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■春卒(6)

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「ところでさ」
と音羽が少し小さい声で言う。
 
「町添さんが制作部長を外れるのって確定?」
 
「え〜〜〜〜!?」
と小風が大きな声を出してから音羽から「しーっ」と言われる。
 
「嘘!?」
 
「松前さんがTKRの会長に就任したけどさ、そのまま向こうの専任になって★★レコードの社長は辞任、村上専務が社長昇格という噂があるんだよね」
と音羽。
 
「例の派閥争いか」
と花野子が言う。
 
「今の★★レコードには、小さなレコード店から出発した元々の★★レコードの系統の社員と、旧MMレコードの社員がいる」
と花野子は解説する。
 
「うん。制作力や新人開発能力はあったものの販売網を持っていなかった★★レコードが、販売網は持っていたけど、長年ヒット曲が出てなくて制作能力に疑問を持たれていたMMレコードを事実上、吸収合併して現在の★★レコードになっている。だから、制作部門には元々の★★レコード系の人が多いけど営業部門にはMMレコード系の人が多い」
と音羽。
 
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「松前社長も町添部長も★★レコードの創業者のひとり。村上専務はMMレコードの元営業部長。これまで★★系が強かったんだけど、昨年夏に創業者グループの中心人物で最も多くの株を持っていた人が亡くなって、その人の持ち株がふたりの娘に分割して相続されたんだけど、そのひとりがMMレコードの元社長の孫息子の奥さんなんだよね」
 
と花野子は背景的なものを語る。
 
「うん。それでバランスがMM系に傾いてしまって。今株の保有比率はMM系の方が多くなっている。それでMM系では村上さんを次期社長にと推す動きが強くなっている。松前さんもまだ51歳で若いけど2007年に社長になって今年の夏には9年になる。長期政権に対して批判の声も出始めているから」
と音羽。
 
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「TKR設立もそもそもは★★系の追い出し作戦だったんだよね。町添さんを社長に据えて、結果的に松前さんの後継者を消そうとする動き。町添さんは45歳。まだまだ若いけど、何と言っても創業者グループの最後のひとりだから、MM系にとっては目の上のたんこぶなんだ」
 
「だからMM系が考えていた構図は松前さんを会長に祭り上げて、町添さんはTKR社長、松前さんの懐刀の似鳥営業部長も実質的な権限の無い副会長か常務にしちゃう。それで村上専務が社長昇格、佐田常務が専務になって営業部長を兼任。制作部長には鬼柳次長の昇格という線」
 
「ところが松前さんは自らがTKRのトップとして転出することで町添さんを守った。だから松前さんの6月での社長辞任はもう既定路線だと思うけど、町添さんは制作部長として残っても、実質社内でほとんど孤立する形になると思う。似鳥さんは松前さんが居てこそ動ける人で、あまり上に立って行動するタイプじゃないもん。販売の仕事には熱心だけどね」
と花野子は言う。
 
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「うん。似鳥さんは生粋のセールスマンなんだよ。先頭に立って販路を開拓していくけど、権力闘争みたいなのは苦手」
 
小風はこの付近の話は知らなかったようで腕組みして考えている。青葉もそんな権力闘争が水面下で起きていたとは思いも寄らなかったので、難しい顔をして話を聞いていた。そうか。水島さんが、こんなイベントは今年が最後かもと言っていたのは、こういう事情があったからだったのかと考えた。
 
「でも町添さんが辞めちゃったら、こんなイベントはもう来年は考えられないね」
と小風も言っている。
 
「うん。鬼柳さんは元々メインバンクから送り込まれてきた人だし、採算の取れないことは嫌うと思う」
 
「まだMM系の人が制作部長になるよりはマシだけどね」
 
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「MM系なら黒岩大阪支店長の抜擢になると思うけど、あの人はあまりポップスに理解があるとは思えないんだよね。それは多分村上さんも分かっていると思う。鬼柳さんは若い頃バンドやってたんだよ。あの人のギター演奏聞いたことあるけどかなり上手い。それでポップスやロックには理解がある。それに元々人当たりがソフトで敵を作らない人だし。中堅クラスの社員をよく食事に連れて行ったりして、★★系・MM系どちらとも親睦を図って制作部に一体感を作り出しているよね」
 
「ただあまり先見の明は無い感じだよね」
「うん。それがちょっと心配」
「あの人はあくまで調整型。良い意味でも悪い意味でも典型的な中間管理職なんだ」
「むしろ大企業の中間管理職として絶好の人材だけどね」
「言えてる、言えてる」
 
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青葉はその日ホテルに帰ってから、音羽・花野子が言っていたことが気になった。寝ようとしてもどうにも寝付けない。
 
町添さんが制作部長から外れる。
 
ローズ+リリーは町添さんのおおらかな性格を背景に活動を続けてきた。そもそも町添さんは半ば仕事を忘れてローズ+リリーに肩入れしている。何度もローズ+リリーのために首を掛けて便宜を図ってあげたことがある。
 
その町添さんが外れてふつうのサラリーマン的な人が制作部長になったら・・・たぶんマリさんの神経が耐えられない。きっともっとテレビに出ろとか言うだろうし、マリさんにもっと規律を求めるのではないか。そうなると彼女の才能は潰れてしまうだろう。
 
それは同様に町添さんに守られて自由に活動してきた、KARION, XANFUS, AYA, Rainbow Flute Bands, チェリーツイン、槇原愛とシレーナ・ソニカなどについても言える。
 
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およそ芸能人としての意識どころか、社会人としての資質も怪しいマリ、1年近く活動を拒否していたAYA, レスビアン疑惑が度々取り沙汰されているXANFUS, そもそもセクマイのメンバーを集めて結成されたRainbow Flute Bands, 実質★★レコードの販売網を使用して営業しているのにそもそもメジャー契約を拒否しているチェリーツイン。どれも普通のレコード会社では存在を許してもらえないようなアーティストばかりだ。そんなアーティストが活動できて、大きなセールスをあげているのは町添さんという包容力が大きく先見の明のある人が制作の総責任者であるからである。
 

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青葉はそこまで考えた時、町添さんの解任とともに、★★レコードが崩壊してしまうようなヴィジョンが見えた気がした。
 
これは阻止したい。
 
しかし阻止できるものだろうか?
 
時計はもう夜中の1時すぎだ。しかし青葉は千里に電話を掛けてみた。すると千里は呼び出し音が1回も鳴らないうちに取った。
 
さっすがぁ!
 
「おはよう、青葉」
「おはよう、ちー姉」
 
「どうしたの? まあイベントは終わったかも知れないけど、夜更かしは美容に良くないよ」
「ごめんね、こんな遅く。でもたぶんちー姉は起きていると思ったから」
「うん。ここの所、昼間は完全にバスケット漬けだから、夜中にひたすら作曲をしている」
「わ、その忙しいのにごめん」
 
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「うん。いいよ。どうかしたの?再度性転換して男に戻りたくなった?」
「絶対戻りたくない!」
 
「まあ青葉は男としては生きていけないだろうね」
「ちー姉もだと思う。それでさ、ちー姉、★★レコードの権力闘争の話は聞いてる?」
 
「松前社長の辞任と村上専務の社長昇格はもう動かないと思う」
「やはり」
「焦点は結局町添さんの処遇と制作部長人事なんだよね」
「そういう情報ってどこから仕入れるの?」
 
「青葉って人間に関する情報収集が苦手だもんね」
「うっ・・・・」
 
私それいろんな人から言われている気がする、と青葉は思った。
 
「★★レコードの色々な人と話していると自然に分かるよ。本来青葉にも分かるはずだけど、その方面のアンテナが弱いんだよなあ、青葉って」
 
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「そうみたい」
 
「でも正直な話、町添さんに制作部長を辞められるのは、私も困る」
「私も辞めて欲しくない」
 
「ちょっと『おいた』しない?」
 
と千里は提案してきた。
 
「何するの?」
 

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「元々★★レコードは1992年に松前さん、町添さん、星原さん、羽根さん、須丸さんの5人で設立された。当初は20%ずつ出資していたんだけど経営規模が大きくなるにつれて資本金の拡大が必要になって、それを主として星原さんと須丸さんが負担した。その後まあ色々経緯があって、株式公開もしたしMMレコードとの合併があって、羽根さんが離脱したりして、昨年夏の段階で、星原6.6%, 須丸1.8%, 松前1.2%, 町添0.6%, ○○プロの丸花会長が個人で0.3%, ∞∞プロの鈴木社長も個人で0.6%, メインバンクが0.6%, そしてMMレコードの創業者のふたりの孫息子が2.5%ずつの株を持っていた」
 
「去年亡くなったというのは?」
 
「星原さん。その株は娘の鈴木片子さんと無藤準子さんが3.3%ずつ継承した」
「その無藤準子さんというのがMMレコードの無藤さんの息子さんの奥さんなのね?」
「そういうこと。星原さんとしては自分の娘を無藤さんの息子と結婚させたのは政略結婚的な色彩があったんだけど、結果的には仇となってしまった」
 
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「それで株保有比率が逆転したんだ?」
 
「うん。現在丸花さんを含む★★系の5人の保有比率は7.2% MM系は3人で8.3% 鈴木社長とメインバンクは合計1.2%だけど中間派で、しばしばキャスティングボートを握る」
 
「それで今はMM系が勢い付いてるんだ」
 
「だからさ。青葉が株を買い占めて1.2%以上保有した上で町添さんたちに荷担したら再逆転できる」
 
「それ無茶な気がする。1.2%っていくら買うのよ!?」
「今の時価で8億円くらいだけど」
「それ無理。そもそも私8億円持ってないし、そんなに大量に買い占めようとしたら値上がりして、実際には8億円でも買えなくなるでしょ?」
 
「まあね」
 

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「他に手はないわけ?」
「そうだなあ。村上さんを呪殺しちゃう?」
「私、まだ人殺しはしたくない」
「軟弱な」
 
そんな会話をしつつ、青葉は小学生の時、天津子と共同で呪いを掛けていた人を普通の仕事ができないような身体にしてしまったことがあるのを思い出して少し良心が痛んだ。
 
「ちー姉は人を呪い殺したことあるの?」
「内緒」
「うーん・・・」
 
「でも私は自分もしくは自分が守るべき存在が命の危険に曝されたら遠慮無く相手を倒すよ。青葉って、そこが甘い気がする」
 
「それ亡くなった曾祖母ちゃんにも言われてたし、天津子にも言われたことある」
「青葉は優しすぎるんだよね」
「うーん・・・」
 
「まあ殺すまでは青葉の良心が痛むというのであれば、無藤準子さんを離婚させちゃう?」
「え〜〜〜!?」
 
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「元々政略結婚だったんだよ。ふたりの間には子供もない。そして無藤準子さんの旦那の激勝さんってDVの性癖がある上に浮気性なんだよ。ちょっと可哀想でさ。まあ私も浮気性の男と結婚しているから、あまり人のこと言えないけどね」
 
ふーん。やはりちー姉は細川さんと夫婦の意識なんだなと青葉は思う。
 
「それを離婚させようという訳?」
 
「そうすれば準子さんが★★系に戻らなかったとしても、★★対MMの比率は7.2:5.0になって、また★★系が有利になるんだよ」
 
「その浮気性な所を利用して離婚に追い込むわけ?」
「こういう裏工作、好きでしょ?」
「少し考えさせて」
「まあこういう工作は青葉の能力が無いと無理だから」
「ちー姉の力の方が凄いと思うけど」
 
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「私は何の霊感もないただの人だから」
「今更そういう素人の振りするのはやめようよ」
 
「青葉、もしその気になったら、**区の占い師***さんの事務所と無藤さんの自宅とを結ぶラインを観察してごらんよ」
 
「へ?」
 
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