後に続いていく・・・かと思ったのだが、アキは練習しているハルの傍に寄り、何か伝えているようである。ハルが頷き、いったん一緒にフロアの外に出た。そしてフロアを出た所で、アキが“人間態”に変わる。そしてアキの方がフロアに戻って、練習に参加した。
 
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「へ〜!」
と青葉はマジで感心して声を出した。
 
「たまに身代わり頼みます」
「まあ、いいんじゃない?」
 
それで3人で静かに階段を登る。ハルは完全に滅却している訳ではないが、かなり気配を殺している。むしろ自分の生命エネルギーの大半をアキの方に移したのではないかという気がした。きっとハルとアキはこの手の“融通”ができるのだろう。
 
そして青葉はそっと教官室のドアを開けた。
 

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中には千里が言ったように、小学生くらいの子供が3人と女子高生が1人居た。男の子1人と女の子2人で、女の子はもんぺのような服を着ている。
 
「お姉ちゃん!?」
とハルが声を出した。
 
「ハル、がんばっているみたいね」
と中に居た女子高生はハルに語りかけた。
 
女子高生は少しおびえている風の子供3人に
「逃げなくて大丈夫だよ」
と優しく声を掛けてから、こちらに向かい直って言った。
 
「たくさん迷っている子供たちがいたから、遊んであげてただけ。変なことはしないから見逃してくれる?」
 
「大丈夫ですよ。その子たちはもしかして空襲で亡くなった子たちですか?」
と青葉は言う。
 
「どうもそうみたい。熱い熱い、とか苦しんでいた子もいたけど、少しずつ癒やしてあげていた」
 
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「左倉さん、私を覚えてる?」
と千里がその女子高生に尋ねた。
 
「忘れる訳がありません。1年生の時は完璧に負けたから、絶対来年はリベンジしてやると思って頑張って練習していたけど、私が死んじゃったから再戦できませんでしたね」
と彼女は言う。
 
青葉と千里は視線を素早くやりとりすると
「ハルちゃん、後はよろしく」
 
と言い、「え〜?」という顔をしているハルを教官室に置いたまま、外に出た。
 

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5分ほど後、ハルが内側からドアを開けた。ハルはたくさん涙を流した後があった。
 
「村山さん、私頑張る。ウィンターカップでは愛知J学園を倒す」
と彼女は言った。
 
「うん。頑張ろうね」
と千里は言った。
 
青葉はチラッと教官室を覗き込んだが、そこにはもう誰も居なかった。
 

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青葉と千里とハルが階段を降りてくると、フロアで先輩2人と練習していたアキがさっとこちらに出てきた。そしてハルとタッチするとそのまま外に出て行った。
 
3人がフロアに入って行くと、ハルの様子に気付いた高橋コーチが
 
「どうかした?」
と訊いた。
 
「たぶん解決しました」
と青葉は言った。
 

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今日の自主練習はここで打ち切ることにして、その場にいた6人でフロア外にある和室(大会などの時は選手控室兼更衣室になる)に入った。千里がロビーの自販機でジュースを買ってきて6人に配る。
 
「ここジュースが100円って凄いですね」
と千里が言う。
「今時珍しいでしょ?助かっているんですよ」
と凛子が言う。
「実は仕入値は50-60円で、差額は自販機自体のメンテ費用と電気代分を引いて、生徒会の予算に組み入れているんです」
と高橋コーチ。
「それもまた凄い」
「有名メーカー品は無いですけどね」
「有名メーカーは縛りが厳しいですからね」
 

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「ハルちゃん、泣いてたね」
と凛子が言う。
 
「姉と会ったんです」
「小さい頃亡くなったというお姉さん?」
「今は私の守護をしていると言っていました。でも私に見える状態になれたのは、物凄く強いエネルギー源があったからだと言ってました」
 
「まあ私たちが来たからでしょうね」
と青葉は言う。
 
春美が弓恵に“会った”のも多分同じ原理だろうなと青葉は思う。千里姉は巨大なバッテリーのようなもの、と天津子が言っていた。
 
「じゃ、色々このあたりで音を立てたりしていたのは?」
と凛子が言葉を探るように言った。
 
「昔空襲で死んだ子供たちじゃないかと言ってました」
とハルは説明した。
 
ここで青葉はこの付近の地図を示し、この学校のちょうど体育館から南西にあたる場所で、古いビルが解体され、現在新しいビルを建てる工事が行われていることを説明した。
 
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「この工事が6月初旬に始まっているんです。それでそれまでビルによって堰き止められていた霊団がこの学校まで流れて来たんですね。この学校は川のカーブの内側にありますが、こういう地形には霊が溜まりやすいんですよ」
と青葉は説明を続ける。
 
「ところで、この近くで3年前にバスケットの大会に出てきた中学生を乗せたマイクロバスがワゴン車に正面衝突されて2名亡くなった事故がありましたよね」
とハルが言う。
 
「ああ、あったね」
 
「姉が言っていたのですが、最初その2人の中学生が、空襲で死んだ子供たちとバスケットして遊んであげていたらしいです。でもその中学生はたくさん遊んで、自分たちが成仏してしまったらしいんですよ」
とハル。
 
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青葉も千里もそういう経緯であったか、と納得したものの、それを今知ったような顔はしない。そこまで知っていたかのような顔でハルの言葉に頷く。
 
「それは良かった」
「それでその後、うちの姉が引き継いで子供たちとバスケットで遊んであげていたらしいです」
 
「そういう経緯でバスケットをしていたのか・・・」
 

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「でもそういうことなら、この工事が進んだら・・・」
 
「そうなんです。このビルの工事が進んで、再び気の流れが遮られるようになれば、怪異は止む筈です」
と青葉は言った。
 
「そういう仕組みだったのか」
と高橋コーチが大きく頷きながら言った。
 
「それまではやってきた子たちと姉が遊んであげたいと言っていました。子供たちはある程度遊んだら満足して上に上がっていくらしくて。姉はもう既に50人くらい成仏させたと言ってました。コーチ、部長、その姉の活動を許してあげてもらえませんか?」
 
「もちろん、いいよ!」
とコーチも泰美部長も言った。
 
「私たちで何かその子たちのためにしてあげられることはないかな」
と凛子・元副部長が言う。
 
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「みんな空襲で焼かれて熱い熱いと言って死んでいったそうなんです。ですから、お水があればいいかも」
 
「じゃ、大きな鉢か何か持って来て、お水を供えてあげようよ」
「校庭の傍に立っている慰霊碑の所と、この体育館の入口とかに供えてあげようか」
「ああ、慰霊碑の所もいいね」
 
「こういう場合って、火のついたお線香はよくないですよね?たぶん」
とハルが訊く。
 
「うん。お線香を供える場合は、火をつけずに供えた方が良い。それが空襲でやられた人の供養になるんだよ」
と青葉は言った。
 

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やがて、泰美のお母さん、そして凛子のお母さんが迎えに来て、残るはハルとコーチだけになる。
 
「だけど、ハルちゃん、さっきフロアから出ていってすぐ戻って来たよね。どのくらいお姉さんと話していたの?」
と高橋コーチが訊いた。
 
「えへへ」
と言って、ハルは外に向かって呼びかける。
 
「アキ、入っておいでよ」
 
するとハルそっくりの制服を着た少女が入ってる。
 
「いいの?私が姿を見せても」
と言ってアキは和室に入ってきた。
 
「双子だったの?」
とコーチが驚いて言う。
 
「まあ実質双子に近いかもね」
「時々ハルの身代わりをしてるかもね」
「ちょっと生理の重い日とか代役頼むこともある」
 
「この子はパーマンのコピーロボットみたいなものですよ」
と千里が言った。
 
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「へ?」
とコーチは戸惑ったような声を挙げる。
 
「私はいわゆるドッペルゲンガーですね」
とアキが言うと、コーチは更に
 
「え〜〜〜!?」
と言って驚いていた。
 
「取り敢えず姉妹と思ってもらった方が精神衛生上は良いかも」
「そう思うことにする!」
と高橋コーチは言った。
 
「兄弟なのか姉妹なのかは微妙だけどね」
「は!?」
 

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「でもハルちゃんたちのお母さん遅いね」
と高橋コーチが心配して言うので
 
「私たち今夜は富山市内に1泊するし、タクシーでホテルに行くから、途中乗せてってあげようか」
と青葉は提案した。
 
「じゃお願いしようかな」
とハルは言ってから、思い直したように言った。
 
「村山さん、もし良かったら少し1on1とかやらせてもらえませんか?」
「いいよ」
 
それで千里は持っていたスポーツバッグの中からバッシュを取り出す。
 
「いつも持っておられるんですか?」
とコーチが尋ねる。
 
「持ってないと不安で。一種の職業病ですね」
と言って千里は微笑んだ。
 
それからハルは千里と1on1を30分くらいやった。アキが制服姿のまま近くに立っていて、球拾いをしてあげている。
 
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ハルは結局千里に1度も勝てなかった。それは千里が本気で相手をしているということなのだろうと青葉は思った。高橋コーチも物凄く真剣な目でふたりの様子を見ていた。
 

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やがて21時すぎになって車の音がする。
 
「ごめんなさい、遅くなって。急な報道番組が入ったものだから」
などと言って、ハルの母が入って来た。
 
「あら、川上さん?」
「ご無沙汰しております」
と青葉は挨拶した。
 
ハルは母と一緒に帰って行ったが、アキの姿もいつしか消えていた。コーチはハルと一緒に母の車に乗ったと思ったようであるが、実際にはアキは母が入ってきた時に、ふと姿を消していた。
 
青葉と千里は高橋コーチに追って電話で報告すると伝え、タクシーでホテルに引き上げたが、実際にはその夜23時頃、峰川先生のご自宅にお伺いして、先生と高橋コーチ、青葉・千里の4人で今回の事件の全容について話すことになった。
 
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