広告:まりあ†ほりっく 第2巻 [DVD]
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■春卒(10)

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10畳くらいの部屋に通され
「おごってあげるから何でも好きなの頼むといいよ」
と言われて御品書きを見ると値段が書いてない。取り敢えず天麩羅セットを頼むと職人さんが部屋まで来て揚げてくれたらしい。
 
天麩羅は物凄く美味しかったということであった。満腹した所でデザートの餡蜜(これがまた絶品だったらしい)と緑茶(これも物凄く美味しかった)を頂きながら話をする。
 
「お姉さん、一昨年の伊香保温泉の集まりの時におられましたよね」
「うん。それでヒロミちゃんと会ったからね」
「あの時、医学生の参加者の方に私の身体を見てもらって、結局私って昼間起きている時には女の身体なのに、夜寝ている時は男の身体になっているという不思議な状態にあることが分かって」
 
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「面倒な体質だね」
 
「それで実は先日受験した大学から健康診断を受けてくれという連絡が来たんですけど、どうも性別検査を受けさせられるっぽいんですよ」
 
「なるほど」
 
「それで検査されている時ずっと起きていたらいいんですけど、もし例えばMRIとか取られている時、うっかり眠ってしまったら大変なことになっちゃうと思って」
 
「それは難儀だね」
 
「それでどうしようと思って悩んでいたんです」
 
「そうだね。だったらヒロミちゃんが寝ている間に性転換手術受けちゃったら?」
 
「え?」
 
「これが逆にさ、起きている間が男で寝ている間は女になっているなら大変だよ。ヒロミちゃん起きたままもしかしたら麻酔無しで性転換手術受けないといけなかったかも」
 
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「それ怖すぎます」
 
「逆なんだから寝ている間に手術受ければいい。簡単じゃん」
 
「それはそうですけど、検査は明日受けないといけないんです。それでたぶんその検査結果で私を合格させるかどうか決めるんじゃないかという気がして」
 
「明日検査受けるんなら、今日性転換手術しちゃえばいい」
 
「そんな急に性転換手術してくれるような病院なんて無いですよ」
 
「私、そういう病院心当たりあるよ」
「本当ですか?」
 
「性転換手術しちゃおうよ。ヒロミちゃん、もう男の子から卒業しちゃおう。それともまだ男の身体でいたい?」
 
ヒロミはぶるぶるっと首を振った。
 
「嫌です。男の身体ではいたくないです。女の子になりたいです」
 
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「だったら善は急げよ。連れて行ってあげるから」
 
「え〜〜〜?」
 

それでヒロミはうまく千里に乗せられて、料亭を出た後タクシーに乗ってどこかの病院に入ったという。病院の玄関を入って、千里が受付の所で話をしていた。病院独特の消毒薬っぽい臭いがしていた。
 
そしてそこでヒロミの記憶は途切れているらしい。
 

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「ふと気づくと自宅の自分の部屋にいたんだよ。身体は特に変わった様子は無い。特に痛みも無いし。それでおそるおそる寝てみたんだ」
 
とヒロミは青葉たちの前で語った。
 
「ふむふむ」
 
「いつもならうとうとしている時に男性器があるのを感じるんだけど、感じないんだよね。それで本当に無くなっているのかもと思ったから、うっちゃんに頼んで確かめてもらったんだ」
 
「私もびっくりしたよ。今から寝るから自分にちんちんがあるかどうか見てくれなんて言うからさ」
と空帆は言う。
 
「他にこんなとんでもないこと頼める人思いつかなかったし」
とヒロミは言う。
 
ヒロミと空帆は小学校の時の同級生である。
 
「それでヒロちゃんはパンティを脱いであそこを露出したまま私の前で眠っちゃったんだけど、ちんちんが出現したりはしなかったよ」
 
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と空帆が言う。
 
「それでやはり私性転換手術されちゃったんだ!と確信して、翌日3月4日K大学まで行って検査受けてきた。実際、口腔内の粘膜取って染色体検査してたし、血液取って多分ホルモン検査して、あと裸にされて身体的な特徴を観察されたし、クスコ入れられて内診もされた。あと心理テストも受けさせられた。そしてMRIに入れられたんだけど、どうも腰の付近を念入りに検査しているような感じだったんだよね。途中で寝ちゃったんだけど」
 
「それ前日に性転換手術しておいて良かったじゃん」
「うん。それを受けていなかったらそこで不思議な体質になっていることが発覚してた」
「寝たら突然男性器が出現したら仰天されたろうね」
 
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「うん。それで結局3時間くらい検査された上で『問題ありません』と言われて帰ってきて、そして3月8日の合格発表ではちゃんと私の番号、合格者リストにあった」
 
「良かった良かった」
「これで無事、女医の卵じゃん」
と杏梨が言う。
 
「うん。通してもらったからこれから頑張るよ」
 
「でもそれ不思議な話だね。痛みは全然無いんでしょ?」
「全く無い」
「そもそも、予約無しで行っていきなり性転換手術してもらえるような病院って存在するの?」
と空帆が青葉に尋ねる。
 
「100%ありえない。性転換手術をしている病院はいつも予約が何ヶ月も先まで埋まっているよ。圧倒的に希望者の数が多くて、さばききれないから。そもそも手術されたら3〜4ヶ月は痛みが継続する。昨日手術受けて今日はもう痛くないなんてことはあり得ない」
と青葉。
 
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「じゃ何が起きたんだろう?」
 

青葉は「ちょっと姉に確認する」と言って、1階に降りて居間から千里に電話した。
 
「おはよう。青葉。こないだはお疲れ様」
「おはよう。ちー姉。色々ありがとう。でもさすがに疲れた。ちょっと精神的にしんどかった」
 
「でもうまい方向に行ってる感じじゃん」
「早速ニュースで報道されてるね!」
 
8日の夕方、某雑誌のニュースサイトで女優**と★★レコード元常務・故・無藤清氏の次男・激勝氏との不倫が証拠写真付きで報道され、9日には女優側が事実を認めて陳謝する記者会見までしたのである。激勝氏側は報道陣の取材を一切拒否しているものの、兄で★★レコード大阪支店営業部長の鴻勝氏が事件が落ち着くまで休養を申し出たという報道も出ていた。確かにこんな騒ぎが起きていたら、とても営業の仕事ができないだろう。
 
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「それよりちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「何?」
「ちー姉、3月3日はどこにいた?」
「3月3日?ちょっと待って」
 
と言って千里はどうも手帳か何かを確認しているようである。
 
「その日は東京に居たよ。秋田から3月2日の夕方戻って来て、3日は午前中はしばらく留守にしてたから食料品の買い出しに行って、午後からはレッドインパルスの練習、夕方からは40 minutesの練習に出て8時頃、桃香のアパートに戻って、一緒にすし太郎とおひな祭りケーキを食べて白酒を飲んだよ」
 
「ああ、練習に出てたのね?」
「うん。レッドインパルスは昨日からいよいよ決勝戦に突入した。40 minutesは19日から全日本クラブ選手権だからどちらも練習に熱が入っているんだよね」
 
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青葉は考えた。練習に出たということはそれは千里本人でしかありえない。単に人と会う程度なら式神の類いを身代わりに使う手はあるかも知れないけど、身代わりに練習までさせるのは絶対無理だ。
 
だから結論。ヒロミに会ったのはちー姉ではない。
 
「ちー姉、誰か親切な神様の知り合いとか居ない?」
「神様の知り合いなら何人かいるけど、概して不親切だね。あ、こちらを睨んでる。ごめんなさい」
 
と千里は途中から誰かに謝っている。
 
「その知り合いの神様の中でこちらに3月3日に来た人は?」
 
「今訊いてみたけどみんな知らないと言っているよ」
と千里は言う。
 
「ありがとう。じゃ誰かがちー姉の姿を勝手に借りたんだろうなあ」
 
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「あ、私って天性の巫女だから、神様のおもちゃにされてることよくあるみたい。それに私ってこの長い髪が特徴的だから多少顔かたちが違っていても髪が長いとみんな私だと思ってしまうんだよ」
 
「確かにね〜」
 

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それで青葉は2階の自室に戻って言った。
 
「やはり千里姉は3月3日にこちらには来てないって。だから多分誰かが千里姉の姿を借りて、親切にヒロミの身体を治してくれたんだと思う」
 
「誰かって?」
「多分神様」
 
「そんなことがあるんだっけ?」
 
「うん、時々ある」
と青葉は言った。
 
「でもこれでヒロミは完全な女の子になったんだよ。それでもういいんじゃない?男だった頃のことは忘れちゃえばいいんだよ」
 
と言いつつ青葉はヒロミの身体が実は「完全な女性」になっているのではなかろうか、ひょっとして妊娠能力付きではと考えていた。
 
「そうだなあ、やはり開き直るしかないか」
「後日落ち着いてから私が性転換手術を受けた病院に行って性転換しているという証明書を書いてもらえばいい。性転換の証明書は戸籍の修正が終わるまで多分しばしば必要になるし、そもそも性別変更を申請する時も必要だよ」
 
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「そうしようかな」
 
「結果的にはタダで性転換できたってことになるのかな」
と杏梨。
 
「請求書が後から送られて来たりして」
と空帆。
 
「いやもし請求書が送られてきたら、頑張って少しずつ返すよ」
とヒロミは言った。
 
しかしそういう訳でヒロミは無事K大学の医学類に合格し、女子医学生として4月からキャンパスライフを送れることになったのであった。
 

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「ところでヒロミは金沢市内にアパートとか借りるの?」
「そうするつもり。性別の件はバッくれて女の子ですって顔して名義もヒロミで借りようとお母ちゃんと言ってた」
「うん。ヒロミは自分で言わない限り、誰も男では?とか疑ったりしないよ」
 
「杏梨は?」
「私はもうアパート契約した」
「早い!」
「下旬に引っ越すつもり。といっても机とか寝具は向こうで買うし、着替えとパソコンと辞書とかだけだから、お父ちゃんに車で全部運んでもらうけど」
「身軽な内はそれで何とかなるよね」
 
「空帆は?」
「下旬に行ってアパート探しするつもり」
「区内は高いでしょ?」
「うん。でも古くて狭くて不便な所でもよければ結構安い所もあるのではという話もあるし、そういうのを狙ってみる」
「なるほどねー」
 
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3月11日。宮城県の某所海岸。
 
15時半頃、若葉と吉博はあらためて海に向かって合掌した。それが竹美が海に呑まれてしまったくらいの時刻であった。
 
「ね、もし僕と君の間に子供が生まれたらさ」
と吉博は言った。
 
「若竹って名前にしていい?」
 
若葉は少し考えていた。自分の名前と前の彼女の名前から1字ずつ取りたいという話だ。ふつうの女子なら「ふざけんな」と怒る所だろうが、若葉はそれは別に構わない気がした。
 
「してもいいけど読み方は『わかたけ』じゃなくて『なおたけ』にしたい」
「難しい読み方するね。冬葉(かずは)君も難しいけど」
「知らずに『かずは』と読めたのは2人だけ」
 
「その読んだ子が凄い!って2人もいるんだ!」
「その2人、姉妹だけどね」
「へー。冬の字を『かず』と読む親戚か何かいたのかな」
「2人とも人の名前を読み間違ったことはほとんど無いと言ってたよ」
「それも凄い」
 
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「けっこう楽しかったね」
と優子は言った。
 
「俺も楽しかった」
と信次は言った。
 
「じゃこの後はお互い友だちに戻るということで」
「うん。恋人関係は卒業だね」
 
と言ってふたりは笑顔で握手し「これで最後」と言って1度だけキスした。
 
「1年くらい持つかなと思ったんだけど持たなかった」
「まあ無理して関係を続けて嫌いになるより、今の状態で別れた方がお互い美しい想い出になるかもね」
「同感同感」
 
「だけど惜しかったなあ。俺、1度、生でしたから、ひょっとしたら赤ちゃんできたりしないかと半分は恐れつつ半分は期待してたんだけど」
 
と信次は言う。
 
「できる訳無いよ。だって安全日だったもん」
「へー」
 
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「だって生理が来てから半月くらい経ってたからね。生理の時に排卵するんだから、いちばん安全な時期だよ」
 
「・・・・・」
 
「どうしたの?」
 
「それいちばん危険な日だと思うけど」
「え!?」
 
「生理の時に排卵する訳ないじゃん。排卵して受精しなかった卵子が半月後に剥がれ落ちて出てくるのが生理だぞ」
 
「え?嘘!?」
 
「男の俺でも知っていることをなぜ女のお前が知らん?」
 
「え〜〜? 生理の時が排卵だから、生理の半月後はいちばん安全と思ってた」
「生理の半月後ってちょうど排卵する時だから、いちばん妊娠しやすいんだよ」
 
「え〜〜〜〜!?」
 
「な。優子、生理あの後、来てるよな?」
と信次は訊いた。
 
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「え?来てないけど」
「だったらお前妊娠しているのでは?」
「でも私生理不順だから3〜4ヶ月生理が来ないのは普通だよ」
 
「ちょっと産婦人科に行ってみない?俺付いていくからさ」
 
「やだ。私、妊娠してたらどうしよう?」
と優子は焦ったように言った。
 

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