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■春卒(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-26
 
ゴールデンシックスの演奏が10:30に終わった所で青葉たちは次のフラワー・フォーは見ずに引き上げた。政子が監視役の甲斐窓香さんと一緒にフラワー・フォーを見に来たはずであるが、今回はすれ違いである。
 
青葉はホテルに戻ると少し仮眠し、12時すぎに起きて昼食を取る。その昼食場所で冬子・和泉・小風の3人と一緒になったので4人で会場に移動した。12:45くらいに集合場所に到達する。他の出演者も集まってきて、例によって最後に13:03くらいに美空が花恋と一緒にやってきて全員揃った。
 
進行は少し押していて12:55に終わるはずの槇原愛の演奏が13:10に終了。5分の休憩を置いて13:15からステラジオ、13:47から貝瀬日南となった。このままだとKARIONの開始は14:17になりそうである。
 
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「これエンドがずれてもいいんですか?」
「いちおう最後のAYAがヘッドライナーの特典でアンコールもやって10分間延長していいことにはしていたんだけどね。まあ日没までには終わるんじゃないかな」
 
「今日の日没は?」
「17:37と聞いた」
 

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今日のイベントは最初のゴールデンシックスから貝瀬日南までの8組のアーティストが30分ずつ、そして最後のKARION, XANFUS, AYA は1時間ずつの持ち時間となっている。
 
ここでKARIONが先にやるのは、元々ここはKARION, XANFUS, Rose+Lily となっていて、蘭子=ケイが無理なく出演できるように間にXANFUSを入れた経緯があった。ローズ+リリーは1週間前のイベントに移動したのでXANFUSを先にしてもよかったのだが、当初計画した順序を踏襲している。
 
結局KARIONのステージは14:18に始まった。
 
今週水曜日に発売予定の『メルヘンロード』、昨年出した2枚のシングルと昨年2月のアルバム『四・十二・二十四』の曲を中心に、そして過去のヒット曲から『雪うさぎたち』などを演奏、最後は他の伴奏者は退場して、KARIONの4人に、青葉のピアノと夢美のグロッケンで『Crystal Tunes』を美しく演奏して終了した。
 
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演奏終了後、控室で汗をかいた下着を交換してからXANFUSのステージを見る。KARIONの演奏が終わったのが15:16でXANFUSは設営準備に少し時間がかかり15:23スタートとなった。これが終わったのが16:19でAYAは結局16:24スタートとなる。
 
「これちょうどAYAの演奏終了時に日没になるね」
「なんか予定調和だなあ」
 
AYAは実際には16:28にいったん演奏を終えるがアンコールの拍手に応えて再登場する。ここで1曲目はAYAのデビュー曲『スーパースター』をひとりで歌うが、
 
「ローズ+リリー、KARION、XANFUSも入って!」
という声で、ケイ、マリ、和泉、小風、美空、音羽、光帆の7人も壇上に上がり08年組の8人で一緒にAYAが昨年出した大ヒット曲『停まらない!』を歌った。AYAは観客の方にもマイクを向け、会場の観客も一緒に歌う。
 
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結局今日のイベントは『停まらないならもっと走れ』から始まり『停まらない!』で終わるということでフェード現象の歌で始まりフェード現象の歌で終わったことになる。
 
そしてこの曲が終わるのとほぼ同時くらいに日没(17:37)となった。
 
素敵なフィナーレであった。
 
「これにて本年の復興支援ライブを全て終了します」
という締めのアナウンスは貝瀬日南がしてくれた。
 
貝瀬日南と、今回のイベントでは裏方に回ってステージにはあがっていない秋風コスモスの2人は2007年デビューで、08年組より先輩になるのである。
 

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ライブ終了後、係員の指示に従って順次退場する観客の中に
 
「今日は08年組が揃う所で蘭子の代役の人出なかったね」
「このイベントはギャラ無し・旅費自腹だから代役の人までは来られなかったのでは?」
などという声がけっこうあるのを耳にした。
 
青葉は「蘭子とケイは別人」というのをわざわざ言うのを辞めることにしたのと関係しているんだろうなと思った。これまでは夢美さんがしばしば蘭子の代役を務めていたのである。
 

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イベント終了後、今日の出演者で残っていた人たち、ゴールデンシックス、槇原愛、貝瀬日南、KARION, XANFUS, AYA それに最後のアンコールにだけ出たローズ+リリー、そしてそれらの伴奏者合同で打ち上げをした。費用は割り勘!という、ささやかな打ち上げである。
 
伴奏者も入って全部で30人ちょっと居る。女性が圧倒的に多く、男性はKARIONのバックバンドの5人、AYAのバックバンドの一部しかいない。貝瀬日南のバックバンドの人たちはもう帰っている。
 
結構な人数なので4〜5人くらいのグループが幾つかできていた。美空とマリはシレーナ・ソニカの穂花と3人で「食糧食べ尽くし」を図っている感じだし、男性陣は飲んで騒いでという感じだ。ケイは和泉・貝瀬日南・槇原愛と何やら音楽論議をしている。
 
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それで青葉は何となく小風・音羽・花野子と一緒のグループになった。
 

「なんかこの4人、元々お互いに微妙に絡んでるよね」
と花野子が言う。
 
「私と小風は小学校の時の同級生」
と花野子。
 
「え?そうだったんだ?」
と音羽が驚いたように言う。
 
「花野子は熊本生まれだけど、小学2年生の時に東京に引っ越してきた。私は水戸出身だけど、やはり小学2年生の時に東京に引っ越してきた。それで転校生同士でわりと仲良くなったんだよ」
と小風が説明する。
 
「美空がメテオーナでデビューすると言って、そのメンバーに小風が入っているの聞いて、おお!凄い!と思ったよ」
と花野子。
 
「メテオーナ?」
と青葉が尋ねると
 
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「KARIONの元の名前」
と小風と花野子が言う。
 
「へー!」
「メテオーナは最初5人で結成したんだけど、その内3人が脱落して」
「わぁ」
「それで和泉と蘭子を追加して4人で新たにKARIONの名前でデビューしたんだよ」
と小風は説明する。
 
「いや、音楽ユニットって結成まもない時期には変動が多く発生しがち」
「うん。XANFUSも最初から残っているのは光帆とYukiだけだし」
と音羽が言う。
 
「そちらもかなり初期の頃脱落が相次いだみたいね」
と小風が言う。
 
「そうそう。私と浜名麻梨奈なんて、たまたまスタジオを見学に行ってた所で、唐突にあんたたちギターとベース弾いてと言われてメンバーに加えられてしまった」
と音羽は苦笑しながら言う。
 
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「ああ、この世界その手の話も多いんだよ」
と小風。
 
「それでメインボーカル取ってた逢鈴さんがParking Serviceにトレードされちゃったから、私がギター担当だったはずがメインボーカルになっちゃって」
 
「なるほどー」
 
「逢鈴さん、今何してるんだっけ?」
「のんびりと羊の世話しながら暮らしてるって、こないだ事務所宛に絵はがき来てたよ。時々地元のナイトクラブで歌っているらしい」
 
「そういう生活もいいなあ」
 

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「あれ?もしかして少女X・少女Yって、メテオーナの元メンバーですか?」
と青葉は唐突に気づいて言った。
 
「うん。でもそれは知っている人はほとんど居ないし、基本的にはあまり人に言わないで欲しい」
と小風が言う。
 
「何かあったんですか?」
「少女Yは喫煙で補導されてクビになったんだよね」
「あらら」
「それが実際には本人は1度もタバコを吸ってない」
「冤罪?」
「いや、本人がアホなんだけど、タバコにちょっと興味持って買ってきて、それで火を点けて口につけた瞬間、目の前にいた私服の女性警官に『あなた未成年じゃないの?』と。だから、タバコの煙自体も吸ってないと本人の弁」
 
「ああ」
「なんて間が悪い」
「でも口につけた所で既遂でしょうね」
「うん。それは自分が悪かったと言ってた」
 
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「少女Xのことは花野子の方が詳しいよね?」
と小風は花野子に振る。
 
「うん。あの子自身は何も悪いことしてない。むしろ立派なことしてる」
と花野子は言う。
 
「あの子のお姉さんが大量放火犯として検挙されたんだよ」
「わぁ・・・」
「深川・旭川で何十件も放火して、被害総額も何億円とした」
「そんなことが」
「だから本人は悪くないけど、その状況で妹が歌手デビューしたらマスコミがあれこれ追及するじゃん。それって本人も辛いし、ユニットや事務所にも迷惑掛けるからといって辞退したんだよ」
 
「可哀想」
 
「でもその少女Xを拾ってくれたのがζζプロの兼岩会長で。チェリーツインまるごと契約して、その契約金や、その後のチェリーツインのCD売上とかでお姉さんの事件の被害の賠償金を払ったんだよ」
 
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「そんな話があったんですか!」
と青葉は驚いて言った。
 
「実際には放火事件の中で最大の被害に遭った旭川C学園の理事長さんが少女Xの努力に感動して、他の物件の被害額を全部いったん肩代わりしてくれた。それで少女Xも、数年掛けてC学園に肩代わりしてもらった額を頑張って返済した」
 
「その理事長さんも偉いですね」
「C学園ではその少女Xが返してくれたお金を使って、福祉コースの課程を設置して、それで福祉関係の人材がそこから多数出ている」
 
「だったら表彰状あげたいくらいですよ」
 
「チェリーツインの活動自体が、全国の言語障碍を抱えた人たちを勇気づけているし、あのプロジェクトの収益の多くが福祉関係の団体に寄付されているし、あれは本当に表彰されるべきだと思う」
と小風も言う。
 
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「でもチェリーツインが売れたのは何と言っても蔵田さんから曲をもらったからだろうけどね。紅ゆたか・紅さやか姉妹の曲では大して売れないよ。あの人たちの曲はやはり素人作品だし。メロディーとかの発想が凡庸すぎるんだよなあ。だからどの曲聞いても同じ曲に聞こえる。ここだけの話ね」
 
と花野子はハッキリ言う。
 
「いや、どの曲も同じ曲に聞こえる作曲家って割と多い」
と音羽。
 
「あれ?紅ゆたか・紅さやかって女性でしたっけ?」
と青葉が訊く。
 
「あ、しまった。男だった」
「あの2人、男なのにしばしば姉妹と言われちゃうね」
 
「まあ星子・虹子姉妹がいて、少女Xと少女Yも姉妹のように仲が良いから、つい紅姉妹まで姉妹と言われてしまう」
 
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「でも紅兄弟と言われることはまずないね」
「なんでだろうね。不思議だね」
 

「あと、私は青葉ちゃんのお姉さんの桃香と元同級生」
と音羽が言う。
 
「ふーん。同級生ね〜」
と小風が笑いながら言っている。
 
「まあそれ以上のことは想像に任せる。だから私は青葉のお母ちゃんと顔見知りだよ。ちなみに桃香とはセックスまではしてないよ」
と音羽。
 
「ふむふむ」
「私は美来にバージンを捧げたから」
「はいはい、ごちそうさま」
 
向こうの方でゴールデンシックスの京子・希美と話していたふうの光帆が何事だ?という感じでこちらをチラリとみた。
 
「私は青葉ちゃんのもうひとりのお姉さんの千里と元同級生」
と花野子。
 
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「うちの姉の過去の黒歴史部分をよく知っておられるっぽい」
と青葉は言う。
 
「まあ色々秘密は知っているよ」
と花野子は笑いながら言っている。
 

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