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■春卒(11)

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吉博と若葉は海岸から戻った後石巻市内で軽く食事をし、その後スーパー銭湯に行った。手を振って男湯と女湯に別れて入る。
 
ふたりはこの後、ホテルに行って一晩いっしょに過ごす約束をしている。どうせホテルに行くのなら、ホテルの部屋に付いているバスを使えばいいのだが、若葉はすぐ近くに男の人がいる状態で裸になって身体を洗うと緊張する、などと言うので、じゃスーパー銭湯で汗を流してからホテルに行こうよと提案したのである。
 
若葉には自分は竹美以外とセックスできないなんて言ったが、実は竹美とも一度もセックスしていない。彼女とは純愛に近かった。結局自分は一生セックスしないのかも知れないなという気もした。もしかしたら女性恐怖症なのかもねとも思う。男性恐怖症の若葉とはある意味お似合いなのかも知れない。その若葉は人工授精でなら自分の子供を産んでもいいよと言っているので、そういう手段で子供を作ることになるかも知れない。
 
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そんなことを考えながら脱衣場で服を脱いで浴室に入る。
 
時間帯が遅いせいか、中には客は数人しかいなかった。
 
身体を洗って浴槽につかる。ここは近隣の温泉から湯を運んできて入れているということらしく、濁り湯だが、湯の感触がなめらかで、ほんとに温泉に入った気分になる。ここ結構いいなと思って何気なく首を左右に動かしていたら近くで入浴していた若い美青年と目が合う。
 
何だかこのまま女の子にしてあげたいくらいの凄い美青年である。吉博も随分「女装させたいくらい美形だ」とか女の子たちから言われていたが、この人の美形さには負けると思った。
 
相手の顔に記憶があったので吉博は反射的に会釈をしたのだが、向こうは一瞬首をかしげる。
 
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それで吉博は相手のことが分かってしまった。
 
「あ、すみません。タレントさんでしたよね。えっと・・・丸山アイさん?」
と吉博が言うと
 
「ええ、そうです」
と彼は笑顔でテノール・ボイスで答えた。
 
「あれ?でも済みません。私、てっきり丸山アイさんって女の人かと誤解してました」
 
「僕、昔からよく性別間違われるんですよ」
などと彼は言っている。
 
「わりと女顔だし、僕、音域が5オクターブあるんですよね」
「凄い!」
 
「だからバスの音域からソプラノの音域まで出るんです。それで女の子みたいな歌い方すると、みんな女性歌手と思うから、面白いからそれやってみろと言われて。それで僕の性別は不明ってことにしてあるんですよ」
 
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「そうだったんですか!」
 
「おかげで随分女装もさせられちゃって。でもこんな時間なら僕のこと知ってる人もいないだろうからと思って油断してお風呂に入っちゃいました。良かったら、僕と男湯で遭遇したこと、人には言わないでもらえます?」
 
と彼は明るい声で言った。
 
「いいですよ。僕も口が硬いですから」
と笑顔で吉博は答えた。
 

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千里はレッドインパルスに同行して3月10日(木)は松本に来ていた。今日からいよいよ今期のWリーグ決勝戦(最大5戦して3勝した方の優勝)が行われるのである。相手は三木エレンが主将を務めるサンドベージュである。
 
試合前の練習の時、両チームが各々半コート使ってシュート練習などしていたのだが、三木エレンがレッドインパルスのコートの方にやってきて
 
「ね、ね、サン、スリーポイント勝負しようよ」
などと言う。
 
「あ、いいんじゃない?」
とヘッドコーチも言ってくれたので、唐突に三木エレン対村山千里のスリーポイント対決が行われることになった。
 
ちょっとしたエキシビションである。
 
黒江アシスタントコーチがボールの返送係を買って出て、千里とエレンで1球ずつスリーポイントラインの上を移動しながらシュートする。
 
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最初はエレンである。入る。次に千里が撃つと入る。エレンも入れて千里も入れて、と両者は全く譲らずスリーポイントを入れていく。千里は自分が大学受験に千葉に行った時、早朝エレンと遭遇してスリーポイント勝負をした時のことを思い出していた。
 
両者20本ずつ入れた所で水入りとなった。
 
「これ勝負がつかないから、試合が終わった後続きをしよう」
という話になり、勝負は持ち越しとなった。
 

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少し休憩のあと試合が始まった。
 
フリーで百発百中のエレンも相手チームにガードされている状態ではなかなか簡単にスリーを撃てない。この試合ではいつも練習の時に千里相手にスリーを撃たせないように頑張ってガードしている妙子主将がエレンをマークし、結局エレンは試合中は1本もスリーを入れることができなかった。
 
ただし試合はサンドベージュが勝った。
 
その試合が終わった後、10分休憩してからスリーポイント勝負の続きをすることがアナウンスされる。
 
エレンと千里で1本交代で撃つものの、どちらも外さない。観客はほとんど帰らずに勝負の行方を見ている。とうとう50本ずつ入れた所で
 
「やり方を変えよう」
ということになる。
 
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サンドベージュから湧見絵津子、レッドインパルスから渡辺純子と高校時代以来のライバルの2人が出てきて、千里は絵津子にガートされている状態から撃つ、エレンは純子にガードされている状態から撃つというのをやった。純子と絵津子の実力がほぼ同じであることは多くの人が知っている。
 
1回交代で20回ずつトライした所、千里は絵津子のカードをかいくぐって9本入れることができた。対してエレンは純子にガードされている状態からは5本しか入れることができなかった。
 
「負けた」
とエレンが笑顔で言って千里に握手を求めた。
 
「7年前に勝負した時はレンさんが9本、私は5本でしたから、ちょうど逆転しましたね」
と千里も笑顔で言う。
 
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「よく本数まで覚えてるね」
 
「これがプロの実力か。凄いと思いましたから」
「サンもやっとプロになったね」
 
2人はまた握手し、観客から惜しみない拍手が贈られた。
 

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1日おいて3月12日(土)は甲府に移動して第二戦が行われ、この日はレッドインパルスが勝った。
 
この日も試合後にエレンと千里によるスリーポイント勝負が行われた。この日もフリーではどちらも50本全部入れ、その後この日はサンドベージュからは夢原円、レッドインパルスからは三輪容子が出てディフェンス役をしたが、千里が14本、エレンが7本入れて、やはり千里の勝ちであった。
 
翌日は東京に戻ってきて3戦目。この日はサンドベージュが勝って対戦成績は2勝1敗となる。この日もまたまたエレンと千里の勝負は行われ、ふたりは当然フリーは50本ずつ入れる。そしてこの日はサンドベージュから平田徳香、レッドインパルスからは広川妙子が出てディフェンス役をしての勝負をする。結果は千里が7本、エレンは3本でやはり千里の勝ちであった。
 
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両者の話し合いでスリーポイント勝負は今日までということにし、ふたりは勝負のあとハグしあってお互いの健闘を称えた。
 
そして3月15日(火)の第四戦。この試合でサンドベージュが勝ち3勝となったため、これでサンドベージュの優勝が決まった。
 
オールジャパン、Wリーグファイナルの2冠達成で、これが本当に三木エレンの引退の花道となった。
 
またこの試合で三木エレンは1本だけスリーを入れることができた。彼女のプロ最後のスリーである。
 
千里は試合後の表彰式を観客席から見守り、静かな闘志を燃やした。
 
三木エレンは表彰式の中で、特に許可をもらって引退の弁を観客の前で語った。
 
「私はこれでWリーグを卒業しますが、日本の女子バスケットボールはきっと宇宙の頂点に立つことを信じています」
 
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宇宙などということばがでてきたので客席がどよめいた。原稿では世界と書いてあったらしいが、エレンさんが実際にしゃべる時世界より宇宙の方が凄い気がして即興で変えたらしい。
 
3人のプレゼンターから花束が贈られた。サンドベージュの若手代表として湧見絵津子、相手チーム・レッドインパルスを代表して妙子キャプテン、そして日本代表選手の代表として千里が指名されて日本代表のユニフォームを着てエレンに花束を渡す。エレンは涙を流して力強い握手をしてくれた。千里も涙を流して、ふたりはハグした。
 

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青葉が高岡に戻ってきた翌日の3月12日(土)、美由紀は金沢美大の一次試験を受けた。鉛筆によるデッサンをする実技試験である。翌13日結果が発表されるが美由紀は合格していた。
 
「やった!」
「でも問題は次の,2次試験だよね」
「うん。頑張る」
 
二次試験はそのまた翌日14日(月)に行われる。色彩構成と面接である。本人は「けっこう感触良かった」と言っていたのだが、3月20日の合格発表に美由紀の受験番号は無かった。
 
「えーん。落ちたぁ」
と美由紀は本当に泣いていたので、日香理や青葉は頭をよしよしして慰めてあげた。
 
「じゃ結局G大に行くの?」
「うん。そこしか行く所無い」
「入学手続きしといて良かったねぇ!」
 
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「うん。明日香のおかげだよ。青葉、通学は車に乗せてって」
「まあいいけど。4人まではゆっくり乗れるし」
 
ということで、4月からは青葉・美由紀・明日香・世梨奈の4人で車を相乗りして通学することになったのである。
 
なお青葉と同じK大法学部に合格した星衣良は金沢市と高岡市の間にある津幡町に叔母さんが住んでいるので、そこに下宿させてもらい自転車とIRいしかわ鉄道と北鉄バスの乗り継ぎで通うことにしたらしい。
 
「叔母さんとこから津幡駅までどのくらい掛かるの?」
「自転車で10分」
「それってかなりの距離では?」
 
「高岡から通うのと大差無かったりして」
などと美由紀から言われていたが
 
「距離的には3分の1だよ。でも雨や雪の酷い日とかは自転車が辛いから乗せて」
などと星衣良は言っていた。
 
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「乗せるのはOK」
「これで定員いっぱいだな」
 

3月13日夕方20時から##放送系列で先日の全国的大雪被害に関する報道番組が放送されたが、この番組の前宣には《KARION,ローズ+リリーのファン必見》というのが入っていた。それでこの番組は物凄い視聴率になった。
 
番組では当時の天気図や気象衛星の写真などを交え、全国の大雪被害の状況、復旧作業の様子、各自治体責任者や政府首脳の弁などをレポートしている。その中に奈良県T村の温泉に閉じ込められたKARIONの様子も映っていた。偶然にもこの温泉にテレビ局のクルーが番組制作のため寄っていたことからこういう映像が撮れたのである。
 
しかしKARIONのメンバーの中のらんこは以前から「ローズ+リリーのケイと同一人物では」と噂されていた。この噂を本人たちは否定していた。しかしケイは翌日福島でライブに出演することになっていた。このままでは出演できないのだが、らんこは
 
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「私はローズ+リリーのケイとは別人ですから、らんこがここに閉じ込められていてもケイはちゃんと福島のライブに出演しますよ」
などと明るくテレビ局の取材に対して答えていた。
 
そして番組の最後になって映った映像はあちこちのSNS系サーバーをダウンさせることになる。
 
ライブの前日、27日11:30頃にKARIONの4人が食事している。そして食事が終わった所でらんこは防寒具とサングラス・手袋を身につけ、1階に降りていき、らんこ同様に防寒具とサングラス・手袋をした女性が運転席に座っているスノーモービルのタンデムシートに乗り込んだ。番組はそのスノーモービルが雪原に消えて行く所で終わっていた。
 
「スノーモービルで脱出したのか!」
「でもこれって事実上、らんこ=ケイを認めたってことかね?」
「まあ、別人だと言い張るのは無理がありすぎたからな」
 
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