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■春秋(7)

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「だってぼくは実音子と法的に結婚しましたよ」
と亜記宏は言う。
 
「実音子さんの卒業アルバムを最近、ある筋から入手しました」
と言って、天津子はバッグの中から分厚い本を取り出した。
 
「実は実音子さんたちが育った町は1983年の日本海中部地震で甚大な被害を受けまして。それで実音子さん一家も新天地を求めて北海道**町に引っ越したのですが、その関係で卒業アルバムを持っていた人もひじょうに少なかったんですよ。他の町に移住した人も多かったし、その町に留まった人たちでも、みんなあの時の地震で失ったという話で。このアルバムもある方から一時的にお借りしたものです。後で返却します」
 
と天津子は言った。
 
今回の事件はやたらと地震に絡んでいるよなと青葉は思った。春美自身が北海道南西沖地震(1993)の被災者だ。織羽の性分化障碍は2003年十勝沖地震が原因である可能性がある。そして実音子たちは1983年日本海中部地震に遭っている。
 
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天津子は
 
「これを見てください」
と言って卒業アルバムを開き、個人別の写真が並んでいるページの**実音子と書かれている写真を見せた。
 
「誰です?これ」
と亜記宏は戸惑うように言った。
 
「実音子さんと全然似てないんでしょ?」
「はい」
 
「むしろ駆志男さんに似てません?」
と天津子が言う。
「あれ?そういえば」
と亜記宏。
 
「どういうことですか?」
と春美が訊く。
 
「要するにですね。実音子さんと、駆志男さんは実は入れ替わっていたのではないかと」
 
「え〜〜〜!?」
 

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「駆志男さんは男に生まれたけど女になりたかった。実音子さんは女に生まれたけど、男になりたかった。それである時点から入れ替わって生きて来た」
 
「じゃ・・・僕が結婚していたのは、実は駆志男さんなんですか?」
 
「ふたりとも性転換手術を受けていたのだと思います。ふたりは両親とともに秋田県の####で育っている。でも地震で大きな被害を受け、北海道に移住することにして、***町にラーメン屋を開いてそこで新しい生活を始めた。その時点で息子と娘は性別を入れ替えてしまった。やがて2人とも結婚するが、当初から体外受精・代理母を使うつもりだったのだと思います。一応、駆志男さんの精子、実音子さんの卵子は多分性転換手術前に冷凍保存しておいた」
 
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「ちょっと待って。それだと過去の議論が全部ひっくり返る」
と春美が言う。
 
「だから、有稀子さんと駆志男さん=元・実音子さんとの不妊治療は実音子として生きている駆志男さんの精液で始めた。もしかしたらこの時点ではまだ駆志男さんは性転換手術をしていなくて、生の精液が提供できたのかも知れません」
 
「物凄い回数、人工授精していると思うから、入れ替わっていたのなら、そうだと思います」
と亜記宏が言う。
 
「しかしやがて駆志男さんも性転換手術を受けて、精液のストックが少なくなっていく。それで尽きてしまった所で、ちょうど余っていた春美さんの精液を使った受精卵で有稀子さんは妊娠して出産に成功する。そもそも駆志男さんの精液の品質が悪かったんでしょうね」
と天津子は語る。
 
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「たぶん女性ホルモンやっていたのでは?だから精子の品質が落ちてたんですよ。私の精液はまだ何もその手の治療をしてない高校生の時に採取したものだから、精子がまともだったんだと思う」
と春美。
 
「ありえますね」
 
「その場合、理香子やしずかを作った卵子は、駆志男になってしまった元実音子のものということはないんですか?」
と亜記宏が尋ねる。
 
「ふたりが入れ替わっていたのが事実であればですね。駆志男の名前で生きていた元実音子さんの血液型は実音子の名前で生きていた元駆志男さんの血液型と同じRH-Bと断定できます。亜記宏さんと実音子さんは不妊治療のため血液型を確認されていますよね?」
 
「あ、確かに」
「その場合、元実音子さんの卵子を使うには、その血液型を申告しておかなければ生まれて来た子供に矛盾が生じます。ですから、RH-B型と申告したということは、その卵子はRH-B型の人から提供されたもののはず。ところが実音子として生きていた駆志男さんは交通事故で入院し、この時、輸血の必要性から血液型が再確認されRH-Bということが判明している。だから、実音子・駆志男の兄妹はふたりともRH-Bだったと推定されるのです。しかも両親がRH-ABだからこれはRH-BBでなければなりません」
と天津子は説明した。
 
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「だとすると、理香子の母親ではあり得ないですね」
 
実音子と駆志男はRH-ABとRH-ABの子供なのでB型とするとRH-BBであることになる。RH-BBの人がどういう血液型の人と結婚してもA型の理香子は生まれないのである。
 
「そうなります。理香子ちゃんとしずかちゃんが同時期に人工授精した受精卵から生まれた以上、ふたりとも元・実音子さんの子供ではないです」
 
「その卵子も問題があったのかもね」
と千里が言う。
 
「おそらくふたりとも生殖細胞に問題があって、結局有稀子さんの卵子と春美さんの精子を使うという線に辿り着いたんでしょうね」
と天津子は言った。
 

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「ふたりが入れ替わっていたとすると、ホントに色々な前提がひっくり返ってしまいますよね」
と春美は再度悩むように言って左手を唇の所に当てている。
 
「ふたりが入れ替わって生きて行くことを決めた時から、生殖細胞をお互いに融通することにしていたのだと思います。ところがひょっとするとふたりともそれ以前にホルモンをやっていたせいか何かで、精子・卵子ともに品質がよくなく、人工授精がうまく行かなかった。それで結局、精子・卵子ともに他の人から借りることになってしまった」
と千里。
 
「その前提では、実音子さんが亜記宏さんを誘惑していた時点では実音子さんは多分まだ女の身体にはなっていなかったのではないかと思います。そうすると、亜記宏さんは別の身代わりの女性とセックスしたか、相手が実音子さんだったのなら、スマタなどのVもAも使わない方法でセックスしたとしか考えられません」
と天津子は言う。
 
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「こういう前提に立った場合、実音子さんが、半分詐欺のような手段で亜記宏さんと結婚し、更に強引に子供を作ろうとした訳が分かるような気がするのです」
と青葉が言った。
 
「それは自分に子供を産む力が無いから。その絶対的な不利を少しでも克服するため、物凄く積極的に亜記宏さんを誘惑した。自分がちゃんと男性とセックスもできることも提示しておきたかった。ただ、亜記宏さんが立たなくなってしまったのは誤算だったのでしょうけど。そして子供を作ることで自分と亜記宏さんの関係を普通の男女の夫婦と同様の状態にしたかった」
と青葉は厳しい顔で言う。
 
これは青葉・千里・天津子の3人の結論なのだが、このことは青葉が自分に言わせてくれと言ったので言わせたのである。
 
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しばらく誰も発言しなかった。千里が全員の前にワイングラスを配り、富良野ワインを注いだ。
 
少し「フッ」と息を抜くような音も出て、全員ワインを飲んだ。その後で春美が言った。
 
「私、今となっては、実音子さんを許してもいい気がしてきた」
 
春美はずっと実音子に対して怒りの感情を持っていたであろう。そしてそのことで、春美は亜記宏のことも許していなかったのではないかと、青葉たち3人は話していた。しかし結局実音子は春美と似たような立場だったのである。実音子が、春美も性転換者であることを知っていたかどうかは分からない。むしろ普通の女性だと思っていたからこそ、かなり大胆な手で、亜記宏を奪い取ったのではなかろうか。
 
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「じゃ、春美さん、実音子さんを許してあげる?そして亜記宏さんも許してあげる?」
と千里が訊いた。
 
「うん。そういう気分になっちゃった」
 
「だったらここに、実音子さんと亜記宏さんを許す、桃川春美って書いて」
と言って千里は春美に便せんと筆ペンを渡す。
 
「何だろう?でもいいよ。私そう書く」
と苦笑しながら言って春美はそこに確かにふたりを許すということばを書き、自分の名前を《真枝春美》と署名した。
 
すると青葉と天津子と千里がパチパチパチと拍手をした。
 
「何ですか!?」
春美も亜記宏も戸惑っている。
 
「これで亜記宏さんの男性機能は復活すると思います」
「え〜〜〜〜!?」
 

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「つまりですね。亜記宏さんの男性器が立たなくなったのは、亜記宏さん自身が、春美さんという恋人がいるのに、別の女性・実音子さんとセックスしてしまった罪悪感から来た、自己暗示が中心なんですよ」
と青葉は説明する。
 
「亜記宏さんがそもそも自己暗示を掛けてしまい、それに春美さんの不満が重なる形になった。だから亜記宏さんの自己暗示に加えて、春美さんが無意識に掛けた『あの浮気者、許さないんだから』といった思いも作用して、ずっと亜記宏さんの性器は機能停止していたんです。有稀子さんとセックスできたのは、それは呪いの対象じゃないからですよ」
と青葉は説明した。
 
「ですから・・・」
と言って青葉はニコッと笑う。
 
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「今春美さんは亜記宏さんを許しましたから、春美さんの暗示は消えました。そして春美さんに許されたという気持ちから亜記宏さんの自己暗示も消えました。ですから、今夜おふたりはちゃんとセックスできるはずです」
 
思わず亜記宏と春美はお互いの顔を見た。
 
「なんでしたら、今から確かめてもいいですよ。私たち席を外しますし」
「いえ後で確かめます!」
とふたりは焦ったように返事をした。
 

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3人の分析は更に細かい点に及んでいった。2001年1月6日の夜の出来事については色々な解釈があるものの、千里は「たぶん灯りを消した所で別の女性と交替したのだと思う」と言った。
 
「でもそんなデートのセックス部分だけを代行してくれる人がいます?友だちから頼まれても私なら絶対断りますよ」
と春美は言う。
 
「ですから友だち以上の人でないとあり得ません。私はそれは駆志男として生きていた、元の実音子さんだと思います」
と千里は言った。
 
「あぁ・・・・」
「それならあり得る気がする」
 
「ということは、私が初めてセックスした相手こそが本来の実音子だったと」
「まあ私の想像ですけどね」
 
千里の「想像」というのは実際にはチャネリングで得られたものだろう、と青葉は思っている。今回の事件の解決にあたっては、多くのヒントを千里の「想像」から得ている。真相を知っていそうな関係者がほとんど死んでしまっているので、尋常な方法では真相を追究できないのである。
 
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ある程度話が進んだところで唐突に春美は言った。
 
「私、今日録音した『赤い玉・白い玉』を録音し直したい」
 
「え!?」
と今度は青葉が驚く番であった。
 
驚いてしまってから、青葉はハッとして天津子と千里を見る。ふたりともポーカーフェイスである。くっそー!私はまだ修行がなってない!!
 
「物事に対する意欲が高まってきたでしょ?」
と千里が言う。
「はい。もっともっと頑張れそうな気がする」
 
「じゃ、その件だけでも、ケイさんたちに言いに行きましょう。向こうも準備が必要なはずです」
 
「そうしましょう」
 

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それで5人はE棟を出るとケイたちがいると思われるA棟へ向かった。春美か゜『赤い玉・白い玉』の録り直しを提案すると、ケイは「え〜〜〜!?」と言って驚いていた。
 
しかし春美がその趣旨を説明すると、七星さんなどはその方針に理解を示した。一方で大宅などは難しすぎるとして反対した。議論は10分以上に及んだが、最後はケイの決断で録り直しが決定。大宅と秋月は少し練習するといい、ケイは今のメンツだけでは演奏者が足りないとして、スターキッズの近藤と鷹野を呼び出した。2人は明日朝1番の飛行機で女満別に飛んできてくれることになった。八雲と陽子がスコアの調整をしてくれることになった。
 
曲の録り直しは翌朝から行われた。新しいアレンジでギターやベースが二重化されたので、楽器の担当はこのようになった。
 
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■洋楽器セクション
Gt.秋月義高(紅ゆたか)+近藤嶺児 B.大宅夏音(紅さやか)+鷹野繁樹 Dr.桃川春美 Pf.古城美野里 Vn.鈴木真知子+ケイ Fl.秋乃風花+村山千里 AltoSax. 近藤七星・今田七美花 SopSax.鮎川ゆま
 
■和楽器セクション
笙.今田七美花(若山鶴海) 龍笛.村山千里・川上青葉・海藤天津子 篠笛 秋乃風花
 
■ボーカル
MainVocal ケイ・マリ Chorus 桜木八雲(少女Y)・桜川陽子(少女X)
応援! 気良星子・気良虹子 鑑賞! 真枝しずか・真枝織羽
 
洋楽器部分と和楽器部分を別録りすることにして、一部の楽器を兼任することにした。最初ギターとベースだけ二重化の予定だったのだが、ヴァイオリン、フルート、アルトサックスも二重化した方がよいという結論になり、このような編成がまとまった。ここまでに2時間ほど試行錯誤をしている。
 
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春秋(7)

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