広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■春卒(15)

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「新しく借りるマンションは元々が3LDKで、LDK部分を事務所にするから部屋は3つあるんだよ。だから最低限のプライバシーは確保できる。まあ裸になってる所見ちゃったら愛嬌ということで」
 
「女同士ならいいんじゃない?」
と美由紀。
 
「万一、ちんちん付いてるの見た時はその場限りで忘れるという協約で」
「おちんちん付いてるんですか!?」
「その付近は個人情報で」
 
「でも私、W大学に行ってバスケ部に入ったら、毎日練習で遅くなると思うし、土日は試合に出ていると思いますよ」
と奈々美は言う。
 
「うん。事務所の留守番は私の友人の金子聡子(かねこさとこ)って子がするから、奈々美ちゃんはバスケの練習から帰ってきてから、レシートとか電気代の請求書とかを見て弥生会計に入力してもらえばいい。あと支払い関係や資金移動のための銀行回りを頼むかも。これは昼休みか講義の空いてる時間に」
と海香さん。
 
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「それなら何とかなるかも」
 
「奈々美、これ凄いチャンスだよ。東京行っちゃいなよ。それでバスケでインカレとかオールジャパンに出なよ」
と明日香が煽る。
 
「ほんとにちょっとお母ちゃんと相談してみようかな」
と奈々美は心が動いているもよう。
 
「でもまあ多分それ以外にも色々雑用が出てきますよね?」
と星衣良が言う。
 
「うん。多分出てくる。実際には、きっとブラック企業並みになる可能性ある。ただバスケは全てに優先させていい」
と海香さん。
 
「いや、この条件でバスケは保証してもらえるなら、少々きつくてもやりますよ」
と奈々美。
 
「奈々美、今ほとんど大学の勉強はする気無くしてるね?」
などと美由紀から言われている。
「まあそれは留年のしすぎで退学にならない程度に」
と奈々美。
 
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「何なら私が今日明日にでも君の御両親と会って話をしようか?」
「はい、お願いします!」
と奈々美は笑顔で言った。
 
青葉は今、物凄い運命の転換が起きていることを感じていた。そしてこの日の出来事が、数年後の日本代表スモールフォワード・寺島奈々美を生み出すことになるのである。
 

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「今は調布市内のアパートですか?」
と明日香が何となく訊いた。
 
「うん。調布飛行場の滑走路の延長線上にある。更にすぐ近くに中央高速も通っているし、京王線の線路もあるし。騒音が24時間絶えないけど、逆におかげでギターを掻き鳴らしても全く苦情が来ない」
 
「あ、それはいいかも」
 
「そういう騒音の凄い場所だから家賃が5000円なんだよ」
「そんな安い家賃のアパートがあるんですか!?」
「築70年だし、1K・風呂無しだし」
「70年って凄いですね!」
「うん。終戦の年に建築された」
「すごーい」
 
「雨漏りとすきま風は愛嬌だけどね。今回はその家賃5000円の所から50万円の所に引越。家賃がいきなり100倍。もっとも今度のマンションの家賃は会社の経費で落とされるから、私が払う訳じゃないけどね」
 
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「その調布のアパートは解約ですか?」
「引越がすぐできないから6月くらいで解約しようかと思ってる」
 
その時、青葉は唐突に思いついた。
 
「調布飛行場のそばだったら、それって東京外大にも近いですよね?」
「東京外大ってどこにあるんだっけ?」
と海香。
「その調布飛行場の隣です」
「おっ」
 
それでスマホで地図を開いてみると、どうも海香の現在のアパートから外大まで2kmほどであることが分かる。
 
「ね、日香理、このアパートを海香さんに代わって借りたら?」
と青葉は提案した。
 
「私も5000円の家賃は魅力的と思った。私、騒音は平気ですよ。いや実は親とかなりやりあった末に東京に出て行くこと認めてもらったから、生活費も学費も自分でバイトして稼ぐ約束なんですよ。奨学金は受けるけど、正直東京は家賃も高いし何のバイトしようと思ってたんです」
 
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「あ、だったらこのアパート解約せずにそのまま、日香理ちゃんが入居してもいいよ。取り敢えず女性用アパートで男子禁制なんだけど、日香理ちゃん、女の子だよね?」
 
「性別検査を受けたことはないけど、自分では女のつもりです」
 
「だったらいいね。契約はそのままにしておいて私の口座から引き落とすから、日香理ちゃんは私に家賃を払ってもらえばいい。ここ新たな契約はできないはずなんだよ。都市計画か何かに引っかかっているから。5年後くらいには解体される予定」
 
「5年後なら卒業までもつじゃん」
 
「あれ?東京外大なら、日香理ちゃんもしかして英語得意?」
「この子は英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・ロシア語行けますよ」
「中国語と韓国語は?」
「韓国語は大丈夫です。中国語は北京語だけなら」
「それで充分。だったらついでに、外国とかから旅館のことで問い合わせがあった時に対応してもらえたりしないかな?転送電話で日香理ちゃんの携帯に飛ばして。それなら家賃タダでいいよ」
 
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「授業中以外ならやっていいです」
「うん、もちろんそうする」
「海香さん、お仕事もしてもらうならバイト代払いましょう」
「うーん。じゃ月1万で。もし実際の対応件数が多そうだったら後日相談」
「それでいいです!」
 
それで結局、海香さんの新しいマンションに奈々美が同居し、今住んでいるアパートに日香理が住むことになったのである。
 

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KARION公演の翌日、3月22日、青葉は午前中は自動車学校で自動二輪の卒業検定を受けて合格したのだが、その日の午後に今度は大特のコースに入学した。
 
「あんた忙しいね!」
と言われた。
 
「あら大特なんだ。先に中型とか大型取らないの?」
「準中型の創設までは取れません」
「なるほどー!」
「それに中型は20歳以上だし」
「あんた23歳くらいじゃなかったっけ?」
「すみません。18歳です」
「ごめんなさい!」
 
大特は普通免許を持っている場合は第1段階3時間・第2段階3時間の学科無しで、わずか3日で教習を終えることができる。それで青葉はこれを22日から24日までの3日でクリアする。23日は午前中運転免許センターに行って自動二輪の免許を取得し午後からは自動車学校に行って教習を受けている。途中で所有免許証が切り替わったので、新たな免許を自動車学校には提出しなおした。
 
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そして結局3月25日に卒業検定を受けて合格し、休み明けの3月28日に再度運転免許センターに行って、5種類の免許がセットされた新たな免許証を受け取った。つまり4種類セットされた免許証はわずか5日間しか使用しなかった。
 

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3月25日(土)、千葉市。この日千葉ローキューツの面々は市内のファミレスに集まり、全日本クラブ選手権で銅メダルを取った祝賀会を開いていた。今期限りで退団する数人の選手の送別会も兼ねていた。そしてこの席で薫は正式に主将を退任したいと語り、後任の主将には愛沢国香が満場一致で選ばれた。副主将は揚羽のままである。国香はチーム最年長・最古参である。
 
「逃げようと思っていたんだけどなあ。逃げそこなった。一時期幽霊部員になっていたのが全日本クラブ選手権に出ると聞いて最近練習に参加していたのが命取りになった。でもベンチウォーマー主将になりそうだけど」
などと国香は言っていた。
 
「それは私が高校時代やってましたから大丈夫です」
と揚羽副主将。
 
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「まあ私は主将は退任するけど選手としてはもう少し頑張るから。コーチ兼任になるけどね」
と薫。
 
谷地アシスタントコーチが母校のバスケ部監督への就任を要請され、地元に帰ることになり、薫が当面アシスタントコーチを兼ねることになった。彼女は実際元々参謀向きの性格である。
 
「しかし2014年は全日本クラブ選手権を制したけど、2015年はベスト8、今年は3位。また優勝したいね」
 
「40 minutesとかセントールがいる限りなかなか厳しい。40 minutesは千里が抜けても実質プロ中堅レベルのチームだし、セントールは事実上実業団だし。江戸娘もスポンサーがついたことでこの1年有力選手の離脱が無くなって、かなり戦力が底上げしている」
 
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と薫はしっかりとした戦力分析を言う。
 
「4月からの新戦力として期待できる人は?」
「旭川L女子高を今年卒業してこちらに入ってくれる黒川アミラは即スターターだと思う」
と揚羽が言う。
「旭川N高校の志村美月も狙っていたんだけど、彼女は結局W大学に進学するということで」
と揚羽は補足する。
 
「アミラちゃんは私の後任のスモールフォワードで」
と薫。
 
薫は旭川N高校時代はパワーフォワード登録だったのだがローキューツではスモールフォワードの人材が少なかったのでスモールフォワードということにしていた。もっとも主将の愛沢国香もスモールフォワードなのだが国香は自分がスターターになる気は毛頭無い。
 
「アミラって変わった名前ですね」
「フランス人とのハーフなんだよ。国籍は日本だから問題無い」
「ハーフなら身長も高いですか?」
「184cm」
「凄っ!」
 
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「インターハイでも彼女の力で旭川L女子高はBEST8まで行ったからね」
「おお、期待しよう」
「そんなに背が高くてセンターじゃないんですか?」
「彼女は勘が悪くてほとんどリバウンド取れないんだよ。逆にパスとかスリーは上手いし器用だから性格的にスモールフォワードなんだ」
「やはり体格より性格なのね」
「まあジャンプボールはやってもらうけどね」
 
「ということは来期のスターターは紫/ソフィア/アミラ/翠花/揚羽という感じかな」
 
「ガードの控えが欲しいよね」
と現在紫のバックアップ・ポイントガードをしている松元宮花が言う。
 
「あんたが頑張ればいい」
とみんなから言われている。
 
「いやパスが下手なポイントガードは使えない」
と本人。
「練習すればいいのに」
「なかなかその時間がなくて」
 
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彼女はフルタイムの企業に勤めていて残業も結構あるので平日の練習にはほとんど参加できていない。
 
「会社辞めてプロ契約するとか?」
「私のレベルでは、とても食っていける水準の給料もらえないですよ」
と宮花。
 
「どうなんですか?社長?」
と高倉さんにソフィアが振ると
 
「うん。彼女の実績なら月4万8千円の契約になるかな」
と高倉さんは何かのファイルを確認して言った。どうも全選手の査定を一応しているようである。
 
「あぁ・・・」
「それではさすがに食べていけない」
 

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3月25日(金)。空帆は朝から母と一緒に新幹線で東京に出てきてアパートを探していた。本当はもっと早く来たい所だったのだが、契約すると敷金などを払わなければならないので、父の給料日まで待っていたのである。
 
大学が目黒区内なので、できれば近い方がいいのだが、さすがに大学周辺は高い。7万とか8万とかいう物件ばかり見て、とても払えん!と言って、いったん目黒駅まで戻り、マクドナルドに入って作戦を練り直す。
 
東京の地図を見ながら
「これやはり電車での通学を考えた方がいいよ」
などと話し、どのあたりまで離れたらどの程度の相場か、駅ごとにスマホで賃貸情報の相場を確認する。
 
なかなか良さそうな物件は見つからないが、もう新入生の行事は週明けから始まってしまう。「どうしよう?」と言っていた時、マクドナルドに日香理と他に女性3人が入ってくる。女性3人の内1人はKARIONの和泉だ。
 
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空帆は昨年3月のKARION金沢公演の時、テレビ局の人と『ハイスクール・ロッカー』に使用する音楽について打ち合わせた時、和泉にも会っている。それで会釈したのだが、日香理がこちらにやってきた。
 
「空帆ちゃんのお母さん、こんにちは。うっちゃん下宿先決まった?」
「いや、それが高くてとても借りられん!どうしようと言っていた所でさ」
「区内とか無茶苦茶高いみたいね。でもあまり遠距離から通うと今度は交通費が高く付く」
「だよねー」
 
そんなことを言っていたら、和泉まで寄ってくる。
「清原さんだったよね? 東京に出てきたの?」
「はい。東京工業大学に入ります。今日はアパート探しで」
「アパート探しって、もうかなり日にちが逼迫してるのでは?」
「そうなんですけど、父の給料日の後でないと無理だったので。入学金でお金使い果たしてしまったから」
「ああ、そうだよね!」
 
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そんなことを言っているとあと2人の女性もこちらにやってくる。相沢海香と寺島奈々美なのだが、空帆はどちらとも面識が無い。
 
「あ、海香さん、こちら川上青葉と同じ高校を出た清原空帆。『黄金の琵琶』の共同作曲者です」
と日香理が空帆を紹介する。
 
「お、すごい!」
「あ、いえ。本当はうちの祖母が即興で作ったんですけど、印税は私がもらっていいと言われてもらっちゃいました」
 
「でもテレビアニメの『ハイスクール・ロッカー』の音楽担当しているし」
「それって凄いじゃん!」
「いや、高校生っぽく未熟な作曲者を探していたら私に当たったという話で」
 
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